「ね、次はアレ行こっ!」
「OK! ほら、キョン何してんの! 行くわよ!」
……勘弁してくれ。なんなんだこのスタミナは。
右手を娘に、左手をハルヒに引かれる。わかったから、もうちょっとゆっくり行こうぜ?な?
「何言ってんのよ! せっかく乗り放題なんだから、たっくさん乗らなきゃ!」
「そうそう! もったいないよー!」
そう言いながら何度目かの絶叫マシンに乗せられる。
お前ら、もうちょっとこう、女の子らしく
メリーゴーランドとか観覧車とかそういうのは無いのか。
「つまんないじゃん。あんなのグルグル回るだけだし、観覧車なんか高いだけじゃない。
高いところが好きなのはバカと煙だけよ」
ムードもクソも無いな。元々こいつにはそんなの期待してないが。
グングン上昇していく乗り物。……正直なところ、あんまり得意じゃないんだこういうの。
高い、高すぎる。この落ちるときのなんともいえない感覚が好きになれない。
内臓が引っくり返る感じ。きっと身体に悪いぞ。
……このままバックして乗り場に戻ってくんねぇかな。
そんな俺の願いもむなしく、ついに頂上に。後はまっさかさまに落ちるだけだ。
「っ……!」
目を閉じて歯を食いしばる。ダメだ。なんか掴める物……。
手近にあった手を掴む。柔らかい。
「ちょっ……!」
ハルヒが何かわめいてるが、知らん。俺にはそんな余裕は無いんだ。
恨むなら無理矢理乗せた自分を恨め。
「はい、お疲れ様でしたー!」
乗務員のお姉さんの声が聞こえる。……もう目を開けても大丈夫だな。
「あ……あれ?」
乗ってるのは俺とハルヒだけ。他の乗客はさっさと降りたみたいだ。
娘も通路でニコニコしながらこっちを眺めてる。
「……離しなさいよ」
「あっ、わ、悪い!」
なんだか微妙な表情で睨まれる。まだ手、握ったままだったのか。全然気づかなかった。
手を離すとつかつかと、こっちを見向きもせずに歩いていく。
……マズい。怒らせたか?
「お、おいハルヒ?」
「……」
「いや、その……すまなかった。俺も必死でさ。」
「……」
「なぁ、機嫌直してくれよ」
いきなりハルヒが立ち止まる。つんのめる俺。
くるっと振り返ったその顔は、満面の笑みだった。
「それじゃ、お昼ご飯奢ってね!」
……一杯くわされたって訳か。この野郎。
イタズラが成功した子供みたいに娘とハシャいでやがる。
クソ、どんどん懐が寒くなって来たぞ。未来に請求書とか遅れないもんかね。
一人でどんどん進むハルヒに俺と娘がついていく。
……力関係丸分かりだな。将来はこうじゃ無くなる事を切に願う。マジで。
「ここにしましょ」
そう言って適当な売店に入る。
「従妹ちゃん何食べる?」
「あたしケーキがいいー!」
もうちょっと遠慮して頂けませんか。お嬢様方。
ただでさえ、こういうとこって無駄に高いのに。
結局、2人の少女は朝にあれだけ食べたとは思えないほどの量を胃に詰め込んだ。
俺?俺はお冷だけさ。
俺の財布に大打撃を与えた昼食も過ぎ、また絶叫系へ向かう2人。
「言いだしっぺはアンタでしょ! ついて来なさいよ!」
「パパー! 早くー!」
キラキラ輝く4つの瞳が俺を見る。……逆らえそうに無い。もうヤケだ。
「こうなったら、ここの絶叫系全部制覇してやるよ。どーんと来い!」
ワァー! と2人からあがる嬌声。
3人で競歩みたいな速度で乗り場へ向かう。
数時間後、俺は見るも無残な姿になってるとも知らずに。