「おっはよーう! パパ起きてー!」  
「ぅごふ!」  
 
娘のフライングボディプレスで起こされる。  
……妹から逃れても、俺はこんな起こされ方をし続けるんだろうか。  
 
 
時計……も無いのか、この家は。まぁ、必要無いんだろうな。  
携帯を見る。アナログ表示にしてある液晶に写る時計。長針と短針が縦一直線だ。  
 
「まだ6時じゃないか」  
「だって楽しみだもん! 早く行こうよ!」  
 
早く行ったってしょうがないじゃないか。まったく。  
気持ちは分からんでもないが。  
 
「早く! 早く!」  
「少しは落ち着け。遊園地は逃げないさ」  
 
そういいながら洗面所へ。シャワーでも浴びるか。  
 
「スンスンスーン。イェスンスンスーン♪」  
 
服を脱いで鼻歌を歌いながら風呂場へ。  
 
「どぅわっ!?」  
 
 
そこにはなぜか、透き通るような白い肌の少女がいた。……ってなんで長門がいるんだ!  
 
「……」  
 
顔だけをこっちに振り向こうと……マズイ! 俺は今素っ裸だ! これはマズイ!  
 
「ス、スマンっ!」  
 
宝石のような真っ黒な目が俺の裸体を捉える前にドアを閉める。セーフ。  
大丈夫。背中しか見てない。大丈夫だ。……何が大丈夫なのかはわからんが。  
 
慌てて服を着てリビングへ。もしゃもしゃと朝ごはんを頬張る娘。  
 
「有希が作ってくれたの。おいしーよ! パパの分もあるから!」  
 
こたつ机の上に並べられた見事なベーコンエッグ。レトルト以外も作れるのか。  
というか長門は何時に起きたんだ。  
 
娘と並んで朝飯を食ってると風呂から上がった長門もこたつに座る。  
……さっきの事について特にコメントは無いようだ。長門で助かった。  
相手がハルヒなら今頃俺は、六文銭を握り締めて渡っちゃいけない川に向かってることだろう。  
 
長門の事だから、もしかしたら素っ裸でこっちに来るんじゃないかと  
期待……あいや、心配してたんだが杞憂だったようだ。つーかやっぱり制服なのな。  
 
予想以上に美味い朝飯を平らげ、今度こそ風呂に入るために洗面所へ。  
 
心持ち、いつもより丁寧に身体を洗う。  
……いや、別に深い意味は無いぞ?  
 
風呂からあがり、古泉から貸してもらった服を着る。  
ピンクのワイシャツにブラウンのジャケットスーツ、エンジ色のネクタイ。  
……なんかカッチリしすぎじゃないか?遊園地に似つかわしい格好じゃない気もするが。  
ま、折角貸りたんだし着るか。どーせコレの他は制服しか無いんだ。  
 
 
「わー! パパかっこいいー!」  
 
キラキラした目で言いながら俺の手を取る。わかったから、さりげなく玄関に引っ張るのはやめなさい。  
 
これ以上ゆっくりして娘の機嫌を損ねるのもなんだし、そろそろ行くか。まだ7時前だけど。  
 
「スマンな長門。あと一日世話になるけど……」  
「いい。気にしていない」  
「そっか。ありがとな」  
 
なんかお土産でも買ってきてやろう。長門には世話になりっぱなしだな。  
 
「それじゃ行ってくるよ。多分夕方辺りに帰ってくると思う」  
「……いってらっしゃい」  
 
と、長門と玄関で夫婦のような会話を交わして家を出る。  
この分じゃ7時過ぎには着きそうだな。……約束より2時間も早いじゃないか。  
 
「楽しみだねー!」  
「そうだな」  
 
こいつがいれば暇はしなさそうだ。  
 
そう思いながら、休日の朝っぱらからウロついてる暇人に混ざりながら駅前へ向かう。  
 
「……ま、来てるわけ無いか」  
 
壁にもたれる。眠い。もう少し寝てたかったな。  
 
 
「ちょっと」  
 
横から声を掛けられる。おいおい、こんな時間から逆ナンか?  
全く、モテる男は辛いぜ。  
 
そう思いながら隣を見る。  
白のノースリーブのワンピースに水色のカーディガンを羽織ってる。  
いいとこのお嬢さんみたいな格好だな。  
残念だが、ハルヒを待たなきゃいかんし断るか。  
 
「ちょっと人待ってるんで。すいません」  
「私以外の誰を待ってんのよ」  
 
何言ってんだ? そう思って顔を見る。  
 
「ハ、ルヒ……? だよな?」  
「どっからどう見ても私でしょ。何よ、何か文句でもあんの?」  
 
どこをどう見てもお前じゃねぇよ。その格好じゃまるで朝比奈さんだ。  
……ま、抜群に似合ってるんだが。  
 
「アンタだって人のこと言えないでしょ。その格好」  
 
だろうな。こんなカッチリした服なんか普段着ねぇよ。息苦しいったらありゃしない。  
 
「……にしても。こんな早くに集合しちまうとはな。まだ開いてないだろ?」  
「そうね。喫茶店にでも行って時間潰しましょ」  
 
そう言ってずんずんと歩き出す。慌てて着いていく俺と娘。  
 
 
 
大量に注文するハルヒ。朝からよくそんなに食えるな。  
 
「いっぱい楽しまなきゃいけないから、エネルギーを溜めなきゃ。ね、従兄弟ちゃん」  
「うん!」  
 
もしゃもしゃとホットケーキを頬張る娘。こいつもよく食うな。  
さっき朝飯食ってたのに。やっぱり遺伝か。  
 
たらふく食った後、さらにデザートまで注文する。  
 
「このパフェとかおいしそうね。従兄弟ちゃんも食べる?」  
「食べる食べるー!」  
 
微笑ましい二人を眺めながらコーヒーを啜る。こういうのも悪く無いな。  
 
「ほら、頬っぺたにクリーム付いてるぞ」  
「んー……」  
 
と、拭いてやる俺。ほんとの親子みたいだな。いや、ほんとの親子らしいが。  
それを微笑みながら見てるハルヒ。  
 
 
「……お前も付いてる」  
「えっ? あっ!」  
 
慌てて顔を擦るハルヒ。子供かお前は。  
 
 
「んっー! 一杯食べたしそろそろ行こっか」  
「行こ行こー!」  
 
一伸びしてから席を立つハルヒとついていく娘。  
やっぱり払いは俺か。  
 
「当たり前じゃない。私のほうが早かったし、そもそも誘ったのはアンタなんだからね」  
 
はいはい。わかりましたよ。  
……まさか遊園地も俺の奢りじゃないだろうな。  
 
不安に駆られながら財布の中の野口さんの人数を確認した。  
 

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