「おいしーねー。パパ! 有希料理上手いよ!」  
「そうだな」  
 
どう見てもレトルトだけどな。  
 
 
今、俺達は長門家で晩御飯をご馳走になってる。定番のレトルトカレーにやけに多いキャベツの千切り。  
まぁ……たまに食べるには悪くない。  
 
晩御飯を食べ終わり、長門と娘がオセロで対決してるのを眺めながら俺は憂鬱になっていた。  
今日が終わる前にまだやっておかねばならん事がある。  
 
また勝ったぁ! 有希弱いねー! とか言う声を聞きながら俺は寝室に移動した。  
携帯を取り出し、電話帳を呼び出して通話ボタンを押す。  
 
 
『何の用?』  
 
もしもしぐらい言えよ。  
 
「いや、その……。あれだ。お前明日ヒマか?」  
『まぁ、ヒマだけど。何よ。さっさと用件を言いなさい』  
 
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。がんばれ、俺。  
ってなんかこれじゃ告白するみたいじゃないか。違う、断じて違うぞ。  
これは、あの娘に言われたから仕方なく……。だー、もういい。当たって砕けろだ。  
 
「お、俺と遊園地行かないか?」  
 
思わず声が上ずる。なんでこんなに緊張するんだろうね。  
 
『………へ?』  
 
と、ハルヒの間の抜けた声。  
 
「……」  
『……』  
 
そして微妙な沈黙。なんか言ってくれ。耐えられん。  
 
『遊園地って……。私と、アンタが?』  
「あ、いや、違う! 俺じゃない! 違うぞ!」  
『な、何がよ。じゃあ誰よ』  
「いや、俺だ。誘ってるのは俺だけど、違うぞ。勘違いするなよ!」  
『ちょっと待って。わけが分からないわ。何よ。どういう事?』  
 
落ち着け。俺。クールだ。クールになれ。  
 
「ほら、今日さ。俺の従兄弟がいたろ?あの子がどうしても俺とお前と3人で遊園地に行きたい って」  
『あぁ、なんだ……。そういう事ね』  
 
ハルヒの声のトーンが微妙に落ちたように聞こえたのは……  
多分俺の耳がおかしくなったんだろう。うん。  
 
『いいわよ、別に。暇だったし。付き合ったげる』  
「そ、そうか。助かったよ」  
『別にいいって言ったでしょ。それじゃ、明日9時に駅前ね。用件はそれだけ?』  
「あぁ。それだけだ」  
『ん。それじゃ切るわよ』  
「あ、ハルヒ」  
『何?』  
「ありがとな」  
『っ……!いいって言ったでしょ! じゃあね!』  
 
ガチャン! と派手な音を立てて電話が切れる。  
 
「ふー……」  
 
大きな溜息を一つ。いやぁ疲れた。明日も早いんだ。さっさと寝よう。  
 
 
リビングに戻るとオセロ板の前で横になって寝てる幼女と対面でじっと正座してる宇宙人がいた。  
 
「……何やってんだ長門」  
「次は、この娘の番」  
 
もう一つ大きな溜息をついて、娘を寝室に運ぶ。  
 
「長門、もういいぞ。スマンな付き合せて」  
「いい」  
 
そう言って寝室に消えていった。  
 
「……スマンな」  
 
もう一度小さく言ってからあることに気づいた。  
 
直で長門ん家来たから俺、制服のまんまだ。  
今から家まで帰って取ってくるのも、おっくうだしな。  
さすがにこのまま遊園地に行くわけにはいかん。そりゃ長門の役割だ。  
 
……と、色々言い訳を考えてみたが。正直なところ、どんな服を着て行けばいいかわからんのだ。  
あんまり気合入れすぎるのもアレだし、かと言っていつも通りってのもなんだかなぁ。  
 
なんとなく、経験豊富そうなあいつに聞いてみるか。  
 
 
もう一度携帯を取り出し、耳に当てる。  
 
 
『もしもし?』  
「すまんな。こんな時間に。ちょっと相談したいことがあって」  
『なるほど。明日のデートの事ですか?』  
 
お見通しか。この野郎。  
 
「あぁ……。ま、そんなとこだ。それと、さ。服貸してくれないか?」  
『服……ですか?』  
「直に長門の家行ったからさ。制服しか無いんだ」  
『わかりました。とっておきの服を持っていきますよ』  
 
電話の向こうでウィンクする古泉が浮かぶ。  
 
「んじゃ、光陽園駅前公園来れるか?」  
『わかりました。すぐに向かいます』  
 
ベンチに座って待つ事数分、チャリンコに乗った古泉が現れた。  
今日は黒タクシーじゃないんだな。  
 
「あれは緊急事態の時だけですよ」  
 
はい、どうぞ。と言いながら紙袋を俺に渡す。  
 
「実は、僕は今とても喜んでいるんです」  
「なんでだ?」  
「遂にあなたにデート前に頼られる友人になれた、とね」  
 
と言って微笑む。……なんか知らんが、ちょっと恥ずかしいのは俺だけか?  
このまま認めるのもアレだから適当に反論しておこう。  
 
「ハルヒ絡みだとお前ぐらいしかいないしな。朝比奈さんはそういうの経験無いみたいだし長門は論外だ。  
 それに服借りなきゃいけないから同性のお前にしか頼めないし……」  
 
微笑み君のまま肩をすくめてチャリンコの方へ歩いていく。  
 
「それでは失礼します。明日、がんばってくださいね」  
 
何をがんばれってんだ。  
 
 
……相談相手になって喜んでるみたいだし、ついでにもう一つ聞いとくか。  
 
「なぁ、古泉。俺、明日どうしたらいいと思う?」  
 
振り返りながら0円スマイルを振りまいて、  
 
「いつも通りのあなたでいいと思いますよ。きっと涼宮さんもそれを望んでます。  
 応援してますよ。機関の一人として、副団長として、そして僕個人として」  
 
そう言ってチャリンコを漕ぎながら闇の中に消えていった。  
 
結局、具体的な答えは何も教えてもらってないな。ま、いつもの事だが。  
 
 
あーあ。今日はいろんな事があって疲れた。風呂は……朝入ればいいか。  
こういう時はさっさと寝るに限るな。  
そう思いながら寝室のドアを開ける。  
 
娘を運んだ時は1組しかなかったのに、そこには3組の布団が敷いてあった。そしてその内2組の中で眠る幼女と長門。  
しかもなぜか長門がセンターの位置だ。  
 
……こいつ、分かっててやってるんじゃないだろうな。時々、本気でそう思う。  
 
俺は溜息をつきながらコタツの中に潜り込んだ。  
 

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