「その子、誰?」  
 
 
予想通りなのか全く表情を崩さない古泉となぜか顔を赤くしてる朝比奈さん、  
いつもの3割増しで無表情な長門。そして口から茶色の液体を垂らしてる俺。  
最後に満面の笑みを浮かべる幼女を見た後、そいつは口を開いた。  
 
マズい。これはマズい。どうしたらいいんだ。  
 
「マーマ♪ 若いママもかわいー!」  
「へ?ママ?」  
 
ちょっ、お前、これ……!  
 
「……とにかく。未来人である事だけでも隠したほうがいいですね」  
 
古泉が俺に囁く。ナイスだ。出来れば俺とハルヒの娘だって事も隠したまま墓まで持って行きたい。  
 
「あー……っとだな。その子は俺の……そう、従兄弟なんだ! 少しの間ウチで預かることになってさ!」  
「へぇ。そういえば妹ちゃんにどことなく似てるわね」  
 
そりゃそうだろうな。同じ血を引いてるんだから。つーか俺から見ればハルヒの方が似てるんだが……。  
いや、これは言わない方がいい。というか言いたくない。  
 
「で? なんであんたの従兄弟がここにいるの?」  
「いや、実はSOS団の話とか聞かせてやってたらさ。是非お前に会ってみたいって聞かなくて」  
 
よし、いいぞ俺。ナイスアドリブだ。  
 
「ふぅん。中々見所あるじゃない。従兄弟ちゃん」  
 
キャッキャッとハルヒとじゃれる幼女。ふぅ、とりあえず危機は回避できたようだ。  
 
「……ねぇキョン」  
「なんだ?」  
「なんでこの子、私の事ママって呼ぶの?」  
 
……しまった。一番の問題をすっかり忘れてた。  
 
「そ、そりゃあお前……」  
「何よ」  
 
あああ、駄目だ、何も思い浮かばん!   
訝しげな目でこっちを見るハルヒ。一点の曇りも無い目で俺を見つめる幼女。  
……未来の俺もこんな風に尻に敷かれてるのかな、とか現実逃避し始めた時、  
 
「彼女の母親が、涼宮さんにそっくりなんですよ。それはもう見間違えるぐらいに」  
「そうなの? キョン」  
「あ……あぁ! そうなんだ!」  
「なんで古泉君がそんな事知ってるの?」  
「一度お会いしたことがありまして。それはもう驚きましたよ」  
「へぇー。一度会ってみたいわねぇ」  
 
そう言うとまた幼女とじゃれ始めた。  
スマン、古泉。恩に着る。そうアイコンタクトをして、古泉もウィンクを返してくる。  
いつもなら気持ち悪いそのウィンクも今は輝いてるぜ。  
 
 
その後は、2人でじゃれる幼女とハルヒ。何か変なことを言い出さないか気が気じゃない俺に  
いつもの微笑み君の古泉と無表情の長門。何故かオロオロする朝比奈さん、という感じで  
時間が過ぎていった。  
 
 
「それじゃ、おっ先ー!また逢おうね、従兄弟ちゃん!」  
 
そう言い残して、『ママ』はつむじ風のように走り去っていった。  
俺達はと言うと、誰が言い出したでもなくこの状況の対策会議が開かれた。  
 
 
「……でだ、なんでお前が来たのかってのは言えないんだっけ?」  
「うん。禁則事項なの」  
「他には? 未来の俺からなんか言伝とか無いのか?」  
「えぇっとねぇ……。2日後の朝6時に帰って来なさいって言ってたよ」  
「それだけか?」  
「んと……。あ、過去の俺によろしく、って」  
 
何がよろしくだ。未来の俺はよろしくしか言えないのか。  
もっとこう、有益な情報をくれ。俺を巻き込むのなら。  
 
「それと、明日遊園地に連れて行ってくれるって!」  
 
ほほぅ。それはよかった。是非とも未来の俺と楽しんできてくれ。  
 
「うぅん。昨日ね、パパに言ったら  
『あぁ、大丈夫だ。きっと向こうの俺が連れて行ってくれる』って言ってたの」  
 
ニコニコと笑いながらそう俺に教えてくれる幼女。  
 
おいおい。何考えてんだ未来の俺よ。自分の娘の事を人に押し付けるなよ。  
ん? いや、俺の娘でもあるのか? あーもう、よくわからん。  
 
 
「きっと、その子のパパであるキョン君も高1の明日に遊園地に行ってると思います」  
 
と、朝比奈さんが言う。蛇の道は蛇……ってやつか。ここは未来人さんの言う事を聞いたほうがよさそうだ。  
 
「えぇっと……。つまり、遊園地に行くのは規定事項なんですよ」  
 
逆らえないって事か。なんてこった。  
 
「一緒に行くのは、パパだけですか?」  
 
NHKに出てくるお兄さんのような笑顔を浮かべつつ幼女に話しかける古泉。  
 
「うぅん。ママと一緒に!」  
「んなっ……!」  
 
ちょっと待ってくれ。俺の記憶が正しければ、ママってのは……。  
 
「そういう事らしいですよ。がんばってくださいね、パパ」  
 
……こいつ。分かってて言ってるんじゃないだろうな。  
 
「ね、パパ。お願い!」  
 
と、見事な笑顔とキラキラ輝く瞳で俺を見つめる。  
……こんなところまで母親に似やがって。  
 
「……わーったよ。連れて行きゃいいんだろ。行くよ。行きますよ」  
 
何故か沸き起こる拍手。なんだこれ。  
 
 
「…それと。もう一つ問題があるんだよな」  
 
そう。すっかり忘れてたがこの娘が2日間こっちで生活するんなら  
当然寝泊りする場所が必要なわけで。  
 
「え? パパとママと一緒に寝るに決まってるじゃない」  
 
まず、俺の家に泊まるのは不可能だろう。ウチにこんな幼女を連れて行く訳にはいかない。  
ヘタすりゃ誘拐犯に間違われる。  
ハルヒのとこは……。頼めばなんとかなるかもしれないが俺が嫌だ。  
もしこの娘が俺とハルヒの子だとバレてみろ。  
もう……考えるのも嫌だよ。マジで。  
そもそも、俺とハルヒが一緒に寝る事自体ありえないしな。  
 
……仕方ない。  
 
「長門。……頼めるか?」  
「いい」  
「助かるよ。スマンな。毎度毎度」  
「気にしていない」  
「えー!? パパとママと一緒に寝たいー! 寂しいー!」  
「長門がいるじゃないか。な? 全然寂しくなんかないぞ?」  
「だって有希喋らないもん! つまんないよー!」  
 
んな事言ったってなぁ。それが長門なんだからしょうがないだろ。  
 
「我が侭言わない。パパをあんまり困らせたらいけません!」  
 
……なんか言ってて恥ずかしいよ。古泉はいつもよりニヤニヤしてるし。この野郎。  
 
「いーやー!パパとママがいいー!」  
 
どうやら性格はハルヒの方を強く受け継いだらしい。こりゃもうミニハルヒだ。  
俺の性格を受け継いだらそりゃもう賢くていい子になってるハズだからな。  
 
「あなたも、泊まればいい」  
「成る程。それはいい考えですね」  
「あ、それいいね! 有希天才!」  
 
あれ? なんですかこれ? 俺の意見は無しですか?  
 
じっと真っ黒の目で長門が、微笑みながら古泉が、朝比奈さんが申し訳なさそうに、  
そして幼女が南米系の派手な花のような笑顔で俺を見つめる。  
 
「……わかったよ」  
 
俺は溜息をつきながら、お袋に連絡するべく携帯を取り出した。  
 

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