「やあやあっ!キョンくん、待ってたよっ!」  
向こうから自転車でやってくるキョンくんに大きく手を振る。  
「遅くなってスミマセン。じゃあ、行きますか。」  
「いーや、むしろゴメンを言うのはあたしのほうっさ。無理に頼んじゃってゴメン」  
「いえいえ、鶴屋さんの頼みです。断るわけにはいかないですよ」  
「そうかいっ?そんじゃ、行こうかっ」  
そう言って、あたしはキョンくんの自転車の荷台に座る。二人乗りってやつだね!  
一度やってみたかったんだよねっ、二人乗り。  
「じゃあ、まず何処に行くんですか?」  
「えっとね、この道をまっすぐ行ってちょーだいなっ!」  
キョンくんが自転車をこぎ出す。うわっとっと!バランスとるの意外と難しいにょろ。  
それに比べてキョンくんは慣れてるね〜。誰かいつも乗せてるのかなっ?  
あ、そうだっ!なんであたしとキョンくんが一緒にどっか出かけるのかって?  
それは、確か水曜日あたりのことだっけかな〜っ?  
 
 
「やほーっ!みくる居るかいっ!?」  
SOS団部室、あ、もともとは文芸部室だっけ?のドアを蹴破るようにして、あたしはそこに入ったんだっ。  
でも、みくるはまだ来てなかったみたい。  
そこにいたのは、珍しくキョンくんだけだったんだっ。  
「あ、鶴屋さん。どうも」  
「あれ?みくるはまだ来てないのかいっ?」  
「朝比奈さんはまだ来てませんよ。何か用があるんですか?」  
「いーやっ、用というか、ちょっと頼み事があったんだよねっ」  
そう、週末にあたしはちょっと行きたいところがあったんさっ。  
だけど一人で行くのもつまんないから、みくる誘おうかなって思ったんだ。  
そう言うと、キョンくんはちょっと首を傾げて  
「あ〜……週末ですか。多分朝比奈さん、用事があると思いますよ」  
「えーっ!!なにっ!?用事って?」  
「えっと、おいしいお茶が売っているらしい遠くのお店まで買いに行くとか言ってましたけど」  
「そっか、残念だな〜。どうしよっかな」  
でもここであたしは閃いたんだ!みくるがダメなら……  
「そうだっ!キョンくん、一緒に行かないかい?ねぇ、お願いにょろ!」  
そうやってお願いして、今日に至るってワケさ。  
 
デートだと思った人は残念っ!まあ、捉えようによってはデートだけどねっ。  
んー、あたしも少し期待したんだけど、キョンくんニブチンだからなぁっ。  
多分、あたしのことなんて、何とも思ってないんだろーな。  
大体キョンくんには、ハルにゃんやみくるや長門ちゃんがいる。  
キョンくんが選ぶとしたら、多分そん中。あたしなんて外から見てるだけなのさ。  
でも、今日ぐらいはちょっと楽しみたいなぁっ。  
目の前に見える広い背中。やっぱキョンくんは男の子だねっ。  
広くて、逞しい。ちょっぴり羨ましくなる。  
その背中につかまって、抱きしめてみた。  
二人乗りしてるし、捕まえとかないと落ちちゃいそうだからね。  
おっ、意外と何も言わない。てっきり「何してるんですか!?」ってあわてると思ってたのになっ。  
うーん。それなら鶴にゃん、調子に乗っちゃうぞ!?  
そのままキョンくんの背中に耳をつけてみる。  
感じる体温があったかいねっ。耳を澄ませば心臓の音が聞こえそうだっ。  
頬にあたる風も気持ちがいい。ぐんぐん自転車はスピードを上げていく。  
風の中、キョンくんの体温だけが、あたしを形取ってるみたいに思えた。  
 
 
「そうそう、ここっ!一回来てみたかったんだっ!」  
町から離れて、田舎道を辿ってついた場所。  
めがっさおっきなひまわり畑!  
「どこでこういうの調べてくるんですか?」  
「それは禁則事項さっ!」  
にんまり笑ってみせた。キョンくんはあれあれ?ちょっと唖然としてるねっ。  
ちょっとした冗談のつもりだったのにな。  
ま、いいかっ。  
「ささ!行こうっ!キョンくんっ!」  
あたしはひまわり畑に向かって走り出す。  
「ちょっと、待ってくださいよっ!」  
「にゃははっ!早くおいでーっ!」  
困った顔をしてキョンくんが追いかけくる。  
あたしはいつも以上にハイテンションで、いつも以上に楽しかった。  
それで騒ぎすぎたせいで、ちょっとキョンくん疲れちゃったっぽい。  
お昼ご飯を食べた後、シートに横になって寝ちゃったのさっ。  
最初のあたりはあたしも、ほっぺたツンツンしたりとかして楽しませてもらったんだけど、あたしも眠くなってきたから、ボーッとキョンくんの寝顔のぞいていたのさ。  
なんだか改めてみると、キョンくん可愛いねっ。  
さしてカッコいいわけでもなくて、普通に何処にでもいそうな青年って感じの顔。  
だけど、SOS団のメンバーが困っているときは、一気にカッコいい顔になるのさっ。  
そりゃあハルにゃんや、みくる、長門ちゃんが惚れるわけだよねっ。キョンくん優しいし。  
あたしだって……ううん。やっぱやめとくにょろ。  
さって、あたしも一眠りしようっ。  
 
 
そうやってお昼寝して、起きたらまた一緒に騒いで。  
でも楽しい時間って、すぐに過ぎちゃうものなんだよねっ。  
ひまわり畑の横を通り過ぎていって、坂を越えて、もう少しであたしの家。  
沈んでいく夕日をみてると、何か物足りないって思うのさ。  
もう少し、一緒にいたい。  
ちょっとだけやっぱし思うよ。あたしだって、ホントは……  
黙ってると何だか変になりそうだから、行きにも増して色々喋ったのさ。  
キョンくんは、そんなあたしに気がつくことなく、相づちを打っていた。  
そしてもう、あたしの家の前。  
自転車から降りる。ちっと悲しいなぁ。  
キョンくんがあたしの方を向く。  
「じゃあ、俺、帰りますから」  
……。  
ホントは、帰って欲しくなんかない。  
だけど、わがままなんて言えないよねっ。  
あたしはキョンくんにとっては、気のいい、おもしろい先輩なんだっ。  
キョンくんが向けている視線はあたしじゃない、SOS団の3人に向けられているっさ。  
あ、古泉くんゴメン。今言ったのは女の子だけだからねっ。  
そう。あたしの出る幕なんてない。あたしはただ、外から見てるだけ。  
だけど……  
ちょっとくらいなら、ハルにゃんもみくるも長門ちゃんも、許してくれるかなっ?  
もう、耐えられない。苦しくて、切なくて、どうにかなっちゃいそうだっ。  
だから、ちょっとだけ。最後の一歩。  
踏み出して、ほっぺたにキス。  
「っ!?ちょ、鶴屋さんっ!?」  
「これはほんのお礼っさ!今日は付き合ってくれてありがとっ!」  
大人になんてなれない。諦めることなんてあたしには無理っさ。  
だから、あたしは一番の笑顔でキョンくんに向かう。  
敵わなくたって、それがあたしの信念だからさっ。  
 
 
(終わり)  
 
 

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