なあ、長門。結局、ハルヒの能力って何なんだろうな。  
古泉や朝比奈さんが言ってることって、つまりは、彼らの仮説なわけだろ?  
世界を変えるとか、無自覚に何かを見つけてしまうとか。  
以前、お前に訊いたとき、何か誤魔かされたような気がしたしな。  
 
そう訊ねると、長門は、読んでいた本から顔を上げ、俺に視線を固定して、口を開いた。  
 
「涼宮ハルヒは、自分の望むことを実現する力を持っている」  
「うん」  
「そして、彼女を傷つける因子や彼女が望まない因子を、彼女の周囲から排除する」  
「ああ」  
「それによって、彼女は、自身を常に幸福な環境へと導く」  
「そうだな。それは解った。で?」  
 
まさか、幸運の遺伝子とか言い出すんじゃあるまいな。  
そう呟くと、長門は、一瞬、俺を凝視し、何処と無くぎこちない動作で、視線を手元の本に戻した。  
薄らと頬を赤くしているような気がする。少し睫が揺れてるような気もする。  
 
おいどうした? そう思いながら、俺の視線も、自然と長門の本に向く。背表紙が目に入った。  
 
――リングワールド  
 
部室を沈黙が支配する。  
 
長門よ。話を誤魔化すために冗談を言うなら、もうちょい捻ったヤツを頼む。  
それから、冗談が滑ったときのリアクションも考えておいたほうがいいぞ。  
 
ま、照れてるお前を見るのも、そうあることじゃないからいいけどな。  
 

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