「キョン、体育サボリか?」  
「ああ、ちょっとな」  
 
結局、鶴屋さんとは五時間目が終わるまでずっとしてた。  
女子のバレーが終わってから、こそこそ服を回収して戻ったのがさっきだ。  
トランクスだけ見つからなかったのは、さてなぜだろうな?  
おかげで腰周りが心もとないぜ。  
 
ハルヒの席が空席になってるのを横目で見ながら、俺は自分の席についた。  
今、ハルヒと顔を付き合わせて冷静でいられる自信はなかったから、僥倖と言ってもいい。  
制服の裏地から俺の名前は割り出してるはずだしな。じゃなきゃ、あんなことしないだろ。  
ハルヒの声を思い出しかけ、慌てて振り払っていると、肩を指でつつかれた。  
振り返ると、女子がいた。というか、クラスメイトの阪中か。  
「あのね、涼宮さんのことなんだけど」  
「ハルヒがどうかしたのか?」  
「うん。涼宮さん、また調子が悪くなって保健室で休んでるのね」  
阪中は、あまり深く考えてないような顔で、  
「だから、今日の活動には行けないかもしれないって」  
「わかった。サンキュ」  
俺も軽く返す。  
「あ、もうひとつあるのね。もしあたしが今日休んでも、明日は行くからちゃんと来なさいよ、だって」  
「ああ。わざわざありがとな」  
「ううん。それにしても涼宮さんが体調を崩すなんてめずらしいのね」  
それはそうだが、俺は誰かにメッセージを託すこともめずらしいと思うぞ。  
「わたし、けっこう涼宮さんと仲良くなったから、それでかも」  
柔らかくはにかむ阪中には、さすがお嬢様育ちだけあって、気立てのよさを感じた。  
「それじゃ、たしかに伝えたのね。よろしく」  
そう言って、阪中は俺の頬に唇を軽く当ててきた。ん?  
「阪中?」  
「え?」  
阪中は、なぜ呼び返されたのかわからないような表情をしてから、  
「あっ、あれ? なんでわたし……ごめんなさい、忘れて!」  
みるみる顔を赤くし、走り去っていった。  
 
事態はどんどんマズい方向へ爆走しているような気がする。  
いや、歓迎する人間にとっては歓迎すべき事態なのかもしれん。  
同級生や先輩が迫ってくるなんて、普通はない。健全な男子高校生として嫌なわけがない、妹を除いて。  
だが俺はこんなのは望んでない。望んでないぞ。  
なし崩しに巻き込んでくるのは、ハルヒだけでもうたくさんだ。  
 
長門は数日で治ると言っていたが、そんなに待ってられん。  
俺はホームルームが終わるや否や、かばんを持って部室へ駆けた。  
出掛けに阪中の席に視線を送ると、阪中はしょんぼり肩を落としていた。  
 
「はあい、いま開けますね」  
部室の扉をノックをすると、朝比奈さんの声がした。とっさにかばんで顔を隠してしまう。  
「あ、大丈夫ですよキョンくん。長門さんから話は聞きました」  
扉の向こうから、俺の行動を見透かしたように声が届けられた。  
話は聞いたって、もしかして、全部?  
「ええと、その、そうですけど」  
「すみません、今日は早退します」  
さて帰るか。帰って寝よう。寝て何もかもなかったことにしよう。  
「ハルヒも早退するかもしれないって言ってました。明日はパトロールだそうです。それでは」  
たまには現実逃避のひとつやふたつもしとくべきだな、うん。  
心の中の大事な部分が砕けてしまった俺は、無感動にすたすたと歩き去った。  
「えっ? キョンくん? 待ってくださいキョンくーん!」  
 
「長門、頼む! 俺の記憶を抹消してくれ!」  
数分後、朝比奈さんの要請で出動した古泉に捕まり、部室へ引きずり込まれた俺は  
全身全霊を懸けて長門に懇願していた。笑いたい奴は笑え。情けないと思う奴は蔑むがいい。  
だが朝比奈さんだけには知られたくなかった。俺は天使を自らの手で汚してしまったんだ。  
心の底から沸き起こる良心の呵責に俺は耐え切れない。こんなことならいっそ記憶を、  
「いや」  
無常なる審判は下された。俺は永遠に罪を背負って生きていくのだ。  
健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しきときも  
これを懺悔しこれに煩悶しこれと相対す、死が俺を別つそのときまで!  
 
「何をそんなに気に病んでおられるのですか?」  
のた打ち回る俺に、涼しげな顔で古泉が問いかけてきた。  
「どうもあなたは朝比奈さんを偶像化しすぎる嫌いがありますね」  
して何が悪い。朝比奈さんはまさしく俺の女神様だ。  
古泉は首を振り、肩をすくめると、  
「朝比奈さんは未来人ですが人間ですよ。性行為もご存知ですし、性欲もあります。でしょう?」  
朝比奈さんに流し目を送った。なんてこと言いやがるんだコイツは。  
「こっ、古泉くん、それセクハラですよう」  
見ろ、朝比奈さんも顔を赤くして困ってらっしゃるじゃないか。  
「これは失礼。ですが朝比奈さんを初潮も迎えていないように扱わずともよいのではないかと」  
さわやかな顔できわどいことをのたまった古泉は、それで話を切った。  
 
古泉の話がでたらめ過ぎて、逆に俺に冷静さが戻ってきたようだ。  
「長門、俺は数日も待てん。なんとかならないのか?」  
部屋の壁を見ながら長門がいると思われる方向へ声を送る。  
「わたしにはできない」  
ぽつんと答えが返ってきた。  
「侵食を抑えるので精一杯」  
「侵食だと?」  
なんだそれは。  
「情報生命素子。うかつだった」  
 
長門の話を統合すると、俺に感染しているのは、シャミセンの中に封印された  
なんとか体とは別の情報生命素子だそうだ。それは相手が持つ感染者の情報を  
媒体として中枢神経に侵食し、感染者に対して行動を起こすよう働きかけるらしい。  
その際、本人の知識や感染者に対する情報量の度合によって症状に差が出るんだと。  
そして顔も見せていないのになぜ長門が侵食されているのかと言うと、  
「一度侵食された相手は、条件が感染者の瞳を覗くことから感染者との距離に変わる」  
長門はの説明によると、こうだった。  
 
「じゃあ、距離をとってから情報生命素子とやらを取り出せばいいんじゃないのか?」  
俺の案に長門はあっさりとダメ出しをしてきた。  
「対抗処置を施すためには近寄らなければならない」  
「そうか」  
 
長門がダメとなるとお手上げだぜ。わらにもすがる思いで古泉にも声をかける。  
「古泉、なんとかならんのか」  
「長門さんができずに僕ができることなど、そう多くありません」  
視界の隅で両手を上向ける古泉が見えた。  
「そしてこの件は、大半のほうですね」  
できないのならできないと、ストレートに言え。とするとあとは、  
「朝比奈さん、は、ムリか」  
「……そのとおりですけど、キョンくんって、けっこう容赦ないんですね」  
うっ、つい口に出てしまった。  
顔は窺えないが、声がとにかく低い。もしかして怒ってらっしゃるのでしょうか。  
「あたしのこと天使とか女神とか持ち上げてるくせに、本心はそうなんですか」  
「い、いや、これは、その」  
「もういいです。それより先にすることがあるでしょう?」  
弁明する機会すら与えられなかった。当分、朝比奈さんの笑顔は拝めないかもしれない。  
治ったとしてもさ。  
 
とはいえ、一体どうすればいいんだ。  
「推奨はしないが、ひとつ方法がある」  
この声は、長門か。  
「別のインターフェースを呼んで、それに任せる」  
たしかにそれは、あまりやりたくないな。  
「しかし背に腹は変えられないか。別のインターフェースってあの人だろ?」  
「そう」  
「じゃあ、頼む。呼んでくれ」  
「了解した」  
長門の声が微妙に不服そうだったのは、気のせいということにしておこう。  
 
 
「こんにちは」  
しばらくして扉がノックされ、古泉か朝比奈さんが開けると澄んだ声が俺の耳に入った。  
「先日は失礼いたしました」  
最初に会ったときは、夏休み前、朝比奈さんに頼んで部室に来たんだったよな。  
朝比奈さんとは隣のクラス同士。部長氏行方不明事件のときは、部長氏の彼女役だった。  
それが年が明けてみれば、いつの間にか生徒会の書記におさまっていた。  
古泉曰く、長門のお目付け役とのことだが、さて。  
「喜緑さんですか?」  
いちおう確認の誰何をした。  
「はい、喜緑江美里です」  
返事は微風のように穏やかなものだった。  
 
「状況を説明す――」  
「けっこうです」  
発言しかけた長門を喜緑さんはさえぎった。  
「長門さん、あなたは気付いていない、いいえ機能に制限を受けているのかもしれませんが」  
前置きとともに、喜緑さんが話し始めた。  
「あなたはすでに情報生命素子の温床となっています。素子はあなたが発する情報を介して  
情報を認知した人へ進入し、一定量を超えると、同様の作用をもたらすようです」  
「……」  
「どうやら核はこちらの方にのみ存在するようなので、増殖の心配はありませんけれど」  
とんでもない存在だ。長門がウイルスと言い換えたのがよくわかる。  
「あ、あのう。それじゃ、わたしは……」  
おずおずと朝比奈さんが声を出す。そういや、朝比奈さんは長門に説明を受けたんだった。  
「まだ温床にはなっていないようですが、時間の問題でしょう」  
「ひええっ」  
先程まで怒っていたことも忘れ、慌てふためく。  
「朝比奈さんから先に治療すると侵食される可能性があるので、こちらの方からします」  
喜緑さんらしき手が俺の肩に添えられた。  
 
「そうでした。始める前に、念のため男性の方は席を外していただけませんか?」  
手を添えたまま、喜緑さんの口から鈴の音のような声が出た。  
ふんわりいい香りが、俺の鼻腔をくすぐる。  
「処置を行う際、素子は本能的に宿主を変え、生き延びようとするかもしれません。  
その場合、危ないのは、既存情報から類推すると男性の方です」  
治療を受ける俺が退席する必要は当然なく、この言葉が指す対象は、  
「わかりました。僕は涼宮さんの様子を確認しに保健室へ向かうとしましょう」  
古泉だった。古泉は部室の扉に手を掛け、俺のほうにいつもの微笑をたたえた顔を向けた。  
「ご健闘をお祈りします。それでは」  
 
古泉が去り、場に静寂が満ちた。  
「では、早速治療を始めます」  
喜緑さんの声に、どことなく緊張の色が見え隠れしている。  
「わたしにもあなたの情報は相当量、蓄積しています」  
俺からは上靴の先しか見えない喜緑さんの声は、少し早口になっていた。  
「まだ侵食されていないからあなたに近寄れる。それだけのアドバンテージしかないんです」  
そう言い切ると、一気に速度を上げ、俺の耳には聞き取れないつぶやきを始めた。  
長門が何度かやってたやつだな。朝比奈さんは呪文と呼んでいた。  
「保存するんですか?」  
阪中の飼い犬、ルソーに憑いていた情報生命素子は、有益だからと削除の許可が長門に下りなかった。  
「いいえ、この素子は悪性です。削除の許可も出ました」  
高速で声を漏らす合間に答えてくれた。  
 
「いきます」  
準備が整ったのか、俺の右腕にそっと手を添え直角まで持ち上げると、喜緑さんは膝を着いた。  
俺の視界に、喜緑さんの真ん中で分けられた髪が見える。  
喜緑さんは顔をうつむけたまま俺の腕に唇を近づけ、口を心持ち開き、  
「うあ」  
耳たぶを噛むように甘くはんできた。皮膚に犬歯の当たる感触がする。これも長門以来、久々だ。  
そのまま喜緑さんはじっと動きを止めていた。  
 
数秒であったような気がするし、もっと長かった気もする。  
顔を離した喜緑さんは、摘んでしまえるような微笑みを見せてくれた。  
「素子を一時凍結しました。これから摘出に移ります」  
そんな喜緑さんに俺は礼を言おうとしたが、しびれが走っていて口が動かない。  
「ごめんなさい、一時凍結の影響だと思います。もう少し待っていてください」  
説明すると、喜緑さんは中腰のまま、俺のズボンに手を伸ばした。  
何をするのかと思っていると、おもむろにチャックを下げてきた。  
「きゃああぁっ!」  
朝比奈さんの叫び声が部室内に響き渡る。  
おそらく、赤面して顔を覆っておられるにちがいない。  
喜緑さんが社会の窓に手を差し伸べ、取り出したものは、俺のお子さんだったからな。  
トランクスをはいてなかった分、あっさりと出てきたお子さんは  
喜緑さんの手の感触に、自己主張を始めていた。  
 
口が動けば、俺はうめいていたと思う。  
それだけ、喜緑さんの柔らかな手は心地よかった。  
しびれは口だけではなく全身に及んでいたが、その分、全神経が集中したかのように  
俺のペニスは熱を持って、鋭く首をもたげていった。  
 
「失礼します」  
職員室に入るときの掛け声のような音調とともに、喜緑さんは顔を再び近づけてきた。  
吐息がそっと包みこむ。おずおずと舌を這わせ、亀頭をひと舐めした。  
その感触は、むしろ口が動かないことを感謝したくなるぐらいに、気持ちよかった。  
喜緑さんはぎこちなくぺろぺろと舐め続け、時折脈打つ俺のペニスにびくっ、と  
身をすくませたり、先走り液が出るのを見て首を傾げたり、ひとつひとつの行動が  
すべて新情報との遭遇のようだった。  
先走り液を舐めた喜緑さんは少し笑みを崩し、舌に残る味に戸惑っていたようだが  
職務を果たそうとする使命感が動かすのか、今や完全に勃起したペニスを両手で包み込む。  
そして、口を大きく開け、含んだ。  
 
「んむっ」  
一気に中頃まで咥えた喜緑さんは、詰まった声を漏らした。  
狭い口腔中に俺のペニスがうずもれる。喜緑さんは平熱がお高い方なのか  
熱を持ったペニスが溶かされるような感覚さえした。粘膜が絡みつき、清楚な喜緑さんには  
似つかわしくない卑猥な音が部屋に広がり、喜緑さんの瞳が見開いた。  
喜緑さんはそのまま、しばらくじっと耐えるように身を固めていたが  
喉の奥にまで咥え込み過ぎたのか、苦しそうにうめきをあげ身をよじり、顔を離すと  
「けほっ、けほっ!」  
猛烈にむせ始めた。よだれが口の端からしたたり落ちる。  
目尻に浮かんだ涙も、よだれの痕を追うように流れ落ちた。  
何か声をかけてあげたかったが、力を込めても、口は動かなかった。  
 
「けほっ、ご、ごめんなさい。あまり情報を持ち合わせていなくて」  
ひとしきりむせ通した喜緑さんは、目尻を拭いながら弁解してきた。  
そして改めて、よだれにまみれたペニスに手を添えてくる。  
そのいじらしい姿に、わけもなく熱くなった。  
 
今度は無理をせずに、先端に唇を押し付けてから、口を開いていく。  
敏感になっている亀頭を飲み込むと、喜緑さんは舌をすぼめたり巻き舌にしたり  
あれこれ試行錯誤しながら、亀頭を刺激してきた。苦しそうに息を継ぎながらちゅうちゅう  
ペニスを真剣にしゃぶっている喜緑さんを見てると、俺もなんだか申し訳なくなってきて  
さっさと射精しないのかとさえ思ったが、今のところ、臨界点を突破しそうな感じはしなかった。  
快感は伝わってくるのだが、しびれていることが一要因かもしれない。  
 
「ええっ!?」  
俺が贅沢な悩みにふけっていると、突然驚きの声が部室を占めた。  
「そ、そんなことあたし知りません!」  
朝比奈さんの声だった。  
 
朝比奈さんと会話できる人物は、この場には一人しかいないはずだ。  
先程、喜緑さんに言われたことを配慮してか、俺たちの耳に内容が聞こえない程度に  
小さい声でぼそぼそと話しているのは、おそらく長門だろう。  
「そっ、そんなこと言えないです」  
上ずった声が気になって仕方がない。何を話してらっしゃるのかわかりませんが  
喜緑さんに集中できるよう、朝比奈さんも小声でしゃべってもらえませんか。  
「うう……わかりました」  
 
俺の心の声を悟ってわかったと言ったのではない証拠に、朝比奈さんは思い切り声を振り絞った。  
「きっ、喜緑さん!」  
「じゅる?」  
ペニスを口に含んだまま、器用に首を傾げ、喜緑さんは朝比奈さんに視線を送った。  
ぼそぼそ長門の声がしたあとに、朝比奈さんの声が再び聞こえてきた。  
「そ、そのですね、い、い……陰嚢を手で刺激しながらすると良いそうですっ!」  
自棄になったように叫んだ内容に、俺は驚愕するとともに、快感も走った。  
喜緑さんが従順に陰嚢を優しく揉みほぐしてきたからだ。  
「くっ、口の中で転がすだけじゃなく、裏筋も舐めてあげてください!」  
ペニスを心持ち奥まで咥え、丁寧に裏側を舐めてくる。  
「雁首に舌を絡めるのも効果的ですっ!」  
舌でカリをつついたあとに、包み込んできた。  
「もう片方の手で、陰茎をこすってください!」  
根本に当てていた手を上下しだす。  
「あとは顔を動かして、挿入感を出せば完璧ですっ!」  
生徒として優秀らしい喜緑さんは、言いつけを守って、ゆっくりピストンを開始した。  
唇の感触とともに、ペニスが喜緑さんの口腔のあちこちに擦れ、心の中でうめき声が出る。  
喜緑さんは苦しそうに涙を浮かべながらも、徐々にスピードを上げていき、それに伴って  
俺の射精欲にもようやく火種がついた。  
「キョンくん、口の中にたくさん出してください!」  
朝比奈さんが後押しするかのように、淫らな言葉を吐く。  
朝比奈さんの口からそんな言葉が飛び出してくるという背徳感は、俺をたまらない気分にさせた。  
「出して! キョンくん出してえ」  
もうダメだ。頭の中は朝比奈さんの求める声と喜緑さんの感触でいっぱいになって、すぐに弾け飛んだ。  
「うあああっ!」  
いつの間にか自由になっていた口から叫び声を上げると  
俺は両手で喜緑さんの頭を押さえ、精子を喉の奥へ大量に叩き込んだ。  
 
「っ!?」  
瞳孔を見開いて、喜緑さんは精子を受け入れた。  
何度も喉が上下して、こくこくと精子を飲み込んでいく。  
「っ、げほっ!」  
あまりにもの量に、喜緑さんは射精が収まると、顔を仰け反らせて咳き込んだ。  
それでも、精子を漏らすまいと、両手を口に当てつつ背を丸める。  
「ごほっ、げほっ」  
「大丈夫ですか!?」  
俺は慌てて、自由になった体を確かめる意味合いを込め、喜緑さんの背中をさすった。  
ちゃんと自分の意思どおりに動く。しびれはどうやら完全に消えていたようだ。  
 
しばらく背中をさすっている内に、咳き込みは落ち着いてきたらしい。  
「けほっ、さすってくれて、ありがとうございます」  
「いえ、こんなことをさせてしまって、すみません」  
まさか摘出方法が射精だとは、夢にも思わなかった。  
そうであれば、俺は喜緑さんを連れてくるよう、長門にあっさり頼んだりしなかっただろう。  
「いいえ、大丈夫です。素子の摘出にも成功しました」  
喜緑さんは綿毛よりふんわりした髪をなびかせ、微笑んでくれた。  
 
穏やかだった喜緑さんと対照的だったのは、  
「ぐすっ、キョンくん……あたしもうお嫁に行けません……」  
体育座りで顔をふとももにうずめ泣き暮れる朝比奈さんだった。  
俺と半ば仲違いになっていたこともすっ飛んでいたようだ。  
「ひっく、キョンくん、あたしをお嫁にもらってくれますか……?」  
魅惑的な申し出をしてくれる。前のときより本気かもしれない。  
朝比奈さん的に、一連の発言は許容の範疇外だったにちがいない。  
燃え尽きてしまわれたようだ。時間が傷を癒してくれることを待とう。  
 
卑猥な言葉を朝比奈さんに代読させた長門は、涼しげな目で俺をじっと見つめていた。  
その目を見返すと、まるで何日も視線を合わせていなかったように目をしばたたかせる。  
その淡々とした色の瞳を覗き込むことで、俺はようやく安らぎを得た気になった。  
 
ともかく、これで終わりなんだな。ハルヒの様子を俺も見に行ってくるか。  
しまいこみ、チャックを上げながら、俺はそう思った。  
 
まさか、この事態に続きがあるなんて思うわけないだろ、な?  
 

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