背中に硬い感触を感じて、目を開けると俺は学校にいた。  
廊下の窓から空を見るとどんよりとした灰色をしていた。  
またなのか?  
そこはいつか行った閉鎖空間にとてもよく似ていた。  
以前と違うのは、近くに俺一人しかいないってとこか。  
だが探せば誰かいるかもしれない。いや、きっといるだろう、ここに俺を呼び寄せる元凶となった奴がな。  
そして、そんな奴の心当たりは一人だけだ。  
 
俺はまず自分の教室へ行ってみた。  
一年五組の教室だけ弱々しい電灯が灯っているのが見える。いきなりビンゴか。  
前と同じだと思って気が抜けていたのだろう、あるいは焦っていたのかもしれない、  
俺は中に誰がいるのか確かめもせずに教室へ入った。  
「遅いよ」  
中にいた少女が微笑みながらそう言うと、世界が色づき始めた──夕焼けのオレンジ色に。  
そこにいたのは朝倉涼子だった。  
 
「やっと逢えたわ」  
「な、なんでお前が……」  
こいつは俺を殺そうとして、その時助けに来た長門に消されたはずだ。  
「フフ、せっかく再開できたんだし、もっと色々しゃべりたいけど、  
わたし急いでるし、書き手も面倒臭いだろうから、全部教えてあげるわ。  
あの日わたしは情報結合を解かれちゃったけど、そうなる前にあなたの中に因子を埋め込んでいたの。  
それが分解されたわたしの断片を、少しだけど回収してあなたの中に取り込ませたわ。  
ここはね、そのわたしのかけらがわずかな力を使ってあなたに見せている夢の中よ」  
そこで、急に朝倉がモジモジしだした。見た目にはとっても可愛いんだが、  
いつぞやの夕暮れの教室でのやり取りが思い出されて、俺は緊張感を高めた。  
「でもね、今のわたしにはあなたの夢に現れるのが精一杯なの。  
それどころか、わたしの断片をつなぎとめているのだって大変。  
今日だって、やっとのことであなたの前に出てこれたんだし、  
放っておいたらバラバラになって完全に消えてしまうわ。  
だから────わたしとセックスして」  
 
「な!?」  
「あなたにわたしの印象を強く与えて、あなたがわたしを思い出すエネルギーを使って  
わたしの断片をつなぎとめるの。でも、今回を逃すと次にいつ夢に出てこれるかわからないわ。  
もしかしたら二度と出てこれないかも。  
だからね、おねがいっ」  
いや、おねがいと言われても……  
「あなたが起きてしまう前になんとかしなきゃいけないから、  
もし断るなら、あなたを酷い目に遭わせて忘れないようにさせるつもりだけど」  
一瞬にして彼女の右手にあのアーミーナイフが現れた。  
ぐっ、またそれかよ。やっぱり宇宙人の考えることは無茶苦茶だ。  
夢の中とはいえ死ぬような目に遭うのは勘弁だ。  
第一ここが本当に夢の中なのか、まだはっきりしていない。  
 
それにまだ疑問はある。  
「お前はどうして、そうまでしてこの世界に留まろうと思ったんだ?」  
「もっと涼宮さん、そしてあなたをみつめていたかったから。  
みんなで楽しそうにしてるのに、わたしだけ仲間はずれはさびしいわ」  
…………「さびしい」という言葉を聞いて、だんだん俺は彼女のことを危険だとは思わなくなっていった。  
それどころか、何とかしてやりたいとさえ思ったんだ。  
「わかったよ。お前の望むようにするよ」  
「それってセックスしてくれるってこと?」  
「ああ、もうっ、そうだよっ!何度も言わせるな」  
「ありがとっ」  
 
彼女が抱きついて唇を重ねてきた。  
はじめは軽く触れるように、そして吸い付くように、  
「……ちゅっ、ちゅ……うんッ」  
そして彼女の舌が口の中へ侵入してくる。  
ぬるりとした、艶かしい感触。背中がゾクゾクとする。  
あまりに刺激がリアルだ。  
本当にここは夢の中なのだろうか?  
「フフっ、起きてみればわかるんじゃない?」  
・・・・・・・・  
・・・・・・  
・・・  
 
 
目が覚めた。  
パンツの中のぐっしょりとした感触と、その惨状を見て、  
あれが夢じゃなかったことを知った。  
……くっ、できたら忘れたい。  
でも、忘れそうになったら、また彼女が出てきて同じ目にあうんだろうな────  
 
 
 −おわり  
 

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