「今度の土曜は、虹を見に行くわよ!!」
正直、ハルヒがこんな妥当で普通で安直な企画を立てるとは、思いもよらなかった。
・・・て、去年までの俺なら言うのだろうけど、今はとてもハルヒらしいと思うね。
でも虹を見るって、土曜に雨が降らなかったらどうするつもりなんだ?
「とりあえず十時までには集合ね!!あ、あとビニールシートとかもあるといいわねー」
まったく聞いちゃいねぇとこあたりは変わんねぇな。まったく。
「うわぁいいですねー。お弁当とか作ってきちゃいますよっ!!あ、あたしの作る卵焼きは絶品なんですからねっ!!」
「みくるちゃんいいの?あたしが作って持っていくつもりだったんだけど・・・」
「大丈夫ですよー。あたしが作ったほうが美味しいですから。なーんて、冗談ですよ、涼宮さん♪」
女同士できゃいのきゃいのやってやがる。実に楽しそうだ。
長門は長門で、本を読む手を止めて、2人の方を見ていると思ったら、俯き加減で
「・・・あたしも」
とだけ言って、顔を微妙に赤らめながらじっとしていた。
「有希かーわーいーいー」
「じゃあ3人ともみんなの分作りませんか?」
ますます有希が赤くなった。恥ずかしそうだったけど、嬉しそうにも見えたのはたぶん俺だけじゃないはずだ。
「・・・うん」
小さく、今にも消えそうな声で、はっきりと言った。
「いやぁ、土曜が実に楽しみですね。普通の高校生として、何も考えずに楽しみたいものです」
時に小泉。お前だけはなんでこうまだエセ好青年のままなんだ。もうそんな必要もないだろ。
「あなたたちに気付かされたのかもしれませんね。本当の自分に」
当然、当日になっても、雨が降ることもなければ虹が出ることもなく。そりゃそうだ。
虹が見たいと思った日に、都合よく雨が降り、ちょうど集合時間に雨が止んで、綺麗に虹が見える、
なんてそんな非常識で非日常的なことが起こるはずがないだろ?
ハルヒは「残念ねー」だの「なんで雨降らないのよ!!」だの、いろいろ文句は言っていたが、それを見越していたかのように、
バドミントンのラケットやバレーボールなどを持ってきていた。
「しょうがないから、みんなで遊びましょうよ!!」
素直じゃねぇな、て思いながらも、少し可愛いと思ってしまったのは絶対に秘密だ。
それから俺たち5人は、広場に移動して、時間も忘れるほど遊んだ。
途中で休憩して3人が作ってきた弁当を食べてみたんだが、いやはや。何というか。
まずは朝比奈さん。1つ1つのおかずにいろいろな思い入れがあるのだろうか、いつにも増してマシンガントーク。
ゆっくり食べさせてくださいよ朝比奈さん、て言いたかったけど、やはりそれでこそ朝比奈さんだ。
次に有希。「・・・自信作」と言っていただけあって、さすがに美味い。
「・・・みんなが美味しく食べてもらえるように作った」て、そこまで言われると。
さすがSOS団のマスコットキャラって感じだ。
最後にハルヒ。2人を誉めるだけで、全然自分の話はしない。
でも、ちょっとつまんでみると、やっぱり料理の才能あるなコイツ、て思う。
「あ、ありがと。・・・まぁ、こんなのいつでも作れるわ」
ちょっと素直になったけど、やっぱりハルヒはハルヒだな。
夕暮れも近づき、みんなでバレーボールをしていた時に、俺はちょっと疲れたのか、一人だけ抜けて、ビニールシートに横になった。
疲れたというよりは、今日という日を記憶に残しておきたかっただけなのかもしれないな。
そんな俺をみて、ハルヒが隣に座ってきた。
「風、気持ちいいね」
そうだな、気持ちいいな。
「雨、降らなかったね」
そうだな、降らなかったな。
「虹、見れなかったね、ジョン」
そうだな、まぁでも、今日は楽しかったからいいじゃないか。な?ハルヒ。
「そーよね!!あたしもちょーど今それを言おうと思ってたところなのよ!!」
とある晴れた日の、ハルヒの笑顔だった。
おわり