さてさてさて。  
 最初は色々戸惑ったものの、だんだんと長門の居る生活にも慣れてきた。  
 妹に何か吹き込まれた長門が、ブランチャーで俺を起こそうとするのもいつものことだ。いくらあいつがチンチクリンで細いからって、体ごと俺に飛び込んで来るのは勘弁してほしいんだがな。  
 ちなみに、なんとか他の連中、特にハルヒには気づかれずにすんでいる。  
 長門と全く同じ中身の弁当食ってるのを見られたときは焦ったが、古泉の助けで事無きを得た。ただ、『長門さんが彼のお弁当を作ってあげたんですよ』という説明はどうにかならなかったのか。なんか知らんが、ハルヒがやたら不機嫌になってたぞ。  
 まあ、長門が食事の用意を手伝うのも当たり前になっていたので、長門が作ったというのもあながち間違いでもないんだけどな。  
 そんなこんなで気がつけば、一週間などあっという間に過ぎ去っていた。  
 
 
『長門週間』  
 
 
「先程、管理人から連絡があった。部屋の修復作業が完了したらしい」  
 長門が来て六日目の夜、こいつはそう言った。夕食の前に長門宛に電話があったのだが、このことだったらしい。  
「よって明日の朝、私物を持って登校し、そのままマンションに戻る」  
 そういや、最初から一週間ほど、などと言っていたな。きっちり一週間で済ますとこも長門らしいというかなんというか。  
「お世話になりました」  
 と、言うと、長門が俺と妹と母親に向かってペコリと頭を下げた。  
「やだー!! 有希ちゃん、帰っちゃやだー!!」  
 俺が何か言おうとする前に、妹が泣き出した。長門にゃ悪いが、妹はあいつの何がそんなに気に入ったのかね。  
 そんな妹を黙らせてる間に、母親が長門に『有希ちゃんが居なくなるとさびしいわ。いつでも遊びに来てくれていいからね』と、目を潤ませて言っている。うちの女共は、何故か長門がお気に入りのようだ。  
 そんなわけで、いつもの夕食は長門のお別れ会へと変更になった。と、言っても事前に用意してたわけでもないので、いつもの夕食+ケーキ一ホールってだけだ。  
 ちなみに、それを買ってきたのはママチャリで最寄のケーキ屋までひとっぱしりしてきた俺だ。まあ、長門のためならエンヤコラだな。  
「しっかし、一週間で部屋直ってよかったよな」   
 俺は、ケーキに乗った苺をつつきながらそう言った。隣では、ネコの顔をした砂糖菓子を見つめる長門の姿がある。既にケーキ本体は食ってしまっているのに、そいつを見つめたまま微動だにしない。  
 そいつも食えるんだぞ、って教えてやったらどんな顔をするのかね。  
 
「ごめんなさい」  
 っと、ノーモーションでそんなこと言いやがった。いきなり何を言い出すこいつ。  
「あなたの生活リズムを崩してしまったと思う。わたしが非効率的な方法を選んだために」  
 そういえば、結局なんでウチに来ることを選んだのか、理由を聞くのを忘れてたな。たしかにこいつの言うように非効率な方法ではあったんだろうけど、謝られるようなことじゃない。  
 俺としては、こいつがそういった理に適わないことをするのが珍しいと思ったから、ここは父性的なアレで見守ってやろうと思っただけなんだが。  
「なに言ってんだ、今更。妹だって俺の母親だって、おまえが来たおかげで大喜びだぞ」  
「でも、あなたには迷惑をかけてしまった」  
 砂糖菓子と顔を合わせ、うつむいたまま呟く。心なしか、その表情が沈んでいるようにも見えた。いや、いつもと同じ表情なんだがな。  
「えーとだな。別に俺は迷惑だなんて思ってないぞ」  
 朝、長門が起こしに来るおかげで、ここんとこ遅刻知らずだ。おまえのブランチャー食らう前に、早く起きる必要ができたからな。  
 あとこいつの作る飯も、俺をターゲットにしたってだけあって美味かった。食ってるすぐ横で、俺の反応監視し続けるのは参ったけどな。  
 そういや、こいつに勉強教えてもらったこともあった。おかげで、ここんとこの小テストではカンニングの疑い受けるほどだ。  
 ハルヒや他の連中に、長門と同居してることを隠蔽し続けるのも骨が折れた。この家に来てから、少し挙動不審なこいつの相手も大変だったけどな。  
 なるほど、生活リズム崩れたってのは否定しようがないな。  
 でもな、それらまとめて全てが楽しくなかったかって言われると、声を大にして否定しちまうわけだよ。あの時、俺が改変された世界を捨てて、今生きている世界を選んだ時のようにな。  
「俺だって、それなりに楽しかったってことだ。気にすんな」   
 ふと長門を見れば、体勢は先ほどと同じく砂糖菓子を見つめたままだ。だが、その視線が酒に酔ったようにぼんやりしているようにも見える。  
 照れている表情だと、自惚れでもいいからそう思わせてもらうぜ。  
「妹や母上がうるさいからな。おまえさえ良ければ、暇なときにまた来てくれ。いつでも歓迎する」  
 俺は隣に座る中途半端オカッパを、ぽんぽんと叩いた。ふわふわ、さらさらな髪の毛の感触が、指先から伝わって心地いいな………って、俺が楽しんでも意味ないんだが。  
 でもま、コイツが酔ったような表情のまま抵抗しないもんだから、俺はしばらくの間、長門の頭の感触を楽しんでいた。  
 
 さて、妹と母親による長門一人への送辞も終わり、長門による答辞(ありがとうの一言だけ)で、長門お別れ会は終了した。  
 まだ未練があるのか妹と母親は長門にすがりついて大騒ぎだが、俺の方は明日以降も学校で会えるんだから、さっさと抜けさせてもらう。シャワーを浴びておざなりに体を洗うだけでバスタイムを終えると、俺は自室のベッドへと飛び込んだ。  
 階下からは、妹と母親の声が聞こえてくる。長門フィーバーはまだ終わりそうに無い。  
「やれやれ」  
 ハルヒ相手にしか使いたくない台詞を漏らしながら、俺が何度か長門に潰されかけたベッドの上を転がった。そんな意味の無いことを繰り替えしているうちにうつらうつらとしてきた。  
 起き上がって電気消すのも面倒になってきた。このまま眠ってしまうか。  
 おやすみ、長門。また明日。  
 と、考えながら目を閉じた直後。トントン、と控えめなノックの音が響いた。誰だ、人がいい気分で眠りにつこうとしてる時に……おっと、そういえばこの家でノックするような奴と言えば、一人しか居なかったよな。  
 どうぞ、と言うと入ってきたのはやはり長門だった。その恰好は、この家に来てから母親に着せられている、俺のおさがりのシャツとジーンズではない。丈の合っていない、ぶかぶかのパジャマ姿だ。ちなみにこいつも、俺が中学の時に使ってたやつなんだが。  
 さっきまでウチの女共に捕まっていたと思うが、いつの間に風呂まで入ったんだろうな。おまえは女の子なんだから、俺みたいにカラスの行水ですますんじゃありません。  
「報告しておきたいことがある」  
 とてとてと、俺のベッドの前までやってきた長門が、そう言った。その表情はさっきのお別れ会で見た酔ったような物で、なんか目がうつろだ。  
「前回のわたしの暴走が、エラーデータの蓄積によるものだったことは覚えていると思う」  
「あ、ああ」  
 なんでいきなりこんな話をしだすんだ。俺としては、こいつを責めるような話はなるべくしたくないんだが。  
「エラー発生時におけるわたしの異時間同位体、つまりこの前あなたと朝比奈みくると共に過去へ移動した時のわたしの手により、エラーデーターの排除には成功した」  
 ああ、覚えているともさ。朝倉に脇腹グリグリされてる『キョン君』の姿をな。  
「前回のエラーの蓄積には、あの夏におけるループ現象による影響が大きいと思われる」  
 そりゃそうだろうな。二週間を一万五千四百九十八回、つまり約594年ってのは、『塵も積もれば山となる』を体現するには充分な時間だろう。  
「だから通常の空間に居る限り、涼宮ハルヒという人類の寿命から推測しても、再びそこまでのエラーが蓄積される確率は低いと思っていた」  
 たしかに、俺やハルヒの残りの寿命、六十数年じゃ、594年には勝てないよな。あいつが、残り六十数年で大人しく大往生してくれるとも思えんが。  
 しかし、なんだ『思っていた』ってのは。なんで過去形なんだ、それじゃまるで―――  
 
「おい、待てよ。まさか、また俺の知らないうちに同じ時間を繰り返してる、とかじゃないだろうな」  
「それはない。現在のところ、そういった現象は、観測されていない」  
 なんだ、驚かせやがって。おまえは表情に乏しいんだから、あんまり誤解されるようなこと言わないでくれよ。  
 俺が、そんな風に安堵した直後。長門はこう言ったのだった。  
「でも、現時刻より二時間四十五分前。わたしの内部におけるエラーデータの蓄積量が、前回の暴走時の量を上回った」  
 一瞬、呼吸が止まった。  
 目の前で、無表情でたたずむこいつの中で。  
 また、エラーデータとやらがこいつを蝕んでるってのか?  
「どういうことだ、長門」  
 動揺を押し殺して、俺は尋ねた。  
 エラーデータの蓄積がどうのと言ったって、こいつはまだ暴走とやらをしているわけじゃない。だったら、そうなる前になんとかしてみせるさ。  
 俺はもう一度世界を滅ぼすのも、目の前のこいつを傷つけるのもごめんだ。  
「エラーデータの蓄積量が爆発的に増大したのは、一週間前」  
 一週間前、なんか事件が……あったな。こいつのマンションが火事になったんだ。  
 あれが原因だったのか? でも、あれはただの事故だったんだろ?  
「あの事故自体には何の問題も無い。原因は―――わたしがあなたの家に来たこと」  
「は?」  
「この家には、至る所にあなたの痕跡が残されている」  
 そりゃ、俺の家なんだからな。おまえの家みたく、あんだけ生活感無いほうが珍しいぜ。  
「特に嗅覚という点で言えば、空間そのものにあなたの痕跡が残されていると言っていい。わたしがあなたに借りた衣服にも、あなたが使った後の風呂の残り湯にも、あなたの痕跡が残されていた」  
「俺の痕跡?」  
「わかりやすく言えば、あなたの匂いが」  
 ちょっと待て、わかりやすいのはいいが、なんだ匂いって。俺、長門が狂うほど臭かったか?  
「あなたの匂いは、わたしにあなた自身の存在を連想させる。その結果、わたしはあなたの存在を再確認したいという必要性を覚える。わかりやすく言えば、欲求」  
 欲。普段のこいつからは、絶対に聞けない言葉だ。つまり、それだけ強くて、どうしようもないものだってことだろう。  
「その欲求はあなたの匂いを感じ続ける限り、つまりこの家に居てあなたの服を着ている以上生じ続ける。でも、だからといってあなたはわたしのすぐそばに居るわけではない。  
 学校であなたの匂いを感じたときはすぐ側にいるのに、この家では同じ敷地内に居ても、壁などに阻まれて全体像まで把握できない」  
 たしかに、学校で俺の匂いが染みついてるとこなんか、教室の席やゲタ箱くらいか。それだって、席変え、クラス変えで代わるんだから、十六年住んでる家よりは匂いがつかないのかもしれない。  
 だから学校で長門が俺の匂いを強く感じるのは、俺本人が部室に居る時、つまり一緒に居る時なんだろう。それが、この家では違ったってことだ。  
 
「そういったことで果たされない欲求がエラーデータとなり、あなたの家に来た時からわたしの中で蓄積されていった。その欲求はわたしの内部から一瞬の休み無く生じ続けていく物だったので、その蓄積量も爆発的に増えていった」  
 その結果、一週間であの594年を上回ったってのか。ただの一般住宅かと思ってたが、恐ろしいな俺ん家。  
 しかし、回避する方法は無かったのか?  
 何か理由を付けて家を出るとか、もしくは嗅覚を無効化して、匂いとやらを感じられないようにするとか。  
「前者については、それでもあなたの側に居たかった。後者については―――」  
 前者の時点で随分恥ずかしい台詞を言ってくれたと思うが、後者の答えを言うのに躊躇するような様子を見せ、しばらくしてから言った。  
「あなたの匂いを感じていたい、という欲求を抑えることが出来なかった」  
 そう、酔っ払ったような表情で。前に、俺のベッドの上でうつ伏せになって、顔を埋めていた時と同じ表情で言った。  
 あの時、長門は苦しんでいたんだろうか。結果的にエラーデータを引き起こす俺の匂いとやらを、そうとわかっていながら感じていたいという欲求に抗えなくて。  
 くそ、俺は何一つ気づいてやれなかった。今からでも、なんとかこいつの力になってやりたい。  
「それ、どうにかする方法はないのか?」  
「ある。元々、それを頼みに来た」  
 即答してくれた。安心したぜ。  
「わたしに、あなたが存在するという事実を再確認させてほしい。有機生命体の体で実行可能な行為としては、最も効率的な方法で」  
 わかった、なんだってやってやる。で、その効率的な方法ってのはなんだ。  
「あなた達の言葉で言えば、交尾にあたる」  
 
 
 
 っと。今度は一瞬どころじゃなく、ちょっとやばくなるくらい呼吸止まってたぜ。  
 あのな、長門さんよ。おまえを助けるという使命感にバリバリリ燃えてた俺に対して、交尾ってのは無いんじゃないか?  
「セックス」  
「言い換えんでいい」  
「人類という有機生命体、くわえてこの時代の文化水準から考えれば、存在を理解するには性行為が最善だと思われる」  
 と、俺をジーッと見つめたまんま言ってくる長門。俺の頭の悪さじゃ、こんな説明でも納得しちまいそうで恐ろしい。  
「な、長門。そういうのはだな、好きな者同士がやることであってだな」  
 好きなもの同士じゃなくてもやる行為かもしれんが、そっち方面は無視だ。SOS団唯一の一般人としては、辞典に載せられるような模範的なヤツでやっときたいと思うわけだ。俺もそんなあっさりやれるほど経験豊かじゃない、っていうか無いんだから。  
 
「わたしは、あなたとの会話を楽しいと感じる。あなたと同じ空間に居るのを楽しいと感じる」  
 俺を見つめる目をそらさずに、長門は言う。感情のこもらない、いつもと同じ口調で。俺に見せてくれる、いつもの無表情で。  
「あなたがわたしを気にかけてくれるのを嬉しいと感じる。あなたの涼宮ハルヒや朝比奈みくるに対する態度を見ていると、不愉快に感じる事もある。古泉一樹との関係が、少し心配」  
 少し、爆弾をかましながら、言葉を紡ぐ。その声は機械で作られたように平坦な、いつものあいつと同じ声だが―――――  
「これは、人間で言えば『好き』という感情にあたるものではないか、と思う」  
 なんとなく、わかった。こいつなりに、必死だということが。  
 こいつはエラーデータとやらを背負いながらも、俺を好きであろうとしてくれていたのだ。そしてその感情を、こいつが苦手とする会話で伝えようとしている。  
「あなたにわたしを好きになれとは言わない。あなたが持つ性欲を、わたしの体で発散するだけでいい」  
「なっ――――」  
 それでいいのか。それでいいのかよ、おまえは。  
「それとも、あなたはわたしに触れるのも嫌なほど、わたしを嫌っている?」  
 んなわけはないだろう。  
 俺は長門のことが好きだと思う。  
 そこには、娘を見守る親父のような父性愛、一人の友人としての友情、長門にはいつも世話になっているという感謝と負い目、SOS団の仲間としての使命感、  
みたいなのが多分に含まれているんだろう。あの世界で出会った、俺の袖に触れた小さな手の持ち主の姿を、この長門に重ねているというのも否定できない。  
 これは、普通の男女の間にある『好き』とはかけ離れているように思えた。  
 でもな。  
 だからって、目の前にいるこいつを愛しいと思う感情を否定できるわけがないんだよ。  
 俺がこいつを娘、友人、仲間、感謝すべき恩人、そしてもう一人の長門として抱いている感情は、否定できない大切なものだ。同じように、俺がこのチンチクリンで、無愛想で、ダウナーな宇宙人を愛しいと思うことだって、誰にも否定させない。  
 俺はこいつが、今、俺の目の前にいる長門有希が好きなんだ。  
「長門、来い」  
 長門の体が、フラリと俺の方へ向かう。俺は手を伸ばし、長門の腕を掴んで引っ張った。  
 俺の体の上にぶつかる長門の体。いつもあれだけ食ってるとは思えない軽い体の感触が、心地よい。  
「おまえのためにやるんじゃないぞ」  
 俺は長門を抱きしめた。小さな体は、俺の腕の中にすっぽり収まってしまう。この小さな体に、どれだけのものを溜め込んで来たんだろうか。  
 その少しだけでも、肩代わりしてやりたいと思った。俺が背負えるものなんか、タカがしれてるだろうけどな。  
「俺が、おまえの存在を感じていたいからやるんだよ」  
 朝比奈さんの言う『呪文』を唱える時には高速で動くが、普段は食事と呼吸以外に使われることが極端に少ない、小さな唇。  
 わずかな艶を放つそいつを、俺は自分の唇で塞いだ。  
 
 唇を重ねたまま、俺と長門は互いの体をまさぐっていた。腕だけでなく全身で感触を楽しみながら、そのついでというように相手の服を脱がしていく。  
 正直言って、すごいやりづらい。  
 おまけに息苦しい。  
 頭がクラクラしてきやがった。  
 だが、俺は口を離すことが出来なかった。だって、すげえ美味いんだもんさ、こいつの唇。  
 小さく柔らかな唇も、その奥にある細い舌も、口内を潤す唾液も、こいつの何もかもが、俺にとっては極上の甘露って奴だ。やばい、このまま窒息してもいいような気すらしてきた。  
「………」  
 そんな俺の考えを読んだように、長門の腕が俺の胸を押した。唾液の糸をつなげたまま、唇が離れる。  
「っはぁ………」  
「無茶をしすぎ」  
 粗く息を吐く俺に、息ひとつ乱さず長門はそう言った。だが、その頬が上気して染まっているのはわかる。こいつなりに、俺の存在を感じてくれているのだ。  
 ふと、長門の視線が下に向けられた。そこにあるのは、ベッドの上に座った俺の下半身。  
 そいつの一部は、まだ指一本触れてもいないのにトランクスの中で自己主張してやがる。無理もないと思うね、長門の唇にはそれだけの魅力があるんだ。下手すれば、俺はキスだけで射精してしまうかもしれない。  
 長門が顔を下ろして、トランクスを突き上げてるアレを覗き込む。おい、あんまりジロジロ見るなよという前に、トランクスに自分の顔を押し付けた。そのまま俺の腰に腕を回し、抱きつくような形でガッチリとホールド。  
「お、おい? 長門?」  
 答えの代わりとでも言うように、フンフンと鼻を鳴らす音が響く。布越しに、長門にの熱い吐息が感じられた。  
 うわ、もしかして俺の匂い嗅がれてるのか? 長門の呼吸音にあわせて、トランクスの中にむず痒さを感じる。  
「すごい匂いがする」  
 うう、やっぱりもっとしっかり洗っておくべきだったか。でも、俺の股の間でうっとりと頬染めてるこいつを見ると、それでよかったとも思えてくる。  
 今の俺の下半身は、布一枚を隔てた状態とはいえ、長門の顔がすぐ側にあり、そして長門の息吹をまぶされてる状態だった。当然、俺の愚息もそいつに反応して長門の顔を押し上げている。  
 白い肌、小さな頬の感触が先端から伝わってくる。俺だって、その柔らかな感触を楽しみたいのに、と、自分の下半身に嫉妬してしまった。  
 
 長門が腰をホールドしていた手を離し、今度はトランクスの前にかける。そのまま一気にずり下ろした。途中で自己主張する俺の分身が引っかかり、トランクスが下ろされた直後、反動で長門の顔をペシッと叩く。  
「………」  
 責めるように、俺をジッと見つめる長門。いや、悪いのは俺じゃなくて、おまえの眼前にある醜い野郎だ。責めるならそっちにしてくれよな。  
「そうする」  
 長門が、小さな口をあーんとあけて、くわえた。責めるってそういう意味で言ったんじゃないんだが、気持ちいいからよしとしておくか。  
 今、俺の亀頭は長門に飲まれている。その小さな頬の中で、細い舌が絡みつくように動いてくれている。自分の手以外で刺激を与える方法を知らない俺には、こいつはちょっと良すぎるぜ。   
 おい愚息、長門の唇を貸してやるんだから、じっくり味わえよ。そんな風に自分の一部を擬人化して気合でも入れなければ、あっさりと放出してしまいそうだ。  
 腰に力を入れて堪えるが、このままでは―――と。俺の一部をくわえる長門の体を見て、気がついた。  
 今の長門の姿は、さっきのキスの時に脱がせたので、パンツ一丁という男前な恰好だ。四つん這いで俺の下半身を攻略中なわけだが、飾り気のないショーツに包まれた尻が、不自然に揺れているのがわかる。  
 尻の下でつながる太股を、モジモジと擦り合わせているようにも見えた。  
 俺は、肉付きの足りない小さな、でも俺好みの形をしたそいつに手を這わせた。長門の体がビクリと震え、俺への責めが中断される。  
 布の下に存在する、柔らかな塊を掌全体で味わう俺。十本の指でその弾力を確かめるたびに、長門の体がフルフルと震えるのがわかった。  
 もしやと思い、俺はさらに手を伸ばす。尻の谷間をなぞりながら、とりあえずまだ興味の無い部分を通り過ぎ、その下へ。  
 わずかなふくらみのあるそこへ、指を沈ませてみた。ショーツの上から、指が割れ目に押し込まれれる。  
「つっ!?」  
 指の先に熱い湿り気を感じた瞬間、亀頭に衝撃が走った。長門が、俺の愚息に歯を立てたらしい。  
 前にナノマシンを注入された時のように、シャミセンに甘噛みされてるような感覚で、痛みはほとんどない。とは言ってもなにぶん経験の少ない愚息には、大したダメージで、限界が近いことを思い知らされる。  
 長門が俺のものをくわえたまま、上目遣いで睨んでくる。余計な事をするなってことか?  
 だが俺はその視線を無視して、指先で、長門の割れ目をプニプニとつつきまわす。そのたびに長門の体が震え、俺の亀頭に歯を立てるという逆襲をしてくるが、止める気にはならなかった。  
 俺だけが一方的に気持ちよくさせられるなんて不公平だからな。それに、俺が長門の存在を感じたいんだってさっきも言っただろ。  
 
 俺は長門に下半身を甘噛みされながら、ショーツの端から指を差し入れた。熱い液体が、俺の指を伝うのが感じられる。  
 長門の口撃がちょっと強くなり、亀頭に痛みが走った。だが、今の俺はそれさえ快楽として受け止められるような状態だ。Mだったつもりは無いんだけどな。  
 亀頭を走る衝撃を堪えながら、俺は指を割れ目の奥へと進める。エロ本でかじった知識を元に、膣口を探し当てた。  
 長門に噛まれる愚息からの快楽、指から伝わる潤いと熱さだけで、もうどうにかなりそうだった。だがそんな意識の中、俺は長門の膣口を指で軽く抉った。  
「――――っ!!」  
 長門が震え、尻を高く上げる。ついでに俺の竿を、裏筋あたりを歯で軽くひっかいた。下半身も脳味噌も限界状態に達していた俺には、強烈過ぎる衝撃が走り―――  
「長門、出るっ!!」  
 長門の小さな口内に、俺の欲望が発射された。呆けたような表情の長門の中へ、俺は何度も何度も射精する。自分の手だけでは、考えられないような量だった。  
 ようやくおさまってくれたそいつを、長門の口から引き抜く。さっきの俺とのキスのように、長門の唇から精液と唾液の混じった橋が伸びていた。  
「ん、むう……」  
 口の中で転がすようにして、精液を味わっている長門の姿。それはこいつの未発達な肢体とのギャップを強調し、随分と扇情的な姿だと思った。  
 そんな物を見せ付けられた俺は、さっきあれだけ射精したにもかかわらず、愚息に血液が行き渡り始めている。  
 そしてそんな俺を見た長門は、また見せ付けるようにごくんと喉を鳴らせた。  
「すごく濃厚。あなたの味で聴覚、味覚の機能が麻痺してしまいそう」  
「ああ、そういや最近、あんまりやってなかったからな……」  
 別に、長門が家に居たからというわけではない。高校生になってから、特にハルヒにひきずり回されるようになってからは、あんまり無駄な体力を消耗しないように努めている俺だった。  
 それに実際にやると、当然女としての魅力を充分に兼ね備えたSOS団の面子を思い浮かべてしまうわけで、俺はその罪悪感に討ち勝てるほど大物ではない。ハルヒに関しては、罪悪感っていうよりプライドだけどな。  
「わたしはよかったのに」  
 と、先ほど俺をくわえていた体勢のまま、長門は言った。その様子があまりに可愛いんで、長門の体を起こしてキスをする。この際、まだ口内に精液が残ってるとかは忘れておく。長門の唇を通せば、なんだって気にならないね。  
 
「長門……俺、おまえに入れたい」  
 おまえの扇情的な姿、自分の精液付のキスのおかげで、俺の愚息は再び屹立している。こいつをどうにか治めてやってくれ。  
「かまわない……いいえ、わたしがあなたに入れてほしい」  
 長門がショーツを脱ぎ去り、股を開く。俗に言うM字開脚のポーズってやつだ。  
 俺には少々、刺激が強すぎる。今すぐにでも飛びかかりたい気持ちを抑え、長門へと近づいた。  
 すでにいきり立っている俺の愚息を、長門の秘所へと近づける。長門も二本の指で花弁を開くように、俺を迎えてくれた。粘膜の奥で、愛液で潤った膣口が見えた。  
 経験の無い俺には、こんな小さな穴に挿入するのは一苦労だ。長門も俺に合わせるように腰を動かしてくれるが、なかなか上手く入らない。  
 それでも、長門の粘膜と俺の亀頭が触れ合うたびにゾクリとした快楽が走る。さっきの一発が無ければ、門前で討ち死にって事態になっていたかもしれない。  
 そんなことを考えながら腰を動かしているうちに、亀頭の先端が膣口へ潜り込んだ。この機会を逃せば、また門の前でウロウロし続けなければならないかもしれない。そう思った俺は、一気に愚息を突き入れた。  
「っ!!」  
 長門の顔が苦痛に歪む。朝倉に体をブチ抜かれた時も、平然としていたこいつが。  
 たぶん、そのときは痛覚って奴を遮断とかなんとかしていたんだろう。でも、今はそうではないのだ。それは、俺の存在をより強く、より詳しく、より大きく感じたいってことなんだろう。  
「長門っ!! 悪い!!」  
 眉を寄せたまま痛みを堪える長門を前にしても、俺の体は止まることは出来なかった。長門の狭い膣の中で、抜き差しを繰り返す。そのたびに、しびれるような快感が背筋を走った。  
 ベッドに手を突いて正上位で腰を動かす俺の下に、仰向けの長門の姿がある。未成熟な薄い胸が、それでも自己主張するようにフルフルと揺れているのが見えた。  
 俺はそいつに顔を近づけ、その先端をついばむ。小さな乳首が、硬くしこっているのが唇から感じられた。胸をしゃぶり、吸い付くたびに、長門の体が戸惑うように震える。俺はこいつの反応が嬉しくて、まるで幼児退行したように、長門の胸を弄んでいた。  
 長門は唇だけでなく、胸も最高だ。ボリュームは足りんが、それでも女の子であることを充分に主張してくれている。  
 ああもちろん、俺が今突き入れている、長門の秘所は言うまでも無い。竿の全てをきつく締め付け、同時に絡み付いてくるような感触。丁度、裏筋にあたるツブのような感触も忘れてはならない。  
 そんなもんだから、さっきから俺は猿のように腰振ってるわけだ。とても、腰を止めてなんか居られない。  
 長門の表情にも、変化が訪れてきた。俺に突かれる度に漏らす声にも、艶が混じってきている。元々無口なせいかAVみたいにアンアン喘ぐわけではないが、それでもわずかな吐息にこいつの快楽が感じられるような気がした。  
 
 長門に、三度キスをする。呼吸を無視した、舌の根元までねじ込むような深い奴を。  
 下半身と上半身をお互いに同時に責め合う俺達。長門の膣壁の味、長門の舌の味が俺の脳を焼く。  
 さっきあれほど出したというのに、もう愚息の限界が近いのを感じる。ペースを緩めてじっくり楽しむなんて余裕は今の俺にはないんで、後は限界まで突っ走るだけだ。  
 頬を染めて堪えるような表情をしているこいつを見て、ふと考える。射精の瞬間のことだ。絶頂の直前に引き抜いて腹に出すなんて芸当、今の俺に出来そうにない。  
 もし膣内に出したら、こいつも妊娠とかしたりするのだろうか。いや、宇宙人だからそれはないのか? ああ、でも基本的な体の作りは人間と変わらないだろうし―――――などと一瞬だけ考えるが、俺はすぐに結論を出した。  
「長門」  
 長門の耳に口を寄せ、俺は囁く。  
「俺の子供、孕んでくれ」  
「………っ!!」  
 俺の言葉に反応するように、長門の膣が俺を締め付けた。それが、ギリギリまで堪えていた俺を、完膚なきまでに打ち倒す。  
 体の奥から、熱い物が流れ出す感触が走った。俺は最奥まで突き入れた状態で、長門の体を抱きしめる。  
 俺が欲望を吐き出すたびに、長門の体がビクビクと震える。口をパクパクさせながら俺を受け入れる長門の顔を見てるだけで、赤玉出るまで射精してしまいそうだった。  
 軽くキスをしてから、長門から自身を引き抜く。長門の膣口から、愛液と、確かに俺が吐き出した欲望の証が垂れ落ちた。  
 妊娠させてしまっただろうか。だとしたら、高校生としては大事だろう。学校は退学、親にも勘当されて当たり前だ。  
 でも、ちょっと考えてみようぜ。  
 俺とこいつの子供だぞ? 俺の馬鹿さ加減差し引いたって、さぞかし可愛い子供が出来るだろう。子供の扱いは慣れてるから、育児だってきっちりやってやる。  
 だから、おまえの親玉の情報ナントカ体にもきっぱり言ってやるさ。  
 
 お父さん、娘さんを僕にください  
 
 ってな。一発くらい殴られる覚悟で。  
 
 
 俺が目覚めた時、それはいつもの朝だった。そう、何も無いいつも通りの朝だ。  
 初めての長門との行為の後も、それから猿のようにやり続けていた。最後の記憶ではカーテンがほんのりと明るくなっていたから、明け方までやり倒していたということだろう。そこからは記憶がプッツリと消えている。  
 だが、それにしては着衣も布団の乱れも無い。あれだけやったのというのに、体には毎朝の眠気以外の疲労感も無い。つい数時間前まで童貞だった俺にはよくわからんが、あれだけやってりゃ普通は疲れるもんじゃないのか?  
 これはあれか、夢オチってやつか。俺の童貞は未だ健在ってことか。俺は夢の中で、大切な存在である長門を孕まそうとしていたわけか。  
 いや、そんなわけないだろう。いくらなんでもあんな鮮明な夢があるはずはない……よな?   
 まずい、段々自信が無くなってきやがった。長門がすぐ側にいるこの一週間で、よからぬ想像を一度もしていない、と言えば嘘になる。だってな、俺が風呂入ってる時、当たり前のような顔して長門が入ってきたこととかあったしな。  
 そういったことの積み重ねで、俺の中にくだらん考えが積もり積もっていた、という可能性は否定できない。少なくとも、変な夢見るくらいにはな。  
 不意に、俺の耳にノックの音が響く。まるでテープを再生したかのように、代わり映えのしないノックの音。こんなノックをする奴はひとりしか居ない、っていうかこの家にわざわざノックをする奴なんか、あいつを除いていないのだ。  
「ど、どうぞ」  
 ドアの向こうから現われたのは、予想通り長門嬢。やっぱり、こいつはいつも通りの無表情で俺の顔を見つめている。  
「……朝御飯ができている」  
 そう言い残して、俺の部屋から消えた。俺が何か聞こうとする前に。聞こうにも、もしかしたらって罪悪感で、長門と顔合わせられなかったんだけどな。  
 制服に着替えてリビングに降りてから聞こうと思っていたのだが、長門は俺の母親と妹に捕まっていて、俺の付け入る隙などなかった。昨日のお別れ会じゃまだ足りないのか、あんたら。  
 朝食を食べ終えると、俺と長門は学校へ向かう。長門の手には、一週間分の荷物であるはずの、小さなバッグがひとつ。着た時より膨らんでいるのは、母親が色々持たせたからである。  
 最後に玄関でぺこりと頭を下げた長門を、母親と妹は長い間見送っていた。後ろからいつまでもふたりの声が聞こえてくるもんだから、俺はなかなか話を切り出すことが出来なかった。  
 だって、家族の声のするとこで、自分の性体験について話せるかよ。もしかしたら俺の勘違いかもしれないってのに。  
 気がつけば、俺と長門はこの一週間でおなじみとなった、分かれ道に来ていた。同居生活を隠し通すため、いつもここからは別れて別ルートで登校していたのだ。  
 ここから俺と長門は、別々の道を―――――  
 
 
 ちょっと待て。  
 もしかして、これか? こういうことなのか。  
 あの、世界が改変された日のことを思い出す。あいつは世界を作り直し、自分自身の存在をも作り変えてしまった。  
 あの世界は、確かに長門自信が望んでいた世界のはずだ。改変された自分自身も含めて。  
 だが長門は緊急脱出プログラム、なんてのを用意してくれていた。世界でただ一人、俺だけを情報改変から保護したうえで。  
 俺に、世界の決定権を委ねたのだ。  
 今回も、そういうことなのだろう。  
 昨日の出来事が夢だったとしたら。いや、夢だということにしてしまえば。俺と長門は、これまでと同じ日常に戻るだけだろう。  
 SOS団の部室で朝比奈さんのお茶を頂きながら、古泉とゲームをし、ハルヒの思いつきに振り回されるという日常に。俺が、改変された世界を捨てて、選んだ世界の日常を。  
 長門は、こんな時まで俺に選択権を残してくれていたのだ。  
 でもな、長門。おまえは大切なことを忘れている。  
 俺があの世界を捨てたのは、あの世界に俺の知ってる皆が居なかったからだ。  
 いや、ハルヒ、朝比奈さん、古泉については、それぞれの特殊能力は無くなり、俺のことを知らなかったということはあっても、その性格は俺の知ってる三人のままだった。  
 だが、長門。あの世界のおまえは、俺の知ってる長門とは全然違っただろ。  
 あの世界に居る限り、俺はおまえに会うことがができない。だから、俺はあの世界を捨てたんだ。  
 おまえに会うために、この世界を選んだんだよ。  
 だからな、長門。  
 おまえが俺の側に居てくれるなら、拒む理由なんて何もないんだよ。  
「長門」  
 俺は長門の手を掴み、歩きだした。ビクリと震えるあいつにかまわず、いつも俺が使う通学路を進む。  
「……だめ。わたしと一緒に登校すると大変なことになる」  
 俺の歩みに従いながら、長門が言った。  
 そうだなあ、このまま歩くと谷口辺りに出くわして、大騒ぎになるかもな。北高に多数居るという、隠れファンとやらにも目をつけられるだろうし。  
「わたしと一緒に歩くと、大変なことになる」  
 そうだなあ。なにせおまえは、情報ナントカで宇宙人で有機インターフェイスなんだからな。おまえと一緒に居るってことは、朝倉みたいな奴の相手もしなければいけないってことだろう。他にも、俺が今まで知らなかったことにも巻き込まれることになるんだろうな。  
 だけどな、それがどうした。  
「おまえが一緒なら、どこまでだって行けるだろ」  
 俺はそういって、いつもの通学路を進んでいく。  
 長門の顔は見ない。だが、あいつが俺の手を握り返してくれたのを感じた。それだけで充分だと思う。  
 
 さあて行くか、長門。俺達の道をな。  
 
 
 さて結局この後、予想通りに谷口に見つかったわけで。そこから噂になったおかげで、ハルヒに問い詰められることになり、俺はあっさり長門との同居生活のことを吐いてしまったわけである。  
 理由はわからんが、変な笑顔で怒り狂うこいつを諌めるのは大変だった。長門の宇宙パワー、朝比奈さんの未来人属性、古泉の超能力がいかんなく発揮されるような騒動だったしな。  
 ああ、ちなみに母親や妹に気に入られた長門は、月に数回は俺の家で飯を食うようになり、時々泊まっていくようにもなった。あのふたりは、俺達の関係にどこまで気づいてるんだろうね。  
 それからの俺と長門には、最初に予想していた以上の事件が待ち構えていたわけだが。  
   
 それはまた別のお話。  
 
『長門週間』・了  
 

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