俺が長門有希のことを綺麗さっぱり忘れていたことに気付いたのは、ちょう  
どハルヒと付き合いだして三年経った頃だった。  
 忘れていたって言葉は適切じゃないか。  
 正確に言うと、長門に感じていたあの狂おしくなるほどの愛しさ、そいつを  
コロリと忘れていたってことだ。  
 気付かせてくれたのは涼宮ハルヒ。  
 高校卒業を契機に付き合いだした俺たちは、どちらからともなく志望校を同  
じ大学に定め、ハルヒは楽々と、俺はハルヒと長門と古泉の手伝いもあって、  
どうにかこうにか合格して、大学生活を思う存分楽しんでいた。  
 ……とはいえ、もう大学三年ともなると今度は就職活動で頭が痛くなる日々  
が待ち構えているのだが。  
「キョンはね、」  
 ハルヒが俺の胸板を指で撫でながら呟いた。こら、くすぐったいぞ。ああ、  
ちなみに言うまでもないかもしれないが、俺とハルヒはベッドで一糸纏わぬ姿  
であり、つまりはそういう事をした後の会話であり、初々しさの欠片も無いあ  
たりから何度目かくらいは各自で判断してくれ。  
「先生とか似合うなって思ってた」  
 それは単に、子供に好かれるってだけだろ。さすがにそれくらいのスキルで  
一生物の仕事を決める気は俺にはないぞ。  
 第一、俺は教養学部じゃないしな。  
「今から取り直してもいいじゃない」  
 そういう訳にもいかないっつーの、いやでも確かにそれは魅力的な提案では  
あるのだが、それはそれ、これはこれだ、学費を出してくれた親にも申し訳な  
い、いくら国立とはいえ、な。  
「だってさ、あんた本当に面倒見良かったもの。年上のみくるちゃんでも、な  
んとなく子供扱いしてたじゃない?」  
 いや、あの人は例外だと思うぞ? 年上なのに、年上属性に必要なものが欠  
片も見当たらなかったからな。  
 
 ちなみに朝比奈みくるさんは無事、「お勤め」を果たして未来へと帰還した。  
 もう二度と会えないかも、と涙に暮れたのが数年前。それからちょくちょく、  
下手すると一ヶ月に二度のペースでこちらに戻ってきては、俺たちと遊んでい  
る。あの時流した俺の涙はどこに消えたのだろうね?  
 ついでに古泉。アイツはある日突然、俺に「話があります」と呼び出し、い  
つもの偽善的な笑顔ではない、心の底からおかしいという顔で「僕の力が消失  
しました」と報告してくれた。  
 それはつまり、ハルヒがあの胡散臭い力を消失させたということであった。  
「……おい、力を失ったからにはお前の本性を見せてくれるんじゃなかったの  
か?」  
 そう問うと、古泉の野郎は  
「いやそれが、困ったことにあんまり長い間この顔で在り続けたせいか、自分  
の本性を綺麗さっぱり忘れてしまいました。とりあえず、あなたがたと居る間  
はこの性格のままでお願いできますか?」  
 そうトボけた顔で言い放った。やれやれ、実を言うとお前の本性とやらをち  
ょっとばかり楽しみにしていたのにね。  
 俺がそう言うと、古泉は大笑いした。その時心の中で思ったさ。ああ、これ  
がコイツの笑い方なんだな、とね。  
 そして、SOS団の中で最も働いた彼女――長門有希。  
 俺が長門有希のことを強烈に思い出したのは、ハルヒの独白だった。  
「高校時代の話だけど。あたしが一番怖かったのは、みくるちゃんじゃなくて、  
有希だった」  
「……長門、が?」  
「うん。普段は物静かでずっと本ばかり読んでるけど、いざという時にはいつ  
だって頼もしくて冷静だったあの子が、キョンにだけ子犬みたいな顔するとき  
があって」  
「……」  
 言いたいことは分からないでもなかった。そう、長門は情報統合思念体が作  
り出したアンドロイドであり、俺たちと一緒に過ごすことでそこから離れて独  
自の思考を持つようになった大切、な――――――――――!?  
 
「……!」  
「……どうしたの?」  
 俺の全身が異様に強張ったのを感じ取り、ハルヒが眉をひそめた。  
「すまん、なんでもないんだ」  
 その言葉を口に出すのに、どれくらいの時間がかかったのだろうか。  
「続きを、聞かせてくれ」  
「……それで、ああ、有希はキョンにだけ特別な表情を見せてるんだ。きっと、  
キョンのことが好きなんだ……って思ったら、凄く怖くなった」  
「その、怖いってのはどういうことなんだ?」  
「あたし、みくるちゃんになら負けないと思った。もちろん、顔とかそういう  
話じゃなくて、キョンへの想いの深さ……ね。それなら多分、勝てるって結構  
自信持ってた。でも、有希は違った。有希には勝てないかもってずっと思って  
た」  
 ここでいったん話を切ったハルヒは、素早く俺の唇にキスをした。  
「だから、後はキョン次第だって考えてすごく怖くなった。キョンが、有希の  
ことを時々気遣うように見てたのも知ってたから。あたしのことより、有希の  
ことを好きなのかも、って思ったから」  
 何度も言うが、自分ではそんな意識まるでなかったんだけどな。だが、ここ  
は藪を突いて蛇を出すところではない。  
「……それで、あたしも本気出すことにした。キョンへの気持ちを隠しちゃ、  
有希に取られるって思った。それが高校二年の終わりくらい……だったかな」  
 そう言われてみて思い出した。新年が明けた途端、ハルヒがどんな鈍感野郎  
にも分かるくらい、あからさまに好意の眼差しで俺を見ていたことを。  
「恥ずかしかったんだからね、あれ。でも、あんたを取られる怖さよりはどう  
ってことなかったわ」  
 嬉しいね、ハルヒ。いや、正直な話、本当に俺は好かれてるのだろうかって  
疑問をそれまでたまに持っていたからな。  
「……その答えを聞いて、あたしは間違ってなかったって確信したわ。この、  
ウルトラ鈍感男」  
 痛い痛い、つねるなつねるなっ。  
 そうだな、俺は鈍感だ。鈍感な上に……とんでもない忘れ物をしてきちまっ  
た。もっとも、それは俺だけが原因って訳でもなさそうだが。  
「ところでハルヒ、長門って……いま、何してるんだっけ」  
「へ? 何言ってんのよ、海外に留学しちゃったじゃない。その割にはSOS  
団員で集まると、大抵来てくれるけど。あの娘、渡航費用とか大丈夫なのかし  
ら?」  
 
 翌朝。  
 俺は一時限目の授業をサボって、懐かしい学び舎へと戻ることにした。  
 心当たりはそれしかなかった。  
 彼女が住んでいたマンションにも念のため行ってみたが、既に新しい人間が  
入居済みだった。  
 高校のときの制服はさすがにキツいので、就職活動用のスーツを着ていくこ  
とにした。これなら、万が一見咎められても、恩師に会いに来たあたりで誤魔  
化しがききそうだ。  
 とはいえ、この時間帯のあの場所に長門以外の誰かがいるはずもない、とい  
う奇妙な確信があった。きっと、そのへんの対策は抜かりないに違いあるまい。  
 信じてるぜ、長門。  
 だけど、その信頼は同時に酷く厭なものを想起させてもいた。  
 昨日の出来事における俺の予感、俺の推理、俺の想いが正しければ。  
 海外留学したはずの長門有希は、  
 
「――やっぱり、ここだったか」  
 
 三年前と同じく、文芸部室の片隅で本を読んでいた。  
「……」  
 長門がこちらに首を傾ける。俺は一瞬で高校時代に舞い戻ったような錯覚を  
感じていた。  
 
「久しぶりだな、長門」  
「……うん」  
 こくりと長門は頷いた。さて、話を聞かせてもらおうか、長門。どうして海  
外留学したはずのお前がここにいる?  
「……する必要がなかったから」  
 答えになってねぇよ、長門。確かにお前に留学なんてものは必要ないだろう  
さ。だけど、だからといってここでいつまでも本を読んでいる訳にもいかない  
じゃないか。  
「何をすればいいのか、情報統合思念体は答えを教えてくれない。涼宮ハルヒ  
のデータは採取し、新たな自律進化への可能性は開かれた。彼らは満足してい  
る。だから、わたしもこのまま。次の命令を受けていない以上、待機せねばな  
らない」  
 待機っていつまでだ。  
「新たに涼宮ハルヒのような、自律進化への更なる可能性を導く存在が生まれ  
るまで」  
 それが生まれる可能性は?  
「七千八百三十六垓四千五十三京二千百二十一兆五千九百七十六億三千八百三  
十万四千八百三十四分の一」  
 それじゃ、ほとんど〇に近いじゃねぇか、兆以上の単位分の一なんてまず有  
り得ないのと同義だろう?  
「それが命令だから仕方ない」  
 仕方ないはずないだろ。お前だって、やりたいことあるだろうが。少なくと  
もここで引きこもっていていいって理由には……。  
 いや、違う。  
 そうじゃない、俺が聞きたいのはそんなコトじゃない。そんなコトはどうで  
もいい、どうあれ長門は日本にいてくれている。そっちの方が都合がいいに決  
まってる。  
 俺が知りたいのは、長門、俺のことなんだ。  
 
「……なに」  
 ほんのわずか、喉の奥で長門の声が震えたように感じた。  
 まるで、俺の問いを怖がっているみたいに。  
「なんで、俺はハルヒと付き合っているんだ」  
「それは……あなたが、涼宮ハルヒのことを好きになったから」  
「なんで、俺はハルヒのことを好きになったんだ」  
「…………」  
 沈黙した。開けた窓から風が吹いて、本のページが捲れて行く。どうしてか、  
いつかの夏の日、忘れもしないカマドウマ退治の後の長門を思い出した。  
 
 ――こいつにもあるのだろうか。一人でいるのは寂しい、そう思うことが。  
 
「俺が好きだったのは、長門、お前だ」  
 そうだ。高校二年になってから長門、俺はずっとお前が好きだった。お前の  
ことを思うとたまらなく胸が切なくなった。お前のことを考えるだけで、どう  
にかなりそうだった。  
「……それは、違う」  
 何が違うって言うんだ? 俺の、お前への想いがか?  
「……そう」  
 面白い、何が違うのか言ってみろ。俺はお前の背後にある情報統合思念体と  
やらを見てしまったのか? いつかのように。  
「…………」  
 違うだろ、何も言えないだろ。俺が、お前を好きになったことは間違いない。  
 だけど、俺はハルヒと付き合っている。そして、昨日ハルヒに長門について  
言われるまで、お前への想いをすっかり忘れ去っていた。  
 となると、結論は一つ。  
「長門。お前は、俺を……」  
「そう」  
 
 俺が言葉を発するより早く、長門は頷いた。  
 長門はもう、俺の目を見ていない。伏し目で、床の模様を数えているかのよ  
うだった。  
「わたしは、あなたの記憶を弄った。正確に言うと、記憶に伴う感情を抽出し  
て凍結した。記憶を失わせると、涼宮ハルヒとの思い出に齟齬が出る可能性が  
あったから」  
「要するに、お前は」  
 俺が、お前を好きだっていう感情を、それを持つ原因になった記憶から抽出  
して、残らず奪い去った訳か。  
「奪い去った訳じゃない、あなたの記憶素子に凍結しただけ」  
「同じことだ馬鹿野郎ッ!」  
 思わず叫ぶと、ありえないことが起きた。  
 
 長門が、膝においていた本を床に落としてしまっていた。  
 途端に後悔する。叫ぶべきではなかった。覚悟していたことを指摘されただ  
けだったのだから。  
「……すまん」  
「……」  
 長門は無言で本を拾い上げた。……タイトルは俺でも知っている、ベストセ  
ラーのSF本だった。知性を与えられた気の毒な若者とネズミの話。  
「……いい。責められることは四年前、あなたの記憶を弄ったときに想定済み  
だった」  
 ぎゅっと、長門が拳を握り締めていた。  
 一歩近づくと、それで長門が逃げてしまうような気がして、俺は入り口に立  
ち尽くしていた。  
「思い出したのは、なぜだ?」  
「涼宮ハルヒ――」  
 これもまた、俺の推理通りだった。ハルヒが長門の名前と、それから彼女に  
抱いていた思いをぶちまけた途端、連鎖するみたく俺も思い出したものな。  
「彼女が、わたしに対する気持ちをある程度整理して、感情を激変させること  
なしにあなたに対して口に出せるまで」  
 分かりやすく言うと、ハルヒが俺を完全に自分のものにしたと確信するまで、  
か。三年ちょい経ってようやくかよ、まったく。  
「……仕方ない。あなたは、年上及び同年代及び年下の異性に好かれやすい体  
質だから」  
 それは、長門流のもってまわったお世辞なのだろうか。いや、ありがたく受  
け取ってはおくがね。  
「本当」  
 照れるぜ、おい。  
 
「……」  
 ほんの少し、場の空気が和んだような気がした。長門は相変わらず感情を顔  
に出さないが、それでも分かる。長門の表情専門家だからな、俺は。  
「最後に一つ。どうして、そんなことをしたんだ」  
「このままでは、あなたは涼宮ハルヒではなくわたし、を、選んでしまうだろ  
うから。そうなれば、爆発的な情報フレアが――」  
 そうだな。俺がもし、ハルヒじゃなくて長門を選んだら、ひょっとすると、  
あの極大級閉鎖空間が再現されたかもしれない。  
 だがな、長門。  
 俺の聞きたいのは、そういうことじゃないんだ。  
「そうじゃない。長門、どうしてお前は俺の感情を凍結したんだ」  
 和やかな空気が一変した。どこか乾いた冬風のような虚しさが俺の胸にこび  
りついていた。  
「凍結、した、理由は――」  
 単語を区切るように話す。長門は、見つかりもしない言い訳を探している。  
「凍結する必要はない。これから先必要になるはずのない感情なんだから、廃  
棄してしまえばそれで済む話だ。何かのきっかけがあって、ハルヒのキーワー  
ドなしに思い出す可能性がなかったとは思えないし、ハルヒが気持ちを整理し  
たと言っても、後になってまたお前に対しての感情を再燃させる可能性だって  
あっただろう?」  
 それができなかった理由は一つだ。  
 そしてそれは、そのまま彼女がここにいた理由でもある。  
「長門、お前は、俺にあの想いを思い出して欲しかったんだろ」  
 俺が、お前に恋をしていたという気持ちをだ。  
「……」  
 沈黙。  
 開かれたページに、一つ、二つと水滴が滴り落ちる。何の水滴かなんてのは  
言うまでもない。意外性はあるが、驚くほどのことじゃないね。  
 
 長門は、泣きじゃくっていた。  
 
「……めんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……」  
 俺は、長門を糾弾したような行為を強く恥じた。  
 そうするしかなかったのだろう、彼女はそうするしかなかったし、俺もそう  
するしかなかった。  
 感情の凍結は、長門の必死の抵抗だったのだ。  
 消えて無くなることを受け入れなかったのは、この可能性に縋りついたため  
なのだ。  
 だからこそ、恐らくはこの文芸部室をいつかのように凍結し、誰にも入らせ  
ないようにして、自分はひたすらここで待ち続けていた。  
「……」  
 気がつけば、俺は長門を抱きしめていた。高校から大学までに、さらに成長  
したハルヒとは違う、どこまでも華奢な、強く抱けば折れてしまいそうな体だ  
った。  
 ごめんな、長門。  
 俺が悪かった。  
「あなたは……悪く、ない」  
 じゃ、ハルヒが悪いんだろうか。  
「涼宮……ハルヒも悪くない……悪いのは、わたし」  
 その言葉を否定するかのように、さらに強く抱きしめる。  
 悪いのはお前じゃないさ、長門。もう少し小器用に立ち回れなかった俺たち  
全員の連帯責任だ。  
 
「……離して、もう感情の激変はないから」  
 そう言われると、離さない訳にはいかなかった。……四年前の俺なら、絶対  
に離さなかったのだろう。  
 
 だが、今の俺は四年前の俺ではなかった。  
 涼宮ハルヒを愛している人間だった。長門への恋心を思い出してもなお、そ  
れは変わらない。  
 長門とハルヒ、どちらかを選べと問われれば――ハルヒを選ぶ、そんな男に  
なっていた。  
 
 長門は四年前の長門だった、それがたまらなく悔しかった。姿形も以前のま  
まなら、思考も、そして感情も四年前のままに違いない。  
 多分、俺への想いも。  
 
 それがたまらなく悔しく、切なかった。  
 
「……なあ、長門。別にここで待機する必要はないんだろ?」  
 こくんと頷かれた。  
「だったらな、表に出てみようぜ。出てみれば、きっと別の何かが見えるはず  
だ」  
 長門は不安そうだった。  
「でも……」  
「外の世界には山ほど本がある。パソコンはお前にとって原始的かもしれない  
が、少なくとも四年前よりは格段の進歩を遂げている。面白いものは、表の世  
界にいくらでもあるんだ」  
 ここで引きこもっていることはない。  
 手を差し伸べると、長門はおずおずと俺の手を握った。  
「……まずは、服を着替えるか。それから、SOS団の連中にお前が海外留学  
から戻ってきたことを知らせよう。次に住む場所を捜す。最後は……就職する  
か、進学するかはお前の気分次第でいいじゃないのか」  
「……」  
 こくんと、長門は頷いた。  
 
 握った手はほのかに冷たく、俺の手にあった温度を急激に奪い去っていった。  
 三年間、こいつはSOS団から連絡が来るたびにこの部室を出て集合場所に  
向かっていたのだろう。どんちゃん騒ぎが終わると、空港に行くと称してはま  
たここへ舞い戻ってくる。  
 それも、薄情にもお前への想いをすっかり凍結させた俺がいるのだ。  
 長門に高校生だった頃のハルヒの1/10でも怒りの感情があれば、俺に向  
かってパンチの一発でもかましていたに違いあるまい。  
 自分の薄情さと長門の感情凍結技術の見事さに憤りつつ、俺たちは部室から  
出ていった。  
「待って」  
 階段に向かおうとしたところで呼び止められた。  
「最後に、一つだけ。あなたにしてもらいたいコトがある」  
 なんだ、俺にできることなら何でもいいぜ。高校時代の借りを少しでも返せ  
るのならな。  
 長門が、呪文を唱えた。  
 朝倉との戦い、あるいは野球の試合のとき、あるいはそれ以外のときにも使  
用したあれだ。  
「……?」  
 気付けば、俺の就職用のスーツは三年前の学生服に仕立て直されていた。  
 合わせて俺の身長もわずかながら小さくなっている(気がする)。  
 
 長門が俺の手をするりと離して、わずかに距離を取った。  
 深呼吸する、長門の薄い胸がわずかに上下して不覚にもドキリとする。  
 
「この状態で、あなたに言いたかった。言えなかったことを言いたい」  
 
 それで彼女が次に告げることが何か理解した。  
 心に突き刺さるであろう剣を覚悟して待ち構える。  
 
 
「わたしは、あなたが、好きでした」  
 
 
 ――――――――――ああ。  
 その言葉に合わせるように、  
 学校のチャイムが鳴り響いた。  
 
 そうして、俺は悟った。俺の長い長い、そして刺激的で楽しかった高校生活  
が、たった今ようやく終わりを告げたのだということに。長門への想い、長門  
の想いが、お互いにすれ違ったままで昇華されたのだということに。  
 
 ……長門、気付いてるか。  
 お前いま、笑っているんだ。見るもの全ての胸を締めつけるような切ない微  
笑みを浮かべているんだぜ?  
 
                                <了>  
 

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