見事なまでの快晴の日曜、俺はハルヒと二人で買い物に出ていた。  
朝比奈さんとならともかく、ハルヒと二人っきりってのはどうかとも思ったが、  
あてもなく不思議探索するよりは何倍もマシだろう、と俺はハルヒの買い物に付き合う事にした。  
 
だが、不思議って奴はハルヒが言っていた様に、探してない時に出てくる物らしい。  
俺が見てしまった その”不思議”達をハルヒに見られないようにしていると  
ハルヒは 学校に用事がある と言って、いつもの登校コースの坂道を目指して歩き始めた。  
 
学校に着くと、またあの”不思議”が現れるのではないか、という予感がした俺は、  
適当な理由をつけてハルヒを教室に残し部室へ向かう。  
部室の扉を開けるとそこには対戦ゲームをしている古泉がいた。  
 
俺を見て引きつった笑顔を作る古泉を見ながら、週末ここであった事を思い出す。  
この”不思議”達は、あの時の俺のあの言葉から始まったに違いない。  
 
「古泉、お前の意見を聞かせてくれ」  
 
「何がおきているのか分かりませんが、そちらは状況を理解しているようですね。どうぞ話して下さい」  
 
俺は古泉に一から今日の出来事を説明していく。  
 
「今日は団長命令で朝からハルヒと買出しに…」  
 
しまった! ハルヒを教室に残したままだった! 頼む、お前が行って誤魔化してきてくれっ!   
驚きながらもすぐに状況を理解し、そいつは教室へと向かう。  
さすがこう言う事には慣れているな、いつもすまないね。  
 
「……。 それで最初に異常に気づいたのは何処ですか?」  
 
駅前のデパートでの買い物が終わり、そのついでに地下の食品売り場に向かった時の事だ。  
俺はあそこに朝比奈さんがよく行くお茶の専門店があるのを知っているので、  
あの日のデートの事を思い出しながら何気にそちらの方に目線を送ると……  
そこには素敵な笑顔で茶葉を選ぶ朝比奈さんの姿があった。見覚えのある服装の男と一緒に!  
何て羨ましい! あ、いやいや、何て事だ!  
異変に気づいた俺は、ハルヒがそれに気づかないよう気を付けながら場所を移動するよう促す。  
一刻もハルヒと別れ、朝比奈さんとデートを… 違う、この異常事態について確認がしたかった俺は、  
 
「買い物が済んだのなら品物は後で俺が部室へ持っていくから今日は解散にしないか?」  
 
ついついそう口走ってしまった。それを聞いたハルヒは怒った顔をして、  
 
「まだいいじゃない! もう何件か行きたい所があるのよ、付き合いなさいよ!」  
 
と競歩でもするかの様にさっさと歩いていく。  
俺が二つ目の異常事態を目にしたのはそのすぐ先、図書館へ向かう道を通りかかった時だった。  
 
「とすると次は長門さんですね。そして最後は僕、と言う事ですか」  
 
古泉が一呼吸置いて何か言おうとしたその時、奴が慌てて飛び込んできた。  
 
「おい!ハルヒが教室にいないぞ!」  
 
そうだ、この異常事態を気にするあまりすっかり忘れていた。  
ハルヒは鶴屋さんに会う約束があって学校に来たんだったな。  
きっと俺が教室を出た後、すぐにハルヒも教室を出て鶴屋さんに会いに行ったのだろう。  
何の用事かは知らないが、それが終われば俺を迎えに部室に来るに違いない。さてどうする?  
と考えた次の瞬間、  
 
「キョ〜ン  まだ終わらないの〜?」  
 
ハルヒが入り口に立つ俺に大声で呼びかける。  
古泉は掃除用具入れに隠れるよう すばやく俺に目線を送り、俺はその指示に従う。  
ハルヒは開け放たれたままのドアの前で俺を捕まえる。  
 
「これからお昼でも食べに何処か……   
あれ? 古泉くんも来てたんだ… あれ? あなた1人でカードゲームしてたの?」  
 
机の上には俺が来るまで古泉が対戦していたMTGが中途半端になったまま残されている。  
だが古泉はあわてることなくいつもの笑顔で答える。  
 
「ええ、ちょっと特訓をしてましてね。どうぞ僕の事はお気になさらずに お二人でデートの続きを…」  
 
へ、変な事言うんじゃないわよ! さあ行くわよ! とハルヒは俺を連れて立ち去って行く。  
もういいですよ、と言う古泉の声を聞いて、俺は掃除用具入れから顔を出す。  
 
「僕は涼宮さんの態度を見て思い出しましたが、あなたはこうなったきっかけを覚えていますか?」  
 
ああ、ここに来た時に思い出した。週末俺がここでみんなの前で洩らした言葉。  
最近ただでさえ忙しいのに、日曜日は買出しに付き合えと言うハルヒの言葉に対して言った俺の言葉。  
 
「そうだな、体があと三つ位あれば買出しでもデートでも何でも付き合ってやるよ」  
 
そう、今の俺はその言葉の例えの通りに   
四つの体でハルヒ、朝比奈さん、長門、古泉の四人とデート?していたらしいのだ。  
ただでさえ筆者に文才が無いのに、俺が複数いる事をぼかして書いちゃ解り難い事この上ないぜ、まったく。  
 
「ここで僕の推測を話すのは構いませんが、それで問題が解決するとは思えませんし、  
涼宮さんに気づかれる事無く一刻も早く解決しなければなりませんので、  
やはりここはすぐに長門さんの所へ向かった方が良いでしょうね」  
 
仕方が無いがやはりそれしかないか、長門ならまだ図書館にいるだろう。  
その後朝比奈さんを… いやちょっと待て、ハルヒは今お昼を食べに行くと言っていたな。  
すぐには図書館からは動かないであろう長門(と一緒の俺)は大丈夫だろうが、  
万が一ハルヒと朝比奈さん(と一緒の俺)が出くわしたら大変だ。  
先に朝比奈さん(と一緒の俺)を確保した方が良いかもしれないな。携帯に連絡してみるか。  
 
「あなたが電話すると朝比奈さんは混乱するでしょうから僕が掛けましょう」  
 
そうだな、麗しの朝比奈さんの美声を聞きたいのは山々だが、  
俺が電話したら朝比奈さんは100%間違いなく、確実に、混乱して会話が成立しなくなる。  
ここは古泉に任せよう。  
 
数回のコールの後、朝比奈さんが電話に出る。古泉は異変の内容には触れずに、  
ハルヒに見つからないよう長門のいる図書館に向かうよう指示をしている。 おっと俺も長門に連絡しなきゃ。  
 
だが携帯からは長門の声ではなく、他の女性の声でアナウンスが流れて来る。  
図書館の中なので電源を切ってるのだろうか。  
まあ、コッチは例え何があろうと冷静に対処してくれるだろうから心配いらないかな。  
 
「じゃあ俺たちもハルヒに気づかれないように長門のいる図書館に向かわないとな」  
 
ではいつものタクシーを呼びましょう、と言って古泉は素早くコールし、頃合を見て玄関へ向かう。  
 
「あ、やっほ〜い! キョンく〜ん! おっと古泉君も一緒かいっ?  
さっきもハルにゃんと一緒に帰るキョン君を見かけたような気がするけど、  
ま〜た なんか面白そうな事になってるのかねっ?」  
 
鶴屋さんに見られてしまったがハルヒには黙っておいてくれと一言言えば問題無いだろう。  
と、軽く会話を交わしてるうちにタクシーが到着、鶴屋さんにお別れして車に乗り込む。  
運転手はまた新川さんだ。  
 
それにしても鶴屋さんに新川さんと、無駄に登場人物詰め込みすぎじゃないのか?  
この調子だと、ここで名前出しておかないと谷口や国木田まで事件に巻き込んで話が混乱してしまう。  
よし、ここで名前が出終わったから、もう大丈夫だな。  
後はタクシーを降りる時に新川さんに 「森さん、田丸さん兄弟にもよろしく言っておいて下さい」と言えば  
ノルマはクリアだろう。  
 
図書館に到着し、前述の言葉を告げてタクシーを降りる。  
 
「古泉く〜ん」  
 
朝比奈さんの癒しのスウィ〜トヴォイスが聞こえて来る。朝比奈さんも今到着したみたいだな。  
 
「古泉君、さっきの電話の異常事態って何ですか? あれ? こちらは古泉君のお友だ… ひゃあっ!」  
 
予想通り朝比奈さんは俺の顔を見て驚く。  
 
「ええぇ? 何でキョンくんがふたりいるんですかぁ〜?!」  
 
朝比奈さんの後ろに立っているもう1人の俺は、朝比奈さんがアタフタしている隙に古泉に説明を求めている。  
じゃあ俺は朝比奈さんに説明してあげよう。  
 
「朝比奈さん、落ち着いて聞いてください」  
 
俺は慌てふためく朝比奈さんの肩をつかみ、顔を見つめながら簡単に事情を説明して、  
とりあえず異常事態であるって事だけ理解してもらって、長門に会う為図書館に入る。  
 
…… …… …  
 
長門は直ぐに見つかった。窓際に座ってウトウトしている俺に寄りかかるように本を読んでいる。  
こちらも羨ましい、いや、ちょっと待て、  
何故長門がそんなイチャイチャカップル(死語じゃないのかオイ(笑 みたいな事やってるんだ。  
喉が詰まり、声を掛けられない。ここにいる全員が同じだった。  
だが、ずっとこのまま固まって居る訳にもいかないので、そっと近づく。  
 
「……」  
 
長門がこっちに気づく。  
 
「…あ、あのだな…… 」  
 
何か言わなきゃと声を出そうとするが言葉が続かない。だが先に長門が声を出す。  
 
「場所を変えたほうがいい」  
 
そ、そうだな、同じ顔、同じ服装の男が三人も集まっていたら注目が集まってしまう。  
 
「私の家へ」  
 
長門はそう言ってから、隣で寝ているもう1人の俺を起こした。  
 
長門は自分の部屋に 俺ともう1人の俺ともう1人の俺、文章にすると分かりにくいな、つまり三人の俺と  
朝比奈さんと古泉を招き入れる。  
 
「事の発端はあなたの言葉」  
 
ああ、それには気づいている。体があと三つあったらってのだな。  
 
「それではない」  
 
え?どういうことだ?  
 
「その後に言った『デート』という言葉」  
 
待ってくれ、例えハルヒが俺とデートしたいと思ったとしても俺が4人になるのはおかしいだろう。  
 
「反応したのは涼宮ハルヒ1人ではない。……そこにいたあなた以外の全員」  
 
全員って…… 長門、お前もデートって言葉に反応したのか、って待てよ、4人て事は古泉もかよ、おい。  
朝比奈さんの顔も赤くなっているが、古泉の笑顔も照れ笑いに変わっている。  
 
「全員の意識があなたの言葉に集中した時、涼宮ハルヒの力が全員の願いを具現化する様に働いた。  
さらに涼宮ハルヒの力は私と朝比奈みくるの力を強制的に引き出して利用している」  
 
「朝比奈みくるのTPDD能力を応用して、あなたが部室を出る瞬間の時間を分断し、  
部室を出る時間が微妙に異なる複数のあなたを作り出している。」  
 
「さらに下校からあなたがデートに出発するまでの時間を切り飛ばし、私の情報操作能力能力で  
切り飛ばされた間の時間にそれぞれのあなたと涼宮ハルヒを含めた私達四人とが  
一日を過ごす約束をしたと言う記憶を植えつけた」  
 
よく分からないが纏めると、  
俺は金曜の夕方に部室を出た次の瞬間、日曜日の朝デートに出発する為自宅を出ていて、  
その間の記憶は付け加えられた擬似的な物で、その加えられた記憶の中にデートの約束が含まれている。  
という事らしい。とりあえず理解した事にしておこう。  
 
「同様に、世界中の人間にとっても昨日は存在せず、記憶と結果のみ与えられて  
昨日が存在したと感じているだけ」  
 
無意識とは言えとんでもない大規模な事をしてくれたな、たった一日の俺なんかとのデートの為に。  
 
「それで解決方法はあるのですか? まさかこのままと言う訳には行かないでしょう」  
 
口を出す隙が与えられていなかった古泉が話の先を聞く。  
 
「何もしなくていい」  
 
「何のしなくていいとは?」  
 
古泉がさらに聞く。台詞が無いのがそんなに寂しいのか古泉。  
朝比奈さんなんてここに着いてから全然喋ってないぞ。ここまでの長門の話もあまり理解していない様だが。  
 
「四人が今日一日デートを満喫すればそれで全て解決」  
 
そうか、それで長門はさっき図書館で俺に甘えるように寄りかかっていたんだな、  
あれがお前の精一杯のデート堪能なのか。  
 
長門が用意した大量のカレーを皆で食べ尽くした後、古泉はハルヒに電話し、  
そこにいるもう1人の俺に代わって貰って彼に事情を説明する。  
 
「 ……という訳なのでどうぞそのままデートを続けてください」  
 
電話の向こうでなにやら文句を言っているようだが古泉はそのまま電話を切る。  
 
「さてそれでは皆さん、散開してそれぞれ彼とのデートを楽しみましょうか。  
今日一日、他の人間の感情や背後組織の規制などに縛られる事無く、彼との時間を過ごす事が出来ます。  
ただし、涼宮さんには見つからない様に。 その点だけはお願いしますね」  
 
朝比奈さんの顔は赤くなり、長門は相変わらず無表情だが何か想像しているようだった。  
二人ともどんな想像しているんだろうか、ちょっと、いやかなりドキドキしてくる。  
 
二人の顔を交互に悶々と見つめていると、長門がスッと立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。  
俺の脇を抜けて図書館で長門と一緒にいた俺の横に座り、図書館の時と同じ様に寄りかかる。  
それを見て意を決したかのように朝比奈さんは立ち上がり、朝比奈さんとデートしていた俺の腕を掴み  
 
「さ、さあ行きましょう き、キョンくん(はーと) そ、それじゃあ 皆さん、また あ、明日ぁねへぇ」  
 
ぎこちなく挨拶しながら朝比奈さんは向こうの俺と腕を組み部屋を出て行った。  
くそう!羨ましすぎる! きっと肘のあたりにはあの大きな胸の感触が……  
そんな事を想像して鼻血が出そうになっていると”奴 ”が俺に声を掛ける。  
 
「さあ、僕らも行きましょうか」  
 
さっと血の気が引く。鼻血の気配はもう無くなった。  
何故俺は他の俺と同じ俺なのに今日一日この野郎の笑顔を見て過ごさなきゃならないんだ。鬱になりそうだ。  
 
「僕の家に行きましょうか、ボードゲームもカードゲームも沢山用意してありますよ」  
 
本当にゲームだけだろうな、二人っきりになったら何をされるか……  
 
急に、自分はエロパロ板に現れた分身ではなく、801板に現れた分身なのではないのか  
そんな想像が頭をよぎる。  
古泉の笑顔が何かを企んでいるように見えてきた。勘弁してくれ。  
 
…… … …  
 
 

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