さて、毎度の事ながらさまざまな非現実的な事件や現象に巻き込まれている俺なのだが  
今回は、ちょっと毛色が違うらしい……いや、なんというかいろいろな意味で「困っている」  
というのも……  
「おはよっ」  
毎度毎度のハイキングコースを相も変わらず登っている所に声を掛けられ  
「今日、日直なの忘れてて、早く職員室に日誌取りに行かなきゃ、またねっ」  
と言い残し長い髪を翻し早々と登っていく……朝倉涼子を見上げながら俺は溜息をついた  
……そう朝倉が学校に復学しているのである  
そもそも彼女は長門の説明曰く「長門のバックアップ」であり、つまり親玉である「統合思念体」の端末だ  
しかし、去年の5月に教室に俺を呼び出し……「涼宮ハルヒの観察」の名目で俺を殺そうとした  
あいにく、危機一髪で長門が助けに来て、朝倉は消滅した……はずだ  
その後、長門の情報改変で「朝倉は父親の都合でカナダに急遽転向した」ということになった  
始めは「おかしいわよ!」と喚いて、朝倉が住んでいたマンション(長門と同じところだが)の  
探索など行ったハルヒだが、結局何も情報が得られず……結局うやむやになったわけだ  
……とここまで間違ってないな、ここからだ  
SOS団冬の合宿とかで冬休みをハルヒなりに謳歌したであろう、最終日……ここに時間を戻して話そう  
 
PPPP、PPPP……  
明日から、また強制ハイキングの始まりかと軽い憂鬱状態で、準備をしていた時に電話が鳴った  
なんだ?こんな時間に、またハルヒか?と訝しげに思いつつ液晶の表示に目を落とすと  
「長門 有希」の文字  
なんだ、珍しいこともあるな、と思いつつ、俺はダイヤルボタンを押した  
「もしもし、長門か」  
「…………」  
おいおい、そっちから掛けてきておいて無言はないだろ無言は  
そう心の中でつっこんだが、これが長門だと半ば諦めて、こちらから話しかけた  
「何か用か?また困ったことでも起きたのか?」  
「…………そう……」  
とやっと声が聞こえて、一安心する俺、つづけて質問する  
「急いで訊きに行ったほうがいい事なのか?」  
「出来れば」  
今度は即答かよ、まあいいさ、このパターンは慣れている、大方ハルヒ絡みだろう  
「解った、すぐ向かう、部屋にいるんだろ?」  
「待ってる」  
といって切れた……なんかこう、もうちょっとあるだろ作法と言うか慣例と言うかと思ったが、やめた  
相手は宇宙人だ、こんな偏狭の一島国の狭い了見なんてちっぽけなものさ、と自己完結しつつ  
俺はコートを羽織った  
 
「やあ、お待ちしていました」  
長門の部屋に入ると目の前に小泉が居てこう言われた、だから顔近いんだよ、それになんでここに居る  
「それも含めてお話します、まずは中へ」  
というか、ここはお前の部屋じゃないだろ……と言いたかったがとりあえず無視して部屋にあがることにする  
「あっキョン君、こんばんわ」  
とコタツに入っていた、美の女神の化身、朝比奈さんは少し顔を赤らめながら、挨拶してくれた  
つまり、ハルヒを除くSOS団全員がこの部屋に集結したわけである  
長門は人数分の湯飲みと、恐らくお茶だろう急須をお盆に抱えて持ってきた  
「……座って」  
俺たちはちょうど正方形のコタツの一辺に一人と言うきれいな形で着座した  
ちょちょちょちょ……  
長門が全員にお茶を配って奉仕しているのを新鮮に感じながら、お茶を飲んだ、うん、うまい  
そういえば、小説では急須ひとつ分丸ごと飲まされたっけ……アニメでは三杯で済んだが……っとすまん脱線したな  
しかし人は、学習する生き物だ……誰が言ったかは知らん、暇な奴は読んで書き込んでおいてくれ  
「んで、一体今度は何が起きた?」  
俺は、いきなり本題に入った、これがこいつらと関わる時に一番スマートなやり方だと思っているから  
「実はですね」  
と小泉が言い出した、お前絡みか、とも思ったが次の台詞を聞こうかとしたら  
「朝倉涼子が現れた」  
長門が非常に手短に話した、そんな人をモンスターの出現みたいに言わなく……そんな相手だったな  
となると、これは長門の管轄か、又殺されかけるのは御免だぜ  
「それはない」  
またも即答した、小泉の保証と違いこいつのは信頼できるが……一応確認しておこう  
「本当に大丈夫なんだな」  
「今この世界に存在している彼女は、今までの彼女とは違う」  
「つまり別人ということか?」  
「そうでもない」  
……???よく解らん、おい小泉説明しろ  
「長門さんの言葉の通りですよ」  
それじゃ解らないから訊いてるんだ、もう少しお前のその饒舌な口で過不足なく説明しろってんだ  
「つまり解りやすく言えば、只の人間になった朝倉涼子が現れた、と言うわけです」  
「ということは、長門みたいな力は使えないのか?」  
「はっきり言ってしまえばそうです」  
なるほど、つまりあの冬の事件のような状態に近いってことだな  
しかし今回は目の前に長門や小泉、それに朝比奈さんも居る、恐らくだがハルヒも北高生だろう  
「はい、その通りです、僕たちになんら変化はありません」  
そういい終わると、ふと視線を感じ正面を向くと……長門がこちらを見つめていた  
「問題はその存在理由」  
?お前の親玉が作ったんじゃないのか?  
「原因は別」  
……じゃあ……もしかして……  
「原因は涼宮ハルヒで間違いない」  
……はぁ、そういうことか、大方なんかのきっかけで朝倉の事を思い出したんだろう  
あいつの中では「カナダに転校した」と処理されているはずだし、「復学してもおかしくない」のも頷ける  
きっとテレビかなんかでカナダの特集でもしてたんだろ、そこから考えを飛躍させて……って感じだろ  
呆れていいのか……っとここでちょっと寒々しいことを考えた  
 
「じゃあ、もしかして仮に俺たちの誰かが朝倉のように消されても……」  
っと言いかけたのを見抜いたのか  
「無理」  
長門が遮る様に答えた、長門は心なしか怒っている様だ  
「それは涼宮ハルヒがジョン・スミスに会えなかったのと同じ理屈」  
「なるほど、つまり涼宮さんの力を持ってしても何もないところから人を作り出すことは出来ないというわけですね」  
「……」  
小泉の意見を無視し、俺を見つめてくる長門……やっぱり怒っているようだ、ここは謝っておこう  
「すまん長門、悪気があって言った訳じゃない、許してくれ」  
「…………」  
心なしか視線から怒りの度合いが薄らいだ気がする、あくまで俺の主観でだ、真相はわからん  
つまりこういうことだな、ハルヒがなんらかに影響されて「朝倉が戻ってくる事」を願った  
それを嗅ぎ付けた統合思念体の「過激派」だったっけか、そいつがまた朝倉を創った  
「……そう」  
しかし、今度創られた朝倉には長門のような情報操作能力が付加されていない、ここが長門が腑に落ちないところだろ  
「……そう」  
なら、簡単だ、きっとハルヒは「クラスメートの朝倉」を望んだわけで、俺を殺そうとした朝倉を望んだわけではない  
「確かに、それなら朝倉さんに力がないのも頷けますね、あくまで消えた知人が戻ってきてほしいと願ったと置き換えれば」  
「……しかし確証がない」  
確かに、ハルヒが今更朝倉に用があるとは思いにくいが……  
「とにかく状況は理解した、要は俺が以前の朝倉と同じように接すればいいんだろ?」  
「現時点で朝倉涼子を消去するのは簡単、彼女は力を持たないから、しかしその存在理由を確かめるまで私は行動できない」  
「じゃあとりあえずは、現状維持だ、もし何か変化があったら伝えてくれ」  
「……解った」  
「僕のほうも、少し調べておきましょう、機関ならなにか情報が入っているかもしれないし」  
「頼む、ところで朝比奈さん」  
「ふぇ?」  
いきなり話しかけられたのが驚きなのか、そう返事をする朝比奈さん、くそっ可愛いぞ……  
「未来からこのことに関して指令とかは出ていますか?」  
「いえ……何も……多分時間的な問題ではなさそうです」  
「解りました、ですがもし何かあったら教えてください、今は少しでも情報がほしいので」  
というと、「頼られてるんだ」という嬉しさからか  
「はいっ」という元気な返事が聞こえて、その日は解散した……  
 
次の日、三学期最初の強制ハイキングコースを満喫させられた俺が教室に入ると  
案の定、ハルヒがずかずかと近づいてきて  
「ちょっとキョン!聞いた!?あの朝倉涼子が帰ってくるらしいわよ、カナダから」  
「あぁ、ちらっとだが聞いた、復学するってな」  
「あ……そう、知ってたんだ……」  
そういうとハルヒはしばらく考え込んで  
「謎の転校生でなくて謎の復学生って訳ね、転校のときも急だったし、いきなり復学なんて変だわ」  
……すまないが、半分だけ同意しておく、確かに事情を理解している俺でも不自然だ  
「でも、これは本人に聞く絶好のチャンスね、謎の転校に謎の復学……なんか面白そう」  
こんな状況でも我等の団長様は愉快に口を「へっへっ」とさせていた、やっぱり悪代官じゃないのか、お前  
と俺がやっと席に着くと、谷口がにこにこしながら近づいてきた  
「聞いたか、キョン」  
「ああ、朝倉が戻ってくるんだろ」  
と答えると、谷口は両手を握り気合を溜めるかのようにゆっくり腰にまで降ろして、ぱっとこちらを見て  
「いやぁ、嬉しいねぇ、マジで」  
こいつみたいにクラスメートとの再会を素直に喜べたらなと思いつつ  
「そうか」  
と無愛想に返事すると  
「キョン!お前は解っていない、いいか、俺ランク的AA+の朝倉が又このクラスに来るんだぞ」  
そうかい、と肩肘を机につきながら適当に相槌をうつと  
「かぁぁっ!何だよその反応、お前、美人がクラスに増えて嬉しくないのか?」  
増えたってのは違うだろ、正確には「減ったが元に戻った」だ  
「いいんだよ、何でも!正直になれ!本当はお前も嬉しいんだろ」  
どうだか、仮にも同じ姿の奴に殺されかけたんだ、正直には喜べんね、と思いつつ  
「解った、正直嬉しい、これでいいんだろ」  
と答えると  
「やぁっと素直になったか」  
と満足したのか、谷口は鼻歌を歌いながら席に戻っていった……まったく困ったものだ  
……と強烈な視線を感じ後ろを向くと、目が合ったハルヒがふんっと窓の方を向いた  
「何だよ」  
「……別に……」  
何怒ってんだか……そういってどうしたものかと考えていると、担任の岡部が入ってきて会話が終わった  
 
「静かに、みんなも、もう知ってると思うが、今日からまた朝倉が復学する」  
そう切り出した岡部も心なしか嬉しそうだった、当然だろう、いきなり消えた生徒が戻って来るんだしな  
「じゃあ、朝倉、入ってくれ」  
そういって教室の外を向く岡部、つられてみんなもドアを見る、当然俺も  
「失礼します」  
といって入ってきた、元クラスメート、朝倉涼子の姿を見てみんな「おぉぉ」とざわめいた  
確かに、俺の記憶にある姿と同じだ、一箇所を除いてだが  
朝倉はすたすたと岡部の横に立つと  
「お父さんの仕事のせいでみんなには迷惑掛けてごめんなさい」  
とまず転校の事について謝り、それから  
「これからまたみんなと仲良く出来たらいいなと思ってるから……よろしく……」  
と言って、頭を下げた、後頭部の束ねた髪もつられてぷるんと跳ねる  
…………そう、朝倉は「ポニーテール姿」で現れたのだ  
何てことだ、すまん正直似合ってる、魅力値が40%増しだ……  
以前体育のときに見せたっきり(あの時はハルヒもだったが)の髪型で現れやがった  
くそっ、これは流石に予想していなかったっぜ、この不意打ちはポニー萌えの俺には効果絶大だ……  
……っと不意に朝倉と目が合った、っと次の瞬間朝倉は小さなウィンクをした  
まずい、非常にまずい……可愛い……確かに5月の事件の事を含めると警戒心は解けないがそれすらも篭絡できる  
そんな可愛さが、朝倉にはあった  
……ぐさっ  
いつもなら、ペンの裏で刺すのに今日は表かよ流石に痛いぜ……と何かね、ハルヒさん  
「…………何でも……」  
じゃあ呼ぶなよ……  
 
こうして、クラスの輪に溶け込んだ(というか前は自分がクラスの中心的存在だったしな)朝倉は  
休み時間にはクラスの女子の質問攻めにあっていた、当然ハルヒは居ない  
「がやがyがyがやががや」  
あれだね、女三人寄れば姦しいってもんじゃないね、クラスの騒がしさときたら、普段の3倍だね  
そういえば今年の5月に彗星が落ちるの何の聞いたっけとか思っていると  
また朝倉と目が合った……偶然じゃないなこれは、確かにこちらを見た  
しかし恥ずかしかったのか、朝倉は頬を赤らめ、下を向いた……なんだそのリアクションは  
「どうしたの?朝倉さん」  
「いえ、なんでもない」  
とまた質問攻めのようだ……ご愁傷様……  
 
そして事件と言うか、問題は放課後に起こった……  
 
 

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