「Recontact」 のおまけ    
注)これはあくまで、「涼宮ハルヒの憂鬱」の2次制作SSです  
 
……「彼」と「彼女」の出会いは、もうじき梅雨の季節かと感じさせる5月のある休日だった。  
そして、それは少なくとも「彼女」にとっては実に衝撃的な出会いであった。  
場所は市内某所の図書館からこの物語は始まる。  
 
彼女、名を「雪」というが、雪は……困っていた。  
雪は、市内の県立高校に通う、ごくごく普通の少女である。  
背の低いその容姿から、時折中学生に見られてしまうが、れっきとした高校一年生である。  
趣味は読書、そのせいか、学校でただ一人の「文芸部員」でもある。  
この日、雪は「新しくなった図書館がある」という彼女の数少ない友人からの情報で、ここに足を運んでいた。  
どうせならその友人と一緒にと思ったが、先約があったらしい。次の機会を待っても良かったが、雪は  
居てもたってもいれずに、一人でその図書館に向かった。という次第である。  
その図書館は、内装の新しさはもちろん、書籍の数も申し分なかった。かなりの保有数があるのが見て取れる。  
しかも変に偏っておらず、さらに加えて貴重な海外書籍や昔のハードカバー物まで揃っていた。  
これらが「無料で読み放題」という状況に、雪は「自分は天国に迷い込んだのか?」という錯覚を覚えた位だ。  
10時過ぎに入館を果たした雪は、まずその本の数に驚き、館内を一通り回って、それから文字の海に飛び込んでいった。  
そこにはなかなか高くて手が出せない書籍、今や手に入らない小説、それらが「読んで欲しい」と並んでいるのだ。  
読書好きの雪が天国と思うのも、無理がないことだろう。  
 
しかし、流石に夕方近くなると、帰らなくてはならない。  
本達は問題ないが、人は空腹を催す、これは自然の摂理である。  
当然雪も、6時間くらい文字の海を漂っていたが、流石に時間を思い出し、夕飯の買出しに向かおうとした。  
(別にここの本たちは逃げない、次に来るときまでに完読できそうだし、借りて帰ろう)  
そう思い立ち、読みかけのハードカバー本を手に「貸し出しカウンター」と表記されている場所まで向かった。  
……そこまでは良かったのだ。問題はこれからだった。  
かなりの広さを誇るこの図書館も「司書」という、要は管理する人は、三人しかいないようだ。  
「はい、その書籍なら××日に……」  
「はい、その本ならあちらのコーナーに……ああ解りました、向かいます」  
しかし、忙しそうだ。唯一カウンターそばにいた男性司書さんもパソコンとにらめっこ中である。  
「……あ……あのっ……」  
言い忘れたが、雪は非常に人見知りしやすく、また比較的消極的な態度から……つまりは人付き合いの下手な女の子だった。  
背も低いのも加味されその職員は全く彼女の存在に気付いていないようだ。  
(ど、どうしよう、これじゃ借りれない……)  
雪はしばらくカウンター周りをうろうろと動いてみたが、効果なし、泣きかけていた。  
しかし、あまりにも見るに見かねたのだろう、ある男子がついに雪に声を掛けてきた。  
「あの、**高の生徒だよね」  
始め、自分に向けられた言葉なのかな?と思い後ろを向くと、長身の男子がこちらを向いていた。  
よく見ると同じ高校の制服である。しかも雪と同じ一年生と確認できた。  
少し怖かったが、恐る恐る頷く雪。  
「本、借りたいの?」  
更に頷く雪。  
「貸し出しカード持ってる?」  
ふるふる、今度は否定する意思を見せる。  
「じゃあまずはカード作んないと、今日学生証持ってきてる?」  
 
……救いの神の登場だ。少なくとも雪にはそう感じられた。  
そして貸し出しカードの入会記入用紙をもらい、雪に渡してくれた。  
「これに必要事項書いて」  
それから、恐る恐る記入した紙を彼に渡すと、彼はそれを貸し出しカウンターにもって行き、  
「すいません、本借りたいんですけど」  
「……あ、はいはい、えっとね……」  
しばらくして、こちらを指差している。どうやら学生証が必要らしい、雪はぱたぱたと近づき彼に学生証を渡した。  
 
「はい、これカードね。次からは借りたい本とカード出すだけ、返すときはそこのBOXに置けばいいから」  
(お礼を言わなきゃ、あと出来れば名前を聞きたいな)  
と雪がやっと借りれた本を持ちながら思ってると  
「あっ、京君、まだなのぉ?」  
という声が彼の背後から聞こえた、そうか彼は「京」というのか……と思ったのもつかの間、  
「悪い、妹を待たせてたんだ、じゃあ、これで」  
「……あっ」  
彼、京は颯爽と走り去っていた。  
(お礼、ちゃんと言えなかったな。私の……ばか……)  
雪はせっかく借りれた本の喜びよりも、彼にお礼一つ言えなかった自分に、落胆していた。  
 
それから雪の生活は、少しだけだが変化した。  
調べて解ったことだが、京は雪の数少ない、一人といっていい友人と同じクラスだった。  
(これで、お礼が言える)  
と思い立った雪は、普段とは思えないほどの積極的な行動に出た。  
昼休み、彼女の友人に会いに行く大義名分のもと、京のクラスに向かったのである。  
教室に入り、雪はまた驚いた、彼女の友人と京の席が前後だったことだ。  
そして彼女に挨拶をして、続いて京に  
「あ……あの、あの時はありがとうございました」  
「あれ?雪、京君と知り合いだったの?」  
「ん?俺が何だ?……あぁ、確か図書館の時の子だよね」  
「私……雪って……言います」  
「雪ちゃんか、綺麗な名前だね、あの時の事ならいいよ、別にたいしたことしたって訳じゃないし」  
「あの……本、好きなんですか?」  
「割と好きだよ、あそこも結構利用してるんだよ」  
「へぇ、意外ね、貴方って漫画しか読まなさそうなのに」  
「失礼だな、俺はもし高校に文芸部があったら入部してたくらい、読書家なんだぞ」  
「あの……文芸部……あります……」  
「あれ?でも部員が居ないって聞いたけど?」  
「彼女が今唯一の部員なの、貴方クラブ入ってないでしょ、よかったら文芸部入ったら?」  
雪は日々携帯している「入部用紙」をポケットから出して、京に差し出して、小さな声で言った。  
「あの……よかったら」  
京はその紙を受け取りながら、しばらく考えて  
「解った、考えておくよ、とりあえず放課後、文芸部の部室に向かっていいかな?」  
「待ってる」  
(よかった、これでまた彼と、京君と話せる)  
雪はあまり表情を表に出さない子だったが、このときは非常に嬉しかったのか。  
……微笑んでいた。  
 
それから、放課後部室に来た京は数日後、見事文芸部員になった。  
雪の願いが叶ったのである。  
それから二人はさまざまなことを行った。  
文芸部の活動内容である、年に一度発行している機関紙を作ったり。  
珍しい本を持つ友達の家(京の知人らしい)に遊びに行ったり。  
そして月に一回は初めて出会った図書館に二人で待ち合わせをして本探しも行った。  
はたから見たら、読書好き同士のカップルに見えているのかもしれない。  
そんな関係が雪には読書と同じくらい好きだった、京といる空間が雪の最高の場所になっていた。  
そして冬も本番に差し迫った12月中旬……雪は京に告白する決意をする。  
「京君……貴方に話したいことがある」  
「何?雪?」  
「私は……貴方のことが……好……  
 
ふぅ、私はパソコンの画面から目を離し、宙を向いた。  
確か私は「恋愛小説」を書いていた。しかし目の前の文章は、何だ?  
「これでは、小説というより……  
これはただの実体験プラス妄想文章だ、稚拙で捻りがなく、構成もなにもない。小学生でも書ける。  
私はため息と共に、目の前の文章を「自作」というフォルダに上書き保存して、パソコンの電源を切った。  
あらためて、自分の文章力の低さに少し落ち込む、実体験ものは書きやすいだろうと思っていた自分が恥ずかしい。  
しかもこの話(というにはつまらなさ過ぎるが)のモデルは彼と私ではないか。  
……しかし一方でこの話の「雪」を羨ましく感じている自分が居るのも確かだ。  
もし……もしもこの文章のように私が積極的に動いたら、彼はこちらを向いてくれるだろうか?  
彼は、入部届けを受け取ってくれただろうか?  
彼も、文芸部員として、私と一緒に、読書をしながら楽しい時間を過ごせるだろうか?  
……解っている。この文章はフィクション、現実は……私は未だに彼にお礼一つ言えていない。  
確かに靴箱や校内で、時折彼の姿を目撃することはあっても、彼が気付くことも、私が声を掛けることも無い。  
でも、もし彼がまた私に会いに……来るはずは無くても、私に気付いて、もし話しかけてくれたら……  
その時は、この文章のように行動してみよう、この「雪」という少女のように出来ないかもしれないけど、  
せめて、せめて「入部届け」くらいは渡したい。彼と私の新たなる接点のために。  
そんな気分で自分の指定席に戻り、読書を再開した放課後の文芸部部室。  
……のドアがノックも無く勢いよく開いた。  
 
 
………………  
俺は長門の額に置いていた手を離して訊いた。  
「これが、あの時の長門の思いだったのか?」  
「そう」  
「これじゃ、まるで夢見る読書少女だな」  
「……否定はしない。この長門有希は統合思念体などと一切関与していない、ただの人間に過ぎない」  
「じゃあ俺がパソコン貸してって言った時の行動は」  
「この文章を見せたくなかったから、隠したものと思われる」  
「確かに、そりゃそうだ、見せれないな」  
「ない」  
「しかし、この長門も感情の表現が下手なんだな」  
「基本人格は同じ、ただ観察者の仕事がない分、むこうの長門有希の方が感情が表に出やすい」  
「今は、出せないのか?」  
「出来なくは無い、ただしそういった感情になる事象が発生していない」  
「でも微笑んだ長門は可愛かったぞ、俺が朝倉とマンションを出たときに見せてくれた。あれは正直目眩がするほどだった」  
「……」  
「長門?」  
長門はしばらく答えなかったが、こちらを向くと、  
はっきりと……微笑みながら、一言だけ言った。  
 
 
 
「…………けだもの……」  
 
完  
 

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