さて、どうやらおおよその状況が見えてきた俺だが、まあ少し整理しておこう。  
1統合思念体の力にハルヒの何らかの願いがプラスされ朝倉涼子が復活して戻ってきた。  
2彼女は長門の情報操作に則り、カナダに転校していた、という記憶になっている。  
3しかし、それだけでなく、俺を襲った日の記憶も朝倉の中では変化している。  
4どうやら、朝倉の記憶ではあの日俺に告白したが、遠まわしに断られ、日本を出た事になっている。  
うん、これまでの長ったらしい文章も、たった4行で纏まってしまった気がする。これはこれでどうかとも  
思うが、仕方がない、これを書いている奴のせいにしてくれ、俺は知らん。  
 
とか何とか考えつつ、俺は自分の教室に向かっていた。懸案事項は少なからず、というかかなりあるからだ。  
さてさてこれからどうなることやら、俺は恐らくこれから言うことになるであろうセリフを考えながら、  
やはりいつもの、お決まりのため息をついていた。  
「やれやれ」  
 
っと到着っと、我ら1年5組の教室は校舎の最上階にあり、そこからの景色は、まあ、なかなかに良いと思う。  
などと身の上自慢をしている余裕は無さそうだ、なんたって教室の中から  
「あたしはね、納得のいく説明をして欲しいの!」  
なんて聞こえてくるんだからな、この声が誰から発せられたのか、言うまでもない、SOS団団長にして  
生粋の事件持込係……涼宮ハルヒだ。  
俺は、こんな女同士の修羅場みたいな空間に今から入るのかと嘆きつつ、ドアを開いた。そこには、  
教卓に両手をつき、先生のごとく振舞うハルヒと、新しく宛がわれた自分の席に座っている朝倉、それに  
ドア付近で今後の展開を見守る朝比奈さん古泉の姿があった。これじゃぱっと見ても「尋問」くさい。  
と俺の姿を確認した古泉と朝比奈さんは「やっと来てくれたか」と言いたげな顔。すまないが俺はヒーロー  
適正なんてないぜ。この場を丸く収める兵法でもあったら教えて欲しい位だ。などと考えていると、  
「あ、キョンやっと来たわね、あんたも変に思ってるんでしょ」  
とハルヒに言われたが、さてここでどう答えるべきか……本気で誰か教えてもらいたいね。  
「キョン君、涼宮さんがどうしたら納得してくれると思う?」  
「だからぁ、正直に転校の真相を教えなさいって、さっきから言ってるんでしょ!」  
「ハルヒ、朝倉の説明じゃ不十分なのか?」  
「全然ダメ!納得する欠片も無いわ!」  
「じゃあ……この場は撤収だな」  
俺がそう提案すると、一瞬何を言われたのか解らない様子のハルヒだったが、次の瞬間こちらに  
獣のような目を向けていた。頼むから俺の発言を最後まで聞いてほしいと思う。  
「なんで!?どうしてそうなるの!!」  
「じゃあ訊くが、仮に今この場で俺がお前にりんごを売ってくれと言ったら、どう答える?」  
「はぁ?何?りんご?……りんごなんて持ってるわけ無いでしょ!」  
「それでも売ってくれと俺がしくこく迫ったら?どうする?」  
「無いものは無い!ってつっぱねるわ、それでダメなら無視ね…………あっ」  
「解ったか、お前が今朝倉にしていることは、そういうことだ」  
俺は「無い袖は振れない」という言葉を解り易く言ったのが功をそうしたのか、ハルヒはおとなしくなった。  
このまま帰すと、ハルヒの機嫌は悪いままだから、俺はフォローをいれておくことにする。  
「確かに、朝倉の説明では今ひとつ納得できない部分もあるかもしれないが、こういった尋問のような形で  
問い詰めて面白いか?俺はあんまり面白くない。誰だって言いたくないことの一つや二つあるもんだろ?  
ここは少し時間を置いて、朝倉の転校の本当の理由、在るか解らないがな、これを自分から話したくなったとき  
に聞いてやる。これじゃ、だめか?」  
 
俺の説教ともフォローともつかない台詞を聞いていたハルヒは、始めこそ例のアヒル顔で不満そうにしていたが、  
次第に、しぶしぶ納得したような顔をしてこう言った。  
「……解ったわよ、朝倉……ごめん」  
お前同性には謝るんだな、とか感じつつ、朝倉を見ると、困惑してる。まるで大岡裁きを生で見ている村人みたいだ。  
「あの……つまり私はもう、帰ってもいいの?」  
「いいわよ。そのかわり、疑いが晴れた訳じゃない事は覚えておいてね」  
「転校した理由は変わらないけど、復学した理由ははっきりしてるわ」  
何!?これは俗に言う「たなぼたな状況」じゃないか。正直俺たちはこっちの方が訊きたかったしな。  
「へぇ、聞こうじゃないの」  
ハルヒも乗り気だ。いいぞ、こんな感じで物事が円滑に進めば俺も苦労は……などと思っていた俺が馬鹿だった。  
「キョン君、あの時の約束、覚えてる?」  
朝倉が見詰めてくる。ほらね、来たよ、これじゃお約束の展開だ。どこの誰か知らんがなぜ俺に恋愛物の修羅場を  
宛がうんだ?出て来い!しかもわざわざ朝倉まで用意して……とここまで考えを巡らせた時、俺はある一つの「結論」に到達した。  
まさか、ハルヒ。これがお前が望んでいたことなのか?思えば、俺に対して「露骨な好意を寄せる存在」は居ないはずだ。  
朝比奈さんのそれが一番近しいのだが、ハルヒとの上下関係ははっきりしている、つまりこいつ的に「敵ではない」のだろう。  
しかし、同じクラスの居なくなった人気者の学級委員ならどうか?こいつの意見を突っぱねても俺への愛情を押し通す存在、  
もし仮にそんな奴が目の前に現れたら、ハルヒ的に「このままだとキョンが獲られてしまう」と感じるだろう。  
まさにそれが「ハルヒが望んだこと」だとしたら、如何なる手段を用いても俺を引きとどめて置こうと……  
とまで考えて、俺は考えを停止した。これじゃあ、朝倉があまりにも可哀想だ。なんせ表現は悪いが「当て馬」として  
呼ばれた様なもんだからな。しかもハルヒ的に「最後はキョンとあたしが……」になって朝倉は身を引くなんてオチだろ。  
 
そこまで読めてしまった俺は、少々「世界的存在」に怒りをぶつけていた。まあ只の高校生である俺がそんな大層な事は  
できないだろうさ。でもなこれは正直むかついたぜ。今までは良かった、しかし今回はあまりにも露骨過ぎる。  
なんせ俺までもが先の展開が読めてしまうんだからな。脚本家は3流以下だね。でもな、このままハルヒの思い通りに  
なると思うなよ、俺だって生きてるんだ……そう胸に誓いながら話し出した。  
「朝倉、そのことなんだが」  
「……うん」  
「えっ!?何?キョン約束って何?」  
「落ち着け、ちょうどいい機会だ、ハルヒお前も聞いてくれ」  
「……う……うん」  
いつもと雰囲気が違うと察知したのか、今回はハルヒも大人しく聞いている。  
 
「よく聞いてくれ、俺はな、お前も朝倉も朝比奈さんも古泉も含めていい、みんな好きだ。だがな、  
俺が一番好きなのは、長門だ! みんな好きだけど、一番はやっぱり長……  
 
ポカッ  
おい、長門、なにしてるんだ?  
「……執筆」  
それは見れば解る、しかし何で「俺の文体」なんだ?一人称と言うかまんまじゃないか?  
「貴方のこれまでの行動パターンを基に、貴方の心理描写に真似て書いた」  
しかも、これから二人の争奪戦か?って時にお前の名前が出てきたら明らかに不自然だろ。  
「これはあくまで2次制作の小説、つまり架空の世界での出来事」  
しかし……名前とかSOS団のみんなまんまじゃないか?それはさすがにまずくないか?何気に古泉も混ぜてるし。  
「私には恋愛という概念が完全には理解できていない、この状態で相応の文章を執筆する際、  
貴方の意識をトレースして描写するのが適切と判断した」  
しかも文章中になんかつっこみが入ってたりするのは何故だ?  
「貴方が書く文章を貴方が見て感じたことも同時進行で読み取るために起こった、許容範囲」  
解った、もういい、じゃあ最後だ。これから作品中の「俺」と「長門」というキャラは……どうなるんだ?  
長門は普段絶対見せない顔で一言だけ、答えた  
 
「…………けだもの……」  
 
完  
 
 
 

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