クラスでのごたごたも、しばらくすると落ち着きを取り戻し、またいつもの授業風景が広がっていた  
まあ、当然だろう、5月まで一緒に居たんだ、復学までの経緯を聞いたらそれで元通りなんだから  
彼女が女子生徒に行う説明を盗み聞くとこんなところである  
「私のお父さんも急な転勤だったけど、前々から希望は出していたらしいの、それで急遽転勤が決まって  
本当は、私は日本に残してお母さんと二人で向かう予定だったの、でも出立の前日に色々あって  
私も付いて行くことにしたの、ちょうどどこか遠いところで落ち着いて考えたいこともあったし  
それで、クラスのみんなには悪いとは思ったけど、一緒にカナダに向かったってところかな」口調朝倉風  
要約するとこうなる、まあ「出立の前日の色々」というのは俺を殺そうとしたが失敗したになるか  
しかし、なんだ、放課後までの授業中、休み時間、クラス単位での移動中など  
やけに朝倉と目が合う、確かに「どうして戻ってきたのか」と疑問に思っている俺たちが監視の名目で朝倉を見るのは解る  
だが彼女はどうか?やはりまた何か俺たちに行動を起こそうと向こうも監視しているのか?  
しかし長門曰く「力は無い」この状態で一体何が出来るのだろう?  
そもそも見られてると書いたがあくまで俺の主観であり朝倉は俺でなくハルヒを見ていたのかもしれない  
なんせ席の前後だしな、最近俺の周りにだけ事件が起こって、自意識過剰になっているのか、俺?  
……しかし雰囲気が変わったな、もちろん髪型もだが、なにより以前にもまして柔和になった印象を受ける  
もともと容姿的には谷口の「一年の女子でベスト3には確実に入るな」を同意するだけの可愛さだ  
それに性格、これは改変された世界で俺も少し垣間見た、長門の部屋に夕食を持ってきたっけ  
面倒見もいい、それに長門を心配する様子から友達思いだ、なんだこうして考えると「いい娘」じゃないか  
むしろ俺を殺そうとした、あの時だけが異常に思える、あの事さえなければ親友にもなれていたかもしれない  
そう思い、ほんの少しだけハルヒに感謝した、普段は迷惑ごとしか呼び込まないがたまには役に立つじゃないか  
きっとこれは俺にまた平穏な学生生活を送らせたいと思った神様からのプレゼントだ  
いや、ハルヒ的には違っても構わないさ、要は俺がそう思ってれば良いんだからな  
 
と朝倉の警戒を少し軟化させながら放課後、いつものように文芸部(の上からSOS団の張り紙がある)部室に向かった  
コンコン、中からの返事は無い、誰も居ないか恐らく長門だけだろう、俺は遠慮なくドアを開けた  
「……」  
そこには、やはりいつもの様に本を読む長門の姿があった、俺はいつもの指定席にかばんを置きながら  
「ん?ハルヒ達は?先に向かったはずだが」  
と訊くと、目線をこちらに向かわせて  
「恐らく朝倉涼子の所へ向かったと思われる」  
やはりか、相変わらずの行動力だな、と少し感心しつつ  
「お前は向かわなかったのか?」  
「貴方に話しておきたいことがある」  
おっ、何か解ったのか、と期待していると、長門が珍しく言い出すのを躊躇していた、様に見えた  
目線を節目がちにして、まるで朝比奈さんみたいじゃないか、無表情は変わらんが  
「何か解ったのか?朝倉のことについて」  
長門は首肯してようやく話し出した  
「朝倉涼子の記憶部分に情報操作が行われた形跡があった」  
「つまり、朝倉の記憶は俺達の記憶と違っていると」  
「そう……彼女は貴方を襲った日から記憶が改変され、カナダに転校した記憶が埋め込まれている」  
まあ、お前らの親玉ならそのくらい簡単だろう、対象が一人なら操作も簡単なはずだ  
「問題はその改変された内容」  
長門は続けた、と思ったらまた節目がちになった、なんだ何がそんなに言いにくいんだ?  
「で、どのくらい違ってるんだ?俺達と朝倉の記憶に」  
しばらく黙っていた長門は意を決したのか、こちらを少し睨み付ける様に見据えて  
「見たほうが早い」  
と手をかざし、物凄いスピードで何かを唱えた、だからこっちの心の準備もさせてくれよと思ったね  
 
っとここはどこだ、って俺達の教室じゃないか、んっあそこに居るのは……朝倉!  
とっさに記憶の断片が甦り、俺は2,3歩後ろに退きながら、心成しか身構えた  
「大丈夫」  
俺の行動を予測していたのか、長門はこちらを見詰めながら  
「ここは今の朝倉涼子の記憶領域の中」  
と説明した、つまり朝倉の記憶を垣間見ているのか  
「そう、ここでは彼女は私達を認知することも、私達が彼女らに関与することも出来ない」  
つまり俺達は即席の時間逆行を行ったわけだな、何も関与できないという条件付で  
「厳密に言うと全く違う、しかしこの場合貴方はそう捉えておいて構わない」  
いいのか?全く違うらしいぞ俺、、、まあいいさ長門が「いい」って言ってるんだし、などと思っていると  
「キタ」  
ん?今ちょっと変じゃなかったか?という考えが頭をよぎったが次に現れた人物を視界に入れた時点でどうでもよくなった  
俺だ、といっても朝倉の記憶の中での俺が現れた、もちろん下駄箱にあった紙切れ持参でだ  
しかしなんだな、こうして「普段の俺」自身を客観的に見れたのは初めてじゃないか  
こうして見ると……いかにも「普通」だよな、とりたててカッコいい訳でなし、といってキモくも無いだろう、多分  
確かに前にも俺は俺を見たが、あの時は朝倉に刺されて……っと思い出すだけでわき腹に痛みが入りそうだ  
さてここからは、主観の俺と記憶の俺と混ざり大変理解しにくそうだが、諦めずに付いて来てくれ  
 
さて教室に入ってきた俺は、案の定驚いていた、それはそうだろう、俺もてっきり谷口と国木田の悪戯だと思ってたしな  
「遅いよ」  
確かにあの時始めに朝倉からこんなことを言われた気がする  
朝倉は教壇から降りて、教室の中央に向かいながら  
「入ったら?」  
と誘われて、そこにいた俺は朝倉に近寄っていく  
もしここで何か危機を察知して逃げ出していたらこの後どうなっていただろうと考えながら見ていた  
「お前か……」  
「そ、意外でしょ」  
「何の用だ?」  
「用があることは確かなんだけどね、ちょっと訊きたいことがあるの」  
……ここまでのやりとりに記憶違いは無かったと思う、確かにこんな感じで始まったはずだ  
これから確か「やらなくて後悔するよりもやって後悔〜〜」とかなって「観察対象に飽き飽き〜〜」みたいになり  
「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る」に繋がっていくはずだったなとか上を見上げて考えていると  
くいっ、とシャツを引っ張られた、つられて長門に視線を移す、何だろう夕日の光加減のせいか頬が赤く見える  
「ここから」  
何!と思って俺はまた教室の二人、俺と朝倉に目をやった  
 
「貴方と涼宮さん、付き合っているの?」  
???!!!はい!???なんだこの質問は?と惚けていたが、目の前の俺は即答していた  
「は?断じて違う」  
「そう……誰か好きな子……居る?」  
「いや、いない」  
いや、いないっじゃねえだろ!何答えてんだ俺!というかなんだこの状況は!これじゃまるで……  
「あのね、真面目に聞いてね、私貴方の事が好き」  
!!”#$%&’()=〜|_?><+*}‘{????????もはや言葉が出ない  
何故なぜナゼ???ホワイ?俺は聞こえていないと思いながらも長門に小声で話しかけた  
「おい、これは一体どうなっている」  
長門は耳元でいきなり話しかけられたのが驚いたのか、体を一瞬だけ震わせて  
「これが彼女の記憶」  
とだけ答えた、なんてこった、今の朝倉の頭の中は俺を殺そうとしたのでなく俺に告白したことになっていたなんて  
事実と正反対じゃないか、嫌よ嫌よも好きのうちってか、にしても極端だぞ、おいっ!  
と言われた俺の方に視線を移すと、やはり驚いていた、当たり前だろう、今言われても驚くんだからな  
「冗談、だろ?」  
「冗談だと思う?」  
朝倉の目が潤んでいる、嘘だろ、何だよこの展開、これじゃ異常なことなんて何一つ起きないじゃないか!  
「すすすすまん、頼むから泣かないでくれ」  
慌てて擁護する俺、確かにな、女に目の前で泣かれるとついこういう態度をとってしまう奴なんだ、俺って  
「ごめんね、急にこんな事言い出して、しかも泣き出して、迷惑だよね」  
「そんなこと無いから」  
こんな風にフォローするところも俺らしい、多分言われている俺はきっとかなり焦っているんだろう  
しばらくその場で立ち尽くす俺、こうなると少し不甲斐無さに怒ってくる  
なんで優しい言葉を掛けてやらないんだよそこで、といつのまにか自分の手を握り締めていた、手に汗握っている  
まるで他人事とは思えない、実際俺だしな、朝倉の記憶の中でだけれども  
 
「ホントはね貴方のこと気になりだしたのは、つい最近なの」  
「そう、なんだ」  
「始めは、涼宮さんとお話できる、珍しい男の子だなってくらい」  
朝倉はいつもの調子を取り戻したのか、確か自分の机だった位置に腰を掛けながら続けた  
「それから、どうやったらあの涼宮さんと会話が出来ているのかなぁって思ってしばらく観察してた」  
「全然気付かなかったぞ」  
「当たり前でしょ、対象に意識されるようじゃ観察とは言えないわ」  
朝倉は人差し指を上に向け、くるくると回しながら、そう答えた  
「そうして観察を続けていたんだけど、気がつくといつの間にか貴方を目で追っていたわ」  
「朝倉……」  
「それで貴方と涼宮さんが面白いことを始めたらしいって噂を聞いて、私は涼宮さんに……嫉妬したの」  
「嫉妬?」  
「貴方は、いつも涼宮さんの事を気に掛けているって気付いて、、彼女が羨ましいと感じたの」  
「……」  
「同時に彼女の態度に憤りも感じていたわ、彼女全く貴方の意見を重要視してないもの、  
でも、それでも貴方と共に行動している……悔しかった、言い出せない自分にも自覚がない涼宮さんにも」  
「自覚がない涼宮?」  
「彼女も貴方が好きってこと」  
「んな馬鹿な、ありえない」  
「でも、私ははっきり言う、貴方が好き」  
何か、どことなく誘導尋問を受けている印象を受けなくもない、そんな気がした  
いや、一般高校生の告白シーンなんて見てきた訳じゃないから、言葉の真偽なんて俺にはわからんさ  
でも、朝倉は真剣に告白してるんだってのは、なんとなくだが理解してきた  
多分、目の前の俺も「あぁ、こいつは本気なんだ」って薄っすらと気付いたみたいだ、頭を掻いて窓を見ている  
確かに、答えるときに困ったときの俺の動作だ、こんなところまで忠実に再現できるんだ、統合思念体は  
 
「朝倉……すまん」  
「えっ」  
「お前が、俺のことを真剣に思ってくれていたのは解った、正直嬉しい」  
「それじゃあ……」  
朝倉は両手を広げ嬉し涙を堪えている様だ……っておいそこのお前、じゃなくて俺!何言ってるんだ勝手に  
「だが、お前と今付き合うわけには行かない」  
目の前の俺はそう言っていた、横にいた長門のシャツを掴む力が心なしか強くなっていく気がする  
「俺は真剣なお前の告白に対して自分の態度がはっきりしていない今の時点で答えたくないんだ」  
朝倉は今度は落ち着いて聞いて、切り返して来た  
「やっぱり涼宮さん?」  
「お前は学級委員だし、いろんな奴に好かれている、もちろん俺も好きだ、クラスメートとしてだが。  
でも涼宮の事もほっとけないのも事実だ、これを好きと結びつけるのは勝手だが、俺は違うと思う  
世話の焼ける妹を見てる様な感じだ、解るか?」  
「ごめんなさい、私には妹とか弟とかいないから」  
「俺には一人妹がいる、世話のかかる奴だが、つい面倒をみちまう、これに似ている感情だと思ってる」  
「妹さんいるんだ、なんて呼ばれてるの?やっぱりお兄ちゃん?」  
「……キョン君、昔親戚の人に言われたのをあいつが広めやがって、俺のニックネームになってる」  
朝倉は何かを納得したような顔になり、かなり顔を赤くさせながら  
「じゃあさ、わ、、私も……キョ、キョン君って……呼んでも良い?」  
「別に構わないさ、もう慣れた」  
全くはっきり答えろよ目の前の俺、俺は当事者でない(わけではないが)のを良いことにさっさと先に進めと思っていた  
「それで、告白の返事だが」  
おっ俺の意思を酌んでくれたかそこの俺、いいぞさっさと返事してしまえ  
「こんなこと言って卑怯だと思う、でも時間をくれないか?俺は表面的にしかお前を知らないから……」  
結構苦し紛れだ、付き合いたいほど好きではないがきっぱりと断りたくない、とんだチキンだね、俺って  
俺が軽く自己嫌悪に陥っていると  
「実はね、明日転校するの」  
朝倉は切り出した、なるほど、こいつの記憶には実は転校するの知っていたということになるな  
ん、それだとクラスでの説明と矛盾が出ないか?いや待て!出立の前の何かってこいつの中では俺への告白なのか!  
「本当か!?」  
「うん、カナダにね、両親が一緒に行こうって」  
「それじゃあ……」  
と言ったところで抱きつかれた、当然目の前の俺だが  
「これが日本での最後の思い出になるかなって、結構勇気出したんだよ、えへっ」  
半泣きの朝倉に対して、俺はゆっくりと抱きしめ  
「ごめん、……情けないな俺って」  
「いいの、そんなところも好きなんだから、ねぇお願い聞いてくれる?」  
「俺が出来る事なら」  
「じゃあその、キ」  
「朝倉、ちょっと待ってくれ」  
目の前で???となっている朝倉、同じく???になっている俺、一体今度は何だ?  
「俺の事をキョンと呼ぶのは構わん、好きにしてくれ、そのかわり一つ頼みたい」  
「何?私に出来ることなら何でもしてあげれるよ」  
俺はといっても目の前の俺だが、意を決したように朝倉を見つめ  
「頼む、髪をポニーにしてくれないか?」  
ずてぇ、俺は情けなくこけていた、おいそこの俺、リビドーには逆らえないのか!まあ高校生らしいが  
「お前がいつかしたポニーテールは、そりゃもう可愛かったから」  
!!!そりゃおい!ハルヒに言ったセリフじゃねぇか!なんでここで言ってんだよ  
「…………これでいい?」  
「あぁ、最高だ」  
あぁあぁああ、感想まで同じだよ、しかも朝倉まで本気でポニーにしちゃってるし、俺は少し泣けてきた  
「じゃあもし、もしも再会する事があって、私が貴方の、キョン君のことを好きでいたら、この髪型で会うから」  
「あぁ、そのときは、俺も告白に真面目に答える、約束する」  
おいおいおいぉぃぉぃぉぃ、じゃあ何か、復学して教室に入ってきたときの朝倉は未だに俺が、好きだってのか  
しかも、そこの俺、何勝手に約束してんだよ!これじゃこの先の展開が読めちまうじゃないか!  
「じゃあ朝倉……いや涼子……」  
いや、おい嘘だろ、いくらなんでも俺たちは一年、15歳だ、ここからめくるめく大人の階段を登るつもりか!?  
そして目の前の俺とポニーになった朝倉は瞳を震わせ、顔を近づけていき……  
「!”#$%&$#”!!”#$%&%#”」  
 
っと次の瞬間、俺と長門は文芸部の部室に戻っていた、あれ?  
横にはいつの間にか手をしっかり握って、非常に顔の赤い長門がいた、か、可愛い……  
「……ここまで」  
嘘だろ!今回ばかりは全否定してもいい、これで終了なわけがない  
「……ここまで」  
握る力を強くする長門、正直、結構痛い  
解った、これから後に何があったのか、言葉でいいから説明してくれ  
「……ここから先が知りたかったら、朝倉涼子本人に聞くといい」  
そう言って手を離す長門、いやそれはどうかと思うがね  
「…………けだもの……」  
おいもしかして、それは俺に言ってるのか?それはおかしいぞ!あれは朝倉の記憶であって史実じゃないはずだ  
そう思って反論を行おうと口を開いたとき、長門がいきなり明後日の方向を向いて  
「涼宮ハルヒが朝倉涼子に接触を果たした」  
何!どこだ!?  
「貴方の教室」  
ちっ、ここに連れて来るつもりじゃなかったか、仕方ないが俺も向かうか  
俺は長門の誤解(というのもおこがましい見解)を解きたかったがとりあえず先に向こうに向かうことにした  
長門にはいつでも言える事だしな  
俺はかばんを机に置いたまま文芸部の部屋を後にした  
 
 
「…………ふぅ……」  
 
 
 

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