「ほら、キョン!もっと真剣に探しなさい!」  
「探してるっつの。そんな簡単にゃ見つからんだろ。」  
 
俺達が一体何してるかって?  
あれだ。またアイツの思いつきだ。  
今日は光陽円駅前公園で四葉のクローバー探し。何やってるんだろうね、俺。  
 
「中々見つからないわねぇ。これだけあれば1つぐらいありそうなもんなのに」  
「1万本に1つあるか無いか、とか見た記憶あるぞ。」  
「なら1万本探せばいいわけね。」  
 
…しまった。  
 
目を輝かせて文字通り草の根を掻き分けて探してやがる。  
 
「なぁ。なんでまたイキナリ四葉のクローバーなんか探そうと思ったんだ?」  
「だって願い事が叶うのよ?いるかどうか分からない織姫や彦星なんかに願うより  
 よっぽど現実的だわ!」  
 
クローバー>短冊 の根拠が知りたいね。  
 
「だって四葉のクローバーは実在するじゃない。でも織姫彦星の本物は見たこと無いもん」  
 
あぁナルホド。…ん?納得していいのかこれ?あ"ーもうよくわからん。  
 
「だ・か・ら!さっさと探すのよ!四葉!」  
「で、お前の願い事はなんなんだ?」  
「……秘密」  
「おいおい。手伝わせといてそりゃ無いだろ」  
「秘密ったら秘密なの!いいから探しなさい!」  
「…ったく。」  
 
本当に1万分の1なのか?それならとっくに見つかっててもおかしくないぞ?  
 
「なぁ、ハルヒ。そろそろヤメにしないか?空も怪しくなってきたし」  
「帰りたいなら帰ればいいでしょ。私は見つかるまで探すわ」  
 
…付き合ってられん。  
 
「じゃあ俺はもう帰るぞ。そろそろ暗くなるだろうし諦めてお前もさっさと帰れ」  
「んー」  
 
全然気持ちの入ってない返事を返しながら地面を弄るハルヒ。  
…ま、いいか。そのうち飽きて帰るだろう。俺は一足先に帰らせてもらうぜ。  
それにしても疲れた。帰って飯くって風呂入って寝よう。  
そう思いながらママチャリを飛ばす。  
 
 
 
「キョンくーん。お風呂空いたよー!」  
 
腹も膨れたしさっさと風呂入ろう。  
 
「…ん」  
 
ベッドの上に置いてあった携帯がブルブル震える。  
疲れてるってのに。一体誰だ。  
 
「もしもし」  
 
これで相手が朝比奈さんだったら疲れも吹っ飛ぶんだが…。  
 
『こんばんは』  
「…古泉か。何の用だ」  
『少し問題が発生しましてね』  
「なんだよ…。またあの空間でも発生したか?」  
『いつからエスパーになったんですか?…その通りですよ』  
 
…マジかよ。  
 
『それも結構な速度で広がってましてね。…少し、ヤバいです」  
「あ…っと。原因は何なんだ?」  
『それを聞こうとあなたに電話したのですが…。何か心当たりはありませんか?」  
 
んなもんある訳…。無い事も無い。  
 
『あるんですね?』  
「いや…でも本当にくだらない事だぞ?」  
『そのくだらない事が我々にとっては死活問題なんですよ』  
 
あぁ、そうだったな。野球で負けるだけで世界を破滅させようとするやつだから。アイツは。  
 
『出来れば、解決して頂きたいのですが。それも早急に』  
 
でも、どこにいるかわからんぞ。まさかまだクローバー探してるわけでもあるまい。  
 
『こちらでも探してるのですが…。家には帰っていないようです」  
「…わかった。居そうな場所を当たってみる」  
『お願いします』  
 
 
…ったく。どれだけ世話焼かせたら気が済むんだあいつは。  
 
 
「キョンくーん。どこ行くの?お風呂空いたよー?」  
「ちょっと出かけてくる。風呂そのまま沸かせといて」  
 
家から出てママチャリに跨る。いつの間にか雨が降ってる。  
 
…これでいなかったら笑ってやる。  
 
ママチャリのまま公園へ入る。  
…どうやら笑わずに済んだようだ。いや、出きれば笑いたかった。  
 
そいつは雨が降りしきる公園で四つんばいになっていた。  
 
「おい!ハルヒ!」  
「…何?」  
「ったく。何にそんな一生懸命になってんだ。びしょ濡れじゃねぇか。ほら、行くぞ」  
「…でも、まだ、四葉…」  
 
こんな時にでも四葉か。なんだ。四葉が無いと死ぬのか?こいつは。  
 
「だって、願い事…」  
 
ん?よく見ると顔が赤い。なんだなんだ。どうした。  
 
「ハルヒ、どうし…」  
 
ふと、額を触ってみるとかなり熱い。  
 
「おい!熱あるじゃないか。早く帰るぞ!」  
「でも…」  
「でももクソもあるか!…ったく!」  
 
立てそうに無かったから後頭部と膝の裏に手を通して持ち上げる。  
…俗に言う『お姫様抱っこ』ってやつだ。  
 
つーか俺、こいつの家知らない。かと言ってこいつ担いで俺の家に行くには遠すぎる。  
ここの公園から一番近いのは…。  
 
玄関口でボタンを押し、708号室を呼び出す。  
 
『…』  
 
相変わらず無言だ。  
 
「ハァッハァッ…な、長門…。すまん、ちょっと急用で…」  
 
息を切らしながら喋る。…傍から見たら変質者だな、俺。  
 
『入って』  
 
ロックが解除され完全に開け切らない間にドアを通過する。  
異常に長く感じたエレベーターから出て長門の家まで駆け足で行く。  
 
ドアの前で待ち構えてたかのようにチャイムを鳴らした瞬間に出てくる長門。…ビックリした。  
 
「長門、すまん少し事情があってだな…」  
「大丈夫。理解している。…入って」  
「すまんな」  
 
 
俺と朝比奈さんが3年過ごした寝室にハルヒを寝かせてやる。  
結構苦しそうだな。  
 
「大丈夫か、ハルヒ」  
「…大丈夫に、決まってる、じゃない。…あたしを誰だと、思ってんのよ…」  
 
どう見ても大丈夫じゃない。この強がりめ。  
 
「なんであんなにクローバーに固執してたんだ?」  
「願い事…。どうしても…」  
「だから何だよ。その願いって」  
「…」  
「あ?なんだって?」  
 
口の中でごにょごにょ喋っても聞こえんぞ。  
 
「キョンと…、一緒に入れますように…って」  
「……」  
「昨日…夢、見たの。アンタが居なくなっちゃう夢。でも、誰もそれに気づかないの。  
 古泉くんも、みくるちゃんも、有希も…。聞いても知らないって言うの。キョンって誰?って」  
「…」  
「すごく…寂しかった」  
 
気持ちは分かるさ。俺だって同じ経験したからな。しかも現実に。  
 
「だから…ゴホッゴホッ!」  
「もういいから、喋るな。ゆっくり寝てろ」  
「でも…!」  
「大丈夫だよ。俺は消えない。ここにいるから」  
「ん…」  
 
おとなしくなったがまだ苦しいようだ。  
肺炎とかになったりしないだろうな。  
 
「大丈夫」  
 
俺の考えを読んだように言ったあと、そっと手をハルヒの額に当てる。  
 
「スー…。スー…。」  
 
寝息たてはじめやがった。  
 
「…もう大丈夫そうだな。それじゃ、悪いけどこいつ頼む」  
 
そう言いいながら立ち上がり、歩こうと…  
 
「どわっ!?」  
 
前のめりに倒れる。…長門がベルトを掴んでたから。  
止めたいのなら服の裾を掴めと何度言ったら…。  
 
「ここにいると言った」  
「…え?」  
「あなたは、涼宮ハルヒにここにいる、と言った」  
「…」  
「…あなたは、嘘つき?」  
 
と、首を45°に傾ける。  
 
「…」  
「…」  
 
じっと液体ヘリウムみたいな目で俺を見つめる。  
…にらめっこでコイツに勝てる気はしねぇ。  
 
「だー!わかったよ!いるよ!います!」  
「…そう」  
「…あ、でもちょっとやりたい事あるから公園に行かせてくれ。…それぐらいならいいよな?」  
「いい」  
 
 
どうも。  
 
 
帰って来たらエプロン姿の長門がいてかなりビックリする。  
 
「晩御飯」  
 
そう言い残して台所に消えていった。  
…この感じだとここで食べることになるんだろうな。  
まずい。お袋に電話しないと。  
 
 
おなじみとなったレトルトカレーと大量のキャベツの千切りを平らげる。  
ただのレトルトがこんなに上手く感じるのはなんでだろうな。  
 
 
「あ、洗い物は俺がするよ」  
「いい」  
「いや、でも…」  
「それより」  
 
と、言って寝室に目を向ける。  
 
「…」  
「…」  
 
わかったよ。行けばいいんでしょ。だからそんな目で見つめないでくれ。  
 
 
「あ、キョン…」  
「なんだ。起きてたのか?」  
「うん。大分楽になったみたい」  
「そりゃよかった」  
「あーあ。でもクローバー残念だったなー。あれだけ探したら1つぐらいあってもよさそうなのに」  
「あぁ、そうだ。プレゼントやるよ。ホレ」  
 
そういいいながら、ポケットに入れてた物を取り出す。  
ポカンとした顔でそれを見つめるハルヒ。  
 
「クローバー…?でもこれ、三つ葉じゃない」  
「そうだよ」  
「そんな普通なんじゃダメよ!四葉じゃなきゃ…」  
「普通じゃダメか?」  
「え?」  
「普通でいいじゃないか。いつものようにお前は俺の後ろに座ってて、お前が訳の分からん事思いついて  
 俺が振り回されて。古泉や朝比奈さんや長門と5人でいろんな事して。…それじゃ駄目か?」  
「…」  
「俺は、そんな普通が好きだ。回りにお前がいて、古泉がいて朝比奈さんがいて長門がいて…。  
 これからもこの5人で色んな事をやりたい。鶴屋さんやおまけで谷口と国木田なんかがいてもいいな」  
「ふーん…」  
 
何かを考えこむようにしてこう言った。  
 
「確かにさ、今までみたいなのも楽しかった。でも気づいちゃったの」  
「…何に」  
「アンタと一緒に居れば、もっと楽しいって」  
 
えっと…?それは…?  
 
「だから、一緒にいて。…っていうか居てもらうわ。アンタ言ったわよね?俺はここに居るって」  
「いや、それは…」  
「何よ。今更アレはナシなんて言うの?そんなのは許さないわ。」  
 
そう言いながら俺の服に付いてる草を取って持ってきた三つ葉のクローバーの上に乗っけた。  
 
「ほら、これで四葉になったわ。私の願い事、叶えてよね!」  
 
何が四葉のクローバーだ。一体誰だ願い事が叶う、なんて言い出したのは。  
…まったく。  
 
「…仕方ないな。四葉のクローバーになっちまったんなら」  
 
 
今までが嘘のような100万ワットの笑顔でそいつはこう言った。  
 
 
「これからはずーーーーっと一緒よキョン!自分で言った言葉の責任ぐらい持ちなさい!」  
 

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