長門、少し聞きたいことがあるんだが。  
以前、朝比奈さんは、現在時点で複数の選択肢がある場合、そのどれを選択しても、  
基本的には、同じ未来に到達する、そう言ってたんだ。  
これって、言ってみれば、時間の流れには慣性があるってことだろ。  
だから、ちょっとしたことでは、その進む方向に変化は生まれない。  
 
だけど、非常に重要な分岐点で、選択を誤ると、別の未来に進む可能性がある。  
つまり、未来が変わる可能性があると。  
それで、朝比奈さんと、意味不明なちょっとしたことをしたことがあったからな。  
 
え? 図書館? 朝比奈さんと? あ、すまん。あのときは、本当にすまなかった。  
頼むからそんな目で俺を見るな。今度、また一緒に図書館行こうな。  
 
でだ。ここからが、本題なんだが、いくら時間の流れに慣性があると言っても、  
統一した意思を持たない複数の未来人が、同時に過去に干渉したら、いや、現れたらか、  
その影響は、それぞれの想定以上になるってことはないのだろうか。  
 
たとえば、自転車で二人乗りしててさ、右に曲がろうとしたとき、後ろに乗ってるやつが、  
不意に右側に体重移動すると、思った以上に曲がってしまうだろ。  
 
あ? ああ、解った。今度一緒に自転車に乗ろう。  
だから、頼むから、デイジー・ベルは唄わないでくれ。お前が唄うとシャレにならん。  
 
で、どんなに注意深くしても、過去への干渉を続けることで、偶然、タイムマシンが  
発明されなかった未来になることもあるんじゃないかと思うんだ。  
そうなると、その時点で、過去への干渉は不可能になるから、未来は固定される。  
 
考えたんだけどさ。もし朝比奈さんが、自分のいる未来を変えたくないなら、  
タイムマシンが存在しないことが一番なんだよな。  
 
でも朝比奈さんは、タイムマシンが発明されないと困るよう感じだった。  
それって、つまり、朝比奈さんの未来は、過去の改変が必須だってことだよな。  
で、朝比奈さんたちの行動を妨害しようとする未来人もいる。  
そいつらは、タイムマシンの発明を阻止したいような感じだった。  
なんだか、悪者未来人の方が、自然に思えてくるよな。  
 
朝比奈さんたちは、タイムマシンが発明されるように、過去に干渉している。  
でも、干渉は、朝比奈さんたちだけじゃない。  
その結果、偶然、タイムマシンが発明されない未来になってしまったら、どうなるんだろうな。  
 
一度は、そういう未来になったのではないだろうか。  
だから、過去に干渉して、タイムマシンが発明されるように、俺を使って、  
空き缶やら何やらで悪戯みたいなことをさせた。でも、タイムマシンが発明されない未来では、  
その時点で、過去への干渉は不可能だったはずだよな?  
 
この世界は、可能世界、多元時間みたいな感じなのかとも思ったんだけど、  
そうなら、タイムマシンによる過去改変は、意味なくなると思うんだよ。  
別の世界に跳べばいいだけなんだからさ。  
 
そこでだ。  
俺は、タイムマシンが発明されない未来になったとき、お前の親玉が何かしたんじゃないかと  
思ってるんだが、そうなのか? もしそうなら、思念体とやらは、人類がタイムマシンを  
発明するように積極的に介入していることになる。  
タイムマシンが発明されることが、自律進化とやらに何か関係があるのか?  
 
俺の話を、じっと聞いていた長門は、少しだけ天井に目をやってから、俺に視線を戻し、  
ゆっくりと口を開いた。  
 
「なぜそれを訊くの? それを訊いてはいけないのに。わたしたちの子供をよろしく」  
 
――そう言い残すと、有希は次第に雪煙となって消えてしまった。その後、有希の姿を見たものは、誰もいない。  
 
おい長門、わたしたちの子供って誰だよ。つか、ナレーション入れながら消えるなって。  
 

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