何万年後の地球に飛ばされたキョン。  
あたりは半ば砂と化した瓦礫。一面の瓦礫。  
 
人間の気配すらない、その荒野のなかに  
奇跡のように建っている、北校の旧校舎。  
 
キョンは目を疑いながらも、校舎に入り文芸部の部室ドアを開ける――――――――――――――  
 
 
「………長門」  
「……」  
 長門有希が、そこにはいた。いつもの制服姿で、いつものように本から視線を上げて。  
「お前、なんで……」  
「一万二千年」  
「え?」  
「ずっと待っていた」  
「一万…二千年…って、その間…ずっとか?」  
「正確に言うと、一万二千百二十二年と六ヶ月と十四  
 最後まで言う前に、俺は長門に飛びつくように抱きついた。一万年!一万年だぞ!  
「なんで…長門、お前……」  
 俺の言葉はうまく出てこない。  
「それしか方法がなかった」  
 淡々と、しかしどこかしら感情を思わせる声で長門は俺の胸元で言った。  
 
「長門……俺が今日ここに来ることが判ってたのか?」  
「あなたがいつに飛ばされたのかは私にはまったく不明だった。おそらく100年から10万年のオーダーの  
いつかだとしか判断することが出来なかった。だからあなたが、この校舎を見つけたならば必ず入ってくると  
想定してこの校舎に時間停滞の属性を付加しておいた」  
「じゃあお前も……」  
 長門は首を振る。  
「時間停滞を固定化することは出来ない。プログラムの実行体として私は時間の流れの中に存在していた」  
「お前……ずっと、待っててくれたのか……一万…二千年も……この部屋で……」  
 クソ。なにやってんだ俺。こいつが、長門が、ずっと待っててくれたってのに、さんざん待ちぼうけ食らわして……  
 腕の中で長門がびくり、と身体を震わせた。  
「長門?」  
「毎日、あなたが来てくれるかと楽しみに待っていた。今日は来なくても明日こそ来てくれるか、と。  
……ごめんなさい。なぜだか、感情の、抑制が、うまく、効いていない……ドアノブが、動くんじゃないか、と、  
それだけを、楽しみに……」  
 どこか熱に浮かされたような長門の声。無理もない。ずっと、待っててくれたんだ。  
「いいんだ。ゴメン。ゴメン。長門。待たせて、すまなかった。本当に」  
 長門の小さな身体に廻した腕に力を込める。こんな小さな身体で、ずっと俺のことを待っていてくれた。  
一万二千年も。気が遠くなるほど、毎日、毎日……ずっと、この部室で、俺がやってくるのを待っていてくれた。  
「……あなたが、謝る……ことでは、ない」  
   

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