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「……あなたが、謝る……ことでは、ない」  
 長門の細い体を抱きしめてる。ほんのりと女の子の匂いがする。  
 俺はその身体がふるふると小さく震えているのに気がついた。  
「あっ、ス、すまん……長門」  
 謝りながら身体を慌てて離す。  
 そうせずにはいられなかった。長門が、この宇宙人のアンドロイドが一万二千年もこうして  
待っていてくれた、という事に感極まって抱きしめてしまっただけであり、そもそも  
俺と長門はそういう関係ではないのだ。残念ながら。  
 
「……嫌ではない」  
 
 俺は目を疑った。あの長門が、頬を染めている?  
 いや、何でもありだ。俺を待っててくれたんだから。  
 
 長門は書棚の一冊の本の間から一枚の栞を取り出してきた。それを俺に渡す。  
「これは?」  
 長門曰く『ラベンダーの香りのする栞』だそうだ。  
「あなたを元の時間線に戻すアイテム」  
「これで、俺とお前は過去に戻れるんだな?」  
 俺はただ確認しただけだった。しかし長門は信じられないことを言った。  
 
「いいえ。あなただけ」  
 
「……な ん だ っ て ? 」  
「私は時間線を超えられない」  
 いつもの無表情で、それが当たり前であるかのように。  
「…なんだよ、それ!?」  
「あなただけが元の時間線に戻ることになる」  
「お前はどうするんだよ?」  
「どうもしない。これをあなたに渡すのが私の使命」  
 
 怒りを感じた。殺意を覚えた。  
 そうしろと命じた誰かに、だ。そして長門をこんな目に遭わせた俺の無様さにも。  
「一万…一万二千年も待ってて、なんだよそれは!!!!」  
 俺にこんなモンを手渡すためだけに一万年以上も…ずっと、待ち続けただと!?  
 
「帰らない」  
 俺は栞を投げ捨てた。栞が床にひらひらと舞い落ちる。  
「俺は帰らない。俺はお前とここに残る」  
 一万年も待たせた挙句、こんなもんだけ受け取ってさよならなんて、そんなことあるか!  
 ずっと、長門と一緒にいてやる。  
 一万二千年の寂しさを埋め合わせてやる。  
 話し相手になってやる。長門は聞くだけかもしれないけど。  
 いろんな話をしてやるんだ。  
 晴れの日も、雨の日も。  
 そして畑を作って、漁でも釣りでもなんでもして、この時代で長門と一緒に生きる。  
 雨の日には背中合わせで寄り添いながら、一緒に本を読むんだ。  
 そうじゃないか。  
 そうでもしないと、コイツの待っててくれた一万二千年に埋め合わせがつかない。  
 デートの待ち合わせだって、三十分も遅れたらなんかしらプレゼントあげたり  
奢ったりして埋め合わせをするだろ? それが一万二千年分じゃ、一生側にいてやっても  
釣り合わないくらいのでかすぎる遅刻じゃないか。  
 
 でも、長門はいつもの無表情でさらりと言った。  
 
「あなたがそういう決断をするであろうことも想定されていた」  
 白い頬の中の唇が重大な事を言ってのける。  
「だから、私はあなたがこの校舎を訪れた翌日に情報結合が解除されるようプログラムされている」  
 理解できなかった。  
 情報結合の解除……  
 思い出したのは、朝倉涼子が拡散していく姿だった。  
「なんだよ……なんなんだよ! それって、なんなんだよ!!」」  
 俺は長門の両肩を掴んで問いただす。冗談を言っている顔じゃない。  
「死ぬわけではない。消失するだけ」  
「同じことだッ!!」  
 俺の大声にビクッと身体を震わせる長門。  
「……スマン」  
 透き通るような白い頬をかしげて俺を不思議そうに見ている長門。  
 その身体を抱きしめると、長門は一瞬だけぴくりと身体を震わせた。  
「長門……お前、何万年も……ただひたすら……待って、待って、待ち続けて……」  
 長門は不快ではないのか、抱かれながら俺の肩に顔を預けてくる。  
 
 
「俺……俺に、なにができる?」  
 
 一分近く、長門はじっと考え込んでいる。  
 無表情の中に迷うような色をかすかににじませながら、ぽつりと言った。  
 
「三つだけ、お願いがある」  
「いくらでも聞いてやるよ。俺にできることなら、なんでも、いくらでも」  
 
 長門の小さな唇が動く。  
「一つ目は……私が消失するまで、一緒にいて欲しい」  
 ああわかった。お安いご用だ。  
 そんなことでいいのか。  
 
「二つ目は、私を女にして欲しい」  
 
「……………………………………」  
 
「――すまない。あなたはあまり直接的な言い方を好まないと思っていた。言い直す。  
私とセック「わわわかったっ」」  
 
 そんな澄ました顔でそんな……なことを平然と言ってくれるな。  
 ドキドキするじゃないか。  
 
 
 薄暮の文芸部室。  
 その床に長門が毛布を何枚も重ねて敷いている。  
 あ、コレは文化祭のときに手芸部かどっかから強奪してきたやつか。  
 一万二千年間もここにあったのか。  
「校舎とその付属品は時間停滞の影響で実時間にして十五秒しか経っていない」  
 そう言いながら、長門はどこからともなく取り出したシーツを毛布の上に広げて  
即席のベッドを作り上げる。  
「それは?」  
「校旗。清潔だから安心して」  
 そう言えば黒い校章がみえるな。  
 
 そのベッドの横に立ち、俺のほうを真っ直ぐ見る長門。  
 やばい。なんか、緊張してきた。なんか言わないと。  
「……長門はずっと本読んでたのか?」  
 こくりと長門はうなずいた。  
 一万二千年の間ずっと。  
 考えただけで胸が痛くなる。  
 
「……そしてその合間にあなたの事を考えていた」  
 薄いきれいな唇が薄闇のなかでそう動く。  
 ん? なんだこの違和感は?  
 長門の表情が、ほんのすこしだけなんか違う。  
 
 突然、長門が俺の首に腕を回してくる。  
 そのまま顔が近づき。そして。  
 
 唇に生まれた暖かくて柔らかい感触。  
 世界で一番柔らかいもの。俺はそう思った。  
 
……キスされた?長門に?  
 
「……」  
「……長門」  
 キスしてわかったのは、長門の唇がめちゃめちゃ柔らかい、ということだった。  
 なぜだろう。長門がかすかに微笑んでいるように俺には見える。  
 長門のその表情を見てるだけで身体の奥から沸いてくるこの感覚はなんだろう?  
 
 長門がセーラー服をまるで無造作に脱ごうとしたので俺はそれを止めた。  
「脱がないとできない」  
 長門は抗議してくる。  
「俺に脱がさせてくれ」  
「……あなたがそうしたいのなら」  
「ああ。したい。長門のセーラー服を脱がせたい、とずっと思ってたんだ」  
 長門は不思議そうな顔で俺の事を見ると  
「あなたに関する認識を改める必要がある」  
と言った。  
 
「幻滅したか?」  
「……いいえ。…………あなたにそうされる事は、不愉快ではない」  
 
 ベッドの上に女の子座りしている長門。その制服のカーディガンのボタンを外していく。  
 いつだったかの冬の日、コイツはこれを寝てた俺に掛けてくれたっけな。  
 そのとき長門はどういう顔をしてたんだろう?  
 さっきみたいな表情だったらいい。なんとなくそう思った。  
 
 セーラー服の下の肌は驚くほど白かった。  
 つくづく眺める。ホントに、長門は白い。白磁の人形みたいだ。  
 でも人形と違うのは、透けそうなほど白い肌が柔らかくて暖かいことだ。  
 暮れゆく文芸部室の中、暗がりの中にぼおっと浮かび上がる長門の裸身。  
 真っ白い肌は透明感すらあって、近くで見てるだけでドキドキしてくる。  
 
 その長門がつけてるのは特徴の無い白い下着。  
 なんか中学生みたいだな、と思いながらそれを外す。  
 控えめな真っ白い膨らみが目に飛び込んでくる。  
 慎ましげだが、それでも女の子であることを精一杯主張している部分だ。  
 
 背筋を掌でゆっくりと撫で続けると、かすかに視線を泳がせながら眉を上げ下げさせる。  
 
「こうされるの、嫌いか?」  
「わからない」  
 
 平らな下腹部を撫でる。無造作なショートカットの襟足を撫でる。  
肋骨の浮き出たわき腹を撫でる。ん。もっと長門は食ったほうがいいな。  
……いや今でも十分食ってるか。あ、今ってのはおかしいな。一万二千年の間、  
長門は何食ってたんだろう?  
 撫でていた掌から肋骨の感触がなくなる。ここはもう胸か。  
 
 薄桃色の乳暈の中で、乳首は長門の心臓の鼓動がわかるくらい固く立ち上がっていた。  
 長門の胸の中で、心臓がとくん、とくんと鳴っている感触がする。  
 コイツにもやっぱ心臓はあるんだな、と感動に近い思いがする。  
 
 薄い桜色をした可愛い蕾に唇を押し当てる。  
 唇に感じる乳首の鼓動。  
 舌先で舐め上げながら、乳首全体をしゃぶる。  
 
「……」  
 
 こいつは表情を変えないように努力しているんじゃないか?  
 そう思った。  
 
 薄い乳房に掌を伏せる。  
 手全体で乳を撫でるように。  
 小さな胸全体を動かすように。  
 汗ばんだ肌がぬるり、と長門の乳を掌から逃がす。  
 
 そうして胸の感触を楽しんでいると、視線を感じた。  
 吸い込まれそうな長門の瞳。  
 それがすこしだけ負の感情を帯びる。  
「すまない。朝比奈みくるくらいの大きさがあれば――」  
 俺はなにか言おうとする長門の唇を自分の唇でふさいだ。  
 唇を離すと、  
「長門の胸は、可愛いな」  
 そう言ってやる。  
「……そんなことはない。大きさは平均以下で――」  
「大きさとか、そういうのは関係ない。俺は長門の胸が好きだ。大好きだぞ」  
 
 厚みのあまりない長門の乳房に唇を向ける。  
 唇で押す。舐める。  
 大きく開けた口を押し付け、歯を這わせる。  
 
 そのたびに、長門の息が大きくなる。  
 なにかをこらえているかのような殺した吐息を感じる。  
 
「ホント、可愛い。長門は全部可愛い」  
 
 長門の目の色が変わっている。どこかとろんとした色。  
 そして驚いたのは、長門の口元に浮かんだはにかむような笑み。  
 長門はほのかな微笑を浮かべている。  
 ……長門が笑ってる?!  
 他のヤツが見てもわからないかもしれない。  
 でも俺にはわかる。唇の端をわずかに緩めて、目元がほんのすこしだけ  
柔らかくなっている。これは笑ってるんだ。  
 お前、笑えるようになったんだな。  
 
「あまりにあなたが待ち遠しくて、練習してみた」  
「あなたが消えて八千年後、正確には八千六十五年後にあなたの声を思い出していたら  
顔面の筋肉が緩むことに気がついた」  
「知識では知っていた。それが笑みというものだということに」  
 笑みを不安そうに揺らがせると、長門は俺に尋ねる。  
「私は……ちゃんと笑えている?」  
 ああ。長門、お前笑った顔のほうがずっともっとすげえ可愛いぜ。  
 そう言うと、一瞬だけ長門の瞳が大きく開かれる。驚いているのか喜んでいるのか。  
 透き通るような白い顔がほんのりと赤くなる。赤くなっているように見える。  
 
「長門。俺はお前の事が好きだ」  
 
「俺の事をずっと、一万二千年も待っててくれて。それだけじゃなくて、俺は、その、  
長門が俺を朝倉から守ってくれたときから……いや、実は、もっとずっと前から好きだったんだ」  
 
 スキ、という俺の発音の度に長門の身体はピクッ、ピクッ、と小さく震える。  
 
 長門は酔ったような顔で俺の唇にキスをしてくる。  
「……んぅっ」  
 長門の小さくて薄い舌が俺の唇を割って入り込んでくる。  
 細い舌先が俺の歯茎をなぞるように動く。  
 ななななんだコレ!?  
 生まれてはじめての経験に腰の裏がざわめきだす。  
 
 俺の顔にかかる長門の鼻息。  
「……ん……ふぅっ……んちゅ……」  
 薄くて熱い長門の舌が俺の舌を擽る。  
 舌の裏側を熱い肉がこそいでいく。  
 頬の粘膜を、口蓋の裏を、長門の舌が撫でていく。  
 
 押し入ってくる長門の柔らかい舌肉を舌で受け止め、押し合うことしか出来ない。  
 
 数時間にも感じられる数十秒の後、唇がゆっくりと離される。  
 
 ………どこでこんなテクニックを?  
「……本で読んだ」  
 な、長門……なんて本を。  
「最近のこと。五百年ほど前」  
 ほんのすこしだけ頬を染めながらそう言う長門が愛しい。  
 大好きだ。超好きだ。銀河系一好きだ!  
 
 紺色のソックスだけを身に着けた長門が、俺の身体の下でくったりとしている。  
 俺は肩に掌の後が付くくらい固く抱きしめた。  
 
 長門はしばらく考え込むような顔で、そして  
「だいすき」  
 と俺に囁いてくる。  
 その昔、長門がハルヒに無理矢理言わされたセリフだ。  
 同じだけど、全然同じじゃない。  
 
「だいすき」  
 そう言ってくる長門を抱きしめる。  
 肋骨がきしむほど強く。  
 
「あなたが、大好き」  
 俺の腕の中で、長門がそう言っている。  
 長門の息の匂いがする。  
 触れ合ってる肌が声の響きでかすかに震えるのを感じる。。  
 
「長門……」  
 この気持ちを伝えるのに、どんなに強く抱きしめても、全然足りない。  
 腕が二本だけじゃ足りない。  
 
 俺はいつの間にかその思いを口にしていたらしい。  
「私なら腕を増やす事も可能」  
 ……それはいらない。  
「あなたがそうして欲しいのであれば」  
 いや、しなくていいぜ長門。俺は今のお前のことが好きなんだからな。  
 そう耳元で囁いてやると、長門は声にならない喘ぎを漏らす。  
 
 掌で長門の背中を触る。  
 しっとりと柔らかい皮膚はかすかに汗ばんでいるが、滑らかでしかも暖かい。  
 泣きそうだ。  
 
 
 俺は極限まで固く上を向いたマイ・バズーカを握って言った。  
「長門、いいか?」  
「いい」  
 
 すごい。真っ白だ。  
 長門の太股の内側は、俺が今までに見たどんなものよりも真っ白だった。  
 そしてその中心には、わずかばかりの薄い毛の陰りと  
充血しきった赤い粘膜が鎮座ましましている。  
 ドキドキしてくる。心臓が口から飛び出しそうなくらい、激しく暴れまわっている。  
 
「な…がと……」  
「……」  
 長門は何も言わずコクリと頷いた。昔だったら、といっても俺の体感時間的には数時間前、  
長門の時間では一万二千年前だったらこんな関係になるなんてのは思いもよらなかったことだ。  
 
 俺が躊躇していると思ったのか、長門は落ち着いた口調で言ってくる。  
「避妊の必要はない」  
 馬鹿。  
 そんなんじゃない。  
 そういうときは「……きて」とか言うんだよ。いや俺もエロマンガでの知識しかないんだが。  
「きて」  
 俺はそんな素直すぎる長門を可愛いと思う。  
 すこしでもコイツに暖かい感情のようなものを味あわせてやりたい。  
 もう数時間で消えてしまうコイツに。  
 
 狭い。ここでいいのか?と聞くと長門は  
「いい」  
 そう言っている長門の頬はまぎれもなく、赤く紅潮していた。  
 
 
 
 きつい。  
 脳を直接削がれるような刺激と快感。  
 プツリという感触。  
 
 それが長門の処女膜の感触だというのに気づいたのは、俺がこの宇宙人の、  
有機ヒューマノイドインターフェースの一番奥深くまで突き入れてあまりの快感に  
情けない声をあげ終わったあとだった。  
「スマン、長門。痛くないか?」  
「痛くないわけではないが許容範囲内。むしろ幸せ」  
 なんだよそりゃ。そんな微妙な嬉しがり方はねーだろ。  
 
「長門の中、すげー熱いぜ。ぬるぬるしてて、きつくて、すげえ気持ちいい」  
 そう言うと、長門の視線が泳ぐ。  
 照れているのか、嬉しいのかわからない。  
 その微妙な表情の変化が面白くて、もう一度言ってみる。  
「熱くて、溶けそうだ。長門」  
 なにかをガマンしているかのような微妙な表情の変化。  
 
 無造作に切られた前髪は眉に掛かるか掛からないかの長さで。  
やはり無造作な眉の下の闇色の瞳は吸い込まれるような色で俺を見つめている。  
 微妙に桜色を帯びてきた真っ白いほほ。その中心にある小ぶりな唇が  
救いを求めるかのようにすぼめられる。  
……いや、それは俺の勘違いか?  
 まあいい。  
 
 俺と長門にキスをした。  
 唇を離すときにはちゅぽ、と音がしそうなくらいの熱い吸いあうような激しいヤツをだ。  
 
 
 
 
 長門の呼気を胸に吸い込むだけで。  
 長門の皮膚の柔らかさを全身で感じるだけで。  
 俺の心の奥底から嬉しくて切ない波動が溢れてくる。  
「長門」  
「……なに」  
「動いていいか?」  
 
 長門は顔色一つ変えない……わけではない。  
 無造作だが形のいい眉の間に愛らしい皺を寄らせて、そっと囁いてくる。  
「そうして」  
 
 俺の全神経が長門の内側で擦られる感覚。  
 ヤバイ。気持ちいい。気持ちよすぎる。  
 俺は数回出し入れしただけで、腰の動きを止めてしまった。  
 
 長門は俺の目を真っ直ぐに見ながら言ってくる。  
「あなたのペニスが入ってくると充足感を覚える」  
 女の子がペニスだなんて言っちゃいけません。  
「そして引き抜かれるとなにか不足した感覚がする」  
「きもちいいか?」  
「……いい、のだと思う」  
 なんだよそれ。  
 ドクン、ドクンと俺の心臓が肋骨の中で跳ねる。  
 
 押し込む。深く繋がる。  
 長門の狭くてぬるぬるした体内が俺の勃起を食い締めてくる。  
 
「長門……」  
 長門は顔を赤くしながら浅く息をしている。  
「長門、辛いのか?」  
「……駄目。声が、勝手に出てしまう」  
「いいんだ」  
「……」  
「長門の声、聞かせてくれよ」  
 瞳が開かれる。  
「俺は、長門の声も好きだから」  
 血色の良くなった長門の頬を撫でながらそう言う。  
 一瞬だけ、小動物のような表情をみせる長門。  
 そんな長門に対して腰を引き、俺の勃起をゆっくりと引き抜く。  
 長門の眉が切なげに寄せられる。  
 そんな顔もできるんじゃないか。  
 そうして、数秒その抜けかけた状態を維持してから一気に奥まで突き入れる。  
「…ふぅっ」  
 俺の口から無意識に声が漏れる。  
「……ぁっ」  
 同時に長門も可愛らしい喘ぎを漏らしている。  
「……可愛いぞ」  
 長門は焦っている。  
 自分の出した声に戸惑ってるみたいだ。  
 長門の内側があまりに熱くて、そんな愛らしくて。  
 
 どうしようもない。  
 俺の視界はこの長門で多い尽くされる。  
 突き入れて。長門がかすかに甘い色の喘ぎを漏らして。  
 引き抜いて。長門の皮膚から汗が分泌されて。  
 突き入れて。長門の瞳がわずかに潤み始めて。  
 また引き抜いて。長門の唇が愛しくて。柔らかくて。大好きで。愛しくて。  
 
「な……がとっ」  
「……あっ……」  
 
 脳裏が真っ白になるくらいの快感とともに、俺は長門の一番奥深くに向けて  
熱い体液を噴射していた。  
 
 
 
 
 
 二人の身体の間は汗でどろどろになっている。  
 汗をかいてるのは俺だけかも……いや、長門もうっすらと汗をしぶかせてる。  
 コイツも汗かくんだな。なんだかそれだけで嬉しくなってくる。  
 
 
 抱き合ったまま、俺は長門を身体の上に抱え上げる。  
 体重をかけたらつぶれそうなくらい細いからな。長門は。  
 
 俺の身体の上で、長門は囁くような小さな声で言う。  
 
「ずっとあなたのことを考えていた。あなたが成長し老化したらどんな姿になるのかと」  
「顔や声がどんな風に変わるか、シミュレーションしてみた。条件を変えて何度も計算した。  
97.5%の確率で合っている筈。それが確認できないのが残念」  
 
 全裸で抱き合いながら、部室の窓から空を。月を見上げる。  
 奇妙な色のついた月。一万二千年の間に変わってしまった月。  
 長門は、この月の変化をずっと見ていたのか  
 そう考えると胸の奥が痛くなった。  
 
 
 
「そういえば長門。三つ目の願いはなんだ?」  
 
「あなたが元の時間線に戻ったら――」  
 長門は珍しく、言い辛そうにしている。  
「……私に優しくして欲しい」  
 なんだって?  
「もちろん強制するつもりはない。  
 それにあなたと涼宮ハルヒとの関係も悪化させるわけにはいかない」  
「強制されなくたってそうするさ」  
 俺は考えるまでもなくそう応えていた。  
 
 
 長門の唇は動き続ける。  
「一万二千年の間、ずっと考えていた。あなたのことを考えるたびに覚える感情がなんなのか」  
 そう言う長門の表情は嬉しそうだ。  
「さっき判った。私はあなたのことが好き」  
 …長門。お前、笑えるようになったんだな。  
「それは一万二千年前から変わっていない。ただ気づかなかっただけ」  
 そう言っている長門の顔は明らかに微笑んでいる。  
「気づくのに時間が掛かってしまった」  
 なんて不器用な。そんな長門がただ愛しい。  
 
 数時間もそうして抱き合っていただろうか。  
 無常にも時計の針は12時を過ぎていく。  
 
 長門の身体は薄く発光を始めた。  
「視覚情報が停止した」  
 長門、お前目が?  
「あなたが、もう見えない」  
 虹彩の消えかけた瞳が俺の顔の彼方で焦点を結んでいる。  
 拡散を始めた長門の掌が俺の頬を撫でる。  
「長門! おい長門!!」  
「消失するのは怖くはない」  
 焦点の合っていない目で俺を見つめながら、長門は囁く。  
「情報を失うことに恐怖はない」  
 こくりと長門の喉が動く。  
「ただ、あなたに対する思慕が失われることだけが……哀しい」  
 
 
 驚くべきものを目にした。  
 長門が、泣いている。  
 もう見えない目からぽろぽろと涙を溢れさせている。  
 
 違う!俺が幸せにしたいのは過去の長門じゃないんだ。今現在の、長門有希。お前なんだ。  
「あなたが元の時間線に戻るのはあなたが消失して三日後のこの場所」  
 長門はそう離し続ける。見えない目で俺を見つめながら。  
「過去の私はあなたが消失して心配しているはず」  
 なんで。なんでそんな、柔らかく微笑めるんだよ!?  
「会って私の心配を解消してあげて欲しい」  
 澄んだ笑顔が俺の心臓を撃ち抜いた。  
「な……長門っ!……有希っ!!!」  
 俺は初めてコイツの名前を叫んだ。  
 そのとき長門の顔に浮かんだ表情を、俺は決して忘れないだろう。  
 なによりもキレイで、純粋で、無垢な微笑み。  
 まっすぐに俺に向けられた微笑が俺の視界を覆い尽くす。  
 
 
 長門の唇が動く。ものすごい速さで何かを唱えている。  
「なんだって?」聞こえない。  
 長門の唇がまた言葉を紡ぐ。  
「あなたは泣かないで。笑っていて」  
 長門の頬の上に俺の涙が落ちている。  
 
 なんでだよ。なんで長門が、消えなきゃなんないんだよ。  
 せっかく何世紀も、何十世紀もの孤独を耐えて待ってたのに。  
 
 
 
 微笑を浮かべる長門。  
「俺はお前が好きだ! 何度だって言ってやる、好きだ! 好きだ長門!」  
 そう言ってやると、長門はぎこちない薄い笑みを浮かべる。  
 
「長門……有希……有希……」  
 そう俺が囁くと、長門は目を閉じて唇を軽く突き出す。  
 俺は迷うことなく、その唇に自分の口を押し当てた。  
 唇だけが触れ合うキス。  
 熱い。熱い。唇が灼けそうなほど熱い。  
 
 腕の中の感触が淡くなっていく。消え去っていく。  
 肌に感じていたぬくもりがなくなる。  
 そして俺の唇に熱だけを残して、長門有希は空気に溶けるように消失した。  
 
……  
 
 泣いた。啼いた。嗚咽した。子供のように。赤ん坊のように。  
 どうして。どうして長門がこんな目に遭わなきゃならないんだ。  
 まるで渋谷駅前の銅像の犬みたいに、永遠に近い時間を。俺を待つためだけに。  
 俺はまるで壊れた蛇口のようにボタボタと涙を流して長門のために泣いていた。  
 
 
 一時間もそうしていただろうか。  
 帰りたくはなかった。  
 そうすることで、長門の一万二千年が一瞬で無意味なものになってしまいそうで。  
 
 でも、この世界には長門がいない。  
 戻った先の過去には長門がいる。俺を救うために一万二千年間孤独に耐えてきた  
あの長門ではないけど。  
 だから俺はアイツに会いに行く。  
 不器用で、愛らしくて、いじらしいアイツに会って。  
 アイツは一万年以上も待ち続けた長門ではないけれど。  
 それでも、俺は俺に出来る全てのことをしてやる。  
 それが長門の、一万二千年も俺の事を待ち続けてくれた女の子に応えてやることじゃないか。  
 
 
 
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 深夜の文芸部室。  
 窓の外を見る。街灯が転々と道沿いに並び、遠くの町の明かりがうす曇りの空を  
ほのかに照らしている。  
 
 戻ってきたのか。元の時代に。  
 荒く溜息を吐く。  
 部室の空気が冷たい。  
 俺は戻ってきてしまった。  
 長門を犠牲にして。  
 俺にそんな価値があるのか?  
 長門が、ひとりぼっちで一万二千年も待っていてくれるような価値が。  
 
 
 一人きりだと思っていた部屋の片隅から声がする。  
「あなたはいつから来たの」  
 うわあぁぁっ!?  
 
 この時代の長門有希が、パイプ椅子に座って俺の事を見ている。  
 
 
 
 ついほんのすこし前に。この時間軸で言えば一万二千年後に。  
 俺の腕の中で拡散して消失した長門がそこに座っていた。  
 同じ瞳の色。同じ無造作なショートカット。同じ真っ白な頬。  
 でも浮かぶ表情は同じではない。  
 普段通りの、無表情な宇宙人製アンドロイドがそこにいた。  
 
 この長門は不思議そうに俺の顔を眺めている。  
 
 コイツは長門だけど、あの長門じゃない。  
 そういえば……アイツはなんて言っていたっけ?  
 最後の願いの言葉が脳裏に蘇る。  
 口調も、表情も、全てが鮮明に。  
 
「長門」  
 俺は長門の両肩を掴むと、顔を覗き込むようにして言った。  
「今からする俺の行動がイヤだったら、言ってくれ」  
 心なしか見開かれたような気がする瞳で、長門は無言で頷く。  
 
 
 しっとりと、薄くて柔らかい長門の唇に口づける。  
 長門の唇は冷たくて。しっとりと、ひんやりとしていた。  
 なんだかキスしてるだけで熱が長門の唇に移っていくようだ。  
 
 
   
「長門!?」  
 くたりと力が抜けたように崩れ落ちる長門。  
 長門は熱病にかかったかのようにぴく、ぴく、と身体を痙攣させている。  
 
「おい、長門?! 大丈夫か?」  
 熱に浮かされたような表情の長門は俺にしがみつくように抱きついてきている。  
 熱い吐息が胸元に掛かる。  
 吐息?  
 顔色一つ変えない長門が?  
 
 俺は長門の顔を覗き込む。  
 少しだけ違った瞳の色。  
 その長門が俺の顔に近づく。  
 唇が俺の唇に押し当てられる。  
 
 
 
 唇を割って入ってくる長門の舌。  
 薄くて、でも熱い長門の舌が俺の歯茎を舐めあげ、歯をこじ開けて舌の裏側をくすぐり……  
 
 
 長門……?  
 なんで?  
 このキスは?  
 
 俺の感覚では数時間前の、一万二千年後の北高の旧校舎で交わしたキスと同じキス。  
 必死に長門の身体を引き剥がすようにすると、俺は疑問を口にする。  
 
「お前…あの長門なのか? 一万二千年、ずっと待っててくれた長門なのか?」  
 長門はちょっとだけ考え込むようなそぶりを見せると  
「厳密に言えばそうではない。私はこの時間線の私自身」  
と、そう答えてくる。  
 そう言う長門の……表情には微妙なゆらぎがあった。  
 
「あなたの唇に込められていた一万二千年分の「私」の記憶と同期させてもらった」  
「……唇?」  
「一万二千年後の私は一万二千年間の記憶を外部化しあなたの唇の上にそれを一時的に固定化した」 なんのことだ?  
「キス」  
 真顔でそう言ってくる長門の唇をついマジマジと見てしまい俺はドキリとする。  
「未来の私はあなたの唇に、一万二千年間の記憶を乗せた」  
 
 そうか。最後のキスの熱い…感覚は、長門の記憶だったのか。  
 
 長門の説明によると、俺がこの時間線に戻ってから三十分以内に触れた異性の唇が  
長門のものだった場合にのみ、情報転移は発動するのだそうだ。  
 なんなんだその条件は。  
 
「じゃあお前は……どっちの長門なんだ?」  
「本質的には同一。未来の私はより多くの情報を元に思索を重ねたという違いしかない」  
 安心した。  
 長門の一万二千年は無駄にはならなかったんだ。  
 
 
「ごめんな……長門」  
「謝らなくていい。最後にあなたに会えて「私」は幸せだった」  
 ほんの一時間前に消失した長門がそこにいた。  
 かすかに緩んだ口元は、お前笑ってるのか。  
 
「たとえ消失するとしても」  
 どことなく恥らってるような口調で。その口調も可愛いぞ。  
「幸せな記憶を喪いたくなかった。だから私はあなたに自分の記憶を託した」  
 
 
 あの長門はいないけど、あのときの長門はこの長門で……  
この長門はあのときの長門?長門でありながら長門で……  
だんだんわからなくなってくる。  
 
「あっ?! じゃ、じゃあ、あ、あのこと……も……覚えてるのか?」  
 あのとき、腕の中でかわいく悶えた長門の表情を思い出してしまい俺の顔は真っ赤になる。  
「あなたとのセッ「わわああああ」  
 慌てて遮る。女の子がそんなこと言っちゃいけません。  
「……情交のことならば、記憶している」  
 いやいや言い直せばいいってそういう意味じゃなくて。  
 
 
 まあ、いいんだ。あの約束はまだ有効だからな。  
 俺はお前の事が好きだ。  
 お前の事を幸せにしてやりたい。  
 俺に抱きしめられて幸せを感じるんだったら、いくらでも抱きしめ続けてやる。  
 いやむしろ、抱きしめさせて欲しい。  
 
 
「あなたに言っておくことがある」  
 なんだ?  
「あなたの唇は莫大な量の情報輸送因子に汚染されている」  
 ……なんだって?  
「一万二千年後の私は一万二千年に渡る「私」の思考記憶感情の生データに多次元圧縮を掛けて  
あなたの唇の粘膜細胞に移植した。その大部分は先ほど私が摂取したが一部のデータが未だに  
粘膜細胞には残留してしまっている。……通常ではありえないほどの高密度データは  
通常の人間にも影響を与えてしまう可能性がある。  
もし普通の人間が粘膜での接触を図ろうとした場合、人間では処理しきれないほどの  
情報流入を受ける可能性がある」  
 
 それって、具体的にどうなるんだ?  
 
「わからない。ただ、あまりよい影響を与えない事は確か」  
 
 これって、いつかもとに戻るのか?  
 
「それもわからない。ただ、私と繰り返し接吻を交わす事により  
あなたの唇に残る情報データの密度を薄くする事は可能」  
 
 
 ……なんだか読めてきたぞ。可愛いじゃないか長門(未来)。  
 俺と沢山キスしたくて、俺を独占したくて、そんな呪文を俺に掛けてくれたのか。  
 そう考えると胸の中心あたりがほっこりと暖かくなってくる。  
 
 
 長門はロッカーを開けると中から文化祭のときに手芸部から強奪した毛布を取り出す。  
床に敷く。敷き重ねる。長門さん何をやってるんですか?  
「私にはあなたとの情交の記憶はある」  
「ああ」  
「でも私自身の経験ではない」  
「……そうだけど」  
「私は記憶ではなく実体験として体感したい」  
 
 おい長門。毛布の上に何を敷いているんだ?  
「校旗」  
 ……。  
「清潔だから安心して欲しい」  
 そういいながら長門はカーディガンのボタンに手を掛ける。  
 
 
 
 ちょっと待った!  
 
 
 
 俺はどうしたらいいのかを知っていた。  
 だから長門のちっこい掌を掴んで、こう耳元に囁いてやる。  
 
 
「長門。俺にお前のセーラー服を脱がさせてくれ」  
 
 
 
終わる  
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