俺は今、何をしている?  
答えは簡単だ、夜の公園でベンチに座りながらある人物と向かい合っている。  
その人物とは果たして誰か?  
あろう事かハルヒだ。  
しかもハルヒの目は赤ければ顔も赤く、俺の体は殴られたり蹴られたりでズタボロ、頭は混乱しなければおかしいという様な状況に陥っている。  
さて、一体全体どうした物か。  
取り合えず、自分の混乱する頭をどうにかする為にこうなった経緯を整理しようと思う。  
 
 
 
 
 
本当に何でもない、春休みも既に半分くらい過ぎ去ったある日の事だ。  
晩飯を食べ、風呂に入った後には特にする事も無く、何となくもういっその事寝ちまおうかとそう思った直後。  
 
携帯が鳴り出した。  
 
「緊急事態です」  
電話に出ると、やけに真面目な声が聞こえた。  
「どうした?」  
流石に冗談を言ってる場合じゃない様だ。『緊急事態』は伊達じゃない。  
「今すぐに外に出かけられますか?」  
今、ノーと答える奴がいるのなら俺はそいつを存分に殴りたい。  
「なら、すぐに家の外に出て下さい。事は急を要します」  
「分かった」  
そう言って即座に携帯を切ると俺は着替えて部屋を飛び出し、何か言ってくる妹を無視し、親に適当な事を言って家を出た。  
すると家の前には新川さんの運転する車が停まっており、その後部座席には古泉がいた。  
「乗ってください」  
そう言われた時には既に俺は車のドアを開けていた。  
 
「少し荒い運転になりますよ」  
そう言うと新川さんはいつか体験したような物と同じ運転を開始した。  
揺れる車内で俺は古泉に、  
「一体何があったんだ?」  
と聞いた。  
「涼宮さんです」  
またハルヒか。  
「今度は涼宮さんが何かしたのではなく何かされてるのです」  
「どういう事だ?」  
「隠してもどうしようもないでしょうから単刀直入に言いますが、涼宮さんの身にレイプの危機が迫っています」  
マジかよ。  
「マジです。最初は気絶させられて、どこかへ連れてかれた様ですが気が付いた後は流石涼宮さん、逃げた様です」  
なら騒ぐ事はないだろう。  
「それが連れ込まれた所がレイプ犯達の巣窟とでもいいましょうか、そんな所でしてね。  
 逃げても逃げても行く先々にレイプ犯がいる訳です。そのレイプ犯達はどうやら逃げる獲物の狩る事を楽しんでる様な感じでして、すぐには捕まえないのですよ」  
「つまり、俺達はこれからハルヒを助けに行く訳か。しかしどうしてそんな事が分かった?」  
「長門さんです。彼女が一番最初に気が付き、今は気が付かれない様に涼宮さんが逃げるのを援護していますが、何分派手に動けないので決定打に欠けています」  
なるほどな……まさに追いかけっこか。シャレにならない追いかけっこだな。  
「ところで朝比奈さんはどうした?」  
「彼女は森さんと一緒に万が一の時の為に待機しています」  
確かに朝比奈さんは一緒に行かない方が良い様な気がする。  
「だが、俺がなぜ一緒に行くんだ?」  
「……行けば分かります」  
そういう古泉は、何故か溜息交じりだった。  
 
 
「ここです」  
着いた場所は一目で分かるほど怪しい裏路地の入り口だった。  
「いかにも……だな」  
正直言って行きたくない。しかし、ここで帰ってしまっては俺は駄目人間の烙印を押される事だろう。  
「こっち」  
と、いきなり暗闇から長門が現れた。服装がやっぱり制服だが気にしない、というか気にしてる場合じゃない。  
「急がないと拙い」  
「では急ぎましょう」  
「私達は逃げる輩を捕まえましょう」  
俺も頷き、走り出す。新川さんは『達』と言ったがどうやら他にも機関関係者も来ているらしい。  
何となく新川さんがレイプ犯達をバッタバッタと蹴散らしているのを想像したが、そんな想像はすぐに吹っ飛んだ。  
「では、そちらは任せます」  
古泉がそう言うと、新川さんも別の場所へと姿を消した。  
 
「――――!」  
長門に誘導されて曲がりくねる裏路地をしばらく走っていると、奥から悲鳴の様怒鳴り声の様な物が聞こえた。  
「ここを曲がった先の様ですね。長門さんは一応目立たない所に。相手はレイプ犯ですからね、見つかったら何をされるか分かりません」  
「分かった」  
長門ならいざとなったらどうとでもできそうだがそういう問題ではないだろう。  
「では、覚悟は良いですか?」  
長門がどこかへ言ったのを確認した古泉が聞いてくる。  
当たり前だ、レイプなんて事をする奴は許しておけない。俺にとってどうでもいい人間なら別に良いがあいにくハルヒはどうでも良く無い。  
SOS団の大事な団長様なんだからな。  
「では」  
短くそう言った古泉に頷き返し、俺と古泉は勢い良く走り出して通路を曲がった。  
 
 
「うおりゃあっ!」  
柄にも無く声を上げてみる。というか、そうでもしないとやりきれない様な気持ちになっていた。  
曲がった直後、真正面にいた男を古泉が勢い良く蹴り倒し、俺はその先のハルヒの服を無理矢理脱がしていた男を横面から思いっきり蹴っ飛ばした。  
突然の乱入者にレイプ犯達は酷く驚いており「見張りはどうした!?」とか言っていたが、恐らくそこら辺は長門か新川さん達がどうにかしてくれていたのだろう。  
なんせここに来るまで見張りなんて1人も見なかったからな。  
 
問題はその後だ。  
レイプ犯は思っていたより数が多く、多勢に無勢だった。叫びたくもなるという物だ。こうでもして勢いを付けないと気が滅入る。  
俺は別に喧嘩した事が無いという訳ではないが、別に得意でも無い。  
古泉はと言えば合気道やら空手やら柔道やら何か確認する暇は無かったが、物凄い身のこなしで立ち回っていたが数には勝てなかった。  
多分、古泉本人も相手がこんなに居るとは思わなかったのだろう。でなければ2人で乗り込む筈が無い。  
で、俺達は10分後、奮闘したがどうにも限界でスタボロな状態、しかもハルヒを人質に取られるという絶対にピンチとしか言えない状況に陥っていた。  
このままではハルヒを人質に取られる事は俺も古泉も分かっていたので真っ先にどうにかしようとしたが、それ程広くない裏路地で数に邪魔されてどうにもできなかった。  
「畜生……!」  
俺は周りにいる10人程のレイプ犯達を睨みつけながら呟く。  
そしてハルヒを見る。ハルヒはどんな表情をしているのか――と確認する前にハルヒの背後、ハルヒを人質に取っている男の背後に目がいった。  
「…………」  
その人影は、無言でハルヒを人質に取っていた男を殴り飛ばした。丁度、すくい上げる様な無茶苦茶なパンチだ。  
男はもちろんハルヒを離し、俺もその人影に驚いていると今度は俺の後ろで男の声が聞こえた。  
「お前らの様な輩達に言葉はいらんな」  
警官姿の圭一さんだった。もしやと思ってハルヒの方を見るとこちらも警官姿の裕さんだった。  
ハルヒは驚いてる様だったが、2人の警官の正体に気がついてない様だった。まぁ、暗いしな。  
 
一方、レイプ犯達は警官の姿を見たとたんに我先にと逃げ出した。まぁ、当然だろうな。  
それを追いかけないのは新川さんが控えてるからか。  
「大変だったね、時間も無いしバレるとマズいので私達はすまないがこれで失礼させてもらう」  
そう言って、一見逃げたレイプ犯を追いかけるように2人はその場を退場して行く。  
そして残された俺達はというと、  
「大丈夫か、ハルヒ?」  
ハルヒの心配をしていた。まぁ当然の事だろう。  
近づいてみて分かるが、ハルヒは服こそ脱がされても下着はまだ何とか残してた。つまりまだ何もされていないのだろう。  
「とにかく服を着ろ」  
俯いたまま何も言わないハルヒに古泉の拾った服を渡す。するとハルヒはこれまた何も言わずに服を着始める。  
ちなみに俺はハルヒの方を見ていない。仮にも下着姿だからな、ハルヒは。  
 
「……ありがと」  
そう呟くとハルヒは驚くべき速さでその場を走り去った。俺が声を掛けようとすると、古泉がそれを止めた。  
「何で止める」  
「伝えたい事がありまして」  
じゃあ早く言え。  
「レイプ犯達は間違いなく全員、我々機関が捕まえているでしょう。彼らは厳重な処罰を与えます。法律なんて生ぬるい物による制裁ではありません。  
 何しろ、下手すると彼らはこの世界が滅ぼしていたのかもしれませんからね」  
そう言う古泉の表情には珍しく怒りの色が混ざっていた。まるで、感情を抑えきれないかの様に。  
つまりそれは今回の事でハルヒが完全にこの世界に見切りをつけるかも知れないという事か。  
機関の制裁とやらは想像もつかないので想像しない。  
「涼宮ハルヒの周りの事は気にしないで良い」  
 またいきなり長門が暗闇から現れた。  
「涼宮ハルヒの周りには涼宮ハルヒがレイプされたという情報が流れない様に操作する」  
確かにそんな情報が流れたらハルヒも辛いだろうからな。  
「ただし、今から明日の朝にかけて涼宮ハルヒが閉鎖空間を発生させる確率はとても高い」  
まぁ、しょうがないだろうな。俺もそんな気持ちになるだろう、こんな目にあったらな。しかし『しょうがない』で済む問題ではない。  
「どうすれば良い?」  
「涼宮さんを追いかけて下さい、あなたが。その為にあなたを連れてきたんですから」  
古泉がそう言うと、長門が恐らくハルヒがいるであろう場所を告げた。  
「涼宮ハルヒを見つけた後、どうするかはあなた次第」  
俺は長門のその言葉を聞いて走り出した。  
 
 
「……ハルヒ」  
長門の言った通り、ハルヒは近くの公園の奥の方のベンチにいた。  
「キョン」  
俺の足元に視線を投げ、呟く。その表情は一体どんな物なのか俺は分からない。  
「座って……いいか?」  
ハルヒに近寄り、訊ねる。するとハルヒは僅かに頷く。  
「大丈夫、だったか?」  
さっきもした様な事を聞いてみる。やっぱり、こういうのは本人の口からはっきり聞かないと感じが悪い。  
「……うん、まだ何もされてなかった」  
それを聞き、ホッとする。どうやら予想通りだった様だ。  
「…………」  
と、俺が安心しているとハルヒがいきなり俺の方に頭を預けて来た。  
「ハルヒ?」  
「恐かった」  
これまたいきなり喋りだす。  
「夜、買い物の帰りに歩いてたらいきなり気を失って、気が付いたら囲まれてて」  
ハルヒがどんな表情をしているか分からない。だが、こいつには似合わない様な表情をしているに違いない。  
何たって、ハルヒの頬を伝う一筋の雫を見ちまったからな。  
「もちろん逃げたけどどこに行ってもあいつらがいてその内、このまま捕まってその後どうなるのか考えるとどうしても動けなくなった」  
ハルヒの声が震えてきているのは気のせいだろうか。少なくとも、ハルヒの体は震えている。思い出して恐くなったんだろう。  
「もういい」  
そう言って俺はハルヒを抱き寄せた。こんな事、したくてやる訳じゃないがこういう時はこうする物なのだと俺は思っている。  
「何も言うな」  
どうせ、動けない所を見つかってその後に俺達が現れたのだろう。予想だが、これは予想のままで良い。  
ハルヒの口から聞いて確かめる気など起きる訳が無い。  
 
「…………うっ」  
僅かに声を漏らしたかと思うと、ハルヒはその後思いっきり泣き始めた。  
俺は胸の辺りを掴む2つ手とその間で俺に当たっている頭の感触を感じ、ハルヒの頭を撫でていた。  
しかし、俺の視線はどこかも分からない方向へ逸らされていた。  
ハルヒの顔を見れなかった。見てはいけない気がした、というのは言い訳で、俺にはハルヒを見る度胸が無かった。  
そこには、俺にとってハルヒじゃないハルヒがいた気がしたから。我ながら情けないヤツだ、俺は。  
 
「落ち着いたか?」  
一体どれくらいの間、ハルヒの頭を撫でていただろうか。元々裏路地の近くの公園なので人通りは少なく、ハルヒの声の心配をする事は無かった。  
その声もいつの間にか止んでいて、本当に一体どれくらいの間俺達はこうしていたのだろうな。  
「それじゃあ、そろそろ帰るとしよう」  
古泉達は既に帰っているだろうから、俺達は電車での帰りとなる。まぁ、ハルヒと俺の分の電車代くらいは持ってきてある。  
「行くぞハルヒ」  
俺はそう言って立ち上がろうとするが、立ち上がることは出来なかった。何故と聞かれればハルヒの手が俺の肩を掴んでいたからと答えよう。  
まぁ、その力は大した事も無いので立ち上がろうと思えばいつでも立ち上がれたんだがな。  
「どうした?」  
振り切って立ち上がるのも何なんので、俺はハルヒの方に体を向ける。  
「キョンが来てくれた時、とっても嬉しかった」  
そう言って顔を上げたハルヒの表情はなんともハルヒらしく無い物だった。思わず目を逸らしたくなった程驚いた。  
だって仕方が無いだろ? いつもは不機嫌そうな顔か100万ワット級の笑顔がほとんどのハルヒが、目を赤くしていかにも「泣いてました」って感じなんだぜ?  
そりゃあ目も背けたくもなる。こんなハルヒ、どうやったって想像できなかった。しかし、俺はソレを今目の前で見ている訳だ。  
だが、その驚きはこれから発射される爆弾に対する驚きに比べれば本当にちっぽけな物だった。  
「あたしは、キョンの事が好き」  
軽く目眩がした。爆弾があまりに大きすぎた。ハルヒが俺の事を好きだと? んなアホな。空いた口が塞がらない。  
何故? 何でハルヒが俺を? ホワイ? 一体全体何故?  
 
 
と、ここまでがこれまでの経緯か。この場合、返事をしなければいけないのだろう。だが俺は返事ができない、混乱しているからな。  
この状況下で冗談を言うはずも無いのでハルヒの言葉は正直な自分の気持ちなのだろうが、俺はそれも分からないくらいに混乱していた。  
「キョン……?」  
俺が黙っている事に不安を覚えたのかハルヒは小さく呟く。  
「やっぱり、みくるちゃんか有希の方が好きなの…………?」  
何であの2人の名前を出す、ただでさえ混乱しているのに余計に混乱するだろうが。  
俺が朝比奈さんを好きだと? 俺が長門を好きだと? 俺が好きなのは朝比奈さんただ1人に決まっている――。  
 
そう思って気が付いた。俺は朝比奈さんの事が別に好きな訳じゃない、多分あれは、小さな子供が母親に甘えるとか、ちょっと違うかもしれないがそんな感じなんだ。  
だから俺は、  
「朝比奈さんの事は別に好きじゃない」  
そう言った。では長門に対して俺はどうだろう。確かに、最近の長門は変わってきていて魅力を感じ無いと言えば嘘になるだろう。  
だがそれもきっと、『好き』とは違うのだ。あれはきっと、妹や弟が成長して、それに嬉しさを感じるのと同じ様な物だ。  
「長門の事も好きじゃない」  
どっちも微妙に違うかも知れないし、『好き』といえばそうなのかも知れないが俺はあの2人に『好き』という感情を持っていない。それは確かだ。  
だから、俺はあの2人の事を好きじゃない。  
「じゃあ……あたしは?」  
ぐっ、予想していたがやっぱり来たか。返事をしなきゃ駄目なんだろうな。ここで話を逸らしたりするのは男として許されないだろう。  
「それは…………」  
言葉に詰まる。俺はハルヒの事をどう思っているのだろうか?  
嫌いか? と聞かれれば答えはノー、だ。だが、好きか? と聞かれれば………。  
 
「俺はお前の事を――」  
先の言葉も考えずに口走ったその瞬間、強烈な既視感に襲われた。  
――何だ、前にもこんな事があった気が……。  
だが、当然思い出せるはずも無く心当たりも無く、その既視感は浅い傷口から体をじわりじわりと甚振る毒の様に俺の頭を襲った。  
まぁ、この既視感が本当に毒かどうかは分からないんだがな。  
――思い出せ、これが何なのか。  
既視感を感じる事自体は去年のあの終わらない夏休みでもあった。だが今度の既視感は内容が違う。  
――ッ!  
何かを思い出しそうになったが思い出せず、俺は何とか欠片だけを拾う事ができた。  
そしてその欠片は、俺の口から自然とこぼれ落ちた。  
「俺はお前が好きだ」  
そう言った瞬間、理解できた様な気がした。既視感をではない、俺自身の事だ。  
俺は今までハルヒをどう思っていたか。迷惑がりながらもそれを楽しんでいた俺。しかし、本当はその裏で何を考えていたか。答えは簡単だ。  
 
ハルヒは自分に正直になっている。はっきり言って全然ハルヒらしくも無いし、できればあんまり見たく無いが仕方無い。  
俺も自分の気持ちに正直になるとしよう。もちろん、そうすれば俺も俺らしくなくなるんだろうがな。  
「いつからかは分からない。だが俺は、いつの間にかお前の事が好きになってた。もうお前がいなきゃ駄目なんだ。お前と一緒に――」  
と俺が言っている所で言葉は遮られた。なに、ハルヒが抱きついてきたからだ。ハルヒよ、嬉しいが人の話は最後まで聞け。  
「ありがとう……」  
そう言うハルヒは滅茶苦茶可愛かった。全く、気持ち1つをどうにかするだけで人に対する印象はこんなにも変わる物なのか。  
だから俺は、  
「どうしたしまして」  
そう言ってハルヒにキスをした。  
 
「キョン……」  
数秒のキスの後、唇を離すとハルヒは熱っぽい顔でこっちを見ていた。  
「ねぇ」  
何となく、その先の言葉が予想できた。とうか、恐らく正解だろう。だから俺はこう言った。  
「ここでする気か」  
気持ちに整理を付けたとはいえ、俺は常人だ。夜の公園、しかもお互いに――少なくとも俺は初体験をこんな場所で迎える気など毛頭無い。  
「……別に良いじゃない。どうせ人なんてこないだろうし、何なら草むらでする?」  
そういう問題じゃない。と、俺は思いつつもこういう感じのハルヒの方がやっぱり良いな、とかいうアホな事を考えていたんだがな。  
で、そんなハルヒに対して俺はいつもどうなるかと言うと、  
「さぁ、そうと決まればさっさと行くわよ」  
何も決まっておらず同意もしていないのだが、いつものハルヒに俺の意見が通るはずもなく、俺は流されるのだった。  
 
 
「さっさと脱ぎなさいよ、キョン」  
ふざけるな、シチェーションという物を考えろ、いきなり服を脱ぐはずが無いだろう、というかこういう言葉は普通女の方がするはずだろう。  
「ゴチャゴチャ五月蝿いわね、どうせ脱ぐんだから一緒でしょ。それとも服来たままヤッて、汗かいて嫌な感触を味わいたいの?」  
ハルヒの声が俺の後ろから聞こえてくる。場所はもちろんさっきまで座っていたベンチの更に奥の草むらなのだが、まぁハルヒの言う事にも悔しいが一理ある。  
「分かったよ」  
俺はそう言って服を脱ぎ始め、脱ぎ終わるとハルヒの方を向いた。  
「……あんまりジロジロ見ないでよ」  
当然ハルヒは既に何も着ていない――って1人だけ下だけ着てやがる、全部脱いだ俺はアホか、なんて事を思う事はできなかった。  
 
ハルヒの体には、無数のアザがあった。恐らく、さっきのレイプ犯達の所為だろう。  
今更恥らうのは散々脱げ脱げ言っといて可笑しい気もするが既に神経はハルヒのアザに集中していた。  
「……そんな顔で見ないでよ、こんなの何でもないわ」  
一体俺はどんな顔をしていたのだろうか、同情するような哀しそうな顔でもしていたのだろうか。  
だが、少なくともそういうハルヒの顔が少しだけ苦しそうだった、って事だけは分かる。  
「さっきの事は全部忘れよう。それが、一番だ」  
そう言って俺はハルヒを抱き寄せた。  
 
「ちょ、キョン、ひゃうっ!」  
ハルヒの体中にあるアザを、丁寧に舐めていく。あんな奴らに付けられた傷がある事が何となく許せなかった。  
「安心しろ」  
そう言って俺は舌での体中への愛撫を再開する。  
「キョン、ねぇ、あうぅ!」  
もちろん胸だって例外では無い。というか、こうしてみて改めて感じるがハルヒは本当にプロポーションの良い体をしている。  
「ひゃあっ!だめ、そこ、だめっ!」  
胸の中央にある突起に下を滑らせるとハルヒは顔を真っ赤にしていつもの姿からは想像もできない様な声を出す。  
「やぁっ、あっ、だ、だめぇっ!」  
胸の突起が段々硬くなってきたのを感じると、俺は手も使って両方の胸を愛撫する。  
するとハルヒの声は一層激しくなる。  
「キョン、胸、だけっ、じゃあっ!」  
最後まで言えてなかったが伝わった。俺はハルヒの言葉を聞くとハルヒが唯一身に着けているショーツの中へ手を滑りこませる。  
「ひゃううぅぅっ!」  
既に十分に濡れていたそこに触るとハルヒが一際大きな声を上げる。もしかして軽くイッたか?  
 
「もう……焦らさないで」  
まぁ確かにこんだけ濡れてれば十分だろうし、いい加減俺も我慢の限界が近い。  
「じゃあ、入れるぞ? 痛かったら言え、すぐに抜く」  
ハルヒがこくりと頷く。それを見た俺は、入り口に亀頭を軽く当て、できるだけ慎重に挿入していった。  
「ッッッあああッ!」  
我慢できずにハルヒが声を上げる。ハルヒの陰部からは、赤い液体が垂れ流れていた。  
「大丈夫か?」  
「少し、このままで……」  
肩で息をしながら呟くハルヒ。俺は大人しくそれに従う。  
なんてったって、今すぐに動いたら俺の方もヤバイからな。  
ハルヒの中は暖かく、この世にこんな感触があるのかというほど気持ちよく、絡み付いてきていた。  
……動き出したらどんだけ持つだろうな、俺。  
正直、こんな感触を受けながら長時間耐える事はできないのだが。  
 
「もう、動いてもいいわよ」  
とうとう来たか。数分後、ハルヒが呟いた。いよいよ覚悟を決めねばなるまい。  
「じゃあ動くぞ」  
一応そう言っておく。ハルヒの反応は確認しなかったが、頷いた様な気がした。  
「あっ、ん、あんっ、ああっ!」  
入れて動かないのと動くのとではまた大違いだった。  
絡みつく肉壁が生む摩擦の感触、奥に当たる感覚、どれも物凄い。  
「あ、やっ、奥に、当たっ、てぇっ!」  
もちろん俺が奥に当たればそれはハルヒの奥に俺が当たっているという事だ。  
見る限り、ハルヒも相当気持ちよい様だ。  
「駄目だ……ッ!」  
腰が更なる快感を求めて動きを自然と早める。  
速度に比例して快感も跳ね上がる。  
「や、はやっ、はやいっ、んああっ!」  
結合部から水音が淫らに響く。その音も速度に比例して大きくなっていく。  
「ハルヒッ、そろそろ……っ!」  
汗を大量に掻き、愛液が結合部から大量に染み出すのを見ながら俺はその言葉を口から何とか出す。  
正直、一瞬でも気を抜いたらすぐに果てそうだった。  
「あたしも、もう、イク、イクゥッ!」  
どうやらハルヒも限界らしい。  
「中に、中にぃっ!」  
正常な判断などできなかった。だから俺はハルヒの望むがままにした。  
「いくぞ、ハルヒッ!」  
「きて、きて、キョンッッ!」  
2人して声を上げ、そして  
「くぅぅぅぅッッ!!」  
「あああぁぁぁぁっっっ!!」  
2人同時に果てた。  
 
 
「キョン」  
俺が服を着ていると、ハルヒが話しかけてきた。  
「これ、夢……じゃないよね?」  
当たり前だ、夢だったら俺は多分、目覚めた途端に狂う。  
「そうよね」  
自分の服を着終わったハルヒが俺に近づいてくる。丁度俺も服を着終わったのでハルヒの方を向く。  
何となく、この後どうなるのか分かる気がした。  
「大好きよ、キョン」  
そう言ってハルヒは俺に軽くキスをする。  
「……俺もだよ」  
今更、という感じで俺はハルヒに言い、キスを返した。  
 

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