俺がハルヒの告白を受けオーケーし、そのまま俺は童貞を失いハルヒは処女を失った後の事。  
結局帰りは電車で、ハルヒの分は俺が奢ってやった。貸しにしようかとも思ったが……まぁ良いだろう。  
なんせ、あのハルヒが告白なんつーある意味一番似合わない事をしたんだからな、その祝いだ。  
ついでにぶっちゃけると、俺は告白する時のハルヒやセックスをして感じるハルヒなどと言うのはあまり好きでは無い。  
可愛いくない、という訳ではない。むしろ可愛いのだが何か違う。  
多分、これはあれだな、『涼宮ハルヒ』に対して抱いてる俺のイメージとあまりに違いすぎる所為なのだろう。  
俺の中の『涼宮ハルヒ』はSOS団団長で、いつも偉そうで俺に命令し、不機嫌な顔や100万ワットの笑顔が似合っている、そんな感じなのだ。  
 
まぁ、そのイメージもハルヒの告白をきっかけに変わっていくだろう。  
そのうち、ハルヒのそういう部分も好きになっていくに違いない。いや、好きになるに決まっている。  
なんたって俺は、ハルヒの事が好きなんだからな。  
 
 
 
閑話休題。  
 
 
 
いきなり訳の分からない話をしちまったな。今の話は忘れてくれても良い。  
で、本題に移ると今、俺は古泉と2人でSOS団御用達の駅前近くの店で話をしている。  
呼び出したのは俺なので、古泉が今注文してる物は俺の奢りだ。  
「それで、話というのは?」  
「昨日の奴らはどうした?」  
どうしても聞いておきたかった。昨日古泉からどうするかは聞いていたが、その後の事を知りたかった。  
「昨日言った通り、機関によって厳重な処罰を下しました。まぁ、現在進行形で行われているんですがね。  
 法律などでは考えられない、というか普通ではできない様な処罰です」  
ざまぁみろ、と思う。だが、あまり詳しく聞きたくないな。想像するのが何となく恐い。  
「もちろん、機関の存在は知られない様にしてあります。その辺りの心配は無用です」  
別に心配などしていないがな。  
「もう1つだがな」  
「何ですか?」  
「昨日、ハルヒを助けてる時、妙な既視感を感じなかったか?」  
ハルヒの告白を受けた時の既視感。アレがどうしても俺の中で引っ掛かっている。  
「いえ、特に感じませんでしたが……」  
「そうか……」  
どうやら、感じたのは俺だけらしい。俺が口を閉じると古泉は、  
「ところで、話は変わりますが」  
と言ってきた。何だ? 俺は聞かなきゃいけない話に心当たりはないぞ?  
「あなたには本当に感謝しています。昨日の涼宮さんは非常に不安定でしてね、何事も無く安定してくれて良かったです。  
 レイプ犯に襲われてる時はもちろんですが、僕達と離れて少ししてからまた不安定になりましてね。  
 いやはや、あなたが涼宮さんの告白をOKしてくれなかったらどうしようかと思いましたよ」  
それを聞いて注文して届いた物を飲んでいた俺は軽く吹きそうになった。何でお前がそれを知ってるんだ。  
「長門さんですよ。あの後、新川さんの運転する車で彼女を送ったんですがね、その時彼女が話してくれたんですよ」  
つまりある程度の実況中継がされてた訳か。……待てよ? という事はまさか……  
「もちろん、その後の事も話してくれましたがね」  
やっぱりか。畜生、恨むぞ長門。別にコイツにそんな事を話さなくても良いだろう。  
 
店を出た後、古泉はこんな事を言った。  
「涼宮さんの精神状態は今まで以上に安定しています。本当にあなたには感謝しています。  
 ですが、忘れないで下さい。あなたが涼宮さんの彼氏をなった以上、下手な事をすれば涼宮さんの精神は不安定になると」  
分かっている。ハルヒの彼氏になる事がどれだけ大変なのか。  
もちろん、ハルヒに変な力が無くても普段の行動の所為で苦労するだろうがそれも分かっている。  
SOS団がこれがキッカケで少なからず変わるだろう事も分かっている。  
それらを受け入れる覚悟なら一晩じっくりかけてとっくにした。  
「なら安心です」  
そう言って古泉は去って行った。  
 
「さて……」  
俺は携帯を取り出す。古泉は感じず、俺は感じた既視感。  
ハルヒとの約束がこの後あるが、まだ時間はある。  
だからそれをこれから確認するのだ。連絡する相手は……  
「長門、これからお前の家に行っても良いか? ……話がしたい」  
 
 
俺の電話に出た長門は、相変わらず無言で、最後に「分かった」と言って電話を切った。  
そういう訳で俺は今、長門の家のテーブルに肘を突いて座っていた。  
「…………」  
長門が無言でお茶を運んできて、テーブルを挟んで俺と向き合う。  
それを見て、俺も肘を付いた姿勢を直す。  
「話というのはだな」  
俺は話を切り出す。まだ時間はあるが、この後にハルヒと会う約束があるのだ。  
「昨日、ハルヒから告白を受けた時、妙な既視感を感じたんだ。これについて長門、お前は何か知らないか?」  
既に長門がハルヒの俺への告白を知っている以上、隠す必要はあるまい。正直に言うまでだ。  
「……知っている」  
やっぱりか。  
「去年の夏の事になる」  
「あの悪夢のエンドレスサマーか」  
長門は僅かに首を傾けて首肯する。  
「繰り返される夏休みの中、涼宮ハルヒは何度かあなたに告白している」  
……何だって?  
「長門、お前はそんな事一度も言わなかった気がするんだが……」  
少なくとも、俺が終わらせる事ができた15498回目の夏休みにはそんな事は言っていなかったはずだ。  
「私は繰り返される夏休みの中、何があったか説明しようとした。それと止めたのはあなた」  
あー、そういや止めたってけなぁ。あの時は気が滅入ってたからしょうがないだろう。  
「あなたが涼宮ハルヒの告白を受けたのは全部で5回。  
 1回目は165回目の夏休み、次は764回目、その次は1684回目、4回目は8629回目、最後は12812回目」  
あの既視感はその中のどれかか。  
「しかし、その全てをあなたは断っている」  
何だって?  
「しかし俺は昨日、ハルヒの告白を断らなかったぞ?」  
「今のあなたははあの時のあなたと違う。もちろん、繰り返される夏休みのどれに置いても完全に同じあなたはいなかった。  
 少なからず、何かが違っていた」  
まぁ、あれから随分時も経ってるし、『夏休みが繰り返される』と言っても中身が完全に同じ訳じゃないからな。  
それにしても、ハルヒはよく俺に断られて閉鎖空間を発生させなかったな。  
「あなたのおかげ」  
俺の?  
「そう。あなたが涼宮ハルヒを傷つける様な断り方をすればそうなったかもしれない。  
 しかし、あなたの断り方はそうでなかった」  
……どう断ったかは知らないがよくやった、過去の俺。それと、付き合ってる女への断りの言葉など聞きたくないから言わないで良いぞ、長門。  
「だがその結果、涼宮ハルヒはその事に無意識下で不満を覚え夏休みを繰り返させた」  
つまり5回は俺の宿題が原因では無かった訳か。……俺が原因に深く関わってるのは変わり無いがな。  
 
「……なるほどな。わざわざ訊ねてすまなかったな、長門」  
これで疑問が消えた。俺はそう言ってその場を立ち、玄関に向かう。  
しかし、靴を手に取ろうとしたその時。  
「待って」  
という長門の声が聞こえた。振り向くと長門が俺の後ろに立っている。  
「あなたがあの時から変わっている様に私も変わっている」  
確かに、長門も少しずつだが変わってきている。最初に出会った頃と比べればその差は歴然だ。  
というか、自分で自覚していたのか長門。  
「私は涼宮ハルヒがあなたに告白する時、形容し難い気持ちを抱いた。そしてあなたがそれを断った時、何故か安心感を覚えた」  
唐突に、長門がこの後何を言うか分かった様な気がした。  
「しかし、時が経った今ならあの時理解できなかった事も理解できる」  
どうか俺の予感よ、外れててくれ。  
「私は」  
頼む。頼むから。  
「あなたが」  
外れていてくれ。  
「好き」  
 
そう言われた瞬間、予感通りとは言え、頭の中が真っ白になった。  
嬉しくない訳では無い、むしろ嬉しい。しかし俺には既にハルヒがいる。  
「すまん長門」  
そう言って長門に背を向けて再び靴を取ろうとする。  
しかし、またしても俺が靴を取る事はできなかった。  
何故ならば、長門が抱きついてきたからだ。  
「あなたが涼宮ハルヒの告白を受け入れた時、私は嫉妬した」  
俺は、身動きしない。黙って長門の言葉を聞いている。  
「どうして私じゃ駄目なの?」  
俺は答えない。長門の細い腕が俺の胸のあたりに来る。  
長門の声がどこか小さくなっている様な気がするのは気のせいか?  
「抱いてくれるだけでも良いから」  
魅力的な話だ。それを受け入れれば俺は凄い快感を得られるだろう。  
だが、それをする事は許されない。『据え膳喰わぬは男の恥』というが、そんな物クソ喰らえだ。  
昨日より前の事だったら受け入れるかもしれないが、ハルヒの告白を受け入れた以上、ここで長門の告白を受け入れる事も、抱く事も許されない。  
抱いてしまえば俺は間違いなくその関係をそのまま引きずり続けるだろう。  
ハルヒにバレなければ良いかもしれない、だがバレる時は必ず来るのだ。  
その時、必ず長門もハルヒも傷つける事になる。  
俺の本能は今にも長門を抱きしめそうになっているが、理性をフル動因して本能を押さえ込む。  
「すまん」  
俺は一言、そう言った。  
本能に任せて良い時もあるだろうが、今はそうでない。  
理性と本能が激しくぶつかり合う中、俺は長門の腕を掴んで降ろす。  
長門の腕を掴んだ時、思わず本能が理性をねじ伏せそうになったが何とか踏ん張った。  
俺がその場から動くと長門は、今度は何もして来なかったし言わなかった。  
長門が自分の想いを正直に告げているのに、それを断る事に俺の心が痛む。  
 
そして俺はそのまま靴を履き、外に出、何も言わずに扉を閉めた。  
扉が閉まる音がやけに大きく、響き、冷たく聞こえた。  
長門の方を向く気にもなれなければ、声をかける気にもなれなかった。  
扉を閉めた後、俺は扉を見つめる。何故か長門の声が聞こえてきそうに思え、すぐに目を逸らして歩き始めた。  
確信は無いが、恐らく長門は泣いていたんだと思う。そんな事が頭にある以上、俺は何もできなかった。  
 
 
俺が集合場所である、ハルヒから告白を受けた公園に行くと、随分早い時間にも関わらず、ハルヒがいた。  
「あら、随分早いわね」  
ハルヒは公園の一番奥のベンチに座っていた。お前も十分に早いだろうに。  
「何かあったの?」  
あまり明るい気分じゃ無かったが、交際開始2日目で約束を破る訳にも行かずに俺はハルヒの方へ歩いて行く。  
「別に何も無いさ」  
俺はそう言いながらベンチに座り、ついさっきの事を思い出す。  
俺に告白し、俺に断られ、恐らく泣いていただろう長門。  
「……キョン?」  
気が付くと、俺は泣いていた。  
「どうしたの、急に?」  
ハルヒが少し慌てているが、気にならなかった。  
間違いなく俺は長門を傷つけただろう。長門を受け入れても傷つけただろうが、傷つけたのだから変わりない。  
どうして、繰り返される夏休みの時みたいにハルヒを断った様な言い方ができなかったのだろうか。  
覚えていないので仕方無いかもしれないが、それでも後悔の念は残る。  
「どうしたんだろうな…………」  
泣いたのなんて何時ぶりだろう。大分泣いてなかった気がする。  
俺は長門を護ると近いながら、長門を傷つけてしまった。  
言い訳になるだろうが、俺には既にハルヒがいるし、あの時どうしようとも結果的に長門を傷つけていたに違いない。  
もし長門がこれでまた暴走したとしたら、それは完全に俺の責任だ。弁解の仕様が無い。  
 
「…………」  
気が付けば、俺はハルヒに抱きついて泣いていた。  
ハルヒはそんな俺の頭を黙って撫でている。  
男として情けないかもしれないが、そうでもしないとどうにかなりそうだった。  
長門は、これからどうするのだろう。恐らく、長門個人において、SOS団において何かが変わるだろう。  
閉めた扉の向こうで泣く長門。  
SOS団の活動に行きたくない、というより俺の顔を見たくないかもしれないが観測者である以上、それを許されずに再び泣く長門。  
それが原因で再び世界を改変させる長門。もしかしたら自分を自分で消すかもしれない長門。自分に感情が芽生えた事を恨み涙する長門。  
それを考えると、俺の涙の量はさらに増えた。辛い、辛すぎる。分かっていたとは言え、こんなに辛い物だとは。  
長門に殺されてももちろん文句は言えないだろう。  
 
 
本当にすまない、長門。  
こんな事を言える立場じゃないのかもしれないが、俺はそう思った。  
俺のこの辛さなんて、長門に比べればどうという事はないのだろう。  
本当にすまない、長門。  
ハルヒを選んだ以上、俺はハルヒと付き合い続けるしか無い。  
そのせいで傷つけた長門の為にも、俺は一生ハルヒを大事にし続ける。  
それが、長門を傷つけ、ハルヒと付き合う事を選んだ俺がするべき事だろうから。  
 
 
                           ―END−  
 

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