SOS団恒例の市内パトロール。  
今日も今日とて待ち合わせ場所に着いたのは俺が最後であり、  
「遅いわよ、バカキョン!」  
などとハルヒに罵られるのもいつも通り。  
とっくにパターン化されてしまっているお蔭で今更腹も立たないのは、  
さて、いい傾向なのか悪い傾向なのかどっちだ? 誰か教えてくれ。  
「今日のお茶とお昼もあんたの奢りよ! わかってるんでしょうね!?」  
あー、わかっているさ。  
ハルヒの怒声を適当に聞き流しつつ、俺はすでに集まっていた他の面々を見回した。  
どんな服でもむかつくくらいに着こなしちまう古泉のことは置いといて、  
ピンクを基調に揃えた朝比奈さんの服装は今日もこの上なく素晴らしい。  
このお姿を拝見するために、  
わざわざ休み返上で集合していると言っても過言ではないね、実際のところ。  
ああ、ついでにハルヒも、見てくれだけなら水準以上だ。そこだけは認めてやるさ。  
そして長門はいつも通り――いつもどお……り?  
「…………」  
ハルヒの横に茫洋と突っ立っている小柄な宇宙人製アンドロイドを見て、  
俺は束の間言葉を失った。  
だってそうだろう?  
こいつが制服以外の服を着ているところなんて、  
そうそう滅多にお目にかかれるもんじゃないぜ?  
白一色の中、隅の方に花柄のワンポイトをあしらったワンピースは  
確かに長門によく似合っているが、さてこれは一体どういう心境の変化だ?  
以前にこいつが私服を着用していた場面というと  
真っ先に思い起こされるのはあのSOS団夏合宿だが、  
今日の予定はいつも通りのパトロールで間違ってないよな?  
「……キョン? あんた、何さっきから有希の方ばっか見てるのよ?」  
どことなく不機嫌そうな声で横槍を入れて来たのはハルヒだ。  
そりゃお前、長門がいきなりこんな格好してたら、驚いて見ちまうのが当然だろ。  
俺はそう反論したが、  
ハルヒは遠足の日に間違ってランドセルを背負って来た同級生を見るような目で、  
「はぁ? あんた何言ってんのよ? 有希は先週だってこの服で来たでしょ?」  
……何? なんだって?  
俺は先週の記憶を脳内から呼び起こす。  
たった七日前のことだ。即座に思い出せないほど俺はボケていない。  
そうして想起された映像の中では――  
長門は間違いなく、学校で見るときと同じセーラー服姿だった。  
ハルヒ、お前なんか勘違いしてないか?  
「失礼ね! 勘違いしてるのはどっちよ!  
古泉くん、みくるちゃん! このバカに言ってやりなさい!  
有希は先週も私服で来てたわよね!?」  
ハルヒの物言いにつられる形で、俺は視線をその二人へ。  
そして二人の口から出てきた言葉は、  
「涼宮さんの仰る通りですね。長門さんは先週もその服装でしたよ。  
新鮮でしたのでよく覚えています」  
「え、えと、はい。あたしも、そうだったと思います」  
……おいおい、こいつはどういうことだ?  
俺の頭がどうかしちまったのか?  
さっきも言ったが、俺は一週間前の出来事を忘れるほど耄碌してないぞ。  
長門のこの服を、俺は初めて見る。それは確かだ。  
それとも何か? こいつら、グルになって俺を嵌めようとしてるのか?  
 
俺は視線を朝比奈さんへ。  
このお方は他の連中ほど神経が太くない。  
わかりやすく言えば、嘘が顔に出やすいということだ。  
だが、  
「……キョンくん? 大丈夫ですか? どこか具合でも……?」  
真剣に気遣ってくれる朝比奈さんに、特に不審な点はない。  
なんだ? 本当に俺の記憶違いだってのか?  
「もういいでしょ、その話は。とりあえずお茶よ。  
あんたもコーヒーでも飲んで目を覚ましなさい」  
ハルヒの先導で、俺たちはいつもの喫茶店へ。  
途中、一度だけ長門と目が合ったが、  
「…………」  
そこからはなんの主張も読み取れはしなかった。  
 
別にハルヒに言われたからってわけではないが、俺が頼んだのはブラックコーヒーだ。  
その香りと苦味を味わい、カップがそろそろ空になろうかという頃、  
ハルヒがいつもの組み分けを決めるクジを作って俺たちに差し出して来る。  
結果は、  
「あたしとみくるちゃんと古泉くんで一組……キョンと有希がペアね」  
ふむ。第一回の市内探索を思い出すな。  
この組み合わせになるのって、案外久しぶりなんじゃないか?  
と、俺は内心でそう思っていたのだが、ここでもまたハルヒはおかしなことを言い出した。  
「またこれ? 先週もそうだったじゃない。あんた、何か仕組んでるんじゃないでしょうね?」  
お前が作って俺が一度も触れていないクジで、どうやってズルをするんだ。  
というか、問題はそこじゃない。「先週も」だと?  
「おい、待て、ハルヒ。  
確かにこの組み合わせは以前にも何度かあったが、先週はそうじゃなかっただろう。  
長門と組むのは久しぶりだぞ?」  
俺が言うと、  
ハルヒは何度教えてもかけ算の一の段すら覚えられない生徒に苛立つ教師のような口調で、  
「あんたまだ寝ぼけてるの? 先週もこうだったでしょうが。間違いないわ」  
そんな馬鹿な。本当に俺はどうかしちまったのか?  
救いを求めるつもりで、俺は残りの団員に目を向ける。  
まさかまた――と、嫌な予感はしていたのだが、しかし今回はその予感は外れてくれたらしい。  
「いえ、先週は午前も午後も、この組み分けにはならなかったと思いますが」  
「そう……ですよね。えっと、確か……午前はあたしと涼宮さんと長門さん、  
午後はあたしと古泉くん……だったと思います」  
そう、それだ。朝比奈さんが言った組は、まさに俺の記憶にあるのと同じ。  
確信を得た俺が、改めてハルヒの顔を窺うと、  
「……あれ? 本当に? おっかしいわねぇ。あたし、いつと勘違いしてたのかしら?」  
いかに傍若無人を絵に描いたようなハルヒと言えども、  
三対一ではさすがに自信を保てなくなるらしい。  
そうだ、お前の勘違いだ。ついでにさっきの一件も詫びろ。  
「そこはあんたの方がおかしいんでしょうが」  
「僕も同感ですね」  
「あの……ごめんなさい、キョンくん。あたしも……」  
……なるほど。三対一では自信が保てなくなって来るな。  
ところでその間、一言も発しなかった長門はというと、  
「…………」  
相変わらず無機質な目つきのまま、ストローに口をつけて安っぽい炭酸水を啜っていた。  
 
ハルヒたちと別れ、長門と二人になってから。  
「……長門」  
いくらも歩かない内に、俺は立ち止まって切り出した。  
三歩ほど先を行っていた小柄な後ろ姿が、そこでぴたりと静止する。  
それを確認し、俺は気になっていたことを訊いてみた。  
「さっきのあれはなんだったんだ? おかしいのは俺か? ハルヒか?  
お前、何か心当たりはないのか?」  
停止した姿がその場で振り向く。  
身長差のために若干上目遣いで俺を見る長門は、  
おそらく本日初めて会話のために口を開き、たった一言、  
「ある」  
……あるのかよ。  
だったらなんでもっと早く……って、そりゃハルヒがいたからか。  
あいつの前で宇宙だ未来だ超能力だの話はご法度。これは俺たちの不文律だ。  
さて、じゃあそのハルヒの姿もないことだし、ここで改めて訊こうか。  
今度は一体なんの騒ぎなんだ?  
「…………」  
尋ね直した俺に対し、返って来たのは毎度お馴染みの三点リーダ。  
しかし平時には確かに「お馴染み」と言える対応だが、  
有事の際にこいつが即答しないとは珍しいな。  
何かよほどややこしい事態になっていて、説明するための言葉でもまとめてるのか?  
そんな風に考えた俺は、しばし黙して長門の次の言葉を待ち、  
そして待った結果もたらされたのは、実に意外にもこんな言葉だった。  
「……言いたくない」  
……はい? なんだって、長門? 悪いがもう一度言ってくれ。  
「言いたくない」  
本当にもう一度言いやがった。それも、最初よりはっきりと。  
あー……長門。それはどういう意味だ? なぜ俺に言えない? 俺が知ったらまずいことか?  
「ある意味では、そう」  
なぜだ? 理由くらい教えろ。  
「それも、言いたくない」  
「…………」  
あまりにも予想外の対応に、二人して黙り込むしかなくなる。  
おいおい、俺はハルヒじゃないぞ?  
あいつと違って、宇宙やら未来やら超能力やらの話には、すでに免疫ができている。  
それが歓迎すべきことかどうかは知らんが、今更俺に隠し事もないんじゃないか?  
「…………」  
それでも長門は無言だ。仕方ない、攻める角度を変えてみるか。  
「長門。だったら一度、話を最初に戻そう。  
お前のその服、俺は初めて見るような気がしてならないんだが、実際のところはどうなんだ?」  
「言いたくない」  
「…………。まあ、それはいいだろう。  
じゃあその服を着るのが何度目なのかは問わないことにするとして、  
そもそもなんでいつものセーラー服をやめたんだ?」  
「言いたくない」  
「…………。服については置いておこう。次だ。  
ハルヒは先週も俺とお前がペアになったと言ってたな?  
 しかし俺や朝比奈さんはそうじゃないと主張した。正しいのはどっちだ?」  
「言いたくない」  
「…………」  
 
弱ったな。こんな長門は初めてだ。俺の与り知らないところで、一体何が起きてるってんだ?  
と、口を閉ざしてしまった俺の顔がよほど深刻そうに見えたのか、  
長門はその無機質な声音にほんの少しだけ気遣うような色を混ぜて補足。  
「……心配は要らない。あなたは何も知らなくていい」  
そう言われても意味がわからん。  
わからんが……こいつがそう言うからには、実際その通りなんだろうな。  
俺は長門を信頼している。  
こいつが言いたがらないってことは、それは俺が知る必要のない情報に違いない。  
だったらここは黙っておこう。  
無理矢理聞き出して事態が悪化でもしたら洒落にならん。  
それ以前に、この万能宇宙人から「無理矢理聞き出す」なんて芸当が俺にできるとも思えんが。  
ということで、この話はここで終わりだ。  
今日のところは黙って不思議探しの真似事でもしておくかね。  
と、その前にもう一つ、言っておくことがあったな。  
「長門」  
再び名を呼ぶ。  
長門が改めて俺を見る。  
その全身を視界に捉え、俺は言ってやった。  
「似合ってるぞ、その服」  
「……そう」  
心なしか少し嬉しそうに見えたのは、俺の目の錯覚ではないと信じたいね。  
 
二日後の月曜日。  
また今日から一週間勉学に励まねばならないという  
週明け特有のブルーな気分で学校への坂道を黙々と登っていると、  
「よお、キョン。見たぞ見たぞ、お前も隅に置けねぇな」  
後ろから追いついて来た谷口が、脈絡もなくそんな風に絡んで来た。  
こいつのこの無駄なテンションはなんなんだ。  
いや、それよりも、見たって何をだ。  
「とぼけるな。お前、一昨日、あの長門有希とデートしてただろ?」  
毎度毎度こんな話題にだけ敏感な奴だな。しかしそろそろ学習しろ。  
それはお前もよく知るあのハルヒによって強制された、SOS団的活動の一環だ。デートじゃない。  
「ほお、しらばっくれるか。けどな、俺はこの目で見たんだぜ?  
あの長門が、映画撮影のときでさえセーラー服の上に衣装を着てたあの長門が、だぞ?  
一昨日は私服でお前と歩いてたじゃねぇか。びっくりして声をかけそこなっちまったよ」  
なるほど。確かに気持ちはわからなくもない。俺もあの私服には驚いたからな。  
でもな、それだけでデートと断定するのは、ちょっと早計すぎやしないか?  
俺はそう反論するが、谷口はさっぱり聞いちゃいない。  
「そう言えば今思い出した。確か長門と同じクラスの奴が、  
前の週の土曜にも私服でデート中の長門を見たとか言ってたな。  
そんときはガセだと思って相手にもしなかったが、今になって考えてみればあれもお前か」  
……なんだと? 先週――いや、今日が月曜だから、先々週か。  
そのときにも長門が私服だったって?  
……いや、まあ、そこはいいとしよう。  
そのとき「長門がセーラー服だった」と主張しているのは、どうやら俺だけらしいからな。  
釈然としないものはあるが、私服については百歩譲って認めよう。  
だが――デートに見えた、だと?  
おかしいじゃないか。その日長門は、一度も誰かとペアにはなっていないぞ。  
午前も午後も、常に三人組の方に入っていたはずだ。  
これは俺も朝比奈さんも、ついでに古泉もそう言っている。  
言ってなかったのはハルヒだけ……ん? ハルヒだけ?  
 
「あー、畜生。それにしてもお前はいいポジションにいるよな。  
長門に、朝比奈さんに、顔だけなら合格点の涼宮だ。  
うちの学校でミスコンでもやったら、どいつも上位入賞間違いなしな面子だぞ?」  
延々とぼやき続ける谷口は無視だ。  
今、何かが頭に引っ掛かった。なんだ? 俺は何が気になってる?  
ハルヒだけ……ハルヒだけが主張したから、なんだってんだ? 考えろ、俺。  
「あの三人に対抗できそうな女生徒と言ったら……駄目だな、すぐには思いつかん。  
あーあ、転校さえしなけりゃ、朝倉辺りがいい対抗馬になってただろうに」  
谷口が不意討ち気味に持ち出して来た名前に、俺は反射的に思考を中断させてしまった。  
……朝倉か。いかんな、どうにもその名前が出て来ると、連鎖反応で嫌なことを思い出しちまう。  
何しろ俺は、あいつに二度も殺されかけたんだからな。  
まあ、一度目は結果的に大したことがなかったわけだが、  
二度目は実際に刺されて入院までする羽目になったんだ。無理もないよな。  
いや、正確に言うと、入院の理由は階段落ちだったか? まあどっちでも大差ないが。  
……待てよ? 朝倉?  
朝倉と言えば、あいつは確か――  
――……そうか。そういうことか。  
俺だけが知らなかった長門の私服。  
ハルヒだけが先週と同じだと言った俺と長門のペア。  
その理由に心当たりがありながら、俺には教えてくれなかった長門。  
それら三つを繋ぐ答えに、ようやく手が届いた気がした。  
しかし飽くまで「届いた」だけだ。それが正解だという確証はない。  
……だったら、訊きに言ってみるか。知ってそうな奴のところへさ。  
「あ、おい、キョン! なんだ、急に?」  
呼び止める谷口を振り切るように、俺は坂道を登る足を速めた。  
 
長門の服のこと。組み分けのこと。  
たった一週間前のことだというのに、どっちも俺たちの間で意見が分かれた。  
これはつまり、「何者かが俺たちの記憶を改竄した」と捉えるのが一番自然なんじゃないか?  
何者の仕業か――という話は、今は置いておこう。  
問題は、改竄されたのが誰で、正しいことを言っていたのは誰か、だ。  
谷口は言っていた。  
先々週も長門は私服で、しかも誰かと二人で歩いていたと。  
この証言は谷口と、名も知らぬ長門のクラスメイトAからの伝聞を総合したものだ。  
仮にハルヒ絡みでまた厄介なことが起きているとして、  
無関係なこいつらまで記憶をいじくられているとは考えにくい。  
まあ、その可能性もゼロだとは言わんが、そこまで疑っていたのでは話が先に進まん。  
とりあえず、この意見は正しいものとして扱おう。  
だとすれば一昨日、一貫して「正しいこと」だけを言っていたのは――  
「…………」  
そんなことを考えている内に、俺はいつものSOS団部室の前まで辿り着いていた。  
まだ始業前だ。この時間から朝比奈さんが着替えをしているということはあるまい。  
ノックをせずに遠慮なくドアを開ける。  
中には俺の予想通り、窓際の定位置で読書に励む本好き宇宙人の姿が。  
まるで、俺を待ってたみたいに。  
 
「……長門。訊きたいことがある」  
呼びかけると、長門は無言で顔を上げた。  
感情の読みづらい、しかしなんの感情もこもっていないというわけでもない視線。  
それを正面から受け止め、俺は言葉を繋ぐ。二日前と同じ質問を。  
「お前のあの私服、俺が見たのは一昨日が初めてか?」  
「言いたくない」  
「なんでセーラー服を着て来なかった?」  
「言いたくない」  
「先々週のパトロールの組み分け、俺とお前はペアになったか?」  
「言いたくない」  
……ふむ。ここまでは一昨日と同じだ。  
確認も終わったことだし、そろそろ核心に入らせてもらおう。  
「なぁ、長門。質問を変えるぞ」  
もう一度名を呼んで、俺はその問いを発した。  
 
「――なんで、俺や朝比奈さんの記憶を操作した?」  
 
「…………」  
無言。  
だがそれは、さっきまでと同じ沈黙ではない。  
ほんの少し、ほんの少しだけ、動揺するような空気が伝わって来る。  
やっぱり、こいつの仕業だったか。  
 
“はぁ? あんた何言ってんのよ? 有希は先週だってこの服で来たでしょ?”  
“またこれ? 先週もそうだったじゃない。あんた、何か仕組んでるんじゃないでしょうね?”  
 
服と、組み分け。  
両方について正しいことを言っていた人物は唯一人――ハルヒだ。  
言い換えればその「記憶を改竄した何者か」は、  
ハルヒだけには手出しできなかった、ということになる。  
ここで長門の役割について思い出してみよう。  
あいつはハルヒの「観測者」だ。  
そして観測者とは、読んで字の如く観測を行う者だ。それ以上でも以下でもない。  
ならば、物理的か精神的かを問わず、  
観測対象に直接干渉するような真似は許可されていないだろう。  
それは他ならぬ長門自身が消滅させた、あの朝倉のやり方と大差ないからな。  
そしてこれが得体の知れない第三者の攻撃だというのなら、ハルヒだけが無事である理由がない。  
つまりハルヒだけが干渉を受けなかった時点で、最も疑わしいのは長門――お前なんだよ。  
「…………」  
ここまで言っても、長門は飽くまで無言を貫く。  
それは俺の推論を肯定しているのも同じだが、意地でもその「理由」だけは言わないつもりか。  
しかしこの長門が「意地」とはね。ずいぶんと人間らしくなったじゃないか。  
その点については喜んでいいのかもな。  
「……なぁ長門。俺は別に責めてるわけじゃないんだ。  
お前がそうするからには、何か相応の理由があったんだろう?  
もうネタは割れちまったんだから、教えてくれてもいいんじゃないか?」  
「…………」  
やはり反応なし、か。  
しかし実のところ、俺はその「理由」にもある程度見当がついてしまっていたりする。  
ただ、まあ、なんだ。  
それを俺の口から告げるのは、思い上がりというか自信過剰というかその……  
ええい、ここまで来たら言ってしまえ、俺。  
 
「……長門。俺がこれから言うことには、とんでもない勘違いが含まれているかもしれん。  
だから、違うなら違うと指摘してくれ。頼むぞ」  
我ながら情けないことだが、これは外したときの保険だ。  
そこで一度言葉を切り、軽く深呼吸してから、告げる。  
 
「長門。お前、俺にあの服を褒めてほしかったんじゃないか?」  
 
先々週の土曜日。  
何かの気紛れで、長門があの私服姿で現れたのはもう間違いない。  
そしてその日、ペアになった俺は、多分長門に言ったんだろう。  
「似合ってるぞ、その服」と。  
その言葉をもう一度聞きたかった長門は、俺から該当する記憶を奪った。  
覚えてたら、わざわざ同じことを二度は言わないだろうからな。  
そして組み分け。  
長門ならクジでズルすることなど造作もないが、  
いつも俺とばかりペアになっていては周りの連中に怪しまれる。  
そこで朝比奈さんと古泉にも記憶操作だ。  
ハルヒにだけは手を出す権限がなくとも、俺も含め三人が言いくるめれば力技で誤魔化せる。  
もしかしたら先々週や先週に限った話でなく、  
俺と長門のペアは自分で記憶しているより遥かに多いのかもな。  
俺も朝比奈さんも古泉も覚えていないだけで。  
さあどうだ、長門? 以上が俺の推理だ。  
言ってる俺も恥ずかしいんだから、イエスでもノーでも何か答えろよ。  
「…………」  
そんな俺の願いも空しく、長門は静かに席を立った。  
言うべきことを言い尽くし、もはや言葉もない俺の横を素通り。  
ドアに手を掛け、押し開ける。  
……おいおい、放置かよ。本格的に間抜けじゃないか、俺。  
気がつけば、始業のチャイムが鳴り始めていた。いかんな、俺も教室に戻らねば。  
頭を掻いて、部屋の出口を振り返る。  
今まさにそこから廊下に出て行くところだった長門は、  
一瞬だけ俺と目を合わせてぽつりと一言。  
多分この世界で俺にしか見分けられないくらいの、  
限りなく微小な照れを表情に乗せて、  
「……違わない」  
 
       終わり  
 

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