〜if story〜  キョンの告白  
 
#6『すべてが終わったときに〜』……  
俺は、きっと最後の指令であろう朝比奈さん(大)の手紙をポケットに入れ自転車走らせていた  
 
あの日、八日後の未来から来た朝比奈さん(小)と駆け回った日々を思い出しながら俺は考えていた  
合計で三回も行かされた鶴屋さん所有の山と石の事  
空き缶で作った悪戯で怪我をした男性の事、花壇に落ちていた(いや正確には拾われていたが)記憶媒体の事  
池に落としてすぐ拾い上げた亀と少年の事……うぅぅむぅぅ……  
さっぱり解らん。やはりこんな一高校生風情では及びもつかない事情があるんだろう……きっと  
……まあ、いいさ。これからそれをはっきりさせに行くんだからな  
これから話を聞いて、後は明日の四時十五分に朝比奈さんを過去に送れば、すべて終わる  
と、まるで将棋で「必至」を取った気持ちでいた、失敗しなければ次の「王手」で「詰み」のはずである  
 
しかしこの時俺は手紙の違和感にまだ気付いていなかった  
あれだけ「時間」と「場所」の指定だけは、きちんとしていた(内容はこの際置いておく)  
最後の手紙に「場所」だけしか書かれていなかったことに……  
 
こうして、最後のチェックポイントである長門のマンション近く、公園ベンチに着いた俺は辺りを見回した  
当然公園は無人で、ベンチにも先客はいない、どうしたものかと思ったが構わずベンチに座り  
「そこにいるんでしょう……朝」  
と虚空に声を掛けたその瞬間、後ろからガサガサと音を立て…………  
 
……涼宮ハルヒが現れた……  
 
……ちょっと待て、なぜここにハルヒが居る?ハルヒの家は別方向だし、時間が時間だ  
こんな夜に無人の場所に潜伏して何かやらかす……奴だったなこいつは。  
いやしかし待て、よしんばハルヒがここで何かしようとしていたとしてだ  
ハルヒとの接点が全くないこの場所で、俺と偶然にも遭遇する確率はいかほどのものか……  
俺の無言の間をどう解釈したのかわ知らないが、ハルヒは非常にバツの悪い顔をしている  
まるで小学生が出来の悪かったテストを必死に隠している正にその時に母親に出くわしたときの顔だ  
しかし忌々しくもこいつは成績優秀なんだからこんな比喩使っても理解できないかも知れんな  
とか思いつつ、俺は至極当然な質問をハルヒにぶつけた  
「なぜここに居る?」  
すると、ふんっと横を向いてからハルヒは答えた  
「いちゃ悪い?今有希のマンションからの帰りよ」  
 
ハルヒの説明によるとこうだ  
俺たちのチョコを作った折に後片付けまで手が回らなく、長門のキッチンはそのままにして来たらしい  
そしてチョコを渡し終わってから、長門の部屋に再集合、キッチンの整理を行ったというわけだ  
しかし流石に連日の疲れに慣れない作業が堪えたのだろう、有希に少しだけ休んでも良いかと尋ねると  
「こっち」とだけ言い、以前俺と朝比奈さんが三年間時を過ごした(といっても体感は一晩だが)あの部屋に  
布団を一組しき、ハルヒと朝比奈さんは仮眠をとったそうだ  
そしてさっき目を覚ますと、横にはすやすやと寝息を立てる朝比奈さん、その寝顔はあまりにも気持ちよさそうで  
起こすのが憚られた、それで有希に後のことをお願いして部屋を出た、とはハルヒ談  
解る、解るぞその気持ち。あの方の寝顔はそれはもう天使のようなオーラを纏っているからな  
そこで、すこし口を挟んだ  
「お前も長門の部屋に泊まれば良かったんじゃないのか?」  
「最初はそれも良いかなと思ったけど、有希は一人暮らしじゃない。もちろん布団も一組だけ」  
あぁなるほど、確かにあの布団なら二人は余裕だが三人入るには少し手狭だ、しかもすやすやと眠る朝比奈さん付き  
「そういうこと、有希も「別にいい」って言ってくれたけど体力も回復したし、あの子も表には出さないだけで  
きっと眠かったに違いないわ!」  
あの長門が眠たそうな表情を出すとは思えないが、ハルヒがそう思ったのだからそういうことにしておこう  
なるほど、諸所の事情は大体掴めた、確かに納得できる内容だったしな  
 
「だが、部屋を出たお前が、なぜベンチの裏に潜む必要がある?」  
と俺が聞くとハルヒはまた先ほどのバツの悪い顔を見せ、しばらく俯いた後小声で  
「……だって……あんたが……こっちに向かう姿が…………見えたから……」  
「するとお前は、俺に姿を見せないようにしないとまずい事でもあったのか?」  
「だって、こっちには有希の部屋くらいしか、あんたの行きそうな場所がないじゃない!てっきり有希の部屋に向かうんだって」  
「だから最初は公園であんたをやり過ごして、後ろから尾行して、有希にちょっかい出そうとした瞬間に飛び出そうと……」  
しかし、実際はそうではなかったと  
「そうよ、・・あんたはまるでここが目的地みたいに減速し出したから、びっくりして思わずベンチの後ろに隠れたわ」  
しかし俺はあたかも、お前の場所を知っているぞと言わんばかりの行動を取った、ように見えたんだろうなこいつには  
「だから、始めからあんたも私を見つけてたんだと思って出てきたわけ。違った?」  
ここで、「いや実は朝比奈さん(大)と待ち合わせていた」なんて口を滑らせることはしない  
というか、長門ならまだしも、ハルヒがこの場に居ると、例え朝比奈さん(大)が近くに居たとしても出てこないだろう  
すると『すべてが終わったときに〜』とは何時になるんだ?……と考えていたが……  
ハルヒが若干瞳を震わせてこっちを見詰めている「どうなの?」と言いたげな瞳だ。  
……やばい、まじで可愛い、普段の笑顔も十分魅力的だが、こんなふと見せる顔もやばいくらい魅力的だ  
 
「いや、お前を見つけたから公園に入った」そう答えると  
「……じゃあ、もし私を見なかったら、有希の部屋に向かってたの?」  
ハルヒは困惑とも疑問ともつかない口調で聞いてきた  
俺の意図とは全く違うのだが、何とか誤魔化さなくてはならない、しかもハルヒも納得するような形で  
先ほどまで、別のことで頭をフル回転させていた事が、功を奏した、俺は瞬時にこの場を切り抜ける案を思いついた  
「実は、さっき長門から電話を貰った」  
「ふぅん……やっぱり……」  
ハルヒの目が俯く、明らかに暗くなっていくのが解ったが、ここは話を続けることを選択した  
「続きを聞け、その内容だが、お前もてっきり泊まるものだと思っていたが、予想を覆し、部屋を出て行った」  
「だって布団が……」  
「聞け、あいつの部屋のど真ん中に鎮座しているのは何だ?」  
「…………コタツ……」  
「そう、あいつは自分はコタツで眠るつもりだったと言っていた、すぐ追いかけて説明しようとしたが、お前は長門に頼んだ」  
「……みくるちゃんをよろしくって……」  
こちらの言葉を読み取ったのか先に言われたが、まあいい  
「それで自分は動くことが出来ないがお前のことも心配だから、見つけてくれ、きっとまだ近くに居るって内容だ」  
「それで公園に差し掛かったところで、見つけたわけね」  
流石に頭の切れがいい、と感心しつつ、俺は携帯を取り出し電話を掛け始める  
「どこに掛けてるの?」  
「決まってるだろ、長門の部屋だ、俺は お ま え を探してたんだぞ、きっと長門も心配してまだ起きているはずだ」  
「そ、そうよね……後で良いから私にも替わってね、自分の口で謝りたい」  
「それがいい」  
と答えつつ、俺は内心焦っていた、全く事情を知らない長門にハルヒの目の前でぼろが出ないかと。  
と二回ほどコール音が聞こえた後、それが杞憂に過ぎないことを理解する  
 
「大丈夫、理解してる」  
長門から発せられた第一声がこれだ、つくづくあいつに不可能なことはないんじゃないかと思えてくる  
しかし、ハルヒの居る手前、さも状況説明しておかないと、後が困ると判断した俺は  
「ああ、長門か……うん、大丈夫だ……気にするな……解ってる……あぁあとハルヒに替わる」  
受話器の向こうの長門は俺の一人芝居に一切突っ込まなかった、いや突っ込まれても困るのは俺だが、しかし替わる直前  
「頑張って」と一言  
今更何を頑張れと言うのだろう?この宇宙人端末は、表情も見えれば、推測も出来たがいかんせん電話だ  
「うん、有希ごめんね……、でもごめん心配掛けて・・・………」  
ハルヒが謝っている横で考えたが、流石に俺の脳みそも連続使用に限界が来たらしい、深く考えないことにした  
「はい、終わったわ」  
と電話をつき返してくるハルヒ、ほんの少しだが明るさも戻ってきてるように見える  
「よし、それじゃあ帰るぞ」  
「ふぇ?」  
「お前なぁ、ここに来て、じゃあねって別れたら、俺が来た意味無いだろ」  
俺は続ける、後で思い返すと、ここからの俺はいつもの俺じゃなかった  
「こんな夜遅くにお前みたいな可愛い奴見たら俺でも襲うぞ、全く……あっ」  
しまった、と赤面しつつハルヒを見ると、ぽかんと口を開けて、放心しているようだ、  
 
もしもーしハルヒさん?  
 
どのくらい待っただろう、やっとハルヒが口を動かすと  
「今……キョン……私のこと可愛いって……」  
そっちかよ……しかしお前にはたまに「面がいいから〜」とか言っていただろうに  
まあ、もちろん本人の目の前で「可愛い」とは言ったことが無いが、、、  
半分照れ隠しだが、2月の夜だ、やはり寒い、早く動き出そうと俺はハルヒをせかした  
「行くぞ」  
「う、うん」  
それからしばらくハルヒと二人で夜道を歩いていると、先ほどまで黙っていたハルヒが口を開いた  
「ねぇ、キョン……聞いていい?」  
「何をだ?」  
質問はあらかた解っていたが、確認するように聞く  
「お願い……真面目に答えてね」  
そう言われて、俺は押していた自転車を止め、スタンドを立ててハルヒに体を向け、その瞳を見た  
これ以上ないくらい真剣な瞳に、嘘や誤魔化しが通用しないことを直感した  
「…………有希の事…………好き?……」  
 
 
さて、そろそろ自分にも嘘をつくのはやめようか。いい加減気付いているんだろ、、、俺  
そうお前だ、お前の中でのSOS団の三人の位置づけは全て異なっているはずだ  
俺は……決心して答えた  
 
「好きという感情よりも、信頼のほうが大きい、あいつには色々と世話になったし、  
もしあいつに協力してくれと頼まれたら、俺は自分なりの全力で協力したい」  
相棒、という表現が適切なのか?しかし現実ってのは厳しい、いつも頼りっぱなしだ、とは流石に言えなかった  
「そう……じゃあみくるちゃんは?……好き?」  
「彼女には、好きという感情よりもむしろ憧れのイメージが強い、テレビのアイドルを生で見てる感じだ  
恋愛感情よりも羨望意識が上だ。それに守ってやりたい存在でもある」  
この気持ちも本当だ、先日の誘拐事件で再確認出来た気持ち……  
「じゃあ…………ぁ……あたしは?……どう?…………好  
とまで言いかけて、ハルヒの口が止まった、、、いや正確には「止めた」  
なぜなら俺がハルヒを抱きしめたから  
「ちょ……ちょっと……キョン……」  
俯き加減だったハルヒは困惑している。無理もない、こんな事したの、閉鎖空間の時以来だからな  
「お前は、いつも俺やみんなを振り回して、好き勝手やってくれる、たまに迷惑を掛ける」  
本音は「いつも」と言いたかったがやめた  
「でもな、俺はもう、お前無しの生活なんて嫌だ。もちろんSOS団の無い生活も嫌だ」  
これも、実際体験して身に染みた事である、みんなが消失した冬のあの事件のおかげではっきり理解させられた  
「これからもずっと傍にいて欲しい」  
偽り無い、俺の、本音……………………心の奥にいつも在りながら表に出さなかった気持ち  
「……」一度軽く深呼吸してから言った  
 
「ハルヒ……好きだ……」  
 
黙って聞いていたハルヒだが、困惑した顔が崩れていき、「ぅっ……ぅっ」と泣き出した  
「で……でも……」  
でももへちまもあるもんか、好きなんだ  
「私いつも好き勝手してるし……」  
知ってる、でも好きだ  
「いつもみんなに迷惑掛けるし……」  
それも知ってる、でも好きなんだ  
「いつも嫌いなことや雑用はキョンにやらせてるし……」  
俺だってホントに嫌なら断ってるぞ、俺が実は頑固なの知ってるだろ?  
それに他でもないハルヒの頼みだ、俺にとっては嬉しい限りだよ  
「ぅぅぅぅっっ……」  
まだ渋るか、ならばと俺はハルヒの口を自分の口で塞いだ、、、、、要はキスだ  
 
しばらくこうして居たかったが、やはり確認したかったので、5秒ほどで(あくまで俺の体感でだが)唇を離した  
閉鎖空間ならここで瞬間移動するはずだが、もちろんここは現実世界、そんなことはなく俺もハルヒも居た  
「俺の気持ちは以上だ。お前の気持ちを聞かせて欲しい」  
俺は今までの事件を思い出しながら夜空を見上げた、ハルヒは意を決したのか深く深呼吸している  
……………………  
告白して返事を貰う間がこんなに緊張するとは、頼む俺の心臓にこれ以上負担を掛けないでくれ  
と俺の懇願が届いた、かどうかはよくわからないが  
「私も……キョンが……好き、キョンの傍にいたいっ」  
言い終わるや否や、ハルヒは唇を重ねてきた、深い深いディープキス……  
「……っぷはっ……好きよ、キョン……大好き!」  
と言って、間髪居れずまたもキス……俺は脳幹の先までとろけそうになった  
 
 
こうして長い長い一日が終わりを告げて2月15日に入った  
俺とハルヒは晴れて両思いになり・・手を繋いで歩いていた(俺は自転車のハンドルも握っていて少し窮屈だったが)  
……まあいいさ、こいつのこんな嬉しそうな笑顔を真横で見れるんだから、このくらい  
「ハルヒ」  
「なに?キョン」  
「SOS団を頼んだぞ」  
「それ前にも言った」  
「そうだったか?」  
「そうよ!あたしの記憶力が言ってるんだから間違いない!、それに大好きなキョンの言った事だもん」  
……にくい奴め、照れるぞ本気で、  
「でも改めて言っておく」  
と答えて、さてこれからどう切り返してやろうか考えていると  
ハルヒは繋いでいた手を惜しそうにしながらも離し、4、5歩先に進みくるっとこちらを振り向いて  
「あったりまえじゃない!!」  
ハルヒの120カラットダイヤにも勝る笑顔でそう答えた  
そうだ、それでこそSOS団団長だ  
俺は後ろから光を浴びて直立するハルヒを眺める  
 
……  
 
……  
 
…………光?……  
 
今は深夜遅くだ、こんな時間でも「水平に光を発する物体」を頭が思い描く前に、体が動いた  
 
「ハルヒっっ!!」  
 
間に合え、間に合え間に合えまにあえmなえ!!!!!!!!  
 
 
ハルヒの腕を掴み体を半回転させるようにハルヒの前に立つ、第三者的に見れば社交ダンスのようだろう  
右腕をハルヒの両腕ごと自分の腰に巻きつけ、抱き枕のように扱い、左腕でハルヒの後頭部を自分の胸に押し付ける  
あとは……横に跳べば……両足に力を籠め……  
 
次の瞬間、俺たちはその光を発する「何かに」吹き飛ばされた。  
 
「ごふっ!!!」  
なんとも情けない声だが仕方ない、肺から半ば強引に放出された空気で、そううごめいた  
どうやら左側の壁に飛ばされたらしい、受身?無理だぜ、なんせ両手で大切なものを守ってて自分の身まで守れるか  
痛覚は……とっくに麻痺しているのだろう、頭痛のみだ  
っとお姫様は…………どうやら無事のようだ  
「っっぃたた、何?何が……キョン!あんた大丈夫!?」  
っといつもの調子で話してくれたのがとても嬉しかった  
俺の体はどうなってもいい、ハルヒを、ハルヒだけは守れたんだ、朦朧としていながらも俺は嬉しかった  
「はは、…………無事か……ハルヒ……」  
「人の心配よりも、自分のこと気にしなさい!!」  
「そりゃ、…………………すまなかったな………………悪い……」  
「バカ、、ってキョン聞いてるの……………………ョン………………………」  
 
 
 
そこで俺の意識は途切れた……  
 
 
第一部 キョンの告白  完  
 

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