夢なんてものは、大抵本人の潜在的な願望や気持ちを投影するものって昔どっかの本で見た事がある
だから直接的な表現で言えば「夢は叶って欲しい事」であるだけで「夢は叶えるもの」とは少し違うと思う
当然よね、だって夢の中では、常識や法律、万物の物理法則や果ては人の体面まで無視された内容もありですもの
夢の中でいくら空を飛べたって、現実世界で人が生身で飛べるはずがない
飛びたいと思ったら、キョンが言ってたみたいに飛行機作んなきゃ、いつまでたっても「叶わぬ夢」だもの
だからあたしはSOS団を作った……
無かったら作ればいい、簡単な理屈でしょ……なんだってそうなのよ
……
…………
あたしは、いや、あたしと小泉君とみくるちゃんは集中治療室の赤ランプが消えるのを今か今かと待っていた
キョンが告白して(今思い返せば半ば尋問みたいだったけど)、あたしも気持ちを伝えて
二人は両思いの、こ……恋人になった
そしてその帰り道キョンは「何か」に追突された……あたしをかばって……
あたしはというと、少し足を捻ったのと背中の擦り傷程度……無傷といってもいいくらい
ただみんなの手前、足首に包帯を巻いている、痛みも背中のチリチリ感くらいかしら
でも、キョンは重症……壁にはキョンの背中がぶつかり、
地面に倒れたときの衝撃もキョンがごろごろと転がった(多分無意識にやったんだと思う)せいで無事だった
それは今あたしの膝元にあるキョンの制服が如実に物語っている……ぼろぼろだ
光が消え去った後、キョンの意識が無くなって……ダメだ……思い出すだけで……胸が苦しい
あたしは、だれでもいいから連絡しないとと思い、自分の携帯を探したが……無かった
有希の部屋に忘れて出てしまったのだ(後で直接確認した)……だから慎重にキョンのポケットから携帯を取り出し
リダイヤルNO,1 長門有希 に発信した……
「……有希!お願い!手伝って!」
……あぁ、またやってしまった、用件から入る電話の癖はなかなか治らないけど、有希には通じたみたいだ
「今その近くに小泉一樹が居る、輸送用の車付き」
即座に周囲を見回したが……何も見えない
「どこ!?見当たらないわよ!!」
「待って、もうすぐ」
「こっちは緊急事態なの!!待ってなんか……」
と言いかけたとき、路地から小泉君が飛び出してきた
「涼宮さん!大丈夫ですか!」
「あたしよりもキョンが……」
「これは……落ち着いてください、すぐ車で病院まで運びましょう」
と言い終わるのが早いか、真っ黒な車が小泉君の後ろに停車して
「早く、彼を運びましょう」
…………
それから病院まではあんまり覚えてない、ずっとキョンの手を握り呼びかけていたから
気付いたら、以前キョンが階段から落ちて意識を失った時と同じ病院に着いていた……
病院には先に着いたのか、有希とみくるちゃんが待っていた
位置的に有希のマンション方向に位置する病院だし、先に着いて待っててくれたのが、正直嬉しかった
それから緊急処置が始まり、しばらくして医師が一人こちらに向かいながら
「ご友人のどなたか、彼と同じ血液型の方はいらっしゃいますか!?」
キョンの血液型!?何それ!!血が足りないってこと!!!
「はい、先ほども緊急患者に使いストックが残り少なく困っています」
「で!その血液型は!?」
「**型です」
……違った……あたしじゃ役に立たない……
あたしは自分の血を呪いつつ、みくるちゃんに目を向けると
「すいません……違います……」
と返事、次に小泉君に目を向けると
「残念ながら、僕も違います、お役に立てそうに……ありません」
と返された。いつもの軽い調子なら怒っていただろうが、彼の目はかなり落ち込んでいた
あたしは最後の希望を掛けて、有希を見て訊いた
「有希、貴方は?」
「……」
無言で見詰め返す有希……いつもの事だがこの時ばかりは語調が荒くなった
「早く答えなさい!」
「……保証しかねる」
…………は?一体何を保証するのだろう?
「私の血液を彼の中に輸血することは可能」
「つまり、同じ血液型なのね!」
「しかし予測不能の事態を引き起こす可能性も否定できない」
……どうも話が噛み合ってない、血を抜かれたくないわけではなさそうだ、何か他に心配事?
そんな違和感をあたしが感じていると
「しかし彼の延命が今この時点で最優先課題ということも間違いない」
そう言ったと同時に医師に向かって
「私の血を」
「では、すいませんが、処置室に……」
と言って有希と医師は去っていった
しばらく無言の間が続く……目の前の赤いランプはまだついたままだ
と、みくるちゃんが顔をくしゃくしゃにしながらも話し掛けてきた
「涼宮さぁん……キョン君……ぅっ……大丈夫ですよね?……」
少し落ち着いてきた頭で冷静に現場を思い返す、キョンの傷の具合やあの時の状況
下手をすれば即死も在り得たかもしれない……そう思い体が震えた
……ダメだダメだ、こんな時に暗い考えを起こすな!あたし!、大丈夫!
「あたりまえじゃない……絶対大丈夫よ!あたしが保証するわ!」
正直、声、震えていたと思う、しかしこんな言葉でもみくるちゃんは安心したのか
「涼宮さんがそうおっしゃってくださるのなら、きっと大丈夫ですね」
ほっと胸を撫で下ろした、あぁキョンの言ってた意味が解る
あんな瞳で助けを求められたら、同性のあたしでも「なんかしてあげたい!」って気になる
とふと小泉君に目を向けると、何か真剣に考えている様に見えた
邪魔しちゃ悪いかなと頭の隅で思ったが、あたしも早めに片付けておきたかったし、まあいいわ
「小泉君」
「何でしょう?」
「……あの時はごめんなさい、気が動転してて……」
小泉君は少し驚いたようだったがすぐに元に戻り
「どうか、お気になさらずに、恋人が倒れたら気が動転して当たり前です」
「でもごめん、……って……えっ?……今小泉君……」
「何かおかしなことを言いましたか?」
「あたし、まだ誰にも話してないよ……キョンに告白されたこと」
「おや……やはり告白されたのですね……少々この場で言うのはなんですがおめでとうございます」
……やられた、カマ掛けられていたのか
そこに比較的落ち着いてきたみくるちゃんが割り込んできた
「涼宮さん、とうとう……」
…………やっぱり恥ずかしい……祝福されているのは理解できるが……なんかこう……
「それはあとでいいから!今はキョンの事が優先でしょ!」
目の前の二人は、少しにこにこしながら
「それでこそSOS団の団長です(よ)」
と声を併せて言ってくれた……きっと彼らなりに落ち込み過ぎないように気を使ってくれたのだろう
嬉しい、あたしは心底思った、きっと「仲間」ってこんな関係の事を言うんでしょうね
ほら……あんたも、これだけみんな……それにあたしが心配してるんだから……早く起きなさい
そう思ってもう何度も見た赤ランプを見上げると……光が消えていた
とふと目を降ろすと手術服を着た医師と有希がこちらに向かってくるのが見えた
「先生!キョンは!?」
「キョン?あぁ彼のことか……、処置は完了したよ、もう安心していいよ」
あたしはその場に力無く膝を立てた、「へたへたぁぁ」という擬音語みたいに
「……ぅ……先生……ありがとうございます……」
両手を支えに先生に土下座みたいな格好で言った
「それで、先生彼の容態は?」
小泉君が尋ねると
「正直心拍数が落ち込んだ時もあったが……彼女の血を輸血しだしてから安定した
いや本当に助かったよ、400CCとはいえ、その小さな体には相当な負担だっただろう」
先生が有希の肩に手を置きながらそう言うと、有希は表情を変えず
「別に」
「有希……ホントにありがとう……」
あたしが普段口にしない「感謝」の言葉を言ったのがそんなに不思議なのか
「大丈夫……」
と訊かれた、失礼ね、でもこの子らしいし、まあいいわ
「私より……彼の方が心配……」
「そう!キョンは!?今どこ?」
「彼なら麻酔が効いてベットで眠ってる、起きるのは昼ごろだろう」
じゃあ昼には、またキョンと話せるのね!と胸躍らせていると
「しかし念のため一人付き添いを頼みたいのだが」
あたしは瞬時に答えていた
「解りました、あたしが……いい!みんな!明日の昼はここに集合よ!」
「はいっ!」
「了解しました」
「解った」
…………
こうして、この部屋にはあたしとキョンの二人きり……
連絡は小泉君が「任せてください」と言っていた、やはり彼はこういう時頼りになる
寝顔のキョンを見詰める……額や胸に巻かれた包帯が痛々しい
「……キョン……ごめんね……」
返事するわけがないとは思いながらも、あたしはキョンの手を握りそう呟いた
暖かい……さっきまで繋いでいた手、うっすらと脈が感じ取れる
こんな小さな情報でも「今、キョンが生きている」と感じるのに十分だった
そして気がつくとあたしはゆっくり目を閉じ、キョンの唇に重ねた
よくドラマとかで「死体との冷たいキス」を想像してしまったが、キョンの唇は暖かだった
軽いフレンチキスだ、そしてあたしは満足したのか、気がつくと……眠っていた……
「キョン君!大丈夫!?」
……んぁ、あれ、その声は妹ちゃん?
「はるにゃん!、おはよう、キョン君は大丈夫?」
「大丈夫よ、まだ麻酔で眠ってるけど、お昼には起きるそうよ」
「はるにゃん、キョン君のこと……好き?」
「……好きよ……昨日やっとね……自分の気持ちを……伝えようとしたら……」
「したらぁ?」
「……先に言われちゃった、「好きだ」ってね」
「キョン君、やっと言ったんだね」
えっ……それって、妹ちゃんは気付いていたって事?キョンの気持ちに
「えへへぇ、まあね、だってキョン君はあたしのお兄ちゃんだもん」
「キョン君、夕飯のときいつも言ってたよ、「あいつといると気苦労が絶えない」って」
……返す言葉が無い、あたしがネガティブスイッチをONにしようとしたのを気付いたのか
「でもね、そう言ってるキョン君、全然嫌そうじゃ無かったよ」
「それに冬辺りからは「SOS団は俺の居場所だから」ってよく言ってるし」
あぁ、だからSOS団を頼むなんて台詞が出るのね、キョンの中でもとても大きな意味があるんだ
もちろんあたしにとってもSOS団はすごく大事、二人が共通認識を持っている事を素直に喜べた
「あとねぇ、キョン君は好きなこの前では、なんやかんや言っちゃうけど、結局面倒見るタイプだもん」
「……それ初耳よ、妹ちゃん」
「10年一緒にいるんだもん」
てへっとなる妹ちゃんの前であたしは赤面していた……
そんなにキョンが自分を思ってくれていたんだと感激しつつ
同時になんて自分はバカなんだろう、もっと早く思いを伝えていればと後悔もしていた
……もっと早く伝えたかったな……自分の気持ち……
5月に見たキョンと学校に二人っきりの夢の時には、もう心の奥にあったのよね、きっと
もし……もしもどこか遠い世界に一人しか連れて行けなかったら……あたしはキョンを選んだだろう
キョンも似たような夢を見たって言ってたし、その頃から思っていたんだ……きっと……
そうこうしていると、SOS団のみんなが集まってきた、みんな早いよ、まだ10時過ぎ
みくるちゃんは、手にランチボックスを携えて
「みなさんのお口に何か入ればと思い、作ってきちゃいました」
とサンドウィッチを見せる、うん!かわいいわ、それに美味しそう
とみんなががやがや話していると……
「…………ぅぅっ……ぁぁ……」
と何か呻き声……いや、もうこの場合一人しかいないわね
よかった、、、このまえみたいにあたしが寝てるときに目を覚まさないで
また前回と同じ展開は御免だわ、とほっと胸を撫で下ろしつつ見つめてる
……あたしの一番大事な人……今一番声が聞きたい人…………キョン……
あたしはキョンの目の前に顔を近づけた、距離は15センチくらいかしら
目覚めと同時に、あたしのドアップな顔が拝めるなんて、あんた幸せ物よ
もし……起きてからの反応しだいでは、このままキスしちゃっても良いわ、みんなの前だけど……
……にしても、目を開けないわね……はやくこのあたしを見なさいよ……少し照れてきたじゃない
ほんのり顔が火照ってきた辺りで、キョンはうっすらと目を開け始めた……
「キョン……キョン……」
「……ここは?……」
「病院のベットの上よ……」
よかった……何時間ぶりに聞いたキョンの声……変わってない(当たり前だけど)
しかしこの後、キョンの第2声にあたしはおろか周りのみんなも驚いた……はず……
A「……あんたは…………誰だ?……」
B「……有希は…………無事か?…………」
第二部 目覚めと……変化 完