海水浴 プロローグ  
 
 
はてさて、ハルヒのエンドレスサマーを知らずに過ごしていたある日だ。  
プールに行く前の話になるのだが、  
ある日、我がSOS団団長のハルヒは突然電話をかけてきた。  
 
「明日は海水浴へ行くわよ!!薄汚い太平洋っ側を泳ぐんじゃなくて、泊まりで日本海っ側を堪能することになったから、ちゃーんと泊まりの用意して、いつも通り  
駅前に来なさいよ!!いいわね!」  
 
そう用件だけ言うと、プツっと携帯は切れ、切れたと共に俺の口から溜め息が漏れる。  
そしてすぐ思い当たる人物にかけ直す。本当はかけたくもないんだが。  
 
どこぞの店や会社の応対のように、3.5コール目で相手が出る。  
「おい、これはどういうことだ古泉」  
早速俺は、どう考えても泊まるアテを作れる、背後に『機関』を持つスマイリー古泉に電話をかけた。  
すると受話器の向こうの人物は、ふふっと笑い、「あなたからの電話がそろそろかかって来ると思ってましたよ」と言い、続けて  
「あなたの御察しのように、今回の事はすべて僕が提案したものです」  
おい、まさかまた多丸兄弟や新川さん、森さんを使って、推理ゲームでもするつもりか。  
「いえ、今回はそのようなことはいたしませんよ。僕の知り合いにあたる人が海沿いに別荘を持っていまして。涼宮さんの退屈しのぎとして、そこへ宿泊しに行くのですよ」  
またあいつのためか。よくもまぁ色々とやるな、お前も。  
「ええ、あの空間へ行くより、こういったことをしていたほうが我々としては、ありがたくこの上ないことですからね」  
で、今回も新川さんや森さんは来るのか?  
多分来るであろう、あの人たちの顔を思い浮かべながら聞いてみた。  
が、受話器の向こうから聞こえた声は予想を大いに裏切ってくれた。  
 
「いえ、今回は我々SOS団のメンバーのみでの旅行ですよ。あ、正規団員ではないですが、  
涼宮さんからの提案もあって、鶴屋さん。そしてあなたの妹も招待することになりましたよ」  
 
何だって?じゃああれか。自炊とか俺たちでしないといけないのか。  
「ええ。食材や調理機器は我々が先に調達しておいてますので、心配はいりませんよ」  
いや、食べ物に心配する前に、まだ大人になってもない青い少年少女達だけで、お泊りを  
するっていうのも・・・・・・大丈夫なのか?  
「大丈夫ですよ。あなたがしっかりしてさえいればね」  
何か癪に障る一言だな。おい。  
「では、僕はこれからその旅行に関しての準備が少々ございますので、この辺で。また明日逢いましょう」  
「ああ」  
そう言って、通話が終了した。  
 
海水浴・・・・か、そういやここしばらく海なんて行ってねぇなぁ。記憶だと最期に行ったのは小学五年生くらいか。  
 
その後俺は妹に旅行を行くことを伝え、喜ぶ妹を尻目に母親にも説明をし、一発オッケーをもらった俺は、はしゃぐ妹を置いといて、朝比奈さんの水着姿に大いに期待を寄せつつ、明日への準備にかかった。  
 
どうか、どうか何も起こりませんように。  
 
ただ、ただ俺はそう願うのだった。  
 
 
海水浴 みくる編  
 
 
さてさて、昨日のハルヒからの泊まり旅行の提案から一夜明けた今日、  
俺はいつもSOS団の集まる駅前にいる。  
予想通り俺は最期で、ハルヒやその他面々はこちらに手を振っている。  
隣の妹がそれに大いに反応し、大きく手を振りかえしている。  
 
「遅刻よキョン!まぁ、今日は皆で旅行だから奢るのは今度ということで特別に許してあげるわ」  
別に許してもらう義理は一個もないのだが。  
かれこれ遅れた理由は隣にいるこの妹のせいである。  
シャミセンを連れて行きたがるものだから、これを説得するのに30分はかかった。  
まぁ、さっきまでダダ捏ねてた妹も、朝比奈さんを見つけるに、べったりとくっついている。  
くっつかれてる朝比奈さんも嫌がることなく妹と接してくれている。  
まったくありがいことこの上ない。朝比奈さん、保母さんになることをオススメしますよ。  
「うふ。それもいいかもしれないですね」  
 
今回の移動は電車だ。半年後の冬もそんなことをするらしいが、今夏を満喫している俺にとっては、まだ関係のない話だ。  
移動中は古泉持参のカードゲームをやったり、不毛なしりとりをしたりなどして、  
はや2時間ほどで目的の場所へ到着した。  
 
 
青い空。白い雲。照り付ける太陽。眼前に広がる透明な海。その先にはユーラシア大陸へと続くだろう、水平線が見える。爽やかに流れるようにそよぐ風が心地よい。  
 
あぁ、夏だな。  
そう感じながら、つい先ほど到着した別荘のテラスで、ハルヒ達に無理やり持たされた荷物を古泉と共にようやく運び終えた後、冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを一気に飲み干す。  
したたり落ちる汗がなんとも鬱陶しい。  
 
しかしまぁ、よくもこんな場所があったものなんだな、古泉よ。  
人が砂浜に全然いないじゃないか。  
「ええ、ここはほぼ『機関』の私有地ですからね。プライベートビーチなようなものだと  
考えてもらえたらいいかと」  
そう言うと、古泉も、持っていたミネラルウォーターを一口して、水平線を見つめる。  
まぁ、古泉の背後の金や経済事情はさておいて、俺は別荘から聞こえるハルヒの呼び声に返事をして、クーラーの効いた別荘の中へ古泉と共に入る。  
 
 
リビングへ行くと、既に水着に着替えたハルヒ達がそこにいて、やれビーチボールはあるか、これパラソルはあるか、日焼け止めクリームはないのか等と言っている。  
着いて早々泳ぎに行くとは、何とも疲れ知らずというか何と言うか。  
 
等と思いつつ、朝比奈さんの悩殺ボディを包んだ水着を、俺がじっくりと観察堪能していると、ハルヒが俺に空気の入ってない浮き輪を投げつけて、  
「ほらっ!変な顔してみくるちゃん見てないで、あんたも古泉くんも早く着替えてそれ膨らませて来なさい!!」  
と言った後に、俺にアカンベーをかましたハルヒは俺と古泉を残して、海へと走って行く。  
「さて、僕たちも着替えますか」  
あぁ、そうだな。じゃあ着替えたら玄関で待っとくぞ。  
「ええ、わかりました」  
そう言って、リビングの端に置かれた俺の荷物を肩に下げ、つい到着前に決めておいた、  
別荘の部屋割り通り、俺は2階の端っこの部屋へ入る。  
 
この別荘は1階がリビングとキッチン、浴場があり、2階は寝室がいくつもある。  
妹は朝比奈さんの部屋で一緒に寝泊りすることになり、それ以外は一人一部屋が当てられた。  
 
 
早々と着替えを済ました俺は、リビングでハルヒに渡された浮き輪を膨らまし、  
完成した頃に古泉がやってきて、二人揃って砂浜に向かう。  
既にハルヒ達は、広いビーチでイベントをおっぱじめている。  
 
「ほらっ!みくるちゃん、そっちじゃなくて左よ左!!あぁ、もう!もうちょっと右、そうそう!そのまままっすぐ!!」  
ハルヒが目隠しで、棒を持った朝比奈さんに後ろから声をかけている。  
朝比奈さんは「ふ、ふえぇ」と可愛らしい声を出しながら、その辺の砂にぺちぺちと棒を振りかかっている。  
「みくるっ、あぁ、ちょいと前へいくんだっ!!あーあーダメダメ。もうちょっと下がっっちゃって!そこっ、そこだっ!」  
隣でハルヒ並みに元気な鶴屋さんが、声をかけている。  
今更だが、何をしているかは誰でもわかるだろう。今朝比奈さんはスイカ割をしているのだ。  
「ふえぇっ、ここですかぁ?え、違うんですかぁ?じゃあ、はい、ちょっと後ろ・・・」  
と、言われるままに朝比奈さんは移動するが、どうも数メートル先のスイカの場所まで行けていない。  
これじゃあいつになってもスイカは割れんぞ。  
と思いながら、パラソルの下でいつもと変わらず読書をしている長門の隣に腰掛ける。  
「なぁ、長門」  
すると長門は少し顔を傾けて、  
「なに」  
頼みがあるんだが、いい加減朝比奈さんのスイカ割を成功させてくれないか?  
かれこれもう20分ほど、朝比奈さんはスイカの周りをくるくる円を描くように廻っている。  
これでは埒があかない。  
長門は朝比奈さんを見て、  
「わかった」  
と言うと、俺では聞き取れないようなスピードで、宇宙的情報操作能力を唱えだした。  
「これでいい」  
と長門は、言い終えると、また本のほうへ目を落とす。  
 
すると、朝比奈さんは、吸い込まれるようにスイカのほうへ歩んで行く。  
「え?あれっ?ぼ、棒さんが勝手に、はわわっ」  
と言っている。どうやら察するに長門は棒の情報操作をしたようだ。そうだろ?長門よ。  
「朝比奈みくるが所持している木材へ、地面に置かれた果物に値するものへの誘導性  
付加を与えた」  
つまり朝比奈さんが持つ棒が勝手にスイカを叩くということだ。  
こくりと長門は数ミリ頷いた。  
ぼごっという低い音と共に、朝比奈さんの叩いたスイカが見事に包丁で切り分けたように、  
7等分されている。ここまで計算していたのか長門よ。  
 
歓喜するハルヒと鶴屋さん達と共に、何が起こったかイマイチ把握できていない朝比奈さん、古泉、長門、妹とで、割れたスイカを分けて食べる。  
うぅむ、やはり夏といえばスイカだな。  
 
その後、ハルヒの号令で各自自由行動となった。  
妹は砂でトンネルを何故か朝比奈さんではなく、古泉と掘り下げている。  
長門はパラソルの下で読書を嗜み、鶴屋さんとハルヒは何やら水泳競争だとか言って、  
目の先に見える、小さな小島まで泳いで行くのが見えた。  
おいおい、もうあんなに小さくなってぞ。どんな運動神経の持ち主だあの二人は。  
 
さてさて、俺はどうしたものかな。別荘で昼寝という手もあるな。  
等と考えていたら、肩をちょんちょんと小突かれる。  
振り向くと、そこには麗しき朝比奈さんが立っている。何やら俯いて、言いにくそうな表情をしている。  
 
「あぁ、朝比奈さん、どうかしたんですか?」  
まさか、今から時間移動とか言わないでしょうね。俺は目の前の朝比奈さんと、未来の朝比奈さんに心の中で言った。だが、俺が思っていたほどのことではなかった。  
「え、えっと、その、あの、キョンくんに、ちょっと、お願いが・・・・」  
はいはい、何でしょう。朝比奈さんのお願いとあれば、ここから泳いで佐渡島まで行ってもかまいませんよ。多分途中で溺死しますが。  
「い、いえ、そんな大それたことじゃないんですけど・・・・その、泳ぎを教えて欲しいんです」  
え?あれ、朝比奈さん泳げなかったんでしたっけ。  
「はいー、少々泳ぐのは苦手で・・・・その、キョンくんがもしよければなんですけど」  
いえいえ、俺では少々役不足かもしれませんが朝比奈さんのためなら、何のその。  
一日でバタフライができるような勢いでお教えしますよ。  
実際バタフライなんてできないけどな。せいぜいクロールと平泳ぎか犬掻きしかできんぞ俺は。  
「本当ですかぁ?ありがとうございます」  
朝比奈さんは嬉しそうに微笑んで、俺の手を引いて海の中へ足を浸けてゆく。  
おぉう。日本海の海って思ったよりも冷たいんだな。知らなかったぞ。  
肩まで浸かるのに少々時間をかけ、早速、俺の水泳演習が行われた。  
 
 
えっと、朝比奈さん。泳ぎ方に種類があるのは知ってますか?  
一応聞いてみる。まさかとは思うが、泳法に種類があるのは知っているだろう。  
そう俺は思っていたのだが、朝比奈さんは首を傾げて、  
「えっとぉ、ビート版というゴム製の板に手を置いて、足を交互に振るんですよね?」  
確か歴史書にはそう書いてあったような・・・・等と言っている。だめだ。未来の歴史の教科書はどうやら嘘を書いてらっしゃる。  
このお方には水泳という言葉と、泳法の種類はそれほどの知識しかないようだ。  
要するに無知なのだ。困ったぞこれは。  
それに朝比奈さんのこの運動神経では、息継ぎさえもできそうにないぞこりゃ。  
俺はどうやったら簡単に朝比奈さんが泳げるようになるかを、妹が作ったトンネルをさざ波に崩されてしまうまで考えてみた。  
 
とりあえず俺は、小学生の頃に習ったクロールによる息継ぎの仕方を伝授することに決めた。というか、これが一番オールマイティで泳ぎやすい泳法だと思う。  
平泳ぎもどうかと思ったが、流石に朝比奈さんが平泳ぎしている所を想像する。  
俺は2秒で割愛することに決定した。  
「では、これより朝比奈さんにクロールのやり方を教えます」  
と俺が言うと、朝比奈さんはぺこりと一礼して、  
「あ、はぁい。よろしくお願いしますね。キョンくん」  
そして俺はクロールのやり方を一通り分かりやすく、朝比奈さんに説明した。  
勿論俺の実演をやって見せた。  
当の朝比奈さんは、俺の泳ぐ姿を真剣な目で観察している。  
いつぞやのメイド姿の森さんをずっと観察していたような目つきだ。  
一通り泳ぎ終えた俺は、朝比奈さんの下へ行く。  
「キョンくんすごいですー。こんな塩水の中を自由自在に移動できるなんて」  
いや、大抵の人間はこういうことができて当たり前なんですがね。  
 
「はい、朝比奈さん。そこで息継ぎを、そうです。はい、また足を・・・」  
「ぷあっ、ひゃ、ひゃあい、ぷぅっ」  
今の現状を説明しよう。  
俺は朝比奈さんの手を握り、引っ張っている。引っ張られている朝比奈さんは、  
俺の合図で顔を水面から右を向いて上げ、息をする。  
そしてまた俺の合図で水面に顔を浸して、足をバタつかせる。  
息継ぎをする度に顔を左右にわけ、クロールの息継ぎ感覚で、練習をすることに。  
とりあえず初歩中の初歩から始めることにした。  
日頃、努力家な朝比奈さんであったお陰か、30分もすれば、朝比奈さんは息継ぎの  
コツを掴み、俺の合図ナシでもできるようにまで発展した。  
 
しかしそこで事件は起きた。  
朝比奈さんが、ようやく俺が引っ張らなくても、クロールができるようになった頃だ。  
ちょっと大き目の波がやって来て、海に浸っていた俺と朝比奈さんは波に揉まれた。  
たいした波ではなかったのですぐに顔は出せたのだが、朝比奈さんの顔が見当たらない。  
もしや溺れてしまったとか、おいおい、くだらん冗談はないだろうな――――。  
俺が慌てふためいていると、俺の数メートル先に朝比奈さんがぽっかりと顔を出す。  
はぁ、と俺は一安心して胸を撫で下ろしていると、  
「ぷぁ、ちょっと波に煽られちゃいまし―――きゃぁっ!!」  
俺は何事かと思い、再び朝比奈さんのほうを見る。  
「きゃあぁあ!キョンくんこっち見ないでぇ」  
 
朝比奈さんの姿を確認した俺はすぐ後ろを向いた。  
何故かというと、無いのだ。朝比奈さんの着けていたビキニが。  
「ふぁあぁ、どこー。どこいっちゃったのぅ?」  
朝比奈さんは胸元を隠して、水面に漬かりながら周りを見渡している。  
俺は鼻血の出そうな衝動を抑えつつ、朝比奈さんのビキニがどこかに浮いてないか探す。  
「おや、どうかされましたか?」  
と、声のするほうを向くと、妹と砂遊びをしていた古泉が、スマイルで何事かとやって来た。  
しかも俺のほうではなく、何故か朝比奈さんのほうへ歩みよる。おい、古泉今の状況を把握してそっちに行ってるのか――――。  
「ふぁ、古泉くん。こっちこないでぇ」  
俺が制止する前に、朝比奈さんはびっくりしたのか、あろうことか俺の背後に寄ってきて、古泉からの視線から逃れようと俺の背中に隠れて朝比奈さんはたわわな双丘をぴったりとぉぉおぉお?!?!  
「おぅはぅあ!あ、あああ朝比奈さん!!む、胸がぁあああ!」  
「み、みないでぇ〜。キョンくん何とかしてぇ」  
俺は顔を真っ赤にしながら、今の自分の状況を朝比奈さんと古泉に叫ぶ。  
古泉はやっと今の状況を理解したのか、視線を反対に向け、朝比奈さんのビキニを探し出す。  
俺にくっついていた朝比奈さんも、自分の状況に気づいて、恥ずかしそうにまた水面まで顔を浸して、胸を隠す。当然顔も真っ赤だ。  
まじで勘弁してくれ。ある意味幸せだったが。  
 
 
その後、砂浜まで流されていた朝比奈さんのビキニを見つけた妹が、泳いで朝比奈さんに渡して、一連の事故は無事に終了した。  
その後、しばらく朝比奈さんは俺にごめんなさいを連発していたが、むしろ謝りたいのは俺のほうですよ、と何度も慰めた。  
 
いくらか時間が経った頃に鶴屋さんとハルヒが遠泳から帰ってきて、やれ無人島があった、  
これ洞窟があった等と、またまたハルヒに絶好な獲物を引き連れて帰ってきやがった。  
気づけば夕方だったので、俺たちは別荘へ戻った。  
 
その日のみだったのだが、別荘に入った後、朝比奈さんが俺と目を合わす度に俯いたり、話かけようとしても避けられていたので、勘ついたハルヒに何度も何があったのか説明しろと追求されたのは言うまでもないことだ。  
まぁ、寝る前に朝比奈さんに  
「今日はごめんなさい、そして泳ぎを教えてくれて本当にありがとう」  
と言ってくれたので、心のつっかえは一応取れた。良かった良かった。  
勿論古泉には口止めしておいたぞ。念のためにな。  
 
 
続く  
 

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