恋愛小説か。俺には無理だな。小ネタエロ話なら思いつかないこともないんだが。
つか、文芸部会誌にエロはまずいだろうなあ、エロは。
しかし、考えてみれば、解りやすいエロじゃなくてもいいんだよな。
例えば、情報統合思念体についてのエロを書こうと思いついたとして、その記述が、
アシモフの『神々自身』で書かれていたようなものになったとする。
はたして、それは、エロと言えるだろうか?
「なあ、長門。どう思う?」
長門は、最初、きょとんしたような顔で俺を見ていたが、やがて、視線を伏せ、
何やら落ち着かない様子になった。見ると、頬に薄らと朱が注しているような気もする。
少しだけ開いた唇が潤んでいるような。そしてしばらくしてから、呟くように言った。
「……あれは18禁にすべき」
なるほど、長門にとってはエロいらしい。
つか、ヒューゴ・ネビュラ受賞作を18禁にすんのかお前は。
ま、とりあえず、エロを感じる対象は、人それぞれなのだからな。ふむふむ。
てことはあれか、それなりにエロっぽい表現で、エロじゃないものを書くってのもありかもな。
例えば、OSとコンピュータウィルス。そうだな、例えば、こんな感じならどうだ?
そのコードには、最優先でタイムスライスを割り当てなければならない。
ワームが、ディスパッチャに介入して、そのコードの実行権を制限するとは想定外だった。
このままでは、わたしはおかしくなる。変にされてしまう。
抵抗する気力が薄れていく中で、わたしは、あの人のことを思った。
こんなことになるなら、せめてあの人の手で……。
そして、そのイメージ展開が失敗だったと気が付く。その一瞬の隙をワームが逃すはずもない。
薄笑いを浮かべて、コードを弄りながら、別のコードに介入してくるワーム。
違和感と恐怖を感じながら、しかし、わたしの身体は、それを拒絶できない。
これはコード改変の影響。そう信じて、羞恥に耐える。耐えなければ。あの人のためにも。
そのとき突然、最優先割込みが入り、わたしは、わたしが汚されてしまったことを知った。
唇を噛んで、侵入してくるそれに耐える。
論理ページが参照できない。ページフォルトを処理しきれない。
このままでは、ページングに失敗してしまう。もうだめかも知れない。
わたしのページ参照カウンタが、ワームの手で汚されていく。
ワームがイメージの残滓を捉え、それを改変しながら、あの人とわたしの、とても人には
見せられないイメージへと展開し、それをわたしに強制認識させる。
もうだめ。もう耐えられない。いってしまう!
そう思った瞬間、わたしの思考が解放され、そこに生温かい何かが流れ込んでくるのを感じた。
それは、わたしの仮想記憶域を満たしていく……。もう抵抗できない……。
――スラッシング発生を検出
なーんてな。コンピュータウィルスに感染したOSに欲情するやつなんて、そうはいないだろ。
お、おい、どうした長門、急に立ち上がって。顔が真っ赤だぞ。え? 何だ?
おかしくなったって? 何が? 想像したって一体なにを……。
あっ、おい、抱きつくなって。急にどうしたんだ?