Someday in the rain NEXT  
 
≪Snow Perfume≫-Boy`s Side-@  
 
寒冷前線が進撃を開始しまくるようになってきた12月の半ば。  
俺はいつも通り旧校舎の文芸部室ことSOS団の根城に到着する。  
雨が降っている所為か気温は下がりまくり、俺は昨日苦労して運んできた電気ストーブに  
早くありつきたいが為、いつものノックと呼ばれる行為を忘れて部室のドアを開けたのだった。  
 
開けた瞬間しまったノック忘れたでもまた朝比奈さんの着替えが見れるなら云々と邪な考えを0.1秒程めぐらせたが  
そこに居たのは長門だけだった。しかしいつもの椅子の上ではなく、俺の指定席(と勝手に決めている)の  
後ろに何故かカーディガンを両手で持った体勢で立っていた。  
だが更に気になったのは、まるで信じられないものでも見たような長門の表情だった。  
いやもちろん顔は無表情のままで、そこまで露骨に表れていたわけではないがな。多分俺の錯覚だろう。  
 
だがそれ以外にも俺は奇妙な違和感を感じた。何かがいつもと違う。それが何かはわからないが。  
まぁきっとそれも何かの錯覚だろう。仮にあったとしても些細なことだな。  
 
「…………」  
じっと俺を見つめる長門に、どうかしたのか?と問いかけようとした俺は思い出す。  
昨日俺が部室で寝てしまったとき、背中に掛けられた二枚のカーディガンの内の一つを。  
一つはハルヒの、そしてもう一つは所有者が不明だったため俺の椅子に掛けて帰ったんだったな。  
「そのカーディガン、長門のだったのか」  
小さくうなずく長門。てっきり朝比奈さんのかと勘違いしていた。  
 
長門、ありがとな。おかげで風邪引かずに済んだよ。  
「……気にしないで」  
そこで初めて俺から目線をそらす長門。  
 
素早くカーディガンを羽織りいつもの見慣れた格好になった長門は、いつもの席に腰掛けいつも通りに読書を始めた。  
俺はというと寒さを凌ぐために、人類が発明したものの中でも十本の指に入るであろう文明の利器ストーブを点ける。  
「…………」  
「…………」  
「…………」  
「…………フゥ……」  
俺まで三点リーダ製造機になりそうだなそれにしても他の皆は何をやっているんだろうかもしかしてハルヒのやつ  
俺が部室を暖め終わるの待ってから悠々と来るんじゃないだろうなそれにしても寒いな早く暖かくならんものかね、  
とか考えているうちに俺はさっきとはまた違う奇妙な違和感に気づく。  
 
さっきの『フゥ』ってなんだ?  
 
『フゥ』ってことは多分溜息なのだろうが俺が出したものじゃあない。それは俺が俺自身である為わかりきったことだ。  
部室には現在二人しか居ない。となると透明人間でも居ない限りそれはもう一人が出した溜息だということだ。  
いや、まぁ確かにハルヒが望んでたりしたら透明人間もアリかもしれんと思ったが、かすかに聞こえた声の主は確かに…  
 
……長門が? 溜息?  
 
初めは俺の勘違いかと思ったが、それは確信に変わりつつある。  
今日の長門は何かおかしい。  
 
俺は長門専用観察眼ことキョンスカウターを発動させた、つもりになって長門の顔を見つめてみた。  
『なに?A-…AA+…S+…SSS…まだ戦闘力が上がるだと!?』ボンッ!  
…なんて馬鹿な思考は置いといて、いつもの長門の表情を頭に思い描き今現在の長門と照らし合わせ間違い探しを脳内で試みてみることに。  
しかしそんな画像加工ソフトみたいなことがただの人間である俺の脳で可能なはずもなくただじっと長門を眺めてみるだけにとどまった。  
 
……意外とわかるものだ。これも日々の修行のおかげなのかもしれないな。俺はいつもの長門と違う個所を発見した。  
頬が赤い。ほんの少しだが、長門の頬にほんのりと赤味が差していた。  
 
―――――ピチャン  
「冷てっ!」  
長門の顔を眺めつづけていた罰かどうかは分からないが、いきなり俺の首筋に水滴が落ちてきた。  
天上を見上げると、どうやら雨漏りらしい。旧校舎というだけあってそこそこ古い建物だからな。  
 
こりゃあ後でハルヒに修理を命令されることになるんだろうなぁ。  
俺は雨漏りの原因となった雨の状況確認のため、ふと窓の外に顔を向けた。  
 
「あ。雪…降ってきやがった」  
 
 ピクッ  
 
いつのまにか雨は雪に変わり始めていた。どうりで冷えるわけだ。  
とはいってもこの調子じゃすぐにやむだろう。雨で地面が濡れているため積もることもあるまい。  
いやそれよりもさっき長門が何かに反応したようだったがなんだったのだろう。  
いかんすごく気になってきたぞ。  
そうこうしてる内に長門は帰る準備をし始めた。  
 
珍しいな、いつもはもっと遅く帰るじゃないか。  
「水滴による書物の損傷を防ぎたい。現在天井からの漏水個所はこの机の上部二箇所。できれば早急に損害個所の修復を」  
長門からのお願いもまた珍しい。道理で雪が降ってくるわけだ。だがハルヒからの命令より長門からのお願いのほうが  
よっぽどやる気は出るがな。  
 
わかった、明日までになんとかしておく。  
「……ありがとう」  
ああ、長門。ちょっといいか。  
「…………?」  
 
俺は長門の首にマフラーを巻いた。  
 
今日はいつもより冷えるからな。これ貸すよ。なに、昨日のお礼だ。  
まぁ長門には必要ないものかもしれないけどな。  
「…………ありがとう」  
あ、長門。もう一つ。  
「なに?」  
スカートの後ろ濡れてるぞ。雨漏りにでもやられたか?  
 
 ピクッ  
 
「……………………気に、しないで」  
 
長門が帰った後、俺は早速雨漏り個所の修理を始めようと準備をしていた。  
二箇所っていってたな。一つは俺の席の上で、もう一つは…長門の席の上か?  
 
 フワ……  
 
長門の席の前に来たとき、俺はようやく部室に入ったときの違和感に気が付いた。  
 
――――――――香りだ。  
 
なんとも言えない芳しい香り。とはいっても微かに鼻腔をくすぐる程度の、例えるなら  
ボキャブラリーがなくて悪いが女の子の香りだ。  
 
もしかして長門、お前香水でもつけていたのか?  
長門がおしゃれをするとは考えにくかったが、もしやハルヒか朝比奈さんにでも薦められたか?  
今日の長門の様子がおかしかったのはそのせいだったのか。  
自惚れかも知れないが…………俺に気づいて欲しかったとか…?  
だとしたら失敗だったな。明日にでも…いや、膳を急げともいうし(間違い)、さりげなく言いに行ってみるか。  
まだ急げば間に合うはずだ。修理は明日早めに学校に来ればできるだろう。  
 
その時ちょうどハルヒ、朝比奈さん、古泉の三人が入ってきた。  
「いやーいい写真が撮れたわ〜〜♪」  
「ふええぇぇぇ〜〜〜 もうお嫁にいけません〜〜〜…二日連続でなんて…グスン」  
「さすがは涼宮さん。写真の腕も素晴らしいですね」  
「んっふっふ〜そうでしょそうでしょ♪何せいい被写体を撮りまくってるからね〜〜…ってキョン何してるのよ」  
すまん、用事を思い出したから先に帰る。  
「ちょ、ちょっと待ちなさい!今日は次回作映画の撮影打ち合わせが!」  
「えええ〜〜!す・涼宮さん、私そんなこと一言も聞いてないですよ〜〜〜」  
 
――――――ピチャン  
 
「…おや?雨漏りですか。」  
ん?ああ、明日にでも俺が直しておくさ。  
 
俺はそのとき気づかなかった。もう一箇所の雨漏りが机の真上部分で、長門の席の上ではなかったことを。  
 
≪Snow Perfume≫-Girl`s Side-@  
 
有機生命体にとって行動を制限される気温となりつつある、太陽系第三惑星地球の弓状列島日本12月半ば。  
私はいつも通り旧校舎の文芸部室ことSOS団の集会場へと到着する。  
 
部室へと入室した私は彼の席に掛けられているものを発見。私の所有物であるカーディガン。その後回収。  
 
だが、私の手は停止する。両手にカーディガンを携えたまま。いつもならそのまま羽織る、ただそれだけの着るという行為。  
なぜかそれには移行せず、私は顔をゆっくりとその物体に近づけた。時間にして13分44秒、私はその格好のままその場に立ち尽くしていた。  
何故このような行為に及んだのか。原因は、不明。  
 
そして部室のドアが開いた。  
 
入ってきたのは彼だった。彼の気配を察知できなかった。索敵行為を忘れるなんて…………  
 
おかしい。そう、おかしいのは私。やはりバグだろうか。  
 
彼は私がした体温保持行為に対しての礼をしてきた。  
何故か胸の奥が暖かくなった気がした。  
私は彼から目を逸らしカーディガンを羽織った。そしてそのままいつもの椅子に座る。  
「…………」  
しばらくすると身体が熱くなっていた。体温が上昇している。有機生命体でいうところの感冒という症状に似ているが、  
私たち情報統合思念体には無関係。原因は他にあると思われる。  
 
数分後、身体の一部に変化が現れる。下腹部に異常反応が見受けられた。いつのまにか、臀部が濡れている。  
そして先ほどより症状の進行を確認。  
 
「…………フゥ……」  
体温の上昇のため、熱を放出する行為を試みるが症状に一切の変化無し。  
 
「あ。雪…降ってきやがった」  
 
 ピク  
 
雪…ユキ…有希…私は自分の名前を呼ばれた気になった。その瞬間症状が急激に進行。原因、不明。  
このままでは今後の行動に支障をきたす可能性がある。早急に処置の必要性有りと判断する。  
 
帰宅準備を整える。何故か彼には現在の私の状況を知られたくはなかった。何故だろう。原因、不明。  
 
部室を出るとき彼に呼び止められる。首に保温性の高い綿製品を巻かれる。症状の進行を確認。原因、不明。  
 
――――――原因、不明。  
 
≪Snow Perfume≫-Boy`s Side-A  
 
俺は少し急ぎ足で長門の後を追っていた。  
 
あ、そういえば長門と会えたとしても何て言えばいいんだ?  
いきなり『今日の長門、良い匂いしてるな』なんて言える訳がない。それじゃただの匂いフェチにしか聞こえん。  
まずい、まずいぞ。早急に巧い言い訳を考えなくては。  
よくよく考えれば長門のマンション方面に用事があるのは決まって長門に会いに行くときだけだ。  
となれば長門に会いに行く理由が必要となる。となると…うーむ…  
 
しかし数分後俺は考えるのをやめた。いや停止した。なぜなら目の前に長門がいたからだ。  
 
地面にへたり込んだ長門が。  
 
「…………ハァ……………ハァ……」  
 
明らかに様子がおかしい。息を荒くして苦しんでいるように見える。  
 
おい、長門!大丈夫か!?  
「…………なぜ、ここに、あなたが……?」  
あ、いや、なんつーか、今日の長門様子が変だったからさ。気になって、な。  
 
言い訳なんか考える必要なかったな。本心だ。  
それよりもどうしたんだ、苦しいのか?病院…は無理か。とりあえずマンションに運ぶか?  
「……いい……私に……ハァ………構わないで……」  
無理するな、フラフラじゃないか。いいからこういうときくらい甘えとけ。  
 
そういうと俺は長門を抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っことか言うやつだ。恥ずかしいとかそんなことは言ってられん。  
長門は雪にまみれていたせいで全身が濡れて冷え切っていた。こりゃあ急いだほうがよさそうだな。  
「…………………ありがとう」  
なに、ストーブ抱えて学校の坂を登るより幾分もマシさ。  
 
 
長門のマンションに着いた。オートロックを解除してもらい、俺は長門を部屋まで運んだ。  
とりあえず濡れた服をどうにかしないとな。  
しかし俺が脱がすわけにもいかんしな…ハルヒか朝比奈さんでも呼ぶか?  
「ダメ…誰も……呼ばないで…」  
とはいってもだな……  
「…………あなたが…脱がして……」  
な・なんですとっ!いや…しかしですな……  
「………お願い……」  
あーーー………わかった。なるべく見ないようにするから。少しの間ガマンしててくれ。  
コクリ。  
 
服を脱がす音と長門の息遣いだけが部屋に木霊する。  
俺は目を瞑りつつ長門の服を脱がしていた。もちろんそんな状態でうまく脱がせるわけもなく俺は悪戦苦闘していた。  
 
残った衣類は、俺の記憶に間違いがなければ下着のみのはず。  
お・落ち着け……心頭滅却すれば火もまた涼し水もまた温かし………  
「……あ……」  
ビクッ!  
わ・悪い長門どこか触っちまったか?!  
「……気にしないで」  
いやいや気にするっての。  
「……私の身体…触るのはいや?」  
いや…いや嫌って意味じゃなくてだな、むしろ正直言って触りたいというべきなのだが…  
「……別に見てもいい」  
こ・こら!年頃の娘がそんなことを言ってはいけません!  
「…………そう」  
 
長門の声が聞こえた後、フワッとあのときの香りが流れた。部室でのよりも強い、甘い香り。  
その直後…………  
 
――――――ちゅ  
 
俺の唇が何かで塞がれた。  
 
思わず目を開く。そこには今までにないほど近くに長門の顔が、目があった。  
 
俺は今何をされている? もしやこれはキスってやつか? そうなのか?  
 
俺はそのまま隣に敷いてあった布団に押し倒される。  
押し倒した張本人はもちろん―――――下着姿の長門。  
おれは思わず目を逸らしてしまう。濡れて肌に張り付いた白い下着。そして白い肌にほんのりさす赤み。  
どう考えてもいち高校生男子の俺には目の毒だ。  
 
な・長門…なにしてるんだよ。  
「…………ハァ……………ハァ……」  
………? 長門……?  
「……………………原因は…………あなた……」  
……なに?  
 
「……現在私に起こりつつある状態異常の原因……それはあなた…」  
 
部屋の中には長門の荒くなった息遣いと、先ほどよりも強くなった甘い香りが占めるようになっていた。  
 
≪Snow Perfume≫-Girl`s Side-A  
 
傘も差さずに自宅へと歩みを進める。雨が氷の結晶となってから数刻。降雪量は私が校舎を出るときよりも増えていた。  
 
「…………ハァ……………ハァ……」  
 
まるで雪の量に比例するかのように、私の症状は進行していた。原因は、未だ不明。  
思考をめぐらせる。いつからこの症状が出るようになったのか。  
起床、登校、授業中、これらの時間帯には状態異常は見受けられなかった。  
可能性が高いのは放課後、文芸部室に入室してから。症状を確認するようになったのは―――――原因は―――――  
 
「…………カーディガンへの接触時……ハ…ァ……その可能性が高いと思われる……」  
 
あのとき私は13分44秒、行動を停止していた。そう、行動の停止。機能の停止とは異なる。  
無意識のうちに何らかのアクションを起こしていたように思う。無意識―――――ありえない。  
仮にそうだとしたら何をしようとしていたのか、否、していたのか…………。  
 
「…………ハァ……………ハァ……」  
 
無意識の行動など、情報統合思念体である私にとってはありえない行為。自然に、条件反射という形での  
行動はむしろ有機生命体であるところの人間が主に行う行為。  
 
人間のとる、行動。  
 
あのとき私は人間と同じ行動をとっていた?―――――ありえない。  
人間は主に視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚と呼ばれる五感の神経伝達によって認識を行い、そして行動をおこす。  
情報統合思念体にとってそれは非効率極まりない行為。必要のない行為。  
しかしヒューマノイドインターフェースであるところの私にもその機能は付属している。  
 
「…………ハァ……………ハァ………………ハァ……………ハァ……」  
 
あのとき私は人間と同じ行動、五感によって何か情報を得ようとしていた?  
味覚及び聴覚…使用せず。視覚…カーディガンの発見時に使用。触覚…カーディガン回収の際、物質としての存在の確認時に使用。  
残るは―――――  
 
 ガクンッ  
 
私の身体がバランスを崩す。下半身が地面と接触する。  
仮定の樹立。そして認識。確定要素は十分ではない。しかし『仮定』を認識した直後、症状の進行を確認。  
 
原因は、確定。私は現在着ている物と首に巻かれているものを再認識する。症状の進行を確認。  
私の…………私を……おかしくしている原因、それは―――――  
 
「おい、長門!大丈夫か!?」  
 
彼が、そこに、いた。なぜ? 思考回路が、うまく、働かない。  
「…………なぜ、ここに、あなたが……?」  
「あ、いや、なんつーか、今日の長門様子が変だったからさ。気になって、な」  
気づかれていた? 私は、それにすら、気づくことも、出来なかった。そして、更に、症状の、進行を、確認。  
「それよりもどうしたんだ、苦しいのか? 病院…は無理か。とりあえずマンションに運ぶか?」  
「……いい……私に……ハァ………構わないで……」  
今、彼に、近づか、れたら。  
「無理するな、フラフラじゃないか。いいからこういうときくらい甘えとけ」  
近づかれたら。  
 
「…………………ありがとう」  
 
―――――止まらなくなる。  
 
彼が私の身体を抱え、マンションへと到着する。  
 
濡れた制服越しに彼の体温が感じられた。温かい。  
直に、感じたい。  
 
濡れていることを理由に彼に脱衣の手伝いをしてもらう。  
「……あ……」  
彼の手が私の肌に触れる。温かい。不快でない。心地よい。  
「わ・悪い長門どこか触っちまったか?!」  
「……気にしないで」  
むしろ触って欲しい。彼との、接触を、望む。  
「いやいや気にするっての」  
「……私の身体…触るのは嫌?」  
「いや…いや、嫌って意味じゃなくてだな、むしろ正直言って触りたいというべきなのだが…」  
「……別に見てもいい」  
「こ・こら!年頃の娘がそんなことを言ってはいけません!」  
年頃の娘。彼は、私を、人間として、異性として、認識してくれている。  
「…………そう」  
 
彼の顔に目線を向ける。私は顔を近づける。そして―――――  
 
彼の唇を私の唇で塞ぐ。  
彼は目を見開く。そのまま私は彼を布団の上へと押し倒す。  
何故そうしたのか?わからない。私の身体は無意識に、訂正、バグに支配されている。  
 
「な・長門…なにしてるんだよ」  
「…………ハァ……………ハァ……」  
「………? 長門……?」  
「……………………原因は…………あなた……」  
私は彼に告げる。  
「……なに?」  
 
「……現在私に起こりつつある状態異常の原因……それはあなた…」  
 
「…………どういう、ことだ?」  
 
「この症状を確認したのは、あのカーディガンを発見・回収したとき。そのとき私はあなたの匂いを検知した」  
彼は、じっと私を見つめるだけ。   
「次に症状の進行を確認したのは、あなたが私の名前と同音異義語の言葉を発したとき」  
私も、彼を見つめ返す。  
「あなたがマフラーを私の首に巻いた直後、私の鼻腔は最初よりも強い匂いを検知。直後に症状は進行した。そして……」  
彼の目に、私の姿が映る  
「あなたが私を抱えて、直接触れてしまったとき、私自身ではこの症状を修復することは不可能となった」  
彼の目に映る私の目にもまた、彼の姿が映っていた。  
「もう、あなた無しでは、修復は、不可能」  
 
彼は、ようやく言葉を発した。  
 
「俺は、どうしたらいい?」  
 
その問いに私は答えた。それは私自身が発した言葉だったのか、バグによって発せられた言葉だったのだろうか。  
 
「あなたの全てを、感じたい」  
 
≪Snow Perfume≫-Boy`s Side-B  
 
長門がおかしくなった原因、それは俺だと告げられた。  
目の前には下着姿の長門が息を荒くし頬を赤らめ俺に覆い被さっていた。  
 
…………どういう、ことだ?  
「この症状を確認したのは、あのカーディガンを発見・回収したとき。そのとき私はあなたの匂いを検知した」  
 
匂い…? 俺そんなに汗臭かったか?  
……もちろんそんなことを言ってるんじゃないってことはわかっているさ。ああ。  
軽く逃避してるよ、認めてやる。だがな、俺にだって状況把握の時間くらいくれてもいいだろうよ。  
 
「次に症状の進行を確認したのは、あなたが私の名前と同音異義語の言葉を発したとき」  
 
同音異義語?意味は違うが読みは同じな言葉って意味だったか?  
ってことは…『ユキ』のことを言ってるのか? あの時反応したのはその単語にだったのか?  
 
「あなたがマフラーを私の首に巻いた直後、私の鼻腔は最初よりも強い匂いを検知。直後に症状は進行した」  
 
俺の匂い(というとあまり気持ちのいいものではないが)が染み付いたマフラーが症状を悪化させた?  
おいおい長門、それってつまり……  
 
「そして……あなたが私を抱えて、直接触れてしまったとき、私自身ではこの症状を修復することは不可能となった」  
 
それってつまり、俺に……  
 
「もう、あなた無しでは、修復は、不可能」  
 
どう考えても告白だよなこれは。しかもかなりマニアックな、だ。俺の匂いに欲情したってことなんじゃないのか長門よ。  
それは確かに病気と言えなくもないが病気とは違うものなんだよ。  
 
「俺は、どうしたらいい?」  
 
我ながら卑怯なことを言ってしまったと思った。こういうときは男の方から相手の意図を汲んでやらないといけなかったんじゃないのか。  
 
「あなたの全てを、感じたい」  
 
……正直、コレは、この長門は本当にあの長門なのかと疑問に思った。今までの長門からは想像も出来ない。  
ここまで饒舌で、扇情的な長門は初めてだ。  
 
それでも俺は、目の前にいる長門を、抱きしめた。深く口付けも交わした。  
 
あの香りが、長門から強く感じられた。  
 
俺はようやく理解した。  
 
 
あの香りは香水なんかじゃなく、長門の香りそのものだったのだと。  
 
長門はおもむろにブラを脱ぎ始めた。  
自分で脱げるんじゃないかと心で突っ込みを入れつつも、俺は長門の胸に釘付けになっていた。  
そして下に手を伸ばし―――――  
 
 ニチャ…………  
 
水っぽい音がした。そこに目をやると、長門の股間から脱ぎかけられた下着にかけて愛液の糸が幾重にも繋がっていた。  
 
俺はこういった行為は初めてだから基準はわからんが……濡れすぎじゃないか?  
「……部室にて読書中、すでにこの症状は確認されていた……」  
 
長門の濡れたスカートを思い出す。あれは雨漏りは雨漏りでも違う部分からだったのか。  
……いかん、ものすごくオヤジな思考になってるぞ俺。  
 
「……触って……」  
 
俺は言われるがまま右手を伸ばす。  
 
くちゅ……  
 
「ん…!」  
うあっ  
自分が触られてるわけでもないのに思わず声を上げてしまった。それほどまでにソコは熱く濡れそぼっていた。  
そのまま長門の中に指をうずめていく。  
「は…あぁ…」  
長門の手が俺の肩にかかり自分の身体を支える。しかし俺が指を動かすたびに支える手は力を失い、  
長門は次第に俺へと枝垂れかかってきた。今長門の胸が目の前にある。  
俺は我慢出来ずに、その白い肌に乗っかっているさくらんぼに舌を這わせた。  
「…ふぅ……ん!」  
それと同時に膣が締まり、俺の指をきつく締め上げた。その締まる力に反抗するかのように俺は指を動かした。  
 
くちゅ…くちゅ…くちゅ…  
「あ…あぅ…は…あぁ…!」  
胸への愛撫も強くする。  
ぴちゃ…ちゅぱ…  
「…だ……あ…も…ぉ……!」  
長門が俺の頭を抱きかかえる。もしかして、イキそうなのか?膣の中が更に俺の指を締め付ける。  
俺は長門の乳首を甘噛みした。  
「――――――――――!」  
 
ビクンッ!  
 
長門が果てると同時に俺は口に広がる甘さを感じた。比喩じゃあない。これは……?  
もしかして…母乳?!  
 
な、長門……これって……?  
「……ハァ……ハァ……このような…機能があることは…今まで認識していなかった………ハァ……」  
 
プツーン  
 
俺の中で何かが切れる。あーーーーダメだ……もう止まらん。  
俺は長門の胸にしゃぶりつく。さっきよりも入念に、嬲るように。甘さが、長門の香りが、俺の口を侵食していく。  
「…は…や…ふ…ぅん…ひ…あ…あああ!」  
胸への愛撫だけで二度目の絶頂に至る長門。  
 
息を荒げつつ布団に横たわる長門を尻目に、俺は邪魔にさえ感じ始めていた服を脱ぎ捨てた。  
 
長門…その、もう…入れていいか?  
「まだ…ダメ…」  
俺はそのときどんな顔をしていただろう。きっとおあずけを食らったシャミセンのような顔をしていたに違いない。  
「あなたの…すべてを、感じたい」  
そういうと長門は俺の息子に口を這わせた。  
 
ちゅ…ちゅぱ…  
うあ…っ!  
先ほど指に感じた熱さが、俺の一番敏感な部分にまとわりつく。やべ…気持ちよすぎる…!  
長門は更に両手を使って刺激を加えた。右手で竿をさすり、左手で袋を揉み始める。  
今までに味わったことのない刺激に童貞の俺が絶えられるはずもなく、舌で尿道を刺激された瞬間に俺は果てた。  
 
ビュッ!ビュルッ!!  
は…ああぁ…! なが…と…ぉ!  
「……んっ…んくっ……」  
射精している間にも長門の指と口は止まることがなく、俺は全てを長門の口へと吐き出していた。  
 
ちゅううぅぅぅ……ちゅぽ……  
更に俺のものを吸い上げつつ、長門はようやく口を離した。薄桃色の唇の端から俺が吐き出した欲望の証が垂れていた。  
 
「……ん……あなたの…味…」  
 
長門を創った情報統合思念体どもよ。いいか、よく聞けよ? 正直、たまりません。  
その長門の痴態を見た俺は、一度射精したにもかかわらず息子の硬度が増したのがわかった。  
 
「キョン。あなたにお願いが」  
長門が俺のあだ名を呼んだ。俺のことを固有名詞で呼ぶのは初めてのような気がする。っていうかお前まで俺をその名で呼ぶのか長門よ。  
 
「……私のことは有希と呼んで欲しい。今だけで構わない」  
お安い御用だよ。えっと……有希。  
 
なが…いや、有希が俺の上に乗ってくる。俺のモノを掴むとそれを秘所にあてがい、そのまま有希は腰を沈めた。  
「…ふ、ううぅ…んん!」  
は…あああぁ…くっ!  
 
ビクンッ! ビュッ!  
「…あ…つ、い……」  
入れた瞬間俺のものは有希の一番深い場所にコツンと当たり、情けないかな俺は二度目の射精をしてしまった。この気持ちよさは反則だ。  
しかしそれは有希も同じだったようで、同じく絶頂を感じたようだった。  
情けなさと恥ずかしさをごまかすように、俺はそのまま抜かずに下から有希を突き上げた。  
「…!……待…っん!」  
腰を動かしつつ俺は上体を起こし、有希の唇を口で塞ぐ。舌も入れて口内を舐る。舌と舌を絡ませる。歯茎を舐めまわす。  
「ふ……う…んっ…ぷは…ぁ…」  
いわゆる座位という体位だろうか。キスをしたまま有希を腰の動きだけで何度も突き上げる。  
口を離し、今度は耳を甘噛みする。有希の中が途端に締まる。  
右手で有希の髪を撫でる。左手で尻の肉を掴む。何か刺激を与えるたびに、有希の膣は俺のものをキュッキュッと締め上げた。  
そろそろ限界が近づいてきた。三度目の射精感が俺を襲う。  
 
有希…俺…もう…!  
「は…ふ…ぅんっ……わ…たし…も…!」  
 
有希を布団の上に倒し、正常位でラストスパートをかける。  
 
有希…有希…!  
「………キョン…キョン…!」  
 
二人ともが相手の名前を連呼する。そして  
 
二人同時に―――――――果てた。  
 
≪Snow Perfume≫-Girl`s Side-B  
 
症状の進行停止を確認。  
しかし、依然エラーデータの蓄積は停止せず。  
早急に対策が必要。  
 
彼の姿を目に焼き付けたいと思った。  
彼の体温を直に感じたいと思った。  
彼の匂いを直に感じたいと思った。  
彼の声で名前を呼ばれたいと思った。  
彼の全てを舌の上に感じたいと思った。  
 
…………なぜ?  
 
 
私は、12月18日未明、エラーにより世界変革を起こす。これは規定事項。  
三年前、私の元に訪れた二人目のあなたに時間変革者に対する再修正プログラムを譲渡した。  
しかし――――私は、世界変革後、再修正されたかについては、今現在の私にはわからない。  
数日後、彼のそばに居るのは私ではないかもしれない。  
長門有希というヒューマノイドインターフェースが存在しているかも、わからない。  
 
このようなことを思考してしまうのもバグの一種だろうか。  
 
『怖い』  
 
何が?  
 
『彼を感じられなくなることが』  
 
私は隣で眠る彼に視線を落とす。  
数日後、三年前の私と二回目の再開を果たす彼に。  
 
私は、緊急脱出プログラムを組み立てる。最後のプログラムを上書きする。  
 
 
『実行者名:キョン』  
 
≪Snow Perfume≫-Boy`s Side-C  
 
気が付くと俺は自分の部屋のベッドで寝ていた。  
まさか今までの出来事は夢だったのかと疑いもしたが、母親にいつのまに帰ってきたのかと怒られたことと、俺の身体に  
微かに残っていたあの香りが、全て現実だったということを認識させた。  
 
その日俺は早めに家を出た。なぜかと言うと部室の雨漏り個所を直すためだ。もちろんなが…いや有希、のお願いは  
忘れてはいなかった。  
昨日から降り続いた雪は下界に均等に降り注ぎ、うっすらと降り積もったそれは白銀の世界へと変えていた。  
俺は白い地面に新しい足跡を刻みつつ学校へと向かった。  
 
しかし部室には先客が居た。  
「おや。おはようございます」  
 
意外なことに古泉だった。ヤツはちょうど脚立をたたんでいるところだった。  
 
…ああ、おはようさん。…ってもしかして雨漏り、直してくれてたのか?  
「ええ。善は急げ、といいますからね。大事に至る前に修理をと思いまして」  
すまんな、助かったよ。  
 
俺は本心から礼を言った。いいとこもあるじゃないかと、少しだけ古泉の評価を上げてやった。+1ポイントだけだが  
 
しかしその直後、俺はその評価に-1兆ポイントすることになる。  
 
「全部で『三箇所』あったので、内二箇所は修理しておきました。もう一箇所は…ああ、もうあなたが修理済みでしたね」  
…………? 何、言ってるんだ?  
 
古泉の細い目がうっすらと開く。ヤツは有希の椅子に手を添えた。  
 
「昨日、二人で仲良く修理していたじゃないですか。長門さんと」  
昨日……? お前…まさか……?!  
「長門さんも、抜け駆けはしてほしくないなぁ。僕のキョふn」  
 
 ガクン  
 
古泉がいきなり崩れ落ちた。何が起こったのかと思ったが原因はすぐにわかった。  
古泉が立っていた場所の後ろに、有希が立っていたからだ。  
有希はツカツカと俺の元に歩いてくると、おもむろに俺の制服の校章を剥ぎ取った。  
 
「盗聴器」  
……なにぃ?!  
 
そういうと有希は校章型盗聴器を握りつぶした。  
「迂闊だった。昨日の私のエラーにより索敵できなかったことが原因」  
古泉…お前いつからこんなものを俺につけていやがった。あとで100発は殴らせろ。  
「この盗聴行為は古泉一樹個人によるもの。彼の自宅に保存されていたデータ及びそれらに関する彼の記憶は抹消済み」  
一体何をしたかったんだお前は。まさか俺にストーカーするとは…  
 
「…ごめんなさい」  
有希のせいじゃないさ。気にするな。  
 
「…ごめんなさい」  
 
もう一度、有希は謝罪の言葉を口にした。  
それの意味は古泉のことだったのか、昨日のことだったのか、それとも今から俺に対して行うことだったのか。  
 
今わの際に見た有希の顔は――――  
 
俺は部室で目を覚ました。そこに居たのはいつもの席で読書にふける長門。  
いつもと違うのは制服の上にきているカーディガンがないことくらいか。俺は軽く延びをして目を覚まさせた。  
そのとき微かに背中に軽い違和感を感じて目を向ける。カーディガンだった。  
 
……長門。これお前が掛けてくれたのか?  
 ―――コクリ  
 
頷きで返事をする彼女。周りにも目を向けるとストーブが俺の足元に置いてあった。  
 
ありがとな、おかげで風邪引かずに済んだよ。  
 
俺が礼を言いつつカーディガンを返すと、長門は本を閉じて常備されている魔法瓶へと歩いていった。  
しばらくすると部室にコーヒーの匂いが立ち込める。長門が湯飲みに注がれたそれを俺にもってきた。  
 
「眠気覚まし」  
…ああ、ありがとな。頂くよ。  
 
長門が進んで給仕とは珍しい。それと長門といえばお茶というイメージが強かったが、このコーヒーもお世辞じゃなく美味かった。  
なんというか、懐かしい味というか香りというか、そういったものが感じられる。  
 
美味しかったよ。サンキューな。これってインスタントだよな。にしては妙に美味いんだが…ミルクか何か特別なものいれたのか?  
 ―――コクリ  
 
肯定の合図。その顔は赤らんでいるようにも見えた。俺はそろそろ帰ろうと思い、ふと窓の外に目を向けた。  
 
あ。雪…降ってきやがった。まずいな…傘持ってきてないぞ。  
 
そう呟く俺の袖を何かが引っ張った。長門だった。手には傘を持っていた。  
 
「良ければ、一緒に」  
 
 
しんしんと雪が降りつづける中、無言で帰り道を行く俺と長門。しかし不快感はない。  
むしろ心地よさを感じる。そう思っているのは俺だけだろうか。しばらくして俺の家に到着する。  
 
わざわざ悪かったな。  
「気にしないで」  
あ、そうだ。これ。  
 
俺は自分がしていたマフラーを長門の首に巻いてやった。  
 
今日はいつもより冷えるからな。これ貸すよ。なに、さっきのお礼だ。まぁ長門には必要ないものかもしれないけどな。  
「…………ありがとう」  
 
お礼を言った長門の顔は、なぜか嬉しさと悲しさを織り交ぜたようなものが浮かんでいるように思えた。  
俺は、それと同じ表情をつい最近見たような気がする。それは錯覚だったのだろうか。  
 
踵を返し、自宅のマンションへと戻っていく長門。俺はなぜか彼女の後姿を見えなくなるまで眺めていた。  
雪特有の冷たい匂いが俺の鼻腔をくすぐった。  
 
彼女が数日後、暴走を起こすことなど今の俺には知る由もなかった。  
 
≪Snow Perfume≫-Girl`s Side-C  
 
昨日放課後より現在までの彼の記憶の改竄を終了。口内より注入済みのナノマシンの動作を確認。  
対情報操作用遮蔽スクリーン及び防護フィールドを体表面に展開を確認。  
この効果は20XX年12月20日まで持続する。  
                                       ≪Snow Perfume≫-END-  
 

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