それはとある冬の日だった。  
 
「困ったことになりましたよ」  
 
はいはい。またハルヒが何かやらかしたんだろ。  
もうワンパターンなんだよ。もうちょっと捻ってくれ。  
 
「正確にはこれから何かやらかす…といった所ですね」  
 
そういや今日は昼から居なくなってたな。早退でもしたのか。  
 
「涼宮さんは最近退屈しています。UMA探索などのやっかいな事になる前に  
 こちらから娯楽を提供しないといけませんね。」  
 
探索だけなら骨折り損で済むが(主に俺が)あいつのことだ。  
つちのことかスカイフィッシュとかが現れかねん。  
訳のわからん生物と戦闘するのはご免だぞ。  
 
「またあの会長に頼めばいいだろ?適当にちょっかい出して貰えば」  
 
「僕もそう思っていたんですよ。しかし最近ネタ切れ気味でしてね。  
 あなたは何か提案ありませんか?」  
 
んなこと急に聞かれてもな。学園内陰謀説ならおまえ好きだろ?  
 
「そうですねぇ…。長門さんは何かアイデアはありませんか?」  
 
「…映画」  
 
…正直、カンベンしてください。  
もう文化祭でやったろ?あんな思いはもうたくさんだぞ。  
 
「そうですか?僕は結構楽しかったですよ」  
 
「本気で言ってるのか?」  
 
「では、その方向で持って行きましょうか。今回はあなたにも一枚噛んでもらいますよ」  
 
ハンサムスマイルを崩さずこんなことのたまいやがる。  
俺意見なんかスルーか。お前もハルヒがうつってきたんじゃないか。  
 
「…わかったよ」  
 
せめてもの抗議として大きな溜息をついてやる。  
 
「それでは早速会長と話をつけましょうか。」  
 
「はいはい仰せのとおりに」  
 
なんか俺、ハルヒと出会ってから振り回され属性ついてないか?  
 
 
 
優雅にノックする古泉。  
 
「…入りたまえ」  
 
相変わらずの渋い声だな。  
 
「失礼します」  
 
「…なんだお前か。座れよ」  
 
会長顔から一瞬でやさぐれ会長にシフトチェンジ。  
校長室にあるような豪華なソファーに座るように促す。  
 
…職権乱用は順調に進んでるようだ。  
 
「大体はわかってる。またあの頭のニギヤカな女と適当にやりあえばいいんだろ?」  
 
「おや、意外ですね。わかってらっしゃるとは」  
 
 
「お前が訪ねて来るのはそれしか無いだろ」  
 
…それにそこの小さいのから聞いてる。と俺達の後ろをアゴで示す。  
 
「うお、いつから居たんだ長門」  
 
「…さっき」  
 
相変わらず気配を感じさせないヤツだな。  
 
「昼休憩の時に通達はしておいた。前の時と同じく文芸部潰しの形でな。」  
 
 
会長がそう言った直後だった。  
 
 
「ぃやっほー!来てあげたわよヘボ会長!あ、キョン達も一緒だったのね。丁度いいわ。」  
 
我らが団長様のご登場。いやな予感。  
 
「見てよこれ!」  
 
「なんだよこれ」  
 
そこには SOS団プレゼンツ!今世紀最大のHIT作!これを見なきゃ…  
あぁもう面倒くさい。とにかく訳のわからん形容詞が付きまくったチラシだ。  
中央にはSOS団エンブレムがデカデカと書かれてある。  
 
「ここにはみくるちゃんのキワドイ画像を貼り付けるのよ。  
 とりあえず仮にエンブレム乗っけといたの。  
 見てなさいよヘボ会長!動員100人以上のノルマなんか余裕でクリアできるわよ!」  
 
「せいぜい頑張るんだな。言っておくがそれがクリアできないようなら文芸部は廃部だ。  
 それとSOS団プレゼンツとは何だ。文芸部製作の形で…」  
 
「さぁそうと決まったら行くわよアンタ達!  
 100人程度動員できないんじゃSOS団の恥だからね!」  
 
会長の言葉が終わらないうちに叫びながら会長室を飛び出してった。忙しないヤツだな。  
 
「…まぁ、いいさ。そういう訳だ。せいぜいあのイカレ女とよろしくやっててくれ。…それと古泉」  
 
「わかってますよ。内申の件は計らいます」  
 
「わかってるならいい。」  
 
「それでは失礼します。これから忙しくなりそうなので。」  
 
 
部室に戻るといつの間にかメイド朝比奈さんもいてわたわたとホワイトボードに何かを書いていた。  
 
 
「さぁ忙しくなるわよ!期限は一週間しか無いんだから!キリキリ働きなさい!」  
 
働けったって一体何をすりゃいいんだ。  
 
「詳しいことはここに書いてあるわ!」  
 
朝比奈ミクルの冒険 エピソード01  
 
主演 朝比奈みくる  出演 長門有希 古泉一樹   
監督、脚本 涼宮ハルヒ カメラマン、その他雑用 キョン  
 
 
…またか。  
 
「この前の続編よ!今度のはミクルとユキの戦闘よりもイツキとのラブストーリーを  
 メインに仕立て上げるわ!そっちのほうが人気出るもんね!」  
 
そんなもんか?つーかハルヒにラブストーリーみたいなもん作れるのか?  
 
「あ、申し訳ないのですが…」  
 
「ん、どしたの古泉君」  
 
「これから少しアルバイトが忙しくなりそうで…。出来れば雑用係にさせていただきたいのですが」  
 
おいおいまたあの例の空間が出来てるんじゃないだろうな。  
 
と、俺の考えを見抜いたかのように俺にウィンクを送ってきた。  
…知らんぞ。お前と以心伝心なんかしたくもない。  
 
「…それなら仕方ないわね。ラブストーリーなんだから相手は男じゃなきゃ始まらないわ。  
 キョン。あんたやりなさい」  
 
 
相手は朝比奈さんだ。ここで断れる男なんか100人中5人ぐらいしかいないだろう。  
その5人はもちろんガチなゲイだ。ハルヒ曰くそれぐらいいるらしいからな。  
その一人が古泉で無い事を切に願う。  
 
 
それから俺達の撮影が始まった。文化祭の時みたいに妙な現象が起こることも無く  
そこそこ順調に進む。これなら余裕を持って終われそうだな。  
 
 
「ちょっとちょっと!違うわよ!みくるちゃんくっつき過ぎなの!  
 いくらラブストーリーって言ってもちゃんと節度を守らないと!」  
 
「何言ってんだ。この前の時は古泉とめちゃくちゃくっつけてた癖に。」  
 
「それとこれとは話が違うのよ!」  
 
何が違うんだ。撮影が始まってからずっと機嫌悪いみたいだし。  
 
「にゃはは。最近思うんだけどさぁ。キョン君ワザとやってないかいっ?」  
 
ゲスト出演の鶴屋さんだ。  
 
「ワザとって…何がです?」  
 
「…これは真性みたいだねっ。大丈夫!お姉さんにまかせんしゃい!」  
 
と勝手に一人で張り切って朝比奈さんと何か話してる。  
 
ん。なんだどうした。なんか言い合ってるな。  
 
「おいおいどうしたんだ」  
 
「キョンも言ってやってよ!みくるちゃんが主役降りるって言うのよ!」  
 
なんでまたそんなイキナリ。  
 
「ちょっと用事が入っちゃったんだよね?みくる!」  
 
「そ、そうなんですよぉ…。どうしても外せなくて…。」  
 
「だからその用事の内容は何なのよ。監督を納得させて貰えないと降板なんか認められないわ!」  
 
「そ、それは…」  
 
なんか言い淀んでるな。もしかして未来関係か?それだとマズイな。俺も援護しないと。  
 
「ハルヒ。朝比奈さんだって人には言えない事情だってあるんだ。秘密なんか誰にでもあるだろ?  
 いくら同じSOS団だからって言えない事ぐらいあるさ。お前だってあるだろ?」  
 
「そ、そうなんです…。すいません、でもどうしても外せなくって」  
 
むぅ…。とアヒルみたいな口で不満げな顔をした後、渋々  
 
「…仕方ないわね。でも主演がいなくなるのはマズイわ。鶴屋さん、アナタやってくれない?」  
 
「悪いねハルにゃん!アタシは主演ってガラじゃないっさ!  
 それに主演ならもっと相応しい人がいるニョロよっ!」  
 
おいおいまさか…。  
 
「ハ・ル・にゃん!自分がやっちゃえばいいっさ!」  
 
鳩が豆鉄砲食らったような顔してやがる。珍しいな。  
 
「で、でもあたしは監督なのよ?そんな色々広げたら全部中途半端になるわ。  
 二兎追うものは切り株につまづく運命なのよ。」  
 
「それなら心配無いっさ!脚本はアタシが書くよん!」  
 
あー…。そういえば前に機関誌出したときのは傑作だったな。  
鶴屋さん程適任な人はいないかも知れない。  
 
「俺も賛成だ。そっちの方が集客率も上がるだろ。  
 鶴屋さんの手腕は機関誌で広まってるだろうし」  
 
「そういう事だから!ハルにゃん主演よろしくっ!」  
 
「…仕方ないわ。文芸部のためだもんね。  
 でも、あたしが主演するからには中途半端には終わらせないわよ!」  
 
 
見事言いくるめてしまった。  
ハルヒを上手い事コントロールする力を持つのは鶴屋さんだけじゃないか?  
よかったらコツでも教えて欲しいもんだ。  
 
 
「んじゃそうと決まったら早速脚本書いてくるっさ!  
 明日には出来るだろうから楽しみにするにょろ!」  
 
「楽しみにしてるわ!期待してるからねっ!」  
 
「よろしくお願いします」  
 
「よし、任されたっ!期待しとくっさ!」  
 
 
うん。これならマシ…どころか結構な映画が出来るかもしれない。  
 
 
鶴屋さんは次の日の昼休憩には「はいこれっ!結構力作だよっ!どんなになるか楽しみ楽しみ!」  
と言いながら脚本を渡して去っていった。何でも法事とやらで手伝えないんだそうだ。  
 
退屈な授業が終わると同時にハルヒにネクタイを引っ張られ、文芸部室に引きづられる。  
「ホラ、早く!時間は待っちゃくれないのよ!」  
 
俺には休息の時間すら与えられないのか。  
仕掛け人の古泉は体よく逃げ出しやがって。  
結局この無限のスタミナを持つ団長様と振り回され役の俺しかいないじゃないか。  
え?長門?アイツもいつの間にか…というかハナから居なかったな。  
「お邪魔虫」  
という謎の言葉を残して。  
 
 
そして文芸部室で2人だけの撮影が始まった。  
俺演じる「きょん」とハルヒ演じる「涼宮はるひ」が織り成すラブストーリー。  
映画でもあだ名ってどうなんだこれ。  
 
 
いや、台本にあるからしょうがないが恥ずかしいもんだな。  
こいつ相手に好きだとか愛してるだとか言うのは。  
 
「お…おい。くっつき過ぎじゃないか?いくらラブストーリーつっても  
 節度ってもんが…」  
 
「うるさいわね。仕方ないでしょ、台本に書いてあるんだから。  
 文句なら鶴屋さんに言ってよね」  
 
 
何を考えておられるのだ鶴屋さん。  
ま、何となくわからんでもないが。  
 
 
鶴屋さんの台本はそこそこ短かったらしく、結構早くラストシーンまで撮影が終わった。  
一日で書き終えたんだからな。尊敬せざるを得ない。  
 
「さ、ラストシーンさっさと撮るわよ。まだ編集作業も残ってるんだし」  
 
「はいはい。最後は何するんだ?」  
 
「…ス…よ。」  
 
「あ?なんだって?」  
 
「キスよ!キスシーン!!」  
 
「な…ちょっ…」  
 
おいおいおいおいおい。一体何を考えてるんですか鶴屋さん。  
いたずらっぽく笑う上級生の顔が思い浮かんだ。  
 
「ほら、さっさと撮るわよ」  
 
「ちょ、ちょっと待てよ。さすがにそれは…」  
 
「仕方ないでしょ!台本に書いてるんだから!それに完成させないと文芸部が潰れちゃうのよ。  
 アンタそれでもいいの!?」  
 
う…。それを言われるとキツイ。実際俺達が仕掛けた事だから潰れはしないが  
それをコイツに言う訳にはいかない。  
…仕方ない。  
 
「…やれやれ。わかったよ。さっさと撮ろう」  
 
 
「ほら、あたしの腰に手を回して。そっちの手は頭の後ろ。そう。」  
 
ええいままよ。  
 
「ん…」  
 
またこいつとこんな事するハメになろうとは。  
 
「ねぇ」  
 
「ん?」  
 
「好きよ。…キョン」  
 
「んなっ…!?」  
 
「違うわよ。何勘違いしてんの。あたしが言ってるのは劇中の『きょん』よ。  
 ほらアンタもアドリブでいいからなんか言いなさい。」  
 
アドリブって言われても。そもそもその脚本、俺一回も中身読んでないぞ。  
 
「ねぇキョン。…好きよ。大好き」  
 
んな顔して俺を見んな。反則だ。  
んだよ。その顔。俺は何も言わんぞ。絶対言わんぞ。  
 
「キョン…」  
 
だー!もういいよ!どうにでもなれよコノヤロウ!  
 
「好きだ。俺もハルヒが大好きだ。…ずっと傍に居ていたい」  
 
「うれしい、キョン…」  
 
 
 
 
クソ恥ずかしいラストシーンを撮り終わった後、編集作業に入る。  
いつぞやのようにハルヒは後ろでガヤガヤ騒いで  
今は机で寝息立ててやがる。  
 
編集作業は前の時よりも楽だった。  
ミクルビームとか訳わからん特殊効果つけなくてもいい。繋げるだけだからな。  
 
 
「んっー…」  
 
大きな伸びを一つ。一仕事終えた後は気分いいな。  
俺とハルヒが延々いちゃいちゃする映像ばかりだったことを除いたら。  
 
 
ったくコイツはいつまで寝てやがるんだ。  
…黙ってたらモテるだろうに。ツラは抜群にいいんだから。  
 
「寒っ…」  
 
ったく。寝ても起きても世話焼かせるヤツだな。  
仕方ない。俺のブレザーかけてやるか。  
ついでに電気屋から貰ったストーブも近くに置いてっと…。  
 
そういやこれ、次回作のスポンサー代わりにって貰ったんだよな。  
CM撮ってないけどいいのか?  
 
…こいつが起きるまでまだ時間ありそうだな。  
ヒマ潰しに台本でも読むか。文字で見るとまた別の感動がありそうだな。  
ワクワクしながら台本を開く。  
 
 
「おいおい…なんだよ、これ…」  
 
「ん…」  
 
おわっ!急に起きるなよ。ビックリするだろ。  
 
「あ…寝ちゃってた?」  
 
「ぐっすりな。起きたんならブレザー返せ」  
 
「…あたしが寝てる間に顔に落書きとかしてないでしょうね」  
 
「んな幼稚な事しねぇよ」  
 
「あ!もうこんな時間じゃない!編集終わったの?」  
 
「終わったよ。おかげさんで」  
 
「んじゃさっさと帰りましょ。…あ!雨降ってるじゃない!もう、ツイてないわね」  
 
「…傘なら俺が持ってるよ。職員室からガメてきた」  
 
「教職員専用じゃないの?それ」  
 
ハルヒがイタズラっぽく笑う  
 
「いいんだよ。学校の備品なんだ。生徒が使っても問題ないだろ?」  
 
「それもそーね。アンタも中々わかってきたじゃない」  
 
 
二人で笑いあいながら家路に着いた。  
 
 
…ん?台本の中身?あぁ、そうそう言ってなかったっけ。  
いやぁ、アレ見たときは本気でビックリしたな。  
鶴屋さんらしい丸っちい文字でこう書いてあったんだ。  
どーりであんな短時間で書けた訳だ。  
 
 
『ハルにゃんの好きなようにしなっ!自分の気持ちをぶつければいいのさ!  
 応援してるよ!がんばるにょろ!』  
 
                        
                            鶴屋  
 

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