気になっていたことがある。  
なんだかんだ言いつつハルヒにはそれなりに気に入られているようではあるし、  
多少なりと長門からの信頼も得ていると感じるのは俺の思い上がりばかりではないだろう。  
古泉の考えていることは今ひとつよくわからんが、  
まあ客観的に見て友人と言って差し支えない程度には良好なんじゃないか?  
問題は残る一人。朝比奈さんだ。  
あの人は俺のことをどう思っているんだ?  
嫌われている、ということはないだろうが、  
では好かれているのだとしたらそれはどの程度だ?  
ここでもう一度、ハルヒと長門を例に出そう。  
あの二人は明らかに、「俺」と「俺以外の人間」への対応が違う。  
つまりこいつらの中では、俺の地位は谷口や国木田よりは上ってことになってるわけだ。  
では、朝比奈さんはどうだ?  
あの人がSOS団員や鶴屋さん以外の人と話している場面などあまり見たことがないので、  
そこは想像を働かせるしかないのだが――  
思うに、誰に対しても終始あの調子なのではないだろうか?  
例えば、あの世界改変のときの一件。  
俺の知らない三日間の中で朝比奈さんは俺のために泣いてくれたと聞くが、  
ではあのとき階段から落ちたのが俺でなかったとしたらどうだ?  
古泉でも、谷口でも、国木田でも、あの人は同じように取り乱してたんじゃないのか?  
 
前置きが長くなったな。そろそろ本題に入ろうか。  
つまり俺が何を言いたいかというと、だ。  
普段から漠然とこんなことを考えていたからこそ、  
俺は今、冷静さを保っていられるんじゃないだろうか。  
そうでなければ、目の前にある光景を見て、こんなに落ち着いてはいられなかったと思うね。  
 
――朝比奈さんが、街中で見知らぬ男と腕を組んで歩いてる、なんて。  
 
……いや、この言い方は正確じゃないのかもな。  
俺がいるのは二人の後方。見えているのは後ろ姿だけだ。  
だがそれでも、女の方が俺のよく知る麗しの未来人様であることは間違いない。  
それなりに長い付き合いだ。  
背格好といい髪形といいセーラー服の着こなしといい、朝比奈さん本人であると断言できる。  
たまに隣の男に話しかけているから、横顔だって確認できたしな。  
で、もう一方の男の方はというと、  
少なくとも後ろ姿でぴんと来るような相手ではない。  
身長は俺とそう変わらん。  
着ているものも俺と同じ、北高指定のブレザーだ。  
ということは当然北高生ではあるのだろうが、その正体に全くこれっぽっちも心当たりがない。  
そもそも朝比奈さんの交友関係など、鶴屋さんを除けば俺は何一つ知らないがな。  
こういうとき、漫画なんかでは「実は兄弟でした」というのがお決まりのパターンなのだが、  
この場合それは望み薄だろうね。  
朝比奈さんに兄弟がいるなんて話は聞いたことがないし、  
仮にいたとしてもその兄だか弟だかは当然未来に住んでいるだろう。  
朝比奈さんと一緒にこっちに来ていて、しかも同じ北高に通っているというのなら、  
いくらなんでも事前に一言くらいは紹介があるんじゃないか?  
とすると要するにあの男は――  
――朝比奈さんの彼氏、ということになるのか。  
 
俺の記憶が確かならば、あの人は以前、  
「この時代にそういう相手を作るわけにはいかない」と言っていた。  
しかしそれは理性的な判断の結果であって、本人の欲求とはまた別問題だろう。  
今この時代が朝比奈さんのいた時代から見て何年前に当たるのかは知らないが、  
そんなところに一人で放り出されて任務に励まなきゃならないんだ、  
心細くなるときも、誰かに頼りたくなるときも、当然あって然るべきだろう。  
残念ながらその「誰か」は、俺では役者不足だった――ただ、それだけのことだ。  
さて、それじゃ俺は見なかったことにして帰ろうかね。  
本人の口から「彼氏ができた」という報告がなかったってことは、  
秘密にしておきたいんだろうからな。  
なんだか胸の辺りにもやもやとしたものを感じないでもないが、  
とりあえずこの場はそれがいいだろう。  
俺はそう判断し、速やかに身を翻そうとして、  
「!」  
「!?」  
――目が、合ってしまった。たまたま振り返った朝比奈さんと。  
こうなってしまったら挨拶でもした方がいいのか? しかし、なんと言えばいい?  
「やあ朝比奈さん。そいつは誰です?」――これはちょっと不躾か。  
「デートですか? ああ、邪魔はしませんよ」――なんか卑屈だな。  
「大丈夫ですよ。誰にも言いませんから」――正式には口止めされてないのにか?  
おかしい。上手く考えがまとまらん。なんて声をかけるのがベストなんだ?  
しかしまあ、結論から言えば、特に悩む必要はなかった。  
俺を見つけた朝比奈さんは、途端にその愛らしいお顔を蒼白にして、  
隣の男を引っ張るように、すぐそこの曲がり角へと消えてしまった。  
目撃されてから隠れてもあまり意味はないだろうに、  
そんなドジっ子ぶりもあの人らしいね、まったく。  
「……はぁ」  
意味もなく溜め息が漏れた。  
前述の通り、朝比奈さんに特別好意を持たれてる、  
などと大それた期待はしてなかったつもりだが、  
それでもこうまで露骨に避けられるとショックだな、実際のところ。  
さすがに後を追う気にもならず、俺はその後すぐ帰路についた。  
 
翌日の放課後。  
朝比奈さんと会ったらどんな顔をすべきか決めあぐねたまま、  
俺はいつものSOS団部室に向かった。  
ノックをする。返事はない。  
ということは、朝比奈さんはまだ来てないってことか?  
しかし普段の朝比奈さんはノックを無視するようなお方ではないとは言え、  
今日の場合はどうだかわからんな。  
まあ迷っていても仕方がない。覚悟を決めてドアを開ける。  
「…………」  
中にいたのは、いつも通りに部室の備品と化した宇宙人製アンドロイドだけだった。  
読んでいた本から顔を上げた長門は、俺を一瞥してすぐまた読書に戻る。  
「よお、長門。朝比奈さんはまだか?」  
見ればわかりそうなものだが、なんとなく尋ねてしまった。  
今度は長門は視線を上げず、  
「来ていない」  
簡潔に答える。  
この様子では古泉もまだみたいだな。  
ハルヒは確か俺より先に教室を出て行った気がするが、向かう先はここではなかったようだ。  
またどこぞで厄介事を見つけて首を突っ込みに行ったのか?  
あいつが妙なイベントを持ち込んで来るのにももう慣れたが、  
正直、今は遠慮してほしい。そこまで精神的に余裕がない。  
 
「……長門」  
ふと思いつき、俺は長門に声をかけた。  
色々と考える前に、一つ確かめておくことがある。  
「昨日の夕方、朝比奈さんがどこにいたか、調べられるか?」  
試しに訊いてみた。無理なら無理で別に構わない。  
その程度の問いだったが、再び顔を上げた長門はあっさりと、  
「可能。具体的な時刻は」  
「そうだな……五時くらいだ」  
俺が告げると、長門はほんの少しの間何もない虚空を見つめ、すぐに向き直って結果を口にする。  
「駅前の商店街。あなたのすぐ側」  
ついでに俺のいた場所までサーチしてくれたのか。  
となると、いよいよ俺の見間違いではなさそうだな。  
「……それと」  
一縷の望みさえ絶たれ、改めてショックを受けていると、長門がさらに口を開いた。  
なんだ? まだ何かあるのか?  
……と、俺が続きを聞く態勢に入ったときのことだ。  
「あ、あの、失礼しま……ひゃっ!?」  
問題の中心人物が、ドアから半分顔を覗かせた。  
なんだか俺の顔を見て驚いたように見えるな。実際そうなんだろうが。  
「あー……どうも、朝比奈さん」  
いつも通りを装って応対したつもりだが、果たしてその努力は実っていたのだろうか。  
どうにも自分では判断がつきかねるね。  
何しろ朝比奈さんはその直後、  
「あ、あの……ご、ごめんなさい!」  
そう言い残していきなり部屋を出て行ってしまったのだから。  
「あ、ちょっと……朝比奈さん!?」  
困惑しつつも、俺は咄嗟に後を追う。  
何について謝罪されたのかもいまいちよくわからんが、  
それ以上に不可解なのは去り際の朝比奈さんの目元だ。  
俺の見間違いでなければ、なんだか涙ぐんでいたような気がする。  
俺はそんなにまずいところを目撃してしまったのか?  
「……おっと。何事です?」  
慌てて廊下に飛び出したところで、見慣れたにやけ面に出くわした。古泉だ。  
しかし今は悠長に説明している場合ではない。  
返事もせずに俺は走る。前方を行く小柄な後ろ姿を追いかけて。  
 
朝比奈さんはこんなときだけやけに素早く、一度はその姿を見失ってしまった。  
手近なところから勘を頼りに探し回り、再び発見したのは生徒玄関手前の廊下。  
帰宅部の生徒はすでに下校し、そうでない連中は部活に励んでいるこの時間、  
付近に人の気配はない。  
「……朝比奈さん」  
控えめに呼びかける。  
一度びくっと肩をすくませ、それでも朝比奈さんは俺の方に向き直った。  
「あ、キョンくん。ごめんなさい、いきなり逃げたりして……」  
無理矢理に作ったような笑顔が痛々しい。  
事情はよく呑み込めていないが、ひとまず当たり障りのないところから尋ねてみる。  
「大丈夫ですか?」  
「ええ、はい。ちょっとびっくりしただけですから」  
びっくりした?  
「その……昨日のこと、で」  
伏し目がちに付け足されたのはそんな言葉。  
つまりその――男連れで歩いてるのを目撃されてびっくりした、と?  
ふむ。突っ込んで訊いてしまっていいものか悩んでいたが、  
本人の方からそう言うのなら少しは許されるのだろう。  
 
「ええ、その昨日のことなんですが……」  
俺が言いかけた途端、いきなりまた朝比奈さんの目に涙が溢れ返った。  
うお、全然大丈夫じゃないじゃないか。  
「や、あの、本当、平気ですから。その……あんまりにも急なことだったから……」  
その顔で「平気ですから」とか言っても説得力がありませんが。  
……って、「急なこと」? なんの話だ?  
「こ、こうなることは、わかってたんです……。  
あたしはこの時代の人を好きになっちゃいけないから。  
だから、いつかは諦めるつもりでいたんですけど、  
その……もうとっくにそういうことになってるとは思わなくて……」  
……なんだ? 朝比奈さんは何を言ってるんだ?  
俺が目撃したあの場面と、話が噛み合っていないような気がする。  
けれど、他に「昨日」というキーワードで思い当たるような事件はないぞ。  
さっぱり話が把握できずそんな風にして混乱する俺の目の前で、  
白磁のように滑らかな頬にはとうとう一筋の雫が滑り落ち、  
「す、涼宮さんには黙ってますから! いえ、あたし、何も見てませんから!」  
そんな言葉を残して、朝比奈さんはまた駆け出して行ってしまった。  
今度は後を追うこともできず、俺は呆然と立ち尽くす。  
「黙ってますから」? 「何も見てませんから」?  
それはどっちかと言うと、俺の台詞じゃないのか?  
本当に朝比奈さんはどうしてしまったんだ?  
……くそっ、さっぱりわけがわからん。  
「いいんですか? 追いかけなくて」  
唐突に、背後で聞き覚えのある声。こいつはときどき神出鬼没だな。  
「追いかけてどうなる? 泣いてる理由もわからないってのに、俺は何をしてやればいいんだ」  
振り向いた先には予想通り、むかつくくらいに爽やかスマイルの古泉が立っていた。  
「何をしてやれば、ですか。よろしければ、僕がヒントをお出ししましょうか?」  
ヒント? お前は何か知ってるってのか?  
「いえ、『知っている』わけではなく、単なる推論なのですが。  
けれど、今のあなたよりは状況が掴めていると自負していますよ」  
ほう。根拠は?  
「先程のあなたの様子が尋常ではなかったので、  
駄目元で長門さんに訊いてみたんですよ。  
そうしたらあなたへの伝言を頼まれまして」  
長門が? ……ああ、そう言やあいつ、何か言いかけてたな。  
「ええ。その伝言の内容と、  
つい今し方の朝比奈さんの様子を照らし合わせてみたのですが、  
おそらくあなた方は双方ともに大きな誤解をしているのではないかと」  
回りくどい言い方はよせ。その「推論」とやらを聞かせてみろ。  
「ではそうさせていただきましょう。なに、真相は単純なことです。要するに――」  
 
「うぅ……ぐすっ、なんですか、あたし何も見てないって言ったじゃないですか、  
これ以上なんの話があるんですかぁ……」  
古泉の言う「真相」とやらを聞かされた俺は、  
もう一度朝比奈さんの姿を求めて学校中を駆けずり回った。  
結局、体育館の裏で独り泣き濡れていたところを発見し、  
俺の姿を見止めるなりまた逃げ出そうとしたのを押し留め、  
どうにかこうにか宥めすかしてこのSOS団部室まで引っ張って来た次第である。  
室内には、さっきから一歩も動いていないであろう長門と、  
先に戻っていたらしい古泉、そして俺と朝比奈さんの四人だけ。  
ありがたいことにハルヒはまだか。来る前に片づけてしまおう。  
 
「そこなんですよ、問題は。――朝比奈さん、あなたは昨日、一体何を見たんですか?」  
なんだか今更な感もあるが、俺は改めてそう尋ねる。  
朝比奈さんは激しくかぶりを振って、  
「だからっ、何も見てないって言ってるじゃないですかぁ!  
それでいいじゃないですかぁ……うぅ」  
……駄目だな、これは。すっかり意固地になってしまっている。  
仕方ない、先に俺の話をするか。  
「朝比奈さん。俺は昨日の夕方、駅前の商店街を歩いていました」  
「……っ」  
俺の言葉に息を呑む朝比奈さんだが、特に相槌も反論も出ては来ない。  
構わずに先を続ける。  
「そこで見たんですよ。――誰かとデート中の、朝比奈さんを」  
「……っ!?」  
がばっ、と顔を上げて、朝比奈さんの目が俺を捉える。  
そこにあるのは「秘密を暴露されたショック」というよりも――  
――「何を言っているの?」とでも言いたげな、困惑そのものの色。  
多分、さっきまでの俺とそっくりの。  
「……さて、もう一度訊きます。朝比奈さんは、昨日何を見たんですか?」  
再度の問いかけ。  
訝しげに眉根を寄せたまま、それでもなんとか震える声で、  
今度こそ朝比奈さんは答えてくれた。  
 
「あ、あたしが見たのは……キョンくんが、デートしてるところ……です」  
 
……やっぱり、か。  
視界の隅で、古泉が軽く肩をすくめる。「言った通りでしょう?」とでも言うように。  
ああ、どうやらそうらしいな。お前の推論は大正解だよ。  
しかし、わざわざ本人にそう告げてやるのもなんだか癪だ。  
俺は代わりに別の奴の名を呼ぶ。  
「長門」  
相変わらず状況と無関係に一人読書中だった万能宇宙人が、  
ページを繰る手を止めて顔を持ち上げた。  
俺は確認するように、古泉から聞いた話を反芻する。  
「昨日の五時頃、俺と朝比奈さんがいた場所のすぐ近くに、  
ちょっと変わった奴らがいたそうだな。それは、どんな奴らだった?」  
長門は即答した。どうということもなさそうに。  
 
「あなたと朝比奈みくるの異時間同位体。現時点から346日後の」  
 
「え……?」  
呆気に取られる朝比奈さん。  
それはそうだろう。  
俺も古泉からそう聞かされたときは、似たようなリアクションを取っていた。  
つまり、こういうことだ。  
俺が昨日目撃した朝比奈さんは、今ここにいる朝比奈さんではなく、  
約一年後の未来から来た朝比奈さんだということになる。  
そして隣にいた男――あれは、同じく一年後の俺自身だ。  
普段、自分の後ろ姿なんて見る機会はないからな。  
一目でそうだと気づけなくても、それは俺の落ち度じゃないぞ。  
多分また、朝比奈さん(大)辺りの指示で、  
二人揃って昨日のあの場所に来てたんだろうよ。  
七夕のときみたいにさ。  
 
「それじゃ、あれは……キョンくんの陰にいたのは……あたし?」  
ようやく理解が追いついたのか、朝比奈さんが呟いた。  
ええ、多分そういうことでしょう。  
昨日、俺とは少し離れた位置から、朝比奈さんも偶然同じ光景を見ていた。  
ただ、朝比奈さんのいたところからでは、俺(一年後)の姿は確認できても、  
朝比奈さん(一年後)はよく見えてなかったんだろう。  
あるいは、俺と似たような理由で、それが「自分」だとは思い当たらなかったか。  
そりゃ自分自身がそこらをうろついてるなんて、普通は想像もしないだろうしな。  
ドッペルゲンガーじゃあるまいし。  
ともあれ、それで「俺が誰かとデートしてる」なんて思い込んでしまったわけだ。  
まったく、古泉の言い草じゃないが、わかってしまえば単純な話だ。  
「なんだ……そう、だったんですか……」  
ほっとしたように脱力し、朝比奈さんの体が揺らぐ。  
そのまま倒れてしまいそうに見えたので、俺は手近な椅子を引き、そこに腰掛けさせてやった。  
「なんだぁ……そうかぁ……」  
再度呟く朝比奈さんはすでにいつもの調子を取り戻し――  
いや、若干いつもより嬉しそうに見えるな。  
まぁともかく、朝比奈さんの中では、これで完全に誤解は解けたらしい。  
けれど、と俺は考える。  
俺の方は必ずしもそうではない。もう一つ残った謎がある。  
もしかしたらこれも、  
朝比奈さんの位置からは角度の問題で見えていなかったのかもしれないが……  
なんで俺(一年後)と朝比奈さん(一年後)は、腕を組んで歩いていたんだ?  
そういう指示だったのか? それとも――?  
「みんな、お待たせー!」  
そこまで考えたところで、俺の思考は無理矢理に中断させられた。  
ドアを開けて入って来たのは、我らがSOS団の団長殿だ。  
「ん、全員揃ってるわね。いやー、調べ物してたら遅くなっちゃったわ」  
ついさっきまで俺たちが抱えていた問題など露知らず、  
ハルヒは意気揚々といつもの団長席につく。  
その手には、長門が好みそうな分厚い書籍が一冊。  
今言った「調べ物」とやらの資料か何かか? 今度は何を調べてたんだ?  
「いい質問ね」  
そりゃ、他に質問することなどないしな。  
「減らず口はいいわ。とにかくこれを見なさい」  
そう言って、ハルヒは手にしていた本を机の上に置く。  
長門以外の全員でそれを覗き込むと、あまり見たくもなかった書名が目に飛び込んで来た。  
曰く――『世界の不思議・怪奇現象』。  
「あたしはね、次のSOS団市内探索のテーマを考えてたのよ」  
市内探索ってのはあれか。  
いつも漠然と「不思議なもの」を探して歩き回る、恒例行事のパトロール。  
「そう、そこよ! その『漠然と』がいけなかったの!  
物事には順序があるわ! 何か一つに目標を絞れば、探索の効率も上がるってもんよ!」  
……それでテーマか。もう好きにしてくれ。  
それで? 次回のテーマはなんなんだ?  
UFOか? ツチノコか? ネッシーか?  
半ば自棄になって尋ねると、ハルヒは「ふふん」と不敵に笑った。  
机の上の書籍を取り上げ、  
予め付箋を挟んでおいたと思しきページを俺たちに向かって開いて見せる。  
その右上、日本語とドイツ語の両方で書かれた見出しを、ハルヒは声も高らかに読み上げた。  
「ドッペルゲンガー! 今度のテーマはこれよ!」  
……こいつ、本当は知っててやってるんじゃないだろうな?  
 
          終わり  
 

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