[ある雨の日のハイテンションユッキー](7-318様感謝)  
 
 
まったくハルにゃんったらヒドイのよ?  
部室にやってきたとおもったら、いきなりキョンくんに電気屋までストーブ取りにいけって。  
こんな寒い中出歩かせて、風邪でも引いちゃったらどうするつもりなのよ?  
あ、でもキョンくんが風邪を引いたら、付きっ切りで看病してあげるのもいいわね。はい、あーんって。  
でも風邪を引いちゃうキョンくんにとっては辛いかなー  
仕方ない、ここは愛しのキョンくんのためにわたしが頑張るべきね。  
ハルにゃんには一発、ガツンと言ってあげよう。  
 
「………キョ「ふぅ、わかったよ」」  
 
ガーンガーンガーン  
お願い、もうちょっと待っててよ。決断はやすぎー  
キョンくんったらハルにゃんの我がままをあっさり聞いて、コートを着始めたの。  
そ、そんなあ〜  
どうしてキョンくんってば、ハルにゃんにそんなに甘いの?  
もしかして弱みを握られてるのかしら?きっとそうね。  
うぅ、可哀想なキョンくん。  
情報統合思念体のお達しがあるからハルにゃんにアレコレすることはできないけど、いつかきっと助けてあげるからね。  
わたしとキョンくんの未来のために頑張らなくちゃ。  
 
「待って〜」  
みくるんがキョンくんを呼び止めたのかな?とっさに目を向ける。  
「今日は冷えますから、ね」  
あ〜〜〜  
キョンくんたらみくるんにマフラー巻いてもらってうれしそうにしてるの。  
ちょっと目を離したすきに、油断も隙もない。  
みくるん近付きすぎ!キョンくんニヤケちゃダメ!  
 
そういえばさっきまでミクるんマフラー編んでたよね?  
わたしは部屋の片隅に編み掛けのマフラーを見つけた。  
やっぱり手編みのマフラーってポイント高いのかな。  
うん、決めた。  
あとで編み方を調べて、キョンくんに編んであげよう。  
そして、キョンくんのハートをがっちり掴んじゃおう。  
そしてそして……  
きゃっ、楽しみ〜〜〜  
ところで、みくるんも誰かにプレゼントするのかな――やっぱりするのよね。せっかく編んでるんだもの。  
もし相手がキョンくんだなんていったら、いくらみくるんでも許さないからね。  
 
そうこうするうちに、キョンくんが部屋から出ていっちゃった。しくしくしく  
せっかくのキョンくんとの一時だったのに。おのれハルにゃん。  
ハルにゃんはその後、みくるんといっちーを連れてどこかに行ったみたいだけど、わたしは付いていく気力さえ残ってないの。  
キョンくんが帰ってくるのをじっと待ってるね。うぅ…ほんとに涙が出てきちゃった。キョンくん、会いたいよ〜  
 
外が暗くなりかけた頃、キョンくんがやっと帰ってきてくれました。  
えーん、キョンく〜〜ん。  
すっかり冷えちゃったみたい。かわいそう。  
あ、そういえば……  
まだハルにゃんたち戻ってきてないよね?  
文化祭の映画の編集とか言ってたけど、まだ終わってないのかな?  
そうすると、今私たちって…ふ・た・り・き・り?  
こんな狭い部屋の中でキョンくんと一緒……  
寒がるキョンくん。冷え切った体を暖めるのは人肌が一番。  
ここにいるのは私だけ。  
きゃーきゃーきゃー  
い、いけない、ちょっと涎が…  
キョンくんにこんなわたしを見られたら大変だわ。  
できるだけ心を落ち着けて、キョンくんの方を向く。  
「zzz...」  
………いいけどね。  
キョンくん疲れてるんだし。  
わたしはカーディガンを取って、キョンくんにかけてあげる。  
ふふっ。これってポイント高いのよね。  
キョンくん起きたらびっくりするかな?喜んでくれるかな?  
抱きしめてくれちゃったりしてー  
 
さて、キョンくんが起きるまで、至福の一時を過ごさせてもらっちゃおう!  
寝てるキョンくんも素敵なの。  
キョンくんの寝顔をずっと眺めていられるなんて、さっき一人で寂しくすごした時間も忘れちゃいそう。  
わたし的ベストポジションにイスをおいて腰掛ける。準備おっけー。  
 
「あら、キョン帰ってたの?」  
 
……もうね、その瞬間、確かにピキッっという音がわたしの頭に響いた気がしたわ。  
そこにいたのは、もしかしなくてもハルにゃんたち一向。  
これ、絶対わたしへの嫌がらせよね。  
わかったわ。そこまでしてわたしとキョンくんの仲を裂きたいのね。  
よーし、待っててねキョンくん。  
わたし、ハルにゃんなんかに負けないで、きっとあなたを取り戻して見せるからね。  
 
なにか手はないかなーって考え込むわたし。  
ハルにゃんは戻ってまたすぐどこかに行っちゃったみたい。  
ふと外を見ると、雨がぽつぽつと降ってきたの。  
ピーンってひらめいちゃった。  
突然の雨だし、キョンくんきっと傘なんて持ってないもんね。  
 
傘がなくて困るキョンくん  
   +  
傘を用意するわたし  
   ll  
相合傘(はぁと)  
 
これよこれ、完璧よ!  
さっそく傘を用意するために立ち上がる。  
いっちーとみくるんはわたしが帰ると思ったのかな?  
後片付けを始めたみたい。  
うんうん。邪魔者はさっさと消えてね。  
 
結局わたしたちは、3人一緒に部屋を出ることになりました。  
わたしがまだ帰らないことにふたりはちょっと驚いたみたいだけど、そんなのどうでもいいわ。  
傘よ傘。わたしも今日は傘もってこなかったから、急いでなんとかしないとね。  
今までなら雨が降る日に傘を持ってこないことなんてなかったのに。  
一晩中キョンくんとの幸せな新婚生活を仮想シミュレートしてたのがいけなかったかしら。  
ちょっと反省。でもやめられないのよね。  
 
さて、キョンくんのために傘を用意しないとね。  
自宅からわたしの傘を取り寄せてもいいけど、あまり個人的用途で空間干渉しちゃうと怒られちゃうの。  
最近ハルにゃんの監視をさぼってるって目を付けられちゃって。  
うぅ、キョンくんばかり見てるのバレちゃったかなー  
でも、わたしくじけないわ。  
 
わたしは職員用玄関に向かい、置いてあった傘を手に取る。  
よかった、最後の一本みたい。  
え?そんなことしていいのかって?  
いいのよ、どうせ学校の備品だもの。  
生徒が使って悪いことなんてないでしょ。  
なによりキョンくんのためだものね。ここすごく大事よ!  
 
わたしは急いで、愛しのキョンくんが待つ部室に向かう。  
あーもう、わたしったら顔がゆるむのが止められないよー  
狭い傘の中、触れ合う肩と肩。そっと寄り添うわたし。やさしくわたしに微笑んでくれる彼。考えただけでニヤニヤしちゃうわ。  
途中、何人かの生徒とすれ違った気がしたけど、そんなのどうでもいいわね。所詮大根だもの。  
キョンくん今いくからね〜  
 
部室の前に到着したわたし。  
あれ?ドアが少し開いて中から光が漏れてるよ?  
うーん、しっかり閉めたと思ったのに。  
すると、キョンくんの声がわたしに届いたの。  
「帰らずに待っててくれたのか」  
もしかして、わたしが待ってることに気付いてくれたの?  
それで、わたしが戻ってくるのをずっと……?  
キョンくん……うるうる…ユキ感激〜〜〜!!  
きっと、あのカーディガンを見て、わたしのことを思ってくれたのね。  
うれしいよ〜〜  
「…っ、カーディガン!ほらっ!」  
やっぱり、中から声が聞こえる。カーディガンって。  
 
 
 ………………………あれ?  
 
 ………え?  
 
違う、今のキョンくんの声じゃない。  
そう、ハルにゃん。ハルにゃんがキョンくんと話してるんだ。  
なんかすごく嫌な予感がする。  
そっとわたしは中を覗き見る。  
 
……っ!  
ちょ、ちょっとハルにゃん、それわたしのカーディガンよ?  
えっ?どうして?  
なんでハルにゃんが、キョンくんからカーディガンを受け取って……そして……どうしてハルにゃんがそれを着るの??  
 
あっ!  
違う、わたしのじゃない。  
あれは確かにハルにゃんのカーディガンで間違い……ないのがわかっちゃった。  
 
そう、ハルにゃんはわたしがキョンくんにかけてあげたカーディガンのその上に、さらに自分のカーディガンをかけたんだ。  
きっと、キョンくんの意識がむくように…  
 
うぅ…キョンくん、だまされないで!  
あんなのハルにゃんのアピールなんだから〜  
ハルにゃんひどすぎるよ、あんまりだよー  
このままじゃキョンくんがハルにゃんに篭絡されちゃう!  
ダメ。そんなの絶対ダメ。  
わたしは涙が流れそうになるのを必死でこらえて、ドアに手をあてる。  
こうなったら、キョンくんをハルにゃんの魔の手から守るため、わたしがこの傘で…  
 
 
そして…ハルにゃんの決定的な一言が――  
 
「帰るわよ。傘も一本あれば十分でしょ?」  
 
ハルにゃんがキョンくんに向けて、傘を差し出していた。  
それも、わたしの手元にあるものと、そっくりなのを――  
 
 
さっきはるにゃんが部屋から出て行ったとき、取りにいってたのかな。  
そうだよね、わたしが行ったときは最後の1本だったし。  
でも――でも――  
そのときって、少なくとも2本以上傘残ってたのよね?  
どうして1本しか取らなかったの?  
キョンくんの分も必要ってわかってたみたいなのに。  
それってやっぱり……?  
 
うぅ…っ  
ダメ、もう我慢できないよ。  
わたしは急いでその場から立ち去る。  
こんなところキョンくんに見られるわけにいかないもの。  
 
キョンくんキョンくんキョンくんキョンくんキョンくんキョンくん  
キョンくんキョンくんキョンくんキョンくんキョンくんキョンくん  
キョンくんキョンくんキョンくんキョンくんキョンくんキョンくん  
 
どうして?  
わたしはこんなにキョンくんのこと思ってるのに、どうしてハルにゃんはわたしからキョンくんを奪うの?  
もしハルにゃんがいなければ、キョンくんはわたしだけを見てくれるかな?  
 
 
うふ、うふふふふふふふふふ。  
そうね、そうだったのね。これはわたしへ試練なのね。  
きっと神様は見事この試練を乗り越えて、キョンくんと幸せになってみなさいって言ってるのね。  
わかったわ。見てなさいよ。  
絶対にボスの監視をかいくぐって、そしてハルにゃんを出し抜いて、キョンくんと幸せになってやるんだからっ!  
それまでキョンくん、寂しいかもしれないけど待っててね。待っててくれるよね。待ってなさいよ?  
 
 
 
それは、長門有希が世界を改変する2x日前の、ある雨の日の出来事・・・  
 
 

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