「じゃあ、今日は解散!」  
喫茶店に響くハルヒの声。  
今日は土曜日。恒例のパトロール。  
ようやく終わった!と内心ガッツポーズをとりつつ、帰路へ向かおうとする。  
しかし、そんな俺の歩みを小さな力が止めた。  
振り返る。俺の服の裾をつかんでいるのは長門。  
それを見て、ああ、今日だったか。と気がつく。  
「判った。じゃあ後でな」  
ハルヒとかにバレないように小さな言葉で伝える。  
それを聞くと、少しだけ嬉しそうに長門は俺を解放した。  
 
それから数時間後。  
俺は長門の家に来ていた。  
月に1回、こうして俺は長門の家に泊まりに来る。  
ただのお泊まり会ではないぞ?  
男女が一つ屋根の下、夜を過ごすと言えば……  
早い話が、そういうことだ。  
ちなみに言っておくが、俺と長門は別に付き合ってはいない。  
だからといってセフレとか低俗な言葉で、俺らの関係を表すのは憤慨だな。  
俺らがするのは、ただのコミュニケーション。  
言葉もいらない、ただ相手を感じられればいい。  
言葉を話すのが苦手な長門にとって、これは一番画期的な方法だったと思う。  
人間を、いや、俺を理解するには。  
 
いつものように布団に座らせ、俺はそっと長門の服を脱がす。  
長門は最初のあたり、「自分で脱いでおいた方が効率はよい」と言っていた。  
だが、俺が服は着たままにしとけって指示した。  
俺にとって、服を剥ぎ取っていくこの瞬間は、たまらなく興奮する一時だからな。  
何度やっても、慣れない。ドキドキする。  
そして、白い肌が見えた瞬間、俺の心臓は跳ね上がるのだ。  
雪のように白く、滑らかな肌。  
俺自身が服を剥ぎ取り下着二枚にしてやったことは、征服欲がくすぐられる。  
と、そこで長門が手を伸ばし、俺の服を脱がせていく。  
俺もズボンを足で脱ぎ散らし、下着一枚となる。  
肩に手を置き、そのまま軽く押し倒し、俺も隣に横になる。  
まずは強く抱きしめるだけでいい。  
長門の温もり、匂い、感触。  
それを全身で味わう。  
長門もきっと、俺と同じことを感じているのだろう。  
背中に手を回し、ブラのホックを外す。  
そのまま二人の間に手を差し込み、布を取り去る。  
抱きしめているので見ることは出来ないが、目をつぶれば大体思い出せる長門の胸。  
押しつけた胸と胸のあたりから、互いに感じる鼓動。  
トクトクと、だんだん二つのリズムが合わさっていく。  
俺は顔を長門の髪に埋める。  
すぅっと息を深く吸い込めば、広がるは甘い匂い。  
それだけで、俺の思考は溶けていく。  
理性という名の足枷が、少しずつ壊されていく。  
首筋のあたりに擦りつけられている頬。とても柔らかい。  
「なんだ、甘えたいのか?」  
言葉ではなく、触れている肌から判る、長門の気持ち。  
手をその短い髪に差し入れ、撫でてやる。  
無表情の奥に、満足げな色。  
それが可愛くて仕方がなかったから、額に軽くキスをする。  
と、その直後仰向けに押し倒され、長門が俺の上に馬乗りになる。  
頬に近づく、長門の顔。  
ペロ……と頬を舐めあげられる。  
こうなったら、暫く俺は抵抗しないことにしている。  
長門は俺の味を知ることで、俺を認識しようとしているのだから。  
俺を味わうことで、俺を理解しようとしているのだから。  
 
ぺろぺろ、ぴちゃぴちゃと俺の頬を長門の舌が伝っていく。  
その熱く、少しばかりざらりとした感触に、ぞくりと背筋が震える。  
次は頬を両手で押さえられ、キスをされた。  
舌をねじ込まれる。もちろん拒むわけはなく、むしろ迎え入れるように絡み合わせる。  
俺の舌を吸い、ついでに唾液まで飲み干していく。  
代わりに注がれる、長門の味。  
息が続かなくなる。物理的にも、心理的にも。  
そう、息が詰まるのだ。幸福感と、理性を外れ段々暴れ出してくる俺の獣を抑圧することに。  
やがて長門も苦しくなったか、銀の糸を残し離れゆく。  
ぷはっと息をつき、また俺の味の確認に勤しむ。  
今度は首筋から下へと向かう。  
長門が通った後には、ぬらぬらと輝く一筋の道。  
そして訪れる開放感。  
下着を下げられ、飛び出す俺自身。  
長門はそれをそっと両手で包むと、先ほどまでと同じように味を確認する。  
そっと形をなぞられ、舌先で転がされる。  
かと思えば、その小さな口を命一杯開き、俺自身を食べていく。  
だが、俺が限界に達する直前に、長門はふっと責めを緩めるのだ。  
何度もやっているうちに、俺の許容も学んできたらしい。  
焦らすようにして、俺の味を濃くしようとしてやがる。  
俺の手が勝手にぴくり、と跳ねる。  
脳の抑制を離れようとする体を、無理矢理にでも押さえつける。  
そうでもしなければ俺の獣は、長門の頭をがしりと押さえて乱暴に扱ってしまうだろうから。  
そうして耐えに耐え抜き、俺は欲望を解放した。  
頭が真っ白になる。  
気持ちがよすぎて、意識がもうろうとしてくる。  
しかし、長門だけははっきりと見えた。  
全部口で受け止め、舌でそれをかき回し、味わってから飲み込む。  
そうやってこいつは、俺を認識する。  
 
こういう関係になったきっかけは何だっただろうか?  
そうだ、あの日だ。  
ある日、俺は長門に呼ばれ、この家に来ていた。  
「……で何だ?俺を呼んだ理由は。またハルヒが何かやったか?」  
「違う。今日はお願いがあってあなたを呼んだ」  
お願いだと?長門がか?  
……で、何なんだ、それは?  
「この前のバグは、有機生命体とのコミュニケーションが上手くいかないことに原因があるとわかった」  
ふむ。それで?  
「わたしは役割上、感情は表に出さないように作られている」  
やっぱり仕様だったのか。まあ、感情があるのは判っていたが。  
「言語でのコミュニケーションも苦手なわたしは、どうすれば上手くいくか判らない」  
……ということは何だ?どうすれば対人関係が上手くいくか聞きたいってことか?  
「違う」  
じゃあ、何なんだ?  
「エラーデータは、誰か一人でも上手くコミュニケーションがとれれば発生しないと思われる」  
そう言った後、長門は少し息を吸い。  
「したがって、あなたに頼む」  
とだけ言った。  
……つまり、お前は俺とコミュニケーションがとりたいと?  
首肯。  
……で、具体的にはどうすればいいんだ?  
「言語以外で、何かあれば」  
とは言われても、俺も思いつかん。  
う〜ん、コミュニケーションねぇ……言葉以外に何かあるだろうか?  
悩みに悩んだ俺が思いついた方法。  
それが、抱きしめることだった。  
言っておくが、これでもそれなりに譲歩したつもりだ。  
触れあうこともコミュニケーションの一つだ。決して長門を抱きしめたいって訳じゃないぞ!  
しかしその案が、意外にも長門がかなり気に入ってしまった。  
まあ、生まれてから3年、ずっと一人で過ごしてきたんだもんな。  
そりゃあ人の温もりが心地よいって思うだろう。  
だからと言って、すり寄るように甘えてきたのは流石に不可抗力だった。  
気がついたら、その……キスしちまってたんだ。  
それに気付いて、すかさず離れて  
「悪い」  
と言おうとしたのだが……  
「!?」  
言えなかった。長門がしがみつくように、キスしてきていた。  
そしてその後は、流れ的に……ってことだ。  
それ以来、長門はそのコミュニケーションの取り方が気に入ってしまった。  
大体、触れあう肌としぐさから、情報を集めて相手を理解する方が、長門は得意だったみたいだしな。  
とは言っても、流石に何回もやるわけにはいかないので月1というルールを決めた。  
ハルヒへの影響も考えて、付き合わないと決めたのもその時だ。  
こうして俺たちの秘密の関係は始まったんだ。  
 
見下ろした長門の体。  
今度はさっきとは反対に、俺が組み伏せている。  
のどが渇く。渇いて仕方がない。  
白い胸が目に入る。決して大きくはないけれど、確かな膨らみ。  
視覚の情報が、俺の脳を沸騰させていく。  
さっきまで長門がやっていた行動を今度は俺が反復する。  
頬を舐める。柔らかな感触。  
次に深くキスをする。  
舌をねじ込ませ、絡め合う。  
長門の舌を吸う。甘い。  
唾液を送り、飲み込む。  
触覚と味覚が、俺の脳を刺激する。  
だが唾液を飲んでも飲んでも、のどの渇きが潤わない。  
どうしてだろうか?いつもならこれで満足感が得られるのに。  
そのまま下へ向かおうとしたが、いったん耳へ向かい、舌先でくすぐる。  
ふ……と息が漏れるのが聞こえた。  
俺は下へと向かう。鎖骨のあたりで肌を思いっきり吸う。  
体を少しばかり捩る。感じているのだろうか?  
左手を合わせ、握る。これで長門を理解するための情報がまた一つ増えた。  
その小さな胸に顔を埋め、息を吸う。  
まるでミルクのような、甘い匂い。  
甘えるように頬を擦りつける。……ん。と声が漏れたのが耳に入る。  
嗅覚も聴覚もやられ、脳がボーッと陶酔の域に入り始める。  
理性という足枷はほとんど壊れてしまっている。  
だが、最後の意地は残しておく。長門を傷つけたくはないから。  
口を大開にして、長門の胸にしゃぶりつく。  
舌で転がすようにして、唾液を馴染ませていく。  
硬くなった乳首が、ほどよい硬さへとほぐれていく。  
軽く吸う。ぴくっと長門の体が跳ねるのを感じた。  
同時に強く握られる手。それに気をよくする俺。  
ふとこのまま、長門を食べてしまいたいという欲求に襲われる。  
この柔らかい肌に牙を突き立て、引きちぎって貪り食う。  
長門の肉は旨いだろうか。きっと美味しいに違いない。  
血液まですすって、残さず食べられる自信もある。  
それに、そうやって食べて取り込んでしまえれば、ずっと一緒にいられる。  
相手は自分の中だ。ずっと触れあっていられるじゃないか。  
そんな猟奇的な想いが暴れ出すが、なんとか堪える。  
 
獣を何とか追い払って、一瞬冷静になる。  
そうだ、俺の渇き。  
長門が完全に俺のものになっていないことへの焦り。  
俺はいつの間にか望んでいたんだ。長門とずっと一緒にいたい、触れあっていたいと。  
そんな想いをこめたら、獣はいつの間にか居なくなっていた。  
そこにあるのは純粋な、俺の願いだけだった。  
下へと進む。へその周りを一周して征服。  
へそを舌で埋める。少ししょっぱい。  
そこまできて、俺はようやく最後の一枚に取りかかる。  
「いいか?」  
と問えば、強く握られる手。  
ゴムに手をかけ、そっと下ろす。  
広がる長門の、雌の匂い。  
俺はといえば、フェロモンをたくさん有すその匂いにかなり興奮していた。  
のどの渇きが強くなる。  
顔を近づける。あふれ出る蜜が俺を誘う。  
ぴちゃ……  
それは禁断の果実。一度味わってしまえば、もう忘れることなんて出来ない。  
俺はただ一心不乱に、長門を味わっていた。  
長門は唇を噛みしめ、声を漏らすまいとしている。  
だが絶え絶えに漏れる吐息が、どうしてもたまに漏れてしまう声が、俺の耳を揺さぶっていく。  
くぅん……と鼻で鳴かれてしまえば、俺の心臓を深いところまで抉ってくれる。  
もっと可愛い声を聞かせて欲しい。もっと鳴いて欲しいと俺の欲望が止まらない。  
「ぁ……ふ……ぁぅ……」  
長門の味が濃くなる。頭をジンジンと痺れさせる味。  
ふるふると長門の体が震えていく。俺も震えが止まらない。  
ギュッと握られた手から、長門の全てが伝わってくる。  
……もう、我慢できなかった。  
強く抱きしめる。  
 
「長門……いいか……?」  
耳を澄ませば早く浅くなった呼吸音。  
俺は獣のような、荒い息づかい。  
コクリと頷くのが見え、俺は俺自身を長門の中へと進める。  
脳が溶け出すのが判る。ヤバい、溶ける。  
長門を傷つけないように配慮するだけでも大変だ。  
俺の理性はもうすでに、糸一本。  
それを必死にたぐり寄せて、乱暴にはしないようにする。  
腰を動かし始める。頭が真っ白になっていく。  
赤く染まった頬と、潤んだ目元の長門が、艶っぽい。  
可愛くてしょうがない。もう、可愛いしか言えん。思考が言葉にならない。  
汗と、包まれる感触。甘い匂い。口に残る長門の味。何かをかき混ぜる音。  
伝わる気持ち。  
長門の全てが伝わる。俺の全てを伝える。  
言葉なんていらない。ただ感じるだけ。  
俺と長門の全てが、互いに共有されていく。  
激しくなっていく動き。目の前がちかちかしてきた。  
「んっ……あ、あ、はぁっ……や……ああっ!!」  
ギュッと締め付けられる手と俺自身。  
最大限に伝わる長門の想いに、俺は全てを解放した。  
 
 
 
事が終わった後の気怠さに包まれ、二人抱きしめ合って息を整える。  
「長門」  
「なに?」  
呼べば返ってくる返事。  
「なぁ、今度は俺から頼みがあるんだ」  
不思議そうな顔が返ってきた。  
「俺はな、お前とずっとコミュニケーションをとっていきたいんだが」  
「頼まなくても、そのつもり」  
「いや、違うんだ」  
息を吸う。なんてこった、してるときより心臓がバクバクしてるんじゃねぇか?  
「これから先、ホントにずっとだ。早い話がその……付き合ってください」  
うわ、情けねぇ俺。最後のあたり声が小さくなってしまった。  
長門は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに困ったような顔になって  
「でも、涼宮ハルヒへの影響を考えると、それは望ましくな……」  
「ハルヒなんていい。俺は、お前と居たいんだ」  
じっと見つめる。長門の瞳の宇宙が俺を吸い込んでいく。  
暫く悩んだ長門は、小さく、だがしっかりと頷いてくれた。  
抱きしめたその体から、長門が喜んでいることを俺は感じた。  
 
 
(終わり)  
 

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