もはや、週末の恒例になりつつある市内の「不思議探索パトロール」の午後の部は、  
これも既に何度目かになりつつある長門と俺の組み合わせとなった。  
他の3人が見えなくなるくらいの距離を歩いた頃、  
いつものようにシャツの裾を摘んで長門が口を開いた。  
「部屋、来るでしょ」  
 
俺と長門は付き合っている。勿論他のメンバーには内緒だ。  
一体いつ頃、どういう成り行きでそうなったかは忘れちまった。  
とりあえず、それ位長い関係だってこった。  
こうやって、お互い生まれたままの姿で舌を絡めて口付けるのも何度目だろう。  
ん、長門、お前胸が大きくなってないか?  
「身体的なサイズ変化は無い」  
いかに長門らしい返事だが、ラブシーンの台詞にしてはいささかムードに欠ける。  
「いつも言ってるだろ、こういう時はそんな無機質な反応じゃなくて、もっと感情を込めた返事をするんだよ」  
「……?」  
よく注意していないとわからないくらい、僅かに小首を傾げる。  
「例えば、そうだな、『あなたがいつも触ってるから』とか」  
「あなたが私の乳房を触ることとサイズの変化に因果関係は存在しない」  
「こういうのは理屈じゃなくて、雰囲気なんだよ」  
「雰囲気?」  
「そう。雰囲気。どう答えたら相手が嬉しく感じるか考えるんだよ」  
「……あなたがいつも触ってるから、大きくなった」  
んー、いささか棒読み気味の気もするが、長門にしては及第点だろう。  
しかし長門はロマンチックな台詞をなかなか覚えないな。  
まあ、そこがこいつの可愛いところでもあるんだが。  
「そうだ、よくできたな。可愛かったぞ、有希」  
わざと名前で呼ぶ。  
長門は僅かに俯いた。心なしか、少し頬を染めている気がする。  
くぅー、たまらん。  
俺は長門を強く抱きしめると、そのままベッドに押し倒した。  
 
 
「大丈夫かな、髪に変なクセとか、付いてないか」  
「大丈夫」  
「匂いとかは・・・」  
「大丈夫」  
「よし、行こう」  
午後の時間を目一杯使った情事を終えた俺たちは、急いでロータリーへと向かう。  
ロータリーに着くと、ハルヒたち3人は既にそこにいた。  
「二人とも遅ーい!罰金!」  
仁王立ちで腕組みをしているハルヒが叫ぶ。  
俺はやれやれ、といった顔で長門に笑い掛けた。  
二人が愛を育む時間を団長自ら提供して下さったんだ、罰金くらい安いもんさ。  
 
「どう?何か成果はあった?」  
「いや、何も」  
「本当に探してた?キョン、あんた2人っきりなのをいいことに有希にいやらしいことしてたんじゃ  
 ないでしょうね?」  
と俺たちをじろりと睨みつけた。一瞬、ぎくりとする。  
「そんなわけないだろ」  
「本当に〜?有希、あんたキョンに何もされてない?」  
「されてない」  
「もしなんかあったらすぐ私に言うのよ。男はケダモノだからね」  
じゃあ古泉はどうなんだよ。  
「古泉君は副団長なのよ。あんたみたいなのと違って人間が出来てるの」  
その理屈だと世の中の「偉い人」はみんな聖人君子になるぞ。  
納得いかないながらも、ハルヒにこれ以上勘ぐられてもマズいので、とりあえずよしとする。  
「それより、そっちは何か見つけたのか?」  
ハルヒはうぐ、と言葉を詰まらせ横を向いた。  
「見つからなかったものは仕方ないわ。次に期待するしかないわね。今日はこれで解散!」  
そう言うと人混みの中に消えていった。  
それを合図にするかのように、三々五々に散らばって行く。  
それにしても、ハルヒは変な所で勘がいい。まったく、これだととても部室じゃヤれないな。  
 
解散後、自転車預かり所に留めておいた自転車に跨り、家に帰る……わけはなく、光陽園公園に向かう。  
長門は公園の木製ベンチに座っていた。  
「お待たせ」  
「……行こう」  
そして俺たちは、長門の708号室へ向かい、午後の続きを始めることにした。  
(前編終)  
 

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