駅前のマンションに、長門さんが一人で住んでいました。
長門さんはキョンくんと仲良くしたいと考えて、自分のことを正直にキョンくんに話しました。
でも、キョンくんは、長門さんの話を電波だと言って信じてくれませんでした。
長門さんは悔しさで自棄になり、いつも本ばかり読んでいました。
そこへ、朝倉さんが訪ねてきました。
朝倉さんは、わけを聞いて、長門さんのために次のようなことを考えてあげました。
朝倉さんがキョンくんの命を狙う。そこへ長門さんが出てきて、朝倉さんを懲らしめる。
そうすれば、キョンくんも長門さんが良い宇宙人で、自分の味方だと思うだろう、と言うのでした。
長門さんは、それはあなたに申し訳ない、それに、人が、人とは違うわたしを信じてくれるもの
なのだろうか、わたしは人と付き合っていけるのだろうか、そう不安そうに訊ねました。
朝倉さんは、ドース・ヴェナビリの例もあるし大丈夫よ、とそう言って、キョンくんに手紙を出し、
彼を呼び出してしまいました。
計画は成功して、キョンくんは長門さんを命の恩人として、大切に思うようになりました。
長門さんは、キョンくんと仲良くなれたことを、とても嬉しく思っていました。
しかし、日が経つにつれて気になってくることがありました。
それは、あの日以来、朝倉さんと連絡が取れなくなってしまったことです。
長門さんは、朝倉さんを懲らしめるとき、情報結合の解除を行う振りをして、
朝倉さんを空間転送していたのです。朝倉さんは、現在時空のカナダにいるはずでした。
長門さんは、情報統合思念体に朝倉さんの現状を問い合わせることにしました。
すると、朝倉さんは、自身の申請により情報結合の解除を実施したと聞かされました。
朝倉さんは、自己情報連結解除を行う前、長門さん宛てにメッセージを残していたそうです。
『長門さん、キョンくんと仲良く暮らしてください。もし、わたしの存在が彼に知れると、
あなたも悪い宇宙人だと思われてしまいます。わたしは、情報結合を解除して、ただの
情報素子に戻りますが、あなたのことはいつまでも忘れません。さようなら』
長門さんは、黙ってそれを読みました。何度も何度も読みました。
そして、自分の部屋のリビングで、コタツ兼用テーブルに顔を伏せると、
しくしくと涙を流して泣きました。
◇ ◇
今日は節分だ。
長門が紙製の鬼のお面を、ひっそりと手に取り、自分の頭に付けたとき、
こんな妄想が、朝比奈さんボイスで俺の頭の中を駆け抜けた。くっ、泣けるじゃないか。
くそ、ハルヒが泣いた赤鬼の話なんぞするからだ。
まさか、朝倉って実は良いヤツだったのか? いーや、そんなことないよな?
な? そうだよな? 長門? な、何だその遠くを見るような目は。