その日、ハルヒは怒っていた。  
 
「まったく、あんたって、デリカシーがないと言うか、何と言うか、あれじゃ、有希が傷つく  
じゃないの。せっかく歌ってくれたのにさ。有希、あんたが帰った後、少し寂しそうだったわよ。  
そりゃ、あの選曲はどうかと思うけど、いきなり、逃げるように帰んなくたっていいじゃない。  
それとも、あの歌、有希が本気であんたに向けて歌ったとでも思ってんの?  
あ、でも、そういえば歌ってるときの有希、妙に真剣な雰囲気だったわね、  
あんたを見つめちゃってさ……。あれ? そういえばあの歌詞。あ! あんた、まさか有希に……」  
 
そう、昨日、部室で長門が一曲歌ってくれたのだ。  
きっかけは、何かハルヒの思いつきだったように思う。あいつは暇になると、いや、それはいい。  
 
で、だ。  
「有希、何か歌える?」  
そう訊いたハルヒの言葉に微かに頷くと、長門は視線を俺に向け、少しちいさな声で歌い始めた。  
 
Daisy, Daisy  
Give me your answer do  
I'm half crazy all for the love of you ……  
 
その歌声を聴いた瞬間、俺は、ついにこの世の終わりがきたと確信したね。  
あわててカバンを掴み、部室を飛び出し、一目散に家に帰った俺を、一体誰が責められようか。  
 
何といっても、あの長門が、デイジー・ベルを歌ったんだ。  
それだけで十分さ。俺の行動は、何も間違っちゃいない。それが長門の冗談だったとしてもだ。  
実際、冗談だったわけだが、あいつの冗談は解り難いからな。  
 
おい、ハルヒ、何をそんなに怒ってるんだ? 長門にはちゃんと謝っておくからさ。  
え? 歌詞? そういえば、どんな内容だったっけ?  
 

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