確か、有希が上に乗ってひたすら腰を振ってたな。ブラジルのダンサーじゃあるまいし、あの動きは反則だ。一分と持たなかったような気がする。  
 そして今度は俺が後ろから突きまくった。一番奥をガンガン突きながら、有希の乳を揉んだっけ。  
 最後は正面から抱き合って、朦朧とした意識にぐらぐらと揺らされながら終えた。  
 
 
 そんなことを思い出していると、下半身も朝から元気なご様子。若いって素晴らしい。  
 ただ、さすがにちょっと痛い……。   
 
「って、何してるんだ有希……」  
 有希は俺の股間に顔を埋めて、ぴちゃぴちゃと舐めているじゃないか。  
 朝っぱらから何をするかな。   
 
 舌で全体を舐めまわしながら、時折唇を先端に口付けていた。  
 射精を促しているというよりは、美味いものをねぶっているかのようだ。その仕草も、男の視線を惹きつける淫靡なものでしかない。  
 部室で大人しく本を読んでいた少女は、いつのまに淫乱美少女にクラスチェンジしたのだろうか。  
   
 朝勃ちがすぐに治まるわけもなく、さらに舐められてるんだから、そりゃ硬くそそり立っている。  
 慰めるように舐めてくる有希は、次第に唇と手を使って強い刺激を加えはじめた。ちょっと待て、さすがにそんなに何回も出してたら、俺の体力が持たない。  
 
「ゆ、有希。気持ちは嬉しいんだが、起きようぜ。また後で、な?」  
 俺の言葉は聞こえているはずなのに、無視された。  
 
 そういえば、昨晩も俺は早々と根をあげてしまった覚えがある。だが、有希の「ダメ」「もっと」の二言で、俺の脳みそはホモサピエンスからアウストラロピテクスあたりに退化してしまった。  
 後は猿のように……。それは仕方ないことだろ?  
 
 
 有希のフェラチオ行為によって、次第に出そうになってくる。昨日は倒れるように眠ってしまったのでよく覚えていなかったが、俺の体のあちこちに唾液か何かが乾いたような跡がいくつもあった。  
 汗もかいていたしで、べとべとしている。さっさとシャワーでも浴びたいところだ。  
 
「有希、もう出そうだ」  
 ん、声帯を一度だけ鳴らして返事をした有希が、さらに動きを早める。とてもじゃないが、俺には真似できない動きだ。どうしてそんなに首が綺麗に動くのか不思議で仕方ない。  
 有希の口に奪われた俺のモノは、熱にうかされて唾液にまみれて膨張しきっていた。皮も伸ばされ、剥き出しになった亀頭をぐるりと有希の舌が絡みつく。  
 
「くっ……」  
 肌をぴりぴりと電流が駆け登った。同時に、有希の口の中に放つ。  
   
 
 二人でシャワーを浴びる。俺はここで有希の体を、自分の好きなように触りまくってしまったが、今やったらもしかして喜ばれるんじゃないだろうかという気さえした。やらないけどさ。  
 湯煙が白く立ち込める浴室で、汗だかなんだかよくわからないものを流していく。有希も自分の体を湯で流していた。  
 洗面所で自分の姿を見てみると、首筋にいつの間にか赤いアザのようなものがった。ふと有希のほうを見ると、あからさまに視線を逸らされる。  
 まさか寝てる間につけられたのか……。俺が寝てる間に、首筋にキスをする有希を想像すると、身悶えてしまいそうだ。  
 
 
 時計を見ると、昼の11時過ぎだった。随分と長い間寝ていたようだが、頭の回転は冬場のエンジン並にとろくさく動いていた。  
 窓の外に降る光が輝かしい。わずかな寒さを湛えた空気が煌いている。空気は澄んでいて、遠くの山の枯れ木たちでさえ色鮮やかに見えた。  
 いっそ窓を開け放ってしまおうかと思う。シャワーを浴びて、ほどほどに火照った体には気持ちいいかもしれない。  
 だが、有希の体まで冷えてしまっては困る。有希なら俺よりも暑さ寒さに強いだろうけど、こういうのは気分だ。  
 それにしても、家の中で制服を着る必要がどこにあるのか問いたい。似合ってるし別にいいんだけどさ。  
 
「ごはん」  
「おう」  
 カリカリのベーコンが乗った食パン。サニーレタスとトマトが鮮やかなサラダ。まん丸に焼けた目玉焼き。  
 朝食って感じが漂いすぎだろう。もう昼なのにさ。  
 
 二人で並んで昼食を食べる。  
 俺が何か適当に話しかけ、それに有希が相槌を打ってくれる。短い言葉しか発しなかったが、それでも俺は満足していた。  
 有希は淡々とパンを齧って、喉の奥に流し込んでいった。先客として、俺の精液がいてるだろうから、パンもさぞ迷惑だろうな。  
 
 小さな唇を開き、ベーコンを口内に運んでよく噛んでいる。さっきまで、その唇で俺のモノをしゃぶってたんだよなぁ。  
 いかんいかん。そんなことを考えていたら、また勃ってしまう。有希のことだから、一瞬で見抜いてしまいそうだ。そうなったら、また布団に逆戻りしかねない。  
   
 段々、俺が犯されてきてるような気がするのはなんでだろうな……。  
 
 
 
 日曜日の昼、せっかくの午後だし、何処かに出かけてみたいものだ。  
 一応プランは練ってある。一昨日の夜に延々と考え続けたからな。  
 だが、有希が首を縦に振るかどうかはわからない。  
「なぁ有希。どっか行きたいところとかあるか?」  
 一応尋ねてみる。  
「……」  
 じーっと目を見詰められる。おそらく行きたいところが思いつかないんだろう。  
 また図書館に行くというのも面白くないし、そもそも有希は借りてきた本をまだ読んでない。  
 
「せっかくのいい天気だし、どっか出かけたほうがいいと思うんだが」  
「……」  
「無言で返すなよ……」  
 恋愛物の映画でも見に行こうと思っていたのだが、果たして有希はそれを面白いと思ってくれるのかどうか。  
 延々無表情でスクリーンを眺めていそうな気がする。  
 絶対泣けるとか世紀の感動作とかいう安っぽいコピーも、有希の前じゃぼろぼろ崩れるだけだろうな。  
 と、いうかむしろ俺自身が楽しめるかどうかも自信が無い。  
 
 むしろ、格闘物のほうが見ててわかりやすいかもしれないが、少なくとも女の子と見に行く映画にそれはないだろう。  
 かといってフルCGのアニメというのも幼すぎる気もするし。  
 そもそも映画という選択がダメなんじゃないのか。  
 
 SF物があればいいんだろうが、確か今の時期はやってなかったような気がする。  
 ちょっと前まで火星人だかが地球に攻めてくるという映画が、よくテレビで宣伝されていたが、おそらくあれは失敗作だろう。  
 
「……ここであなたと一緒に」  
「引きこもりかよ」  
 SFばかりじゃなくて、寺山修司でも読んだらどうなんだ。  
 窓の外の快晴ぶりがなんとも他人行儀で、道行くハイソなお嬢さんみたいに遠かった。まぁいいさ、だったらこの部屋でいちゃつけばいいのさ。  
 
 
 壁にもたれて座りながら、俺に背を預けている有希の腹部に手を回した。有希は昨日借りてきた本を黙って読んでいる。  
 静かな部屋に、有希がページをめくる音が時計の秒針とアンバランスなリズムを刻んでいた。有希の肩に顎を乗せて、本を覗き込んでみるが、有希の読む速さにはまったく追いつけず何がなんだかわかりゃしない。  
 有希は俺が寝てる間にも読み進めていたのか、栞も挟んでいない本をぱっと開いて途中からすらすらと読み始めていたのだった。  
 俺にもたれて読むのは一体どうしてなのかよくわからない。  
 
 今度、座椅子かなんか持ってこようかね。さすがに壁にもたれるってのも疲れるし。  
 思わず溜め息だかあくびだかよくわからないものが漏れる。目を数回瞬かせて、深く壁に体を預けた。  
 
 暇だ。  
 
 有希は満足なのか知らないが、俺は暇なんだ。  
 仕方なく、有希にちょっかいを出すことにした。首筋に軽く口付けてみる。有希の体が放つ体温が鼻先をつついてくすぐったい。  
 髪の柔らかさが頬を撫でる。微かに肌を覆う、透明な産毛を舌でなぞって、そのまま耳へと舌を這い上がらせた。有希は何事も無いかのように本を読み続けている。  
 
 耳たぶを唇で食んでみる。歯で軽く咥えながら、舌でコリコリとした耳たぶを転がす。外耳の輪郭を舌でなぞって、耳の穴に舌をわずかに挿し込む。  
   
「んっ」  
 
 有希が小さく声を漏らした。うわ、かわいいなこいつ。  
 調子に乗って、俺は手を有希の太ももに這わせた。柔らかく、触れるか触れないかくらいの距離で、何度か撫でる。  
 スカートの裾を、ゆっくりとめくりあげていった。まだパンツは見えないが、かなりの内腿まで覗くことができた。  
 さわさわと太ももを執拗に、軽いタッチで撫でながら、俺は有希の鼓膜に直接言葉を囁いた。  
「どうした? 本は読まないのか?」  
 さっきから、有希の持っている本は同じページを晒したままだった。  
 
 なおも黙っている有希。俺は太ももを撫でていた手を、股間の中に差し入れようとした。  
 有希はそれを阻止しようと腿を閉じる。  
「開けよ、触れないだろ」  
 優しい手つきと口調でエロいことをやっている自分がおかしかった。  
 なおも硬く腿を閉じている有希。  
「命令だ。さっさと開け」  
「……」  
 有希が貝のように閉じていた両足を開く。まさか本当に開くとは……。半分くらい冗談のつもりだったんだが。  
 俺が命令すれば、なんでも聞くとでもいうのか。嫌なら嫌と言う、だなんて言ってたから、これは別に嫌ではないのだろう。  
 
 有希の体が少しだけ硬く感じられる。凝縮された有希の体温が、俺の頭をぐつぐつと沸かしている。そろそろピーピー鳴る頃合だろう。  
 開かれた有希の股に手を差し入れた。中指で軽く割れ目のあたりをひっかいてみる。  
 思い出したように有希はページをめくった。まだ本を読むつもりでいるらしい。まぁ別にいいさ。  
 
 
 強めに、ぐにぐにと指をパンツごと奥へ押し込んでみる。柔らかな感触が心地良い。それから、スクラッチをキメるDJのように、有希のパンツを指先で擦った。  
 左手で有希の胸を制服越しに揉む。あまり大きな胸でもないからか、制服の上からだと揉んでいる気がしない。  
   
 是非直接揉みたいところだが、服を脱がすのはなかなかに厄介そうなので我慢しておく。  
 服越しに、乳首の位置を探った。ブラもつけているしでよくわからないが、わずかに膨らんだ乳房の先あたりを撫でさする。  
 まるで痴漢がバレるかバレないかくらいで触るような手つきで、制服のブラウスを擦った。  
 
 右手の指先に、微かな湿り気が宿ったのを感じた。熱い場所、有希の股間に包まれた手がじっとりと汗ばむ。  
 それだけでなく、有希の秘部から液体が溢れているのがわかった。渇いていたパンツが、濡れている。  
 指先でパンツを絞るように抓ってみた。  
 
「なんとか線液とかいうんだっけかコレ?」  
 右手を有希の眼前に持ってきて、濡れた指先を見せつける。  
「……」  
 有希は無言で、指先に視線が合うようわずかに顔を上げた。  
 指を有希の唇にあてがう。指先の液体を、有希の唇に塗りつけた。自分の愛液を唇に塗られる気分はどうなんだろうね。  
 唇を指先で触れていると、不意に有希は俺の指を口に含んだ。一度、舌で指先がなぞられる。  
   
 そして、有希は本をぱたんと閉じた。  
「あなたが……悪い」  
「ん?」  
 
 有希は閉じた本を、横にそっと置くとふわりと空気みたいに俺の体から離れた。温かさが逃げていくのがよくわかった。  
 すると有希はスカートの中に手を突っ込んだ。両端がわずかにめくりあがったスカート。  
 両手で、パンツをずりおろした。真っ白なパンツが腿を伝い落ちて膝を超え、両足を抜いてしまう。脱いだパンツを俺の脇に放ると、有希は俺のベルトに手をかける。  
 
「ちょ、ちょっと待て有希。何するつもりだ」  
「性行為」  
 いやだから恥じらいとかいうものをだね。とか思っているうちに、ベルトが一瞬のうちにして外されているのがわかった。  
 ズボンのジッパーを下ろされ、さらに女の子とは思えない怪力で俺の腰を持ち上げると、ズボンごとずり下ろす。  
 
「待て、やめろ」  
「ダメ」  
 有希の体をまさぐっているうちに屹立した俺のモノに、有希が視線を落とす。壁にもたれて座り込んだ俺の腰の上に、有希は自分の腰を下ろしていった。  
 俺の首筋に手をまわし、対面のまま有希は割れ目に俺のモノを押し込んでいく。  
 ちょっと待て、と言おうとしたが、俺の顔面は有希の薄い胸の間に包まれていて言葉は出なかった。  
 
 入ったと思った途端に、有希は蛇が体をくねらせるように腰を振り始めていた。俺のモノは有希の中に包み込まれ、数千もの舌で舐められているかのように締め付けられる。  
 俺の頭を抱く有希の微かな吐息が、俺の髪を軽く叩いていた。もう自分の股間がどうなっているのかもわからない。  
 スカートの中で何が行われているというのか。ただ、有希が猛然と腰を振っているのだけはわかった。  
 一番奥に何度も何度も当たっているのが解る。狭く熱い場所が、魂を掴み取ろうとしてる死神のように俺を強く握り締めて放さない。  
 
 この24時間で何度もしたんだ。そりゃ、敏感にもなってる。有希の愛液で濡れた亀頭が、有希の膣で何度も擦られる。  
「待てってば、おい」  
「……ダメ」  
 有希は腰を振るペースを弱めると、今度は大きくグラインドさせた。恥骨を俺のヘソに擦りつけようとしてるんじゃないのか。  
 抜けそうで抜けないギリギリまで出し入れされる。  
 
 両手を俺の後頭部に回した有希が、強く俺の頭を抱き締める。有希の匂いしかしない。息をするたびに有希の体温が肺を満たした。  
 汗が吹き出る。壁にもたれて、前方を有希の体でふさがれていた。さらに有希は腰を振る速度を増す。  
 股間が俺の体から離れて、快感だけを電波か何かで届けてるんじゃないかと思えた。俺は有希の尻に手を回す。  
 スカートの中に手を差し入れて、腰を撫でた。  
 
   
 腰に力が入らなかった。有希の熱が神経を溶かしてしまったかのようだった。有希がわずかに体を離し、俺の顔を見下ろしていた。  
 有希が目を閉じて唇を合わせてくる。くちゅくちゅと音を立てながら、キスをした。有希の舌が俺の唇を割って入り、俺の舌を求めるように前歯をなぞっている。  
 求めに応じて、俺も舌を差し出す。硬く尖らせた有希の舌先が、わずかにすぼませた唇が俺の舌を食べようとしていた。  
 唾液が有希の舌を伝って落ちてくる。俺はそれを喉の奥へ流し込んだ。有希の髪の間に両手を滑らせて、指先であわ立てるかのように撫で回す。  
   
 有希が一度唇を離して、吐息を俺の顔に漏らした。  
「もう出そうなんだが」  
「出して」  
 そんな見も蓋もない言い方はないだろう。情緒というものを学んでもいいんじゃないのか。  
 こんなことばかりしてたら、馬鹿になるんじゃないだろうな。もう遅いかもしれないが、心配できるうちに心配しておこう。  
 どっちにしたって夏休みの宿題みたいなもんで、ヤバイところに来てようやく我に帰るんだろうが。  
 
 同じ射精だというのに、一人でやるのとは随分違うのはなんでだろうな。  
 そんな意味の無いことを考えながら、俺はやがて来る絶頂に備えた。なんとなく怖いと思うのは何故だろう。  
 張り詰めた俺のモノを、有希は執拗に膣で擦り上げている。睾丸のあたりが、こむら返りでも起こしたかのようにピクピクとひくついた。  
 
 びくっ、と跳ねた。勢いよく精液は尿道を発射台にして有希の一番奥へと打ち込まれた。鼓動にあわせるように三度の発射を終えると、自然と重たい息が漏れた。  
 
 
 終わったとばかりに一息ついたというのに、有希は再び腰をゆっくりと動かしはじめた。  
 
「お、おい?! ちょっと待てって有希」  
「……」  
 どうして? みたいな目で俺を見るな。イったばかりの敏感な先っちょが、有希の中で擦られる。  
「こら、動くな」  
「ダメ」  
「いや、ダメとかじゃなくて」  
 呻いてしまった俺を気にすることなく、艶かしく全身をたゆらせている。  
 体育で長距離走った後に、また走れと言われるような気分だ。  
 
 俺は有希の腰に手を回し、力を振り絞って一気に有希の体を持ち上げた。ズボンが中途半端にずり下がっているので、実に情けない格好だろうが、気にはしてられない。  
「ほら、また後でな。もうちょっと休ませてくれ」  
 有希の尻に両手を回して持ち上げているから、有希はこのままじゃ動くこともできないだろう。そう思った途端、俺は前のめりに転びそうになった。  
 突然有希の締め付けがキツくなったのだ。緊箍児で頭を締め付けられる孫悟空のように、俺はそのまま崩れ落ちそうになる。  
   
 このまま有希を床に落としちゃまずいとだけは思って、俺は膝をついた。有希が背中を打たないよう、できるだけゆっくりと床に降ろす。  
 がっちりと両足で俺の腰を掴んでいる有希。繋がったまま、正面から有希の体を抱くような格好になった。  
   
    
 なおも、有希の膣が俺を握りつぶそうとしていた。こんなに力を加えられる器官なのか、有希だから出来ることなのか、どっちなのかはよくわからなかった。  
 締め付けが何度か緩くなったり強くなったりと繰り返す。動いてもいないのに、蠕動運動のように俺のモノを奥へと導いていた。  
 
 
「……もっと」  
「む、無理」  
 短い髪を床に散らしながら、俺の首に両手を回す有希。無表情のまま、俺の顔を抱き寄せようとしていた。  
 有希の両腕を払いのけて、立ち上がろうとする。腰に回された両足をほどくようにと、俺は有希の腿を数回軽く叩いた。  
 スカートはめくりあがり、俺たちが繋がっているところを見下ろすことができる。べとべとに濡れて、血管を浮き上がらせた俺のモノが有希の中央を貫いていた。  
 
 有希は大人しく力を抜いて、俺の腰を放してくれた。  
 その様子が残念そうに見えたのは気のせいだろうか。無表情なのに変わりはないが、落胆したように見えた。  
「あ、あのなー有希。もちろん、エッチなことをするのは好きだが物事には限度とかいうものがあってだな」  
「あなたが先に……」  
「う、いやその通りなんだが。もうちょっと待ってくれ。正直、この勢いじゃ俺が倒れちまう。そうなったら有希も嫌だろ」  
 だらんと両手両足を投げ出して天井を見上げている有希。その首がわずかに振られた。  
 
「どうでもいいが、スカートを直しなさい。丸見えだぞ」  
 俺は有希のスカートを引っ張って、割れ目が見えないようにした。スカートが汚れてしまうかもしれなかったが、もう遅いかもしれない。  
 あれだけ派手に動いたんだ。  
 
 ズボンを履きなおし、ベルトをやや強めに締める。ちょっとばかし気持ちは悪かったが、仕方ない。  
 それよりも……。  
 
「その、気持ちは嬉しかったぞ」  
 俺は有希の傍に膝をついて、その顔を覗き込んだ。払いのけられた前髪と、黒く澄んだ無垢な瞳。見ようによっては随分幼いのは知っていたが、今こうやって見下ろしていると、本当に子どものように見えて仕方なかった。  
「けどもうちょっと待ってくれ。俺もそんな何回もやってられないからな」  
「昨日はした」  
「だから辛いんだって。そりゃ、お前は疲れなんか無縁なんだろうけど、俺は普通の人間だから、疲れるんだ」  
「…………そう」  
 天井よりもっと高い場所に視線をおきながら、有希は呟いた。  
 
 
 俺は有希の顔を間近から覗き込み、そして軽く口付けた。  
「勘違いするなよ。俺は嬉しいんだからな。ただ、ちょっと体の問題でできないだけでだな、それでもキスくらいならいくらでもできるし俺は嬉しかったわけだから……」  
 何言ってんだ俺。頭に乗っけたメガネを探すかのように、すぐ近くにあるはずの言葉をひたすら探す。間抜け以外の何者でもない。  
 頭がこんがらがって、今は支離滅裂な文章しか口から湧き出そうになかった。  
 
「その、あれだ、俺は有希のことを嫌いになったわけじゃないし、大好きだぞ。それだけは確かだからな」  
 おそらく、今の本心はこれだけだった。売るために作られた曲に出てきそうな安っぽい言葉が、まさか俺の口をついて出るとはね。  
 有希は再びそう、と呟いてから、俺に視線を向けた。  
 
「なら……キスをしてほしい」  
 柔らかなアルトでそう言って、有希は目を閉じた。  
 

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