「有希っ!!」
部屋の扉を開けてすぐに、有希の無表情が目に入った。同時に俺は、有希の体に覆い被さるように抱き締めた。
会いたくてしかたなかった。
古泉の話を聞いた後、俺は早足からやがて駆け足になり、有希のマンションへと辿りついた。有希が、俺に好意を抱いているかもしれないという話が、俺の心をうねらせる。
俺の傍を歩いていた有希の頭が、ほんの少しだけ俺のほうへ傾いていたという、そんな小さなことが俺の心で踊り続けていた。
「有希、愛してるぞ」
俺は有希の頬に、頬を寄せた。白い肌の温もりが伝わってくる。部屋に来ていきなりこれなんだから、何やってるんだろうね。
有希の体を抱き締めたまま、俺は靴を脱ぎ捨てて部屋に転がり込んだ。
俺の行為に有希は困惑していたようだったが、嫌がりはしなかった。お茶を淹れる、という素っ気無い言葉で、俺はようやく有希の体を離した。
まったく、もう少し反応を見せてくれてもいいのに。
俺はいつものようにコタツ机の脇に座り、有希の後姿を眺めた。窓の外は夜。外を賑わせるすべてから隔絶されたこの部屋が、寒々しい静寂に包まれていた。
やがてお茶を淹れ終えた有希が、俺の前に湯飲みを差し出してきた。
ちびりと飲みながら、有希の顔を見る。有希は俺のことをじっと見ていた。
「どうしたんだ?」
そう言って笑いかけると、有希の瞳が少し鋭くなった。
一体どうしたんだ。
「……あなたは、わたしの淹れたお茶は褒めない」
「は?」
「朝比奈みくるが淹れたお茶は褒めるのに、わたしが淹れたお茶には、美味しいと言わない」
有希は唇を強めに結びながら、俺の瞳を射抜いた。
どうやら、俺は非難されているらしい。朝比奈さんのお茶は美味いと言って、どうして有希が淹れたお茶を褒めないのかと。
おいおい、それってもしかして、嫉妬とかいうヤツか。
「どうして?」
「えっ? いや、もちろん美味いぞ。っていうかな、俺は有希が淹れたものなら、茶だろうと泥だろうと褒めるぞ」
「……」
俺の言葉を聞いても、有希は表情を変えなかった。
正座した足を少し崩し、膝立ちのような状態になって俺の元へにじり寄ってくる。
顔が近いぞ。有希だからいいけど。
「あなたは、わたしを有希と呼ぶ。なのに、部室では長門と呼んだ」
「それは、朝比奈さんとか他のみんなに、俺たちのことがバレないようにするためだろ」
「わたしのことは、有希と呼んでほしい」
「そりゃ、どうして……?」
いや、愚問だとは思うけどね。好きな相手からは、やっぱりファーストネームで呼んでほしいもんだろう。
ただそれを有希が言うとは……。しかも、結構強い口調でだ。
「怒ってるのか?」
「……わたしの知ってる感情では、それが一番近い」
「そ、そうか……」
怒っているというのは、本当ならよくない状況なんだろうが、有希に限っては別だった。
感情を表に出して、俺にぶつけているんだから。
「朝比奈みくるにお茶を貰って喜ぶあなたを見て、わたしは良くない感情を知った」
有希が俯く。やっぱり、嫉妬なのか?
「違うって。その時は、有希のこと考えてたんだ」
俺の言葉が届いているのかどうかがわからいないほどに、有希は電池の切れたおもちゃのように動かなくなっていた。
恐る恐る、俺は有希の肩を掴んで軽くゆすってみた。
「……ごめんなさい。わたしは……、こんなことを言ってあなたを困らせたいと思ってなかったはずなのに。ごめんなさい」
俯いたまま、有希はそれだけを唇から零した。
有希は、自分の中にある感情をどう処理していいのかがわかっていない。
「なぁ、聞いてくれ。俺は言ったよな、お前のことが好きだってさ。だからな、有希が何を言ったって俺は怒ったりしないから。っていうか、俺のほうが有希を困らせてばっかりだっただろ。頼りっぱなしでさ、お礼もロクにできてなかったし」
「……」
じっと黙っている有希を見てると、心臓が中央に向かって吸い込まれるような痛みを感じた。
両手を有希の背中に回して抱き締め、耳元で直接言葉を紡ぐ。
「そろそろ返事が聞きたい。俺は有希のことが好きだ。有希は俺のこと、好きか?」
「……そうだと思う」
「違うだろ有希。俺はお前の意思を訊いてるんだ。思うだなんてあやふやなこと言うなよ」
「わたしは……、あなたのことが好き。普遍的な定義によるなら、そう言って差し支えないと思う」
随分遠回りな言い回しに、思わず笑ってしまった。
笑いながら目を閉じて、それから有希の体を柔らかく包む。
「あなたといると情報の処理が限界を超えて歪みを起こしてしまう。けれど、わたしはその歪みに対して嫌悪感を感じない」
「いいじゃないか別に」
「よくはない。本来はエラー情報を好ましいと判断することはない。このままでは、このインターフェイスの行動を制御しきれないかもしれない」
「何言ってんだか俺にはよくわかんねぇけど、お前の体だし、お前の心だ。有希の好きなようにすればいい」
有希は俺の言葉を噛み締めるように、俺の耳元でわたしの好きなように……? と呟いた。
背中に回した手で、何度か軽く有希の背を叩く。なんだか子どもをあやしてるみたいだな。
「有希、お前の望みを言ってみろよ。俺に出来ることなら、なんだってするからさ」
「わたしは……、あなたと一緒にいたい」
「ああ、もちろんだ。俺も有希と一緒にいたいからな」
有希の背中を軽く叩くと、有希の腕が俺の背中に回された。
恐々とした手つきで、そっと俺の背に触れる。抱き締めあう格好になった。
有希の鼓動が手に伝わってくる。心なしか、そのテンポは速い。
ふっと有希が俺の体を抜けるように顔をあげ、俺の目を見つめた。やっぱり無表情だったけれど、それはそれで構わない。
有希は少しずつ変わってきている。それだけは確かだった。
ゆっくりと有希が目を閉じて、俺にキスをしてきた。
不意にボールが飛んできたような驚きもあって、ビクッとしてしまう。有希はそんな俺の驚きに心を動かすこともなく、唇を押し付けてくる。
何度キスしたって、この柔らかさに飽きることなんてないんだろうな。
しかも、有希から唇を押し付けてきた。丁寧に唇を触れ合わせ、舌で俺の唇を割ろうとしている。
俺も有希の求めに応じて舌を絡ませた。俺たち、キスしてばっかりだな。
ゆっくりと有希の体を押し倒した。両手で有希の頬に手を添えて、荒々しく唇で有希の舌を啄ばむ。
「有希……」
名前を呼びながら、俺は有希の股間へと手を回した。スカートの裾をめくって、太ももの間に手を滑らせる。
ショーツで包まれた丘に手を這わせる。割れ目の上あたりに手をあてがうと、骨のような硬いものがあるのを感じた。
さらに奥へ手を滑らせようとするが、有希は腿を閉じて抵抗をしている。
俺は有希の首筋に舌を這わせ、髪の生え際をなぞった。有希の柔らかい息が、俺の耳を打つ。
有希の腿を何度もさすっていると、有希の小さな呻きが聞こえてきた。
ゆっくりと、有希の股が開かれていく。俺はすかさず、そこに手を押し込んだ。指先で、有希の割れ目をほぐすように刺激した。
「んっ……」
有希は今どんな顔をしているんだろう。
俺は細い首筋を唇で吸いながら、鎖骨と胸骨が合わさる窪みに唾液を落とした。
有希は体をわずかにくねらせながら、足を開いていく。一度、俺は有希の膝を持ち上げた。
こうしたほうが、触りやすい。
一度体を離して、有希の顔を見下ろす。重力で散らばった髪と、潤んだ瞳。頬に一滴落とされた朱色が眩しかった。
有希の股の間に顔を近づける。今日は抵抗されず、すぐに俺はショーツに口をつけることができた。
今日は薄いブルーの下着を履いていた。だが、クロッチ部分だけ色が濃くなっている。
「なぁ有希、濡らすのはまだ早くないか? まだ挿れるつもりはないんだけどな」
有希の体が一度だけ震えた。
「もしかして、気持ちいいのか?」
俺は言葉を紡ぎながら、指先でショーツを割れ目に押し込んでやった。
くっきりと浮き上がる筋が、有希の体から染み出た液体で濡れていく。
「おいおい、どんどん溢れてくるぞ。もう挿れてほしいのか?」
「……違う。わたしは……」
有希の頬に落ちた朱色が広がっていく。冷たく黒い瞳も、今は濡れて輝いていた。
反応が面白くて、つい意地悪な物言いになってる自分が可笑しかった。これも有希が可愛すぎるからだ。
「いやぁ、かわいいなぁ有希は。よくわからんが、エラーとか出て大変なんだろ。でもいいじゃないか、かわいいんだから」
そんなことを言いながら、こねこねと有希の秘部をショーツ越しにいじり倒す。
「あっ……あ、ああ……」
声が漏れてくる。明らかに、有希は気持ちよくなってるようだ。
「有希、愛してるぞ」
そう言いながら、有希のショーツを脱がせた。濡れてわずかに重たくなったショーツを、有希の顔の隣に置いた。
愛してると言いながらやることじゃないね。
「わたしも……、あなたを愛してる。何万年もの前からずっと……」
「有希……」
初めて聞いた有希の愛してるに、心が破裂する。
有希の唇をさらってから、俺は自分のズボンをずり落とした。
すぐさま突き刺した。強烈に襲ってくる快感が、脳の回路をショートさせる。唇に痛みを感じた。
狂ったように有希の中に俺のものを突き刺した。底の浅い有希の膣の、一番奥を何度も突き上げる。
有希の唇から零れる唾液と、感情に突き動かされて生まれる小さな喘ぎ声が愛しい。
俺は有希の顔の両脇に肘を置き、それに体重をかけながら腰を振り続ける。有希は俺の背に手を回していた。
力を込めて、俺の体を引き寄せるように。有希の両足が俺の腰を掴んでいた。
「もう出そ、んっ」
出しかけた言葉が、有希の唇の奥へ消えた。有希は、少しの間も俺の唇を離そうとしなかった。
興奮した牛のように、舌をがむしゃらに暴れさせる。
もう限界だ。そう思った時には、俺の体がびくんと爆ぜた。
何度かの痙攣の後、ようやく俺は有希の体へ精を放っていたことに気づいた。
出した後も、しばらくの間俺たちは絡み続けていた。
延々とキスしていると、頭がおかしくなりそうで怖い。寝足りない時の布団に似た快楽だった。
「んっ……」
時折漏らす有希の言葉でさらに頭はのぼせ上る。誰か俺の頭に液体窒素でもぶっかけてくれないかね。
息苦しくなって唇を離すと、俺の口から荒い息が零れ出る。繋がったままの下半身から、軽い痛みがチクチクと届いた。
「有希、シャワー浴びようぜ」
体を離そうとするが、有希は俺の腰に両足を回したままだった。離れるに離れられない……。
「おーい、そろそろ離れないと」
「……もう少しだけ」
仕方なく、俺は繋がったままの状態で有希の体を抱えあげた。軽いなおい。うちの妹だってもう少し重たかった気がする。
駅弁とかいう体位だっけこれ。そう思いながら、有希の尻に両手を置いて持ち上げた。足元に絡んでいたズボンを振り払う。
下半身だけ何も履いてないというわけのわからない格好のまま、俺は洗面所に入った。
風呂場でようやく有希の体からものを引き抜いて、素っ裸になる。有希の着ていた制服を脱がせ、脱衣籠らしきものに放り込んでおいた。
浴室に二人連れ立って入る。有希は疲れたのか、いつもの無表情より少しだけ沈んで見えた。
マットすら敷いていない浴室を暖めるために、シャワーを流す。ゆっくりと湯気が浴室を包んでいった。
「よし、もういいだろ」
俺はシャワーから流れ出る温水を、頭の天辺から浴びた。流さなきゃいけないのは、下半身くらいのものだったが、そこだけシャワーを当てるというのも格好が悪い。
適当に体を流した後、有希にシャワーヘッドを渡してやる。きょとんとした表情で、握ったシャワーヘッドを見つめていた。
当然だけど、有希も裸だった。あまり大きいとは言えないものの、小ぶりでかわいらしい胸も晒されている。
桜色の突起も、穏やかな曲線を描くウェストも見放題だ。特に、ウェストから尻にかけてのラインが柔らかそうでいい。
そんなことを考えていたせいか、俺の締まり無い股間は巨大化していた。まぁ散々エッチなことしまくったわけだし、今更気にしなくたっていいだろう。
「おいどうした有希? お前が洗わないんだったら、俺がやってやろうか?」
なんて軽い口調で言ったところ、
「そうしてほしい」
と、実に有希らしい短い口調で頼まれた。いやいやいや。
頼まれたからには仕方ない。俺はボディソープを手に取ると、有希を後ろから抱き締めて胸を揉みだした。
「さー、綺麗にしましょうねー」
そんな意味不明なことを口走りながら、俺は股間のものを有希の背中にぐりぐり押し付けつつ、胸をまさぐるのだった。
泡立っていくボディソープが、有希の胸を白く包む。乳首を指で摘んでみたり、谷間が出来ないものかと内側に寄せてみたり、有希の体をもてあそぶ。
洗うという行為とはやたらと遠いことをしている気もするが、気にしないことにしよう。
俺は有希の腹部に手を這わせ、さらに尻も撫で回し、腕も足も首や背中でさえもこの手で撫で回した。
そしてシャワーで体を流してやる。さすがに髪まで洗うのは気が引けた。こんなにも綺麗なんだから、俺がゴシゴシ洗ってキューティクルだかなんだかが傷ついたらまずいだろう。
「ここも綺麗にしないとな」
なんて言いながら、シャワーヘッドを有希の股間に持っていって、湯をかけてやる。両足を軽く開かせて、俺は左手でシャワーヘッドを持ち、右手で有希の割れ目をぐにぐにと弄った。
さらに指を滑り込ませる。指がぬるりと吸い込まれた。
あまりの狭さに、驚いてしまう。指一本で結構きついじゃないか。こんなところに、俺はいきり立ったモノを突き立ててたのか。
急に、意識が戻ってくるような気がした。心が醒めていく。俺は、欲望に任せて、かなり酷いことをしてしまっていたんじゃないのか。
今もこうやって、有希が抵抗しないのをいいことに好き勝手にして。
俺は指を抜いてから、シャワーで丁寧に有希の股間を洗って終わりにした。
浴室から出て、バスタオルで体を拭く。ここでも有希は、自分で拭く気が無いのか知らないが、俺に拭くよう頼んできた。
有希の体を丁寧に拭き終えると、俺は放り出していた制服を掴んで、全裸のまま洗面所を出る。脱ぎ捨てる時は気にならなかったが、こうやって裸で室内をうろついていると落ち着かない。
さっさと服を着ると、また気持ちが不意に落ちていった。ずっとハイになっていたから、ここで気分が沈むとその差で痛みさえ感じる。
ハルヒのヤツは、そんなことを感じることはないんだろうか。アップダウンを繰り返してやがるからな。
床に座って溜め息を吐くと、まるで何事も無かったように有希が洗面所から出てきた。制服をビシッと着こなしている姿は、部室で見る時となんら変わりない。
「長いこと邪魔したな。そろそろ帰る」
「……そう」
重たい体をなんとか立たせ、玄関までとぼとぼと歩く。靴を履いている間も、有希は俺のことをじっと見ていた。
今は有希の無表情を見るのが辛かった。不意に視線を落としてしまう。
「有希、ごめんな。なんか、勢いとか性欲に任せて酷いことしちまって」
「いい」
返事は短かった。俺はまた、有希の優しさに甘えてしまっていたんだろう。
「あなたがわたしを望んでくれるように、わたしもまたあなたのことを望んでいるから」
言葉少ない有希のフォローが、くすぐったかった。
「ありがとよ。そう言ってもらえると嬉しい」
「……」
有希は俺の元へ寄ると、キスをしてきた。
思わず、自分の唇を押さえて目を丸くしちまう。有希はというと、やっぱり無表情で俺のことを見つめているのだった。