翌日の授業は、いつも以上に俺の耳をすり抜けて、何処か遠くへ行ってしまっていた。
窓の外の空は青く、雲のひとかけらさえ見当たらない。訪れた小春日和の中、グラウンドから聞こえてくるホイッスルの音が遠かった。
休み時間に、有希に会いに行こうと思ったのだが、その姿さえ見ることはできないでいた。昼休みも、部室にはいなかった。
しかし、有希のクラスメイトに訊いたところ、出席していることは確からしい。放課後になれば会えるだろう。
「ねぇ、あんたなんでそんな不機嫌そうな背中してんのよ」
シャーペンで俺の背中を突っつくハルヒ。ちらりと、肩ごしにハルヒの顔を見る。まぁ普段と変わりなく、不機嫌そうな表情だ。
こいつが満面の笑みになったら、それはそれで困るから別にどうでもいいけれど。
「別になんでもねぇよ」
「午前中はなんか意味もなくニヤニヤしてたのに。なに? ボケてきたの? 病院行く? 団長として付き添ってあげるわよ」
「行かねぇ。つかお前、俺の背中なんぞ見てないで、黒板を見ろ黒板を」
まったくもって人のことは言えない。
「変なキョンね」
「お前にだけは変だと言われたくないね。ったく、少しはゆ……長門の落ち着きを見習ったらどうだ」
「いいのよそれは。人それぞれの個性だもの。あんたこそ、少しは古泉君の勤勉さを見習ったらどう? そうすれば副団長補佐代理くらいにはしてあげるわよ」
「心底いらねぇ」
「何よ。みくるちゃんは可愛いし、古泉くんは有能だし、有希はなんでもできるし、あんただけじゃない役立たずは。ちょっとは団のために働いてくれるなら、認めてあげてもいいのに」
有希という名前が出て、少しドキッとした。
「どうしたの? やっぱりちょっとは気にしてるんだ。だったら、あたしのためにしっかり働くことね! いいわね!」
俺の戸惑いを都合良く受け取ったハルヒは、得意気な顔で胸を反らした。へいへい、と軽い返事をして、俺は黒板なんぞより遥かに遠い場所に視点を移した。
昨日の夜、有希と体を重ねた後に話し合ったんだが、俺と有希が付き合っていることは、団のみんなに内緒にしようということになった。
と、いうか俺が提案して、有希に守るよう言っただけだが。
どうせこいつのことだ、知ったらロクでもないことを言い出すに違いないし、変なドタバタになるのはゴメンだね。
放課後になると、俺は鞄を持ってさっさと教室を出た。予め、教科書やらの類は授業中に片付けておいたしな。
授業が終わって廊下に人が溢れてくる。その間を縫って、俺はさっさと部室へ向かった。
部室のドアを勢いよく開ける。すると着替えの最中である朝比奈さんがこっちを見て固まっているわけで。
部室のドアをゆっくり閉める。中からかわいらしい悲鳴が聞こえてきた。
朝比奈さんはともかく、ちゃんと奥に有希も座っていた。まず有希の居場所から確認してたので、朝比奈さんの着替えシーンをじっくり見ることはかなわなかったが……。
「どうぞ……」
朝比奈さんは、掻き消えそうな声でそう言って、俺を部室の中へと促してくれた。もちろんメイド服を着ているわけで、この姿を見るとなんだか幸せになれるね。
有希はというと、いつものように黙って本を読んでいた。朝比奈さんが、いつものようにお茶を用意してくれている間に、俺はそっと有希に近づいた。
「長門、昼休みはどこ行ってたんだ? 学校には来てたんだろ?」
「……」
有希は無言で本に視線を落としていた。
「おーい、長門? 長門さん? 聞こえてるよな?」
「…………」
怒ってる? いつもより、有希の体が硬くなっているような気がした。
ちょっと怖くなって、小さな声で名前を呼ぶ。
「有希」
「……なに?」
「いや、別に……」
「……」
本を読み続ける有希。
「キョンくん、お茶が入りましたよー」
「ありがとうございます」
いつものように、テーブルの前に座ってお茶をすする。
ようやく有希の顔が見れたことで、ちょっとばかしホッとした気分になれた。そこにこのお茶だから、落ち着くのも当たり前だ。
有希は、団員の前では俺に対して出来るだけそっけない態度を取ることにしたんだろうか。
マジメなヤツだからなぁ。もう少し普通に接したって、怪しまれることはないだろうさ。
まぁそれもかわいいから別にいいんだけどね。
「どうしたんですかキョンくん。今日はご機嫌ですね」
朝比奈さんが微笑みながらそう話しかけてくる。どうやらちょっとニヤついていたらしい。
「えっ、いやまぁ……。それより、朝比奈さん。お茶の葉変えました?」
「そうなんですよぉ! ちょっと奮発しちゃいました。どうですか?」
嬉しそうに手を合わせている朝比奈さん。その様子にどこか犬っぽさを感じられた。
「美味しいですよ」
そう言うと、朝比奈さんが満面の笑みで喜びを表していた。いやぁ、かわいいね、やっぱり。
しかし、今の俺にとっては有希のほうが……。
ふと有希の表情を見ると、いつもより硬めに唇を結んでいるようだった。
やがてハルヒがいつものように、部室にやって来て、ついで古泉も現れた。
PCのCPUファンが低い唸りをあげながら、OSを起動させている間に、朝比奈さんがお茶をハルヒの元へ運んでいる。
「しっかし暑いわねぇ。もうすぐ冬だってのに、どうなってるのかしら」
そう言いながら、運ばれてきたお茶をぐびぐび飲み干す。晴天の空に一際輝く太陽は、空気を読めないハルヒのように無意味に力を浪費していた。
この分だと、今年は暖冬だろうか。
ハルヒがネットサーフィンに耽り、有希は本を読み、朝比奈さんは編み物かなんかの本を見ている。
で、俺と古泉はいつものように暇潰しのゲームを始めていた。人生ゲームで億万長者になっても虚しいだけだな。
やっぱりあれだね、こういうまったりした時間ってのは悪くない。いきなりわけのわからん世界に巻き込まれたり、ハルヒが突然意味不明なことを言い出したりするよりは、こんな暇潰しをしているほうがいい。
俺は借金に苦しむ古泉を追い詰めながら、ちらちらと有希のほうを見やった。つっても、いつも本読んでるんだから、何回見たってあんまり変わりはしないが。
やがて外も暗くなろうかという頃になって、有希がぱたんと本を閉じた。
ハルヒが部室に施錠すると、俺たちはだらだらと下駄箱に向かって歩きはじめた。
「はぁ、なにか面白いことはないのかしら。もうすぐクリスマスとか冬休みとかあるけどさ、この時期にだって何かイベントのひとつやふたつあったっていいんじゃない?」
「お前を喜ばせるためにイベントなんかいちいち用意できるかよ」
こいつの頭の中には、期末試験とかそういったものへの不安はまったくないんだろうかね。
俺の少し前を歩くハルヒは、通学鞄を肩で背負いながら早めのペースで歩いていく。俺のすぐ後ろあたりには有希がいて、そのまた後ろを朝比奈さんと古泉が歩いていた。
しかし、学校じゃロクに有希と話もできないな。ハルヒたちと別れた後、有希と合流しよう。
「ふわぁ……」
自然と欠伸が喉から溢れてくる。そういえば、昨日は帰りが遅かったし、あんまり寝てなかったな。
まぁ寝るよりもいい事してたんだし、このくらいなら耐えられるさ。帰りに有希とちょっと喋って、家に帰ってごろごろしておこう。
「あれっ?!」
不意に素っ頓狂な声が後ろから聞こえてくる。俺とハルヒがついっと後ろを振り向くと、朝比奈さんが口元を抑えていた。
「どうかしたんですか朝比奈さん?」
俺がそう問いかけるものの、朝比奈さんは目を丸くしたままだった。その仕草から、何かに驚いたんだろうが、何に驚いたのかまではわからない。
あっ、ではなかったし、何かを思い出したってわけでもないんだよな。
「なにかありましたか?」
古泉が爽やかに問う。
「ええと、その……」
すると朝比奈さんは、古泉の耳元で何事か囁いた。おいおい、なんでそんな言い方なんだ。
朝比奈さんに耳打ちされた古泉が、俺のほうをチラリと伺う。
「なんだよ、俺の背中になんかくっついてんのか?」
ぐいっと首を傾けるが、背中が見えるわけもない。
「いえいえ、なんでもありませんよ。あなたの後姿がいつもと違ったから、髪でも切ったのかと思っただけだそうです」
言ってから、古泉が朝比奈さんのほうを見る。朝比奈さんも、慌ててそれに同調した。
そ、そうなんですよ、と言い繕う姿は、何処の誰が見たって信じられるものじゃない。
「髪かぁ……。あたしもバッサリ髪切ろうかな」
ハルヒは古泉の説明を真に受けたのか、髪の話題にでもなったと思ったらしい。
「まだ切らなくたっていいだろ。お前は長いほうが似合ってる」
「はぁっ?! あんたがそれを言うの?」
なんで怒られてるんだ俺。
「もう一回くらい火曜日のお前を見たいしな」
「な、なに言ってんのよバカキョン!」
何故か知らないが、怒っているらしい。
万年怒りんぼのこいつは放っておくとしてだな……。問題は、後ろの二人だ。
古泉を睨みつけると、いつものように肩をすくめて曖昧に笑いやがる。
一体なんだってんだ。
強制ハイキングコースを下る間も、俺は後ろのほうから視線を何度か感じた。
俺の巻き込まれ型人生の中から導き出される結論は、おそらく俺にとって不都合なことに朝比奈さんが気づいたということだろう。
さらに、古泉まで朝比奈さんの意見に同意し、それを俺に対して言わないという選択を二人して選んだ。
そんなことを考えながら、連れ立って歩く。
「んじゃ、また明日」
ハルヒがそう言って、走り去っていく。
朝比奈さんがかわいらく手を振ってハルヒを見送ると、この世の不思議を集めたメンバープラス一般人の俺が残された。
「おい古泉、そろそろいいだろ?」
「はて、なんのことでしょう」
次第に赤くなりつつある西日を受けて、古泉がまた肩をすくめて笑う。これで誤魔化せると思ってるのなら、こいつもバカのカテゴリーに放り込んでやればいい。
「どうせロクでもないことだろうがな。一応訊いといたほうがいい気がする」
やれやれとばかりに、古泉が朝比奈さんを見やった。動揺する朝比奈さんの姿はそれなりに可愛かったが、今はそれどころじゃない。
「でも……、見間違いかもしれませんし」
「いえ、おそらくあなたの見たとおりだと思います。僕も言われてようやく気づきましたが」
「だから、なんなんだよそれは? 俺の頭に毛虫でもくっついてたのか? それとも十円禿か?」
もう一度、古泉が朝比奈さんを見やり、朝比奈さんが曖昧に沈んだ表情で俺をちらっと伺った。
「で、でもそんなに大したことじゃありませんし。キョンくんは知らなくたっていいと思います」
「そうですか? 僕にとってはかなりの衝撃でしたが……。猫が逆立ちで踊ってたってこんなに驚きませんよ」
古泉は俺に喋りたいのか、それとも喋りたくないのかどっちなんだ。
「でもっ……。でも……こんなのって。あたしには信じられません」
朝比奈さんは喋りたくはないらしく、俯いてしまった。二人は俺の背中に何を見たっていうんだ。
「そうですね、なら僕から話しますよ。別にたいしたことではありませんしね」
どうやら二人きりで話したいらしく、古泉が少し離れた方向へ歩き始める。ついて来いってことかよ。
「長門」
無関心をひたすら地で行く有希。俺が話しかけても、じっと立ち尽くしているだけだった。
「古泉の話次第によっちゃ、また頼るかもしれない。後で会おう」
「……」
返事は無かった。まぁ有希は嫌なら嫌というから、OKってことだろう。
有希と二人きりで会いたいと思っていたが、なかなか伝える機会も訪れなかった。
古泉の話にかこつけてさりげなく怪しまれないように言うとは、俺もなかなかやるじゃないか。
ちょっと一人で喜んでいると、朝比奈さんが俺を非難するように言った。
「キョンくん。あなたは、長門さんに頼りすぎだと思います」
「えっ?」
朝比奈さんの目には、真剣な色が浮かんでいた。怒ってるのか?
「ちょっと待ってください。俺みたいな普通の人間がわけのわかんないことに巻き込まれたら、誰かに頼りたくもなりますよ。朝比奈さんだって、何度も長門に頼って……」
言葉を紡いでいくと、どんどん朝比奈さんの顔が悲しみに彩られていった。
「もう、いいです」
朝比奈さんがとぼとぼと歩き出していった。何がなんだかわからない。
背中が小さく見えてくる頃になって、有希もその後を追うように歩き出した。追うつもりは無いんだろうが。
古泉に連れられてやってきたのは、通学路の途中にある公園だった。
寂れた木製のベンチに、かなりの距離を開けて座る。空の中央が青から黒へと沈んでいった。
夕日を受けた雲の欠片たちが金色に輝き、明日も晴れだと言いたげに漂っている。
砂場に落ちている猫の糞らしきものが、この公園の寂れ具合を一層引き立てていた。滑り台も、ペンキが剥げて支柱の錆が顕わになっているしな。
「で、なんなんだよ一体。もったいぶってないで、さっさと言えよ」
この時の俺は、軽い苛立ちに頭をコツコツと叩かれていた。
古泉はというと、いつもの微笑をやめて、真剣な表情で黙り込んでいる。朝比奈さんと別れてから、こんな感じだ。
「おい、どうした。そんなに言いにくいことなのか?」
「いいえ、そういうわけではありませんよ。僕にはあまり関係がありませんからね」
「関係ないんだったら、さっさと言え。嫌な予感がしてたまらん」
「それよりもまずひとつ、訊きたいことがあるんです。正直に答えてくれますか?」
古泉が俺の目をじっと見ながら尋ねてくる。いつもの微笑みがあれば軽く返事もできるものだが、こう真剣な顔で言われるとねぇ。
「まぁ俺にとって不都合じゃなきゃ、大抵は正直に喋るさ」
「そうですか……。ならお訊きします。今現在、あなたは好きな女性がいますか?」
「はぁ?」
いきなり何を言いやがるこいつは。
「なんだよいきなり。それが何の関係があるってんだ」
「答えてください」
こいつはまた真剣な表情のまま尋ねてくる。距離開けて座ったのは正解だったな。至近距離から見つめられたら、気持ち悪くて仕方なかっただろう。
しかしいきなり何を言うんだ。俺は正直に喋る、と言った。だが、都合が悪けりゃ言わないとも言ったさ。
「いねぇよ」
「どうして? これだけ魅力的な女性に囲まれておきながら、特定の相手にアプローチを仕掛けるということはないんですか?」
「古泉。俺はお前のもったいぶった言い回しには慣れて来たけどな、ここまでやられると結構腹が立つぞ」
俺の言葉で、ようやく古泉がいつものように薄く笑った。
「それもそうですね。あなたが誰を好きになろうと、僕には関係ありませんし」
「暗に、お前も特定の相手に好意を寄せてないって言ってるようなもんだぞ。これだけ魅力的な女性に囲まれてるのにな」
ぽかんとしていた古泉だったが、俺の言いたいことを悟ったらしく、呆れたように笑う。
「いやいや、参りました。あなたは探偵に向いてるんじゃないでしょうか」
「じゃあお前は詐欺師に向いてるぜ」
古泉は機嫌よさそうに笑い出した。
「いえいえ、そうですか。わかりました。たしかにそうですね、あなたが誰かに好意を抱いているといった感じはまったくありませんでしたし。
朝比奈みくる、いえ、朝比奈さんに好意を抱いているようには見えましたが、それもどこか憧憬というか、俺のものにしてやるんだ、という感じではありませんでしたからね。心の内でどう思ってるのかまでは解りませんが」
笑うというよりは、にやけ面の古泉。気色の悪いヤツだ。
「そろそろお前の話に付き合うのも鬱陶しくなってきた。さっさと本題を言え」
「ええ、わかりました。別に大した事じゃありませんよ。長門さんの頭が、ほんの少しですが、あなたのほうへ傾いていたんです。朝比奈さんはそれに気づいたわけですよ」
「はぁっ?! それだけか?」
「はい、それだけです。ええ、大したことじゃないでしょう本当に」
「な、なぁそれってどういうことだ……?」
「簡単なことじゃないですか。長門さんがあなたに好意を抱いている可能性が高いということですよ。本当にごくわずかです。僕も朝比奈さんに言われなければ、まったく気づかなかったと思いますよ。
歩いている間、ずっと長門さんの頭があなたのほうに傾いてたんですよ。たとえどちら側を歩いていたとしてもね」
そ、そりゃ大したことだろ。どう考えても。
有希が俺のほうに、少しだけ頭を傾けてた? しかも、それをずっと後ろから見てた二人が最後まで確信するほどに。
つまり、古泉が言う通り、有希は俺にたいして好意を抱いている……?
「いやもう、驚きましたよ。長門さんですからね。これは天変地異の前触れかなにかでしょうか。
あの長門さんが、まるで普通の女の子のように、ほんの少しあなたとの距離を詰めようとしてるんですから。犬が喋りかけてきたって、こんなに驚きません」
古泉の言い草に、腹の底から炎が湧き出そうだったが、それよりも……。
「それは、俺をからかってるとかじゃなくて、本当だったのか?」
「ええ、そうです。いやいや、実に羨ましい。どうしてあなたばかりがこうも好意を集めるんでしょうね」
俺は絶対にニヤけたりするもんかと意思を固く持ちながら、有希が俺に好意を抱いているかもしれないという言葉について考えていた。
有希も、俺の傍にいたいと思っているんだろうか。もし、古泉の言っていることが本当だったとしたら、だが。
「やはり嬉しいものですか?」
当たり前だろ馬鹿野郎。頭の中身腐ってんじゃねぇのかコイツ?
嬉しいに決まってんだろ。この場で飛び上がってガッツポーズを古泉の頬に食らわせてやりたいくらいだ。
だがここはポーカーフェイスを気取るに限る。
「正直言って……、俺はどう反応すりゃいいんだ」
「さぁ? お好きなようにすればいいと思いますよ」
ああ、好きなようにしてるさ。
「ったく、なにが起こったのかとビクビクしてたのによ」
そう言いながら立ち上がり、ケツを数回叩いた。もう帰りたいという俺の意思を理解したのか、古泉も立ち上がる。
「いえいえ、僕にとってはなかなかの事件ですよ。おおよそ一般的な女性の具象に当てはめるならそう驚くこともないんでしょうが、なにせ長門さんですからね。
よほどあなたのことを信頼しているようです」
こいつを蹴飛ばしてやりたいが、そんなことをすると俺が有希のことをどう思っているかがバレそうなので止めておこう。
有希のことを、まったくといっていいほど女の子扱いしてないな。
「俺は帰るぞ。じゃあな古泉」
「最後に、とても聡明にして鈍感なあなたへひとつだけ言わせてください」
まだなにかあるのかよ。俺はこれから有希に会いに行くんだ。時間取らせるな。
俺は古泉の言葉を無視して歩き出した。
「さて、長門さんがあなたに好意を抱いているかもしれないということを、どうして朝比奈さんはあなたに伝えたがらなかったのでしょうか?」