2年生となって初日となるクラス替えの日、俺は幸か不幸かハルヒと  
同じ組に入った。  
 ハルヒと一緒だったことに文句はいわないのかね。と聞かれたらさて  
どうするか。いざ離れると寂しくなっちまう。なんて恥ずかしくて  
ハルヒにはとても言えやしないがね。  
 担任もハンドボール部顧問の岡部で、長門は残念ながら、古泉はまあ  
どうでもいいが別々になった。朝比奈さんは上級生だから当然俺とクラスが  
同じになることはないが、幸い良き理解者で後援者である鶴屋さんと一緒であり、  
俺は安堵した。ともあれ、ごく穏やかにクラス替えという行事は終焉を迎え  
つつあり、高校生活をもっとも満喫できるといわれる2年生としての日々が  
始まるはずだった。ただ一つの例外事項がなければ。  
 
 生徒と担任の組み分け表を一通り見終わってから教室に入り、予め割り振られた  
番号順の席に着くと、ほぼ8割方は同じ面子であり、国木田と谷口という代わり  
映えのない連中もいた。奴らと雑談していると、ちょうど良い頃合でチャイムが  
鳴り響き、担任の岡部が入ってきた。  
 岡部はどうも心持ち緊張しているようで、小刻みに身体を動かしているのが  
何だか可笑しい。彼は自分の名前を述べた後、小さく咳払いをすると入り口の  
ドアを開けて、廊下で控えていた生徒を招き入れた。  
 腰まで伸ばしたつややかな黒髪、均整の取れた身体つき、北高の制服のライト  
ブルーと鮮やかなコントラストを織り成す透けるような白い肌、そして、際立った  
容姿を見た瞬間。俺は仰天した。  
 
 朝倉涼子が此処にいる。  
 
 カナダ留学を予想以上に早く終えることになって、本校に戻ってきて非常に  
嬉しいという、岡部の白々しい言葉は右から左に抜けていき、俺は静かに  
微笑む朝倉の整った顔を凝視していた。自己紹介を促された彼女は、  
「以前、本校にお世話になっていた朝倉涼子です。1年5組だった人は  
お久しぶりです。他のクラスだった方は初めまして。よろしくお願いします」  
 よどみない挨拶を終えると、大きな拍手とともに、彼女は与えられた自席へ  
向かい、座る直前に長い髪を揺らせながら俺の方を向き、妖艶な笑みを浮かべてみせた。  
 
 続いてクラス全員の自己紹介が延々と続いていくことになったが、既に俺は彼等の  
話なんかを聞いちゃいなかった。右斜め前に座る朝倉涼子に視線を固定しながら、鈍い  
脳みそにフル回転を命じて思考を命じる。何故、奴がここにいる?  
 1年前の春、朝倉は情報統合思念体の過激派に属しており、ハルヒのリアクション  
期待という到底納得しがたい理由で俺の抹殺を図り、穏健派の長門有希によって  
打ち破られた。俺は、砂粒と化して消え去る朝倉を呆然と眺めていた。  
 
 朝倉の姿を再び見たのは、涼宮ハルヒを一時見失ったパラレルワールドだ。  
 その世界での彼女の役割は、長門の世話をあれこれと焼く一般的な生徒だった  
はずだが、俺が長門に危害を加えると『勘違い』したのか、はたまた好意を寄せる  
長門に近づくお邪魔虫を排除する為か、いずれにせよ朝倉は凶悪なアーミーナイフを  
脇腹に突き刺した。あの焼けるような激痛と疼きを現在でも忘れることはできない。  
 
 正直、あの朝倉がどうなったのかは記憶にない。俺はてっきり長門に消されたと  
思っていたが。どうやら認識が甘かったようだ。情報統合思念体にとっては、  
人間世界に出現する端末など幾らでも再生可能ということなのだろうか。  
だとしたら完全にお手上げな訳だが。  
 内心の不安に駆られているうちに、我らがSOS団の団長の顔が見たくなった。  
身体を後ろに捻ると涼宮ハルヒは朝倉の背中を睨みつけていた。彼女の瞳に不安と  
警戒の色がたたえられているのが分かったのは、一年をかけて培った観察眼の賜物で  
あるに違いない。  
 始業式の日は半日授業であり、日課を終えた俺はいつものようにSOS団の本拠地に  
向かうため席を立とうとした。しかし、既に朝倉涼子が目の前に立っていた。  
 
「キョン君おひさしぶりね」  
 この名前で呼ばれることに途方もない違和感を感じながら、警戒心まるだしの姿勢を  
崩さず、俺は厳しい口調で尋ねる。  
「お前は、本当の朝倉涼子か? 」  
 腰を浮かせ気味の姿勢からそろそろと立ち上がり、ナイフ一閃でやられない距離まで  
間合いを取る。いくらなんでもクラスメイトが目の前にいるところで、鋭利なナイフや  
得体の知れない無数の槍を突き出すことはないと思いたいが。  
 
「私は私よ。他の誰でもないわ」  
 唇を動かして小さく笑うと、朝倉は俺の怯えた瞳をからかうように覗き込んだ。  
「お前は何をたくらんでいる。また俺を抹消しにきたのか? 」  
 ハルヒは既に教室を出ており、クラスメイトの大半が既に帰宅しているとはいえ、まだ  
十人程が残っており、奇妙な会話を聞いているはずだ。だが、俺は周りの状況を気遣う  
余裕は卵の欠片ほどもなかった。  
「あなたを消すために来たわけじゃないわ。その点は安心して」  
 安心などできるか。確かに問答無用で昇天させるつもりはないことが分かって、心の  
奥底でほっとしている自分が嫌になるが。  
 
 お前は何をたくらんでいるんだ?  
「わたしの役割は涼宮ハルヒを監視することよ」  
 それは元々長門の役割ではないのか?  
「長門さんは、もはや情報統合思念体の統制下から離れつつある。自律的意志によって動く  
端末は、本体にとってわずらわしい存在ね。だからわたしが代わりに派遣されたと言う訳」  
 
 嘘つけ。お前こそ長門のバックアップを忘れて、暴走したんじゃないか。  
「確かに一年前の事はわたしの失敗だわ。素直に認めなくてはいけない。けどね。この一年で  
状況は劇的に変わったの。過激派はすでに穏健派に取り代わって主流勢力になりつつある。  
涼宮ハルヒの特異性が失われていくことに上層部は危機感を強めたようね」  
 朝倉が何気なくいった言葉に、背中がぞくりとした。長門や朝倉の親玉にとってはハルヒの  
一年間の変化は、俺が思っていたような好ましいことではないということか。  
 
「ふん。ハルヒがあほな閉鎖空間なんぞをぼこぼこ生み出したほうが良いとでもいうのか? 」  
「少なくとも過激派にとっては決して好ましい変化とは言えないわね」  
 馬鹿な。俺は強い怒りを感じざるを得ない。自分に無関心だった長門は、今では自分の  
意志で生きているより人間らしい存在だ。己らしさを保つために異時間同意体への同期すら  
拒否しているんだぞ。  
「それでも長門さんの力はとても強大。情報統合思念体でも迂闊に手が出せないほどに  
成長したわ」  
 どこか冷えた微笑を崩さないまま続ける。  
 
「だから、別系統から派遣された喜緑さんも穏やかに牽制することしか今はしてないわ」  
 喜緑さんか。ごく温和な顔をした上級生を思い出す。朝倉の事だけで脳みそが飽和状態に  
達しており彼女の思惑までとても分からないが、変なちょっかいだけはやめてほしいと  
心から思う。  
「という訳で、搦め手から攻めることにしたの」  
 いつの間にか、朝倉涼子は互いの息が届く距離まで近づいていた。俺が反射的に後ずさろうと  
する前に両肩が掴まれる。  
 何をするっと思う間もなく、朝倉の甘ったるい香りが鼻腔をつき、形の良い唇が  
覆いかぶさってきた。  
 
(続く)  
 

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