長門有希の狼狽
俺は今、自室で漫画を読みながらベッドに寝そべっている。そうでもしないと、
不安で不安で仕方ない。
いかなる酔狂か長門がシャミセン二号と入れ替わり、シャミセン二号の入った長門の体に
俺は、どう謝っていいかも見当のつかないようなことをしでかした。
漫画の中で熱血漢の主人公が叫ぶ。
「死んでもやっちゃいけないコトと
死んでもやらなきゃいけないコトがあるんだ!」
ああ全くその通りだ。だが、それがわかっててなお動けない俺のようなヘタレはどうすればいいんだろうね?
今現在俺の脳内では主力二派が意見の対立を繰り返している。
――とっとと謝れよ。あの長門だぞ? そんなに気にしてないかもしれないだろ?
――あんな事までやっておいて、謝って済むと思ってんのか? もう手遅れなんだよ! 長門も失望しきってるさ。
――いっそのこと長門と深い仲になっちまえば気にしなくて済むんじゃないか? やっちまえよ。
三番目のは無視だ。とにかく俺は、帰ってからそのことばかり考えて、まんじりともしない夜をすごしていた。
だから、気晴らしにたまったものをヌこうと考えたのは、断じてストレス発散の一手法に過ぎないと言っておく。
そこで自分が致命的に脳みそを病んでいることが解った。
カラーで豪快につながるスレンダー系のモデルでテンションを上げ、いざ行為に移ろうとした瞬間、
『こうすると、とても暖かくなる』
長門の顔がフラッシュバックする。
『さっきから、性器が……んっ、あつい。いま、は、発情期ではない、のに』
あの肌の熱さが、むせ返るような匂いが、鮮明に浮かび上がり、あっという間に頭の中を埋め尽くす。
目はエロ本を捉えていても、頭の中は長門の裸でいっぱいだ。しかも放っておくと妄想はどんどん加速して、
俺と長門との絡みを像として結びだす。
長門は裸になって押し倒されてももやっぱり無表情で、それでも俺を拒んでいるわけではないらしい。
ゆっくりと俺の手を取り、白磁を思わせる美しい曲線を描く胸に導いた。俺の目を見て、
「して」
うーん長門らしい。その瞳には、もしその場に第三者が居ればの話だが、他のやつが見ても何とか判るくらいに
熱を持っていた。俺は手を長門に導かれるままに胸に伸ばし、しばし手を当てて長門のひんやりした肌を堪能し、
ゆっくりと撫でてやる。長門が細く息を吐いて、ほんのわずか目を細めた。その反応に気を良くした俺は新雪の中に輝く
宝石のような桜色の突起を指で弄ぶ。長門の息遣いがはっきりと聞こえ、顔が紅潮しはじめる。その時点で俺のナニはもう
はちきれんばかりにそそり立っていて、痛いくらいだ。少しうつむいた長門はそのことに気づいたのだろう、両手で包み込んで、
しごき始めた。先走りの汁を上手に伸ばし、すぐさまリズミカルなものになる。長門の小さい手でされていると思うだけで
かなりやばかったので、頼んでやめてもらう。こくりとうなずくと、今度は体勢を変えて、口で咥えた。最初は亀頭だけを
丹念にしゃぶり、そこから一気に根元までくわえ込む。長門の舌はやっぱり小さくて、別の生き物みたいに俺のものをこすりあげていた。
俺は悶絶しっぱなしだ。なんせ行為自体の気持ちよさに加えて、長門が口をすぼめて上目遣いに俺を見てくるもんだから、
これで参らない方がおかしい。すぐさま俺は絶頂を迎えた。腰が引けそうになるのを、尻の方まで手を回して離さない長門に阻止され、
俺は長門の喉に黄色いであろう精液を流し込んでいた。射精が終わってから、また先っぽに口付けて、尿道に残っている精子を吸いだす。
萎えかけていたものが一瞬にして元気を取り戻した。精液を飲み干しながらぺたんと尻をついて座る長門を見て、理解する。
攻守交替だ。両膝を取って持ち上げてみると、長門の秘所はすでに準備万端だった。この期に及んで無表情なのは、照れ隠しだ。なぜって、
顔ごと目をそらしてるからな。かわいいぞ、長門。と言うかわりにほっぺにキスをする。ちら、と目だけでこちらを伺う仕草がまたかわいくて、
さっき出したばかりだってのに我慢の限界だった。一気に貫く。長門の中はキュウキュウと狭く、熱く、さらに俺を放すまいと
膣全体がうねりを持っていた。俺はもう長門しか見えなくなって、夢中で腰を突き動かす。長門は、声こそないものの、
俺の動きと連動して吐息を漏らし、腰を振っていた。たまらなく愛しくなってつながったまま長門に抱きつき、唇を重ねる。舌で、長門の口腔を
存分に感じ取る。さっき俺の精液を飲んだとか、そんなことは関係ない。長門も俺の舌に応えてくれる。息が荒い。俺も、もう限界だ。
ひときわ力を込めて突きこむと、長門が全身をこわばらせ、締め付けがさらにきつくなる。それに導かれるまま、俺は……
ティッシュという名の子宮の中に、ドス黄色い欲望を吐き出した。
荒い息を整えると、今度は自己嫌悪が沸いてくる。
なんだ、この妄想は。つーかフェラで一発中で一発ですか。自分のフィニッシュを最後の一発にあわせて妄想してたんですか。
ラブラブ設定ですか。発情期のサルか。
器用なこったな。お前は本当に長門に謝る気があるのか? なんて、他人面しても始まらない。
俺はどうやら、長門にイカレちまったようだ。
これほど学校に行きたくないと思ったのは間違いなく初めてのことだと断言する。
かつて世界が丸ごと改変されたときでもここまでじゃあなかったね。あの時は混乱してたし、それに
長門にヒントももらったんだ。その点今度は、長門を向こうに回しての立ち回りだからな。
三歩ごとに溜息をつきつつ、魚雷で艦に特攻を掛けろと命令された気分で、それでも学校に向かう俺は
義務感の塊と言えるだろう。相手が戦艦長門だからな。
こんなときは、ハルヒと昨年十二月の長門の気持ちが少しわかる。力いっぱい現実を否定したくなる。
俺はただの一般人であり、そんな悩みもまたありふれたものだって事は解ってるんだが。身近に文字通り実行しちまう奴らが居るとな。
「よう、キョン! 今日はいつにも増してしけた顔だな?」
よう。そしてほっとけ。
「かーっ! 暗いぜ! さてはとうとうお前にも運の尽きるときがやってきたんだな?」
そのうれしそうな顔が、今は本気で癇に障る。俺も相当参ってるな。
「マジでほっといてくれ。今の俺は普通に会話する精神的余裕に乏しいんだよ」
ふーん? ってな顔でアホの谷口が見つめてくる。
「ま、何か不幸な事があったら話してくれよな。力いっぱい慰めてやるよ。」
ケケケ、と笑って、足取り軽く坂を上っていく。友達甲斐のないやつめ。ま、逆の立場なら理解は出来るが、
今の俺にそんな気回しは不可能だ。
率直に言おう。俺の見通しは甘かった。
これでも相当悪い方に考えていたつもりだったんだが、まだまだ足りなかったようだ。
「…………」
これは長門じゃないぞ。ハルヒなんだよ。
ハルヒは俺が教室に入ってきて挨拶を交わしたきり、ずっとこんな調子でだんまりだ。なんだ、何があったんだ?
と訊こうと思ったが、ハルヒの目は俺を糾弾するような、何か訊くのをためらっているような、複雑かつ非常に話し辛い
雰囲気だったので切り出そうにも切り出せなかった。俺自身、やましい事を抱えてるからな。
針のむしろは案の定終わる事はなく、昼休みを迎えた。ハルヒはさっさと学食に食いに行っちまった。なんなんだ?
まあいい。もうなんだっていい。俺は放課後が来なければいいのにと思いながら、味のしない弁当をかき込んだ。
と。いくら願ったところで、時の流れの無情さはいまさら俺が述べるまでもない。あっという間に放課後はやってきて、
あっという間に部室前に俺は立っている。ハルヒはもう来ているはずだ。
この状態が続けば魔球だって投げられるってくらいの抵抗を振り切って、俺は腕をあげてノックする。四回だ。
よくやる二回だけのノックは「トイレノック」っていって失礼に当たるって知ってたか?俺は知らなかったね。
ささやかな現実逃避の後、
「入んなさい」
一気に引き戻された。この上ハルヒにまで説教を喰らう事になるのか。胃に穴が開きそうだ。
恐る恐るドアを開けてみると、以外にも普通の光景が広がっている。ハルヒが不機嫌なだけだ。
朝比奈さんはプレッシャーに耐えつつも普段どおりお茶を入れているし、古泉が何か疲れ気味なのは知ったこっちゃないし、
長門は本から顔を上げて、俺と目を合わせて
『いやぁ……もっと』
くそっ。またかよ。長門との濡れ場がフラッシュバックして、俺は目をそらす。視界の隅で、長門が驚いたような気がした。
どうやら俺は脳内に『オールインワン長門シミュレータ』がダウンロードされてしまったらしく、状況の再現のみならず
それをひとコマひとコマ静止させてあらゆる角度、倍率で見ることはもちろん、長門との会話シミュレーションや
アレの反応が自動でシミュレートされ始め、それを必死で止めようとして、眉間に指を当てて黙って席に着いた。
それにしても何だ、この空気は。ハルヒは不機嫌だがそれを特に俺にぶつけてくる事はしないし、時折長門の方を気にかけている様子だ。
古泉は何故か恨みがましい視線を送ってくるし。……まあ、推理は出来る。出来るが、それはあまりにもひどい状況なので、
長門の事がまだ手付かずな今考えることではないと、無理やり頭から締め出した。
しかし……なんてこった。俺の唯一の憩いの場であったはずのSOS団が、今は針のむしろだ。しかも自業自得で。
だからって原因を作った長門を責められるはずもなく、針山地獄での無言の行はしばらく続きそうだった。
古泉がゲームに誘わないところからも事態の深刻さが伺えるな。
朝比奈さんがお茶を出してくれたのだが、ああ、なんてこった、味がしない!
ハルヒが不機嫌なまま一言も発さずにネットをはじめたことで、ようやく古泉は俺に話しかける気になったようだった。
「今度は何をやらかしたんですか?」
……やらかすって、なんだよ?
「そうとぼけないでくださいよ。すでに我々は実害を受けているんですから」
また閉鎖空間でも出来たか。
「ええ、それはもう盛大に。規模はさほどでもありませんが、とにかく数が多くて……同時に出来る数はもちろん、
昨夜から今朝方までの総数なんて、数えたくもありません」
お前の愚痴も珍しいな。
「愚痴りたくもなります。一刻も早く涼宮さんを何とかしてください」
俺をなんだと思ってるんだ。一般的な男子高校生だろうが。
なんて見苦しい言い訳はこの際しないが、今回ばっかりはすっきりと解決しそうにない。そんな事が出来るやつが地球上に
居るとは思えんね。長門含めてもな。そうだよ、長門だ。とにかく長門に何か言わないと、事態は進展しない。
よし。部活が終わったら今日中に二人で話をつけよう。こちらを見ていた長門と目が合って、
思わず顔を背けた。
なんて事を考えたのが一週間前か。時の流れは無常にして無情だ。
言ってる場合か。そろそろ本気で胃に穴が開きそうだぞ。どうしても長門と顔をあわせられない。
そのたびに長門の裸体が脳裏にちらついて仕方ないんだよ。この一週間、長門とコミュニケーションしてないな。
それでも俺は、SOS団に来るのをやめないのはなぜだろう。帰巣本能なんだろうか。
と、部室の前まで来て、ドアに何か張ってあるのを見つけた。
本日 活動休止。あとキョンは死刑
団長 涼宮ハルヒ
慌てたね。予想はしていたが、こんなに早いとは。いやよく持ったほうか。あの空気は誰だって堪えるからな。
もしこのままハルヒがSOS団を見限って解散させちまったら、と思うと、血の気が引いた。
もうなりふりかまってる場合じゃない。今すぐ長門に謝らないと、何もかも取り返しがつかなくなる。乱暴にドアを開ける。
期待通り、そこには長門が鎮座ましましていた。
本も読まずに。
「…………」
長門は黙っている。俺も。しかし、この沈黙を破るのは俺の仕事だ。
「長門」
呼びかけて、初めて気がついた。その瞳が、ほんのわずか揺れている。そのことを訊いてみるべきか、いやさっさと謝ってしまうか
ほんの少し考えている間に、長門が先に口を開いた。
「あなたは、」
言ってから、言葉に詰まったように静止する。俺には長く感じられたが、実際は一秒かそこらだろう。
「この一週間ほど、」
またつまる。長門らしからぬ切れの悪さに、俺は身を硬くした。
「私を、避けている」
言ってから、とうとう視線をはずし、床を見つめた。俺が半ばあっけに取られていると、
「私に、何か落ち度があった?」
言葉の意味が頭に染み渡るまで、十秒はかかったね。理解すると同時、肩の荷が情報結合を解除されたかのごとく
消えていくのを感じる。
楽になったら、今度は長門に対する申し訳なさで胸がいっぱいになった。こいつは……俺がうじうじしていた所為で、
こんなにも苦しんでいたんだ。ごめんな、長門。
歩み寄り、中腰になってうつむきがちの視線を正面から捉える。今の安堵と長門への気持ちを精一杯表したつもりの笑顔を作って、
こう言った。
「ちがうんだ、長門。俺は、」
おっと。どう説明したもんかな。まさか、「お前を見るだけでも発情して襲い掛かりそうだから、謝りそびれた」
なんて、言えるわけもないし。
「一週間前の、ほら、長門に……しちまった事で、嫌われたんじゃないかって、それが怖くて、謝りそびれてたんだ。
もっと早くに俺から言い出すべきだった。本当に、すまん」
どうやら概ね伝わったらしく、長門の瞳から怯えの色は消えた。それから首をかしげて、
「謝る?」
どうやら俺が長門を見くびっていたらしい。あの程度は長門にとっては問題でもなんでもないんだ。
……なんかちょっと寂しい気がしないでもない。俺の脳裏にはもう一生消えないってくらいに深く刻まれたってのに。
「だから、アレだよ。長門も一週間前の解散のときに、俺に言ってから帰っただろ?」
『寒い』
『暖めて』
ってやつな。あれは凄い破壊力だったぞ。俺に止めを刺すには十分な一撃だった。
「あれは、冗談」
お前ってやつは……文字通りシャレにならなかったぜ。
「ごめんなさい」
あ、いや、いいんだ。
「それより、あの冗談を言えるって事は……俺とシャミセン二号が何をしていたか、」
「知っている」
うああ、死にたい。
「気にしていない。大丈夫」
気にしていない、か。そうだよな。ま、そんなもんだよな。
と、そんな気持ちを態度に示してしまったのが良くなかったのか、長門はフォローを入れてくれた。
「嫌ではなかったから」
心臓がはねる。
「あなたとなら」
まっすぐに見つめてくるブラックオニキスのような瞳から目が離せない。長門が熱のこもった視線を……あの長門がだぞ……
俺に向けているからか、全身が熱くなってきやがった。
「長門……」
意味もなく、名を呼んでみる。背にした夕日が無表情を塗りつぶし、それがかえって表情をつけている。
突如指先からひやりとした長門の頬の感触が伝わってきて、ぎくりと体がこわばった。
何をやってるんだ、俺は?
どうやら無意識に頬を撫でようとしたらしい。長門は特に反応もなく……いや、そっと目をつぶった。
ちょっと待て、何だこの状況は? 何でそこで目をつぶるんだ?
「涼宮ハルヒに」
今度は心臓が止まりそうになった。
「あなたと話をつけるために時間と場所を作ってもらった」
「そ、そうなのか。後で俺からも礼を言わないといかんな」
絶好のチャンスとばかりうかつな手を引っ込めようとして、長門にそっと抑えられる。
勘弁してくれ。俺はあの日からお前のことを思い出さない夜はなかったんだぞ。それが赦されたと同時にこんなことされたら、
本当にどうにかなってしまう。
「どうだった?」
なにがだよ?
「私の体」
どうしてそんなにきわどい発言を繰り返すんだ。もしかして本当はぜんぜん赦してくれてないんじゃないか?
と思ったって、口に出せるはずもない。
「私の体は男性から見た性的魅力がこの地域の平均よりも低い。端的に言えば、貧相な体」
「んなわけないだろ! 俺はあの日からずっとお前のことが頭から離れなかったんだ!
毎晩毎晩、お前の、」
言っちまった。やっちまった。目まいがするほど赤面することって、あるんだな。
「私の?」
つぶっていた目を開けて、俺の目を覗き込む。
「いや、なんでもない」
「言って」
いや、でも、
「言って」
結局、俺は死ぬほど恥ずかしい思いをしながら、毎晩長門をおかずにオナニーしていたことを白状させられた。
最初から素直に謝っておけばこんな事にはならなかったのに……悔やまれてならない。
長門は一度うなずくと、要点をまとめた。
「あなたは私に対して抑えがたい性的衝動を覚えている」
死にたい。誰か銃を持ってきてくれ。
だが、その次に長門がはいた台詞で全てがひっくり返った。
「解消するのが最善策」
はい?
「あなたが性的な欲望を満たせば、目下のストレスから開放される」
意味分かって言ってんのか?
「分かっている」
本に出てきた、という長門らしいような、子供っぽいような理由だった。確かに、小説にはミステリだろうがなんだろうが
不意に濡れ場が出てきたりするからな。長門だってそういう描写を何度となく見てきたろう。
しかし、だからって……
「先日の体験は、私にとって未知数だった。私もしてみたい」
その瞬間、俺の中で謎の葛藤が起こった。
まず、満面の笑みを浮かべたハルヒやあっかんベーをするハルヒがフラッシュバックして、
次にこの一週間たびたび思い出してきた長門の肢体が脳裏に浮かぶ。
ハルヒの笑顔はとても大きく、まぶしくて、しかし長門の肢体の圧倒的質感に負け、俺の頭の隅に追いやられた。
もう、限界だった。
後先の事は考えず、長門の脇に手を入れて立たせ、長机に押し倒す。背中に夕日が当たっていて、
長門からは俺の顔が見づらいだろう。
「本当に、やっちまっていいのか?」
「いい」
長門はあくまで無表情だ。俺の妄想と同じく。
生唾を飲み込んで、せめて少しでも気分を出そうとして、キスからはじめようと思った。
じりじりと長門の顔が近づいていく。だんだん心臓の音が無視できないほど大きくなってきた。そういえば、
ファーストキスじゃないか?長門にとっても。
そんな事を考えるとますます緊張して、細く息を吐く。すでに長門にかかる距離だ。長門はどう思ったろうか。
間近で見る長門の顔は、やっぱり綺麗だった。自分の顔が見えるくらいに近い瞳が、わずかに揺れている。
怯えでもなく、安堵でもなく、緊張だと思った。長門も俺のことを、意識してくれているんだろうか。
その瞳にまぶたが下りて、俺の決心も固まった。
そして、くちびるが、
触れた。
その時のことを俺は生涯忘れまい。何せ、長門がぴくんと震えたんだ。そのままくちびるを啄ばむようにじゃれていたが、
そのうち俺のほうから舌を入れてみた。
今度は俺が震えた。長門の口の中の感触が、舌から伝わってくる。かわいらしい舌、かわいらしい歯、かわいらしい頬の内側……
要するに全部かわいい。俺が長門の背中に手を入れて抱きしめると、長門も抱きかえしてくれる。
息子は痛いくらいに硬くなっていたが、しばらくそれは忘れてお互いにむさぼりあった。
口を離したとき、糸が引いているのを熱に浮かされた頭で見やって、次は制服を脱がしにかかった。
長門の頬が紅潮しているように見えるのは、夕日のせいか、どうか。
服越しに体のやわらかさを感じるたび、口の中がからからに乾いて目まいがした。震える手で何とか脱がそうとすると、
長門がばんざいして脱がせやすくしてくれた。俺は長門の肌着姿に目を奪われ、それを脱がすことにすら快感を覚え、
ブラ一枚になったときにはこのまま昇天しても全く悔いは無いと思い始めていた。
興奮と緊張で震える手で、腹の辺りからそっと肌を撫でる。心臓辺りに頭を乗せて、至福のときを味わった。
背中に回した手で、ホックに指をかけると、ひとりでに外れた。思いやりを察して苦笑する。するするとブラは取り除かれる。
興奮よりも先に感動が来た。やっぱり妄想とは比べ物にならない。そろそろ藍色の混ざり始めた夕闇に染められて、
幻想的な光景になっていた。
気の聞いた修辞なんて思いつかない。とにかく、綺麗だ。そう思うと同時、むらむらと、この体にむしゃぶりつきたいという
欲望がわいてきた。長門もああいったことだし遠慮しないでいいだろう。
がばっ、とのしかかると、向かって左の乳首をちゅぱちゅぱ音を立てて吸い、右のほうの乳房をまさぐった。
長門が吐息を漏らし、目を閉じる。俺は調子に乗って左手で太ももの内側をさすってやった。
「あっ」
震えと、声。ここが弱いのか? もっと執拗に、丁寧に、まだショーツには触れないように愛撫する。
長門はほんの少し目を細めて、それ以外は身じろぎ一つしない。だが、その息は確かに荒く、さっき聴いた限りでは
鼓動も速くなっている。
俺は名残惜しくも長門の胸から顔を離し、ついに絶対領域の内側、即ちまだ脱がしていないスカートを、国宝を取り扱うような
うやうやしさをもってつまんで上げた。
まぶしい。黄昏の中でなおまぶしいその光景を、もっと近くで見ようと顔を近づける。太ももを下から持ち上げて、
足を開かせる。ほんの少しの抵抗があったような気がするが、さて。どうなんだ、長門?
長門は頭を少し持ち上げて、こちらを見ている。初めて自主的に動いたな。なんかうれしいぞ。
うれしいついでに、さっき弱点だと思った太ももの内側に舌を這わせてやろう。長門の股に顔をうずめるような格好になって、
初めて長門のにおいを感じた。始めて嗅いだ体臭がこれってのも強烈な体験だな。匂いのせいもあってかさらに興奮が増してきたぜ。
太もものつけ根、一番あそこに近いところから、舌先で線を引いていく。
「ん……」
やっぱりここが弱いのか。今度はキスしてみる。ぴくん、と太ももが震えた。たまらん。
この反応に味をしめた俺は、両の太ももに丹念に愛撫してみることにした。どうやら、長門は右太ももがお好きのようだ。
さっきより強く長門の匂いを嗅ぎとることができる。それもまた、俺の煩悩を刺激した。
さっきから気になっていたショーツのシミに、大胆にも鼻っ面を埋めた。長門の腰が浮く。ショーツごと
その下にある肉を甘噛みしてやると、
「あっ」
長門の喘ぎ声だ。こんなレアな声が聴けるのは宇宙ひろしといえど俺だけだ。案外と長門は人間に近い反応を返してくれる。
鼻に当たっている豆だって、もう充血してるしな。俺ほどではないにせよ。
そろそろいいだろう。俺は立ち上がって、長門の顔を見た。初めて表情を見たのがこれってのはどうなのかね。俺は嬉しいが。
記念とばかり、キスをしてやる。ショーツに手をかけると、長門が腰を浮かせてくれて、すっと脱げた。糸を引いている。
このまま入れちまいたいところだが……やはり好奇心には勝てず、俺は長門の大事なところを拝むことにした。
綺麗な桜色をしたそれは別の生き物のようにてらてらと輝き、俺を誘っているように見える。
よく女性器はグロいだの何だの言うが、長門のものならオールオッケーだ。上のほうでぷっくりと自己主張している
クリトリスに口付け、くちびると舌で皮をむいてやる。
「ひぅ」
耳から入って直接脳みそをとろかしそうな声。もっと聴きたくて、そのままクリトリスを吸ってやる。
「ん、くぅ、あっ」
突然体をのけぞらせ硬直した後、息も荒く脱力する。しまった。長門がはじめてイくところを見逃した。
しょうがない。ここからは長門の顔から目を放さないようにしよう。
つまり、
「いくぞ、長門」
俺は返事も待たず、長門の腰を抱えて自分のナニを入り口にあて、力を込めて突き入れた。
「ぁあうっ!」
長門が語調を荒くするなんて初めてだ。長門の処女喪失時の表情を脳裏に刻む。
感無量で、長門の膣中を味わう。これもまた、想像、以上だ!
熱い。狭い。やわらかい。気持ちいい。俺は取り付かれたように腰を突き出し、長門もそれに応えてくれた。
しかし所詮は童貞か、長門の人間離れした名器の前では、一分と持たなかった。でる……!
「膣内に射精してかまわない」
正直そんなのこれっぽっちも聞いちゃ居なかった。長門の中にぶちまけたい。それしか考えず、
長門の一番奥に、叩きつけるように性の奔流を放った。