入れたまま射精の余韻を味わいながら、改めて長門の表情を観察する。  
さすがに長門はまだイっていないらしく、もの欲しそうな顔をして、足を俺の腰に絡めてきた。  
「まだする?」  
 おいおい。そうじゃないだろ?  
「……………………もっと、して欲しい」  
 恥ずかしそうに、眉を少し寄せて答えた。長門よ、気づいているか? お前今表情を出してるぞ……  
なんていうととたんに無表情に戻りそうな気がするので黙っておいた。  
「長門の中、ものすごくよかったよ。あのまま天国に昇天するかと思った」  
 そう言って頭を撫でてやる。サラサラした髪の毛がきもちいい。  
「それにしてもお前、案外とこういう時に敏感なんだな」  
 長門は俺の胸に額を当てて、表情を見せまいとした。恥ずかしがってるのか?ますますかわいいぞ。  
長門の背中に手を回して、つながったまま抱き起こす。駅弁みたいな格好だ。再び長門の顔が正面に来て、やっぱり顔が赤かった。  
 調子に乗って、こんなことを口走った。  
「俺は長門が感じてくれて嬉しかったよ。何か不足している事があったら言ってくれ。  
 もっと長門を悦ばせてみたい」  
 長門はいつもの無表情モードで数瞬考えて、  
「あなたのピストン運動は性交に最適とはいえない」  
 と言って、分あたり何回が適正かを教えてくれる。何だその知識。  
 まあ、そりゃあ初めてだし、その……  
「性交の基本として、女性を満足させずに男性だけの満足で終わるのは好ましくないとされる」  
 プレッシャーだな。長門を満足させるだって? 出来るのか、そんな事?  
 ネガティブになったら息子も腰が引けたようだった。しゅるしゅると小さくなっていく。  
ちょ、ちょっと待ってくれ! こんなときに!?  
「大丈夫」  
 長門は俺をとん、と押して離れさせた。数歩離れて見ると、長門の股間からは俺がさっき大量に吐き出した  
白い液体が断続的に流れ出している。まだ脱がせていないスカートと上履きと靴下がアクセントになって、脳死するほどエロい。  
俺の視線に気づいたか、長門はすっかり無表情に戻った顔で  
「あなたの精液はすでに相当な数が子宮に侵入している」  
 今度は俺が赤くなる番だった。長門はそれを滴らせるままにして机から降り、俺の前にひざまずいた。  
咥える。  
 
 それと同時、俺のものを口の中全部使って刺激し始めた。これは本当に長門の口の中なのか。  
俺の精液を搾り取るためだけに存在しているように思える。  
「な、がと……おまえ、こんなのをどこで……」  
 強制的に全回復させられたものを含んでいた口を離し、今度はさおと玉を片手づつで刺激し始めた。あ、これもやばい……  
「情報統合思念体に申請して性交のデータをダウンロードした」  
 そんな情報を溜め込んでるんじゃないぞ情報統合思念体。そうか。初めてにしては慣れ過ぎてると思ったよ。いやそれより、  
「そのデータ、破棄するか封印するか出来るか?」  
 ぴた、と長門が停止する。きょとんとした目で  
「なぜ?」  
 そりゃな。お前がさっき「満足させろ」といったのは解るけどさ。そのためによそからデータを持ってきても、  
それはそれで盛り上がらんものなんだよ。  
 俺は気持ちよくなりたいって以前に、長門とヤりたいんだからさ。  
 長門が赤くなる。恥ずかしいのは俺も一緒だ。  
 こくん、と普段より振れ幅多目にうなずいて、  
「了解した。当該データを全て破棄」  
 言ったまま、動かない。どうした?  
「どうすればいいのか、わからない」  
 あー……じゃ、先っぽをなめてみてくれ。  
「わかった」  
 そういって、おずおずと舌を伸ばして鈴口を撫で始めた。う、これはこれでやばい。  
「次はそのさおを握ったままの手を、そのままの力でしごいて、玉はやさしく揉んでみてくれ」  
 さっきよりぎこちない感じでしごかれる。不安そうに上目遣いをしてくるのがたまらなく征服欲をあおった。  
よく出来たごほうびとばかり頭を撫でる。長門はほんの少し目を細めた。その表情だけでノックアウトされそうだ。  
「よし……次は咥えるんだ。痛いから歯は立てないでくれよ」  
 指示通り、まず亀頭を口に含んだ。  
「そのまま……強く吸ったり、舌でこすったりしてくれ」  
 くっ、ちょっとやばくなってきたぞ。両手と口で攻められて、腰に力が入らなくなってきた。  
 俺の見てきたエロ本知識も案外間違ってはいないな。  
「さおから手を離して、奥までくわえ込むんだ。舌でこすりあげたり口全体で吸い付いたり」  
 言おうかどうかまよって、  
「喉の奥の方でしごいてくれ」  
 大丈夫か、こんな事言って。  
「ん、ぐ……」  
 大丈夫じゃあ無かった。長門は律儀にも実行してくれて、苦しそうにしながらも先端を喉で刺激してくれる。  
根元の方に苦しそうな吐息が当たって、こそばゆかった。眉根を寄せた長門のフェラ顔にくらくらしながら、  
「そのま、ま頭を前後に動かしてみてくれ」  
 じゅっ、ぽ、じゅっ、ぽ、と実にいやらしい音が部室に響き渡る。頭を動かしながらも、長門の視線は  
俺の顔に固定されているようだ。目が合いっぱなしだからな。どんな顔してるんだ、俺は。  
 そろそろ二度目の噴火が起こりそうだったので、頼んでやめてもらう。長門を立ち上がらせて、  
いまさらながら服を脱ぎ始めた。長門が手伝ってくれて、何がなんだかわからないうちに素っ裸にされる。  
靴と靴下まで脱げているのはどうやったんだ?  
 
 俺は椅子に……長門がいつも使っている椅子に座って、手招きした。とことこ歩み寄ってくる。  
目の前に立った長門を抱き寄せて抱え上げ、垂直にいきり立ったものの真上になったところで、掴んだ腰を下げる。  
  俺と長門は抱っこのような姿勢でつながった。さっきより締りが良くなってないか?いきなり射精しそうになったが、  
そこは我慢のしどころだ。今度こそ満足させてやるからな。  
 さっきよりも長門の全身が感じられる。射精感を押さえるためにしばらくじっとして、長門のくちびるを奪った。  
 ようやく動けるようになって椅子をぎしぎし揺らしていると、  
「社会、通念上」途切れ途切れなのは俺が突き上げているからだ。  
 うん?  
「性交、した男女は、愛称もしくは、名前で呼び合うのが、普通」  
 ハルヒのひねくれが移ったか? お前がそんな遠まわしな表現をするとは……  
 嬉しいぜ。  
「有希」  
 口にするだけで、もっと距離が近くなったような気がした。  
「……ョン」  
 何だって?聞こえなかったぞ。  
「キョン」  
 くっ、射精しそうになったぞ。つながったまま顔どアップでその台詞言われちゃあな。  
ケツが千切れそうなほど括約筋に力を入れて、必死に耐えた。  
 長門の方もそれがスイッチになったのか、興が乗ってきたようだった。まぶたが下りてきている。  
俺の首に両手を回して、額と額をこつん、とあわせた。もう長門の顔しか見えなくなって、  
耳には荒い息遣いと卑猥な水音しか入ってこない。  
 抱きしめ返して、舌を絡めあう。急に快感が激しくなったのは、もしかしなくても  
長門が腰を遣いだしたからだ。長門が腰を振っているという事実に気が遠くなりかけるが、まだ果てるわけにはいかない。  
 俺も長門も、舌を絡めているせいで半ば酸欠状態だ。長門に酸欠なんかあるのかは知らんが。息が荒いのだからそうなのだろう。  
いつの間にか背中に回されていた腕に力がこもるのを感じて、終末を意識する。  
 口を離した。  
「有希」  
「キョン」  
 意味を持たせず連呼する。お互いに高めあうための呪文だ。  
 俺は長門の尻に手を回して、思い切り腰を打ち付ける。「キョン」という呼びかけがそのたびに一瞬止まる。  
熱くなった菊門を両の指が撫でた瞬間、  
「あっ!」  
 その全身がこわばる。背中に爪を立てる感触。  
 痛いほどに締め付けを増した中、またも一番深いところに射精した。  
 
 
 もう夕日が完全に落ちている。部室の中も宵闇に包まれて、長門以外はほとんど見えない。  
俺たちはつながったまま、どちらからともなくキスをした。  
「ごめんなさい」  
 え?  
「背中に爪を立ててしまった。すぐに治癒する」  
 いや、このままにしておいてくれ。記念だ。  
「わかった」  
 またキス。  
 
 その後、そそくさと着替えて(俺はかなり気まずかった)、帰路についた。  
 長門はすっかり無表情に戻っていて、俺の三歩後ろをついてくる。さっきのことは  
俺の頭の悪い妄想ではないかと思い始めていたが、全身の汗と背中の痛みが否定していた。  
「なぁ、」  
 どう呼ぶか迷って、  
「長門」  
「有希」  
 やっぱ夢じゃないな。  
「えー、有希。今日の事は、その、ハルヒには内緒にしてくれ」  
「……なぜ」  
 なぜ、て。不機嫌そうな顔をしないでくれよ。  
「さすがに俺と長門が……セッ、……やったなんて、誰かに知らせる事じゃないと思うんだ」  
 すけこまし野郎みたいな台詞に自分が嫌になったが、常識的判断だと言い聞かせた。  
「あと、有希とキョンで呼び合っても、ハルヒなら感づくと思うから、それも……」  
 最低野郎だな俺は。  
「…………わかった」  
 じいい、と俺を見つめる目は、何か複雑な感情をたたえていて、それを解析する前に  
長門は俺の前を歩き始めて、そのまま家までそのポジションだった。  
 
 
 長門との夢だと信じたくなるような初体験の後、家に帰った俺は運転手が居眠りした船のように  
流されるまま呆けていた。  
 妹が「キョン君ヘンー」なんて言っても生返事しか返さなかったって所からも察してくれ。  
回想していて気づいたが、しまったな。後でそこから変な風につながらないといいが。  
 風呂に入って、水分を求めて冷蔵庫を開け、凍らせた水道水が入ったペットボトルを取り出す。  
水が少ないな。入れるか。  
 振ってやると、水はあっという間に冷える。それをラッパ飲みしているとき、はたと思い出した。  
 そうだ。ハルヒに連絡しないと。  
 何せ今回のハルヒは長門と俺の関係を気遣って、一対一で話せる場所を用意してくれたのだ。  
いつもこういう気の遣い方をしてくれれば俺も素直に感謝できるんだが。いや、この際憎まれ口はなしだ。  
今回ばかりは本当にハルヒ様様だった。今日中に礼を言っておくべきだろう。  
 風呂上りの妹にぬれた頭でじゃれ付かれたので、今度はちゃんと対応しておいた。タオルで頭ごしごしの刑だ。  
きゃいきゃい言って飛び跳ねるもんだからふきづらかった。  
 自室で携帯を握り締めたとき、長門を思い出すと同時、何故かためらった。ハルヒと話すのは……避けたい。  
だからって礼を言わないわけにはいかず、意味もない迷いを振り切ってハルヒに電話した。  
 数コールで出た。  
「おう、ハルヒか?」  
 電話の向こうのハルヒは、しばらく間を間を取った。すぐに出ておいて、どうしたんだ?  
『なに、キョン』  
 抑揚を抑えた声。ハルヒらしくもないな。俺と長門の事を気にかけてくれてたのか?ありがたいね。  
「今日の、長門との事さ。あれ、お前が場所用意してくれたんだってな。ホント恩に着るよ。助かった」  
 普段ならこんな事を言うのは後が怖いんだが、場合が場合だ。向こう10回くらいおごらされても仕方ないと思う。  
「長門とのことは、ま、不幸な行き違いってやつでさ。お互い勘違いしてただけだった」  
『そう』  
 ……なんだ、この反応は?  
 ハルヒは、ものすごく大きい振り子が一往復するくらいの、俺にとっては長い沈黙の後、つぶやいた。  
『ねえ、キョン。一週間前、有希はさ、』  
 心臓がはねる。一瞬止まった気さえする。  
 一週間前。俺と長門の、いわば始まりのときかもしれない。あの酔狂が元で俺は脳みその性欲と直結する部分の多くを  
長門の姿で埋める事になったのだ。今日のほうがもっと凄かったが……  
 ハルヒの沈黙はまだ続く。なんだよ。そこで切らないでくれ。気になって眠れやしないぞ。  
 ついにじれた俺は、こちらから催促してしまった。  
「どうした?」  
 
『……ううん、なんでもない。忘れて』  
 なんでもない訳無いだろ。特に前の部分を聞いてしまったからには、色々考えをめぐらせずには居られない。  
「なんだよ、お前らしくないな。聞きたいことがあったら言っとけよ。今の俺はお前に対してかなり寛大になれるぞ」  
 そのとき、かすかに息を飲む音がした気がする。  
『そう? じゃ、この団長様に仲裁なんかさせた罰を受けてもらおうかしら?』  
 ふう。やっともとの調子に戻ったか?  
「罰か。なるべくお手柔らかに頼む」  
『そうね……これから十日間ほど、キョンにあたしの下僕になってもらうわ』  
 下僕と来たかね。  
『そうよ。パシリに肩もみ、荷物持ち。炊事洗濯掃除もやらせるわよ!』  
 ちょっと待て。最後三つはどこでやりゃあいいんだ?  
『あたしんちよ。ちょうど都合のいいことに明日から十日ほど両親が留守にするのよ』  
 どんだけ都合がいいんだよ。これもハルヒの能力のせいか。  
『結婚記念日だからって十年来の貯金はたいて夫婦で旅行なんて、我が親ながら呆れるけど。  
 ちょうどいい暇つぶしになるわね』  
 おいおいおいおい。って事はハルヒの家に俺が行って飯作ったり洗濯したりするわけか!?  
『だからそう言ってるじゃないの。あんたの親御さんにはあたしから何とか言っとくから、  
 泊り込みで来なさいよね』  
 泊まりだと? いくらなんでもそれは無理……いや、ハルヒにそれは通じないのか。  
「い、いや、だがなハルヒ。俺よりお前の方が家事全般得意だろ?料理なんて特にそうだ」  
『四の五の言わない。料理だろうが掃除だろうが、このあたしがきっちり仕込んであげるわよ。  
 感謝なさい』  
 正気かコイツは? 水を得た乾燥ワカメのように自信が増大しているようだ。これ以上はなすと  
何が起こるかわからないな。  
「わかった、わーったよ。明日から十日俺はお前の下僕だ」  
『ハルヒ様、よ』  
「……明日からだ」  
 電話の向こうでにたにた笑っているのが解るような舌打ちをして、切れた。  
 ハルヒと一つ屋根の下、か。どうなるやら……  
 顔がゆるんでいるのは気のせいだろう。  
 長門の悲しそうな顔がよぎったのも。  
 

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