長門有希(偽)の日常  
 
 
 朝。私は低血圧なので、目が覚めるのには時間が掛かる。  
 いつも目覚ましだけでは必ずといっていいほど、起きられない。  
「………もう、こんな時間」  
 そして、走らなくてもいい時間ぎりぎりに家を出る。  
 その時間だと、いつも………  
「おはよう、長門さん。今日もいい天気ね」  
「……おはよう」  
 朝倉涼子と一緒になる。まるで狙い済ましたかのような高確率で。  
「今日もさっきまで眠ってたんでしょ? ダメよ? ちゃんと朝食をとる時間くらい取らなきゃ」  
「………わかってる」  
「本当に解ってるのかしら。なんなら毎日起こしに行ってあげようか?」  
「いい。そんな迷惑はかけれないから」  
「同じマンションなんだし、そんな心遣いはいらないわよ」  
 と、彼女は笑いながら語りかけてくる。  
 実を言うと、この会話のおかげで目を覚ましていることは彼女には秘密。  
「にしても、夏にこのきつい坂は登りたくないわね」  
 首を少し縦に振り、肯定する。  
「あ〜あ、こんなことなら光陽園学園に入っていたらよかったかも」  
 首を少し横に振り、否定。  
「長門さんは北校の方が好きなの?」  
 また、肯定。  
「まあ、確かにおもしろい人達が多いわよね」  
 そういうやりとりをして、今日の登校時間は終わった。  
「じゃ、ここでね、長門さん」  
「………また」  
 朝倉涼子と別れた後、少し周りを見回してみた。  
 今日は、あの図書館で会った人には会わなかった。たまに、靴箱で会う時があるのに。  
 少し落胆した後、自分の教室へと足を運ぶ。  
 
―――キーンコーンカーンコーン。  
 午前の授業終了の鐘の音。つまり今から昼休憩。  
 いつも私は文芸部の部室で昼食を取る。  
 あそこは、静かだし、読みかけの本もある。  
 そこでいつものように時間をつぶそう。  
 
―――キーンコーンカーンコーン。  
 今日の授業全てが終わった合図。私はまた、文芸部の部室に向かう。  
 ここで、部活終了の時間まで本を読む事が私の日課だ。  
 でも、今日はいつもと違うことが起きた。  
ガチャ!  
「…………!!」  
 いつもは誰も訪れる事の無い、部室のドアが誰かの手によって勢いよくあけられた。  
 本を読む事を中断し、その人物を見て、さらに驚いた。  
 なんと、図書館で私を助けてくれた彼だった。  
「いてくれたか……長門」  
 彼はそう言って部室に入ってくる。  
「なに?」  
「教えてくれ、お前は俺を知っているのか?」  
 いきなりそう問われ、少し驚きつつも私は  
「知っている」  
 と、簡単に答えた。彼は、  
「俺の知っている長門は…………」  
 と、何か説明をし始めた。彼が言っていることを簡単にすれば、私は宇宙人らしい。  
「違うか?」  
「ごめんなさい…」  
 私は彼に謝った。彼の言っている事はよくわからない。  
 けど、私が彼の期待に沿うことは出来なかったみたいだから。  
「私はあなたが5組の生徒だと言う事は知っている。時折見かけたから。  
 でも、ここで話をするのははじめて」  
 
 彼は、すごく落胆したようだった。まるで、母親に裏切られた子供のように。  
 この部室を注意深く見ていた彼は、最後に私を見た。  
「…………」  
 わたしは、彼の行動に少し驚きつつも彼から目を離す事は無かった。  
 いつも、彼を見てはいたが、こんなに話をする事は初めてだったから。  
「長門」  
 いきなり名前を呼ばれて少し驚く。  
「あのパソコンを見せてくれないか」  
「パソコン?」  
 彼は、隣の机に置いてあった旧式のパソコンに興味を持ったようだ。  
 でも、あの中には………  
「ちょっと待ってて」  
 これを彼に見られるわけにはいかない。解り易い位置にあるものだけでも  
 深い位置にあるフォルダにしまわなくては。  
「どうぞ」  
「悪いな」  
 彼は、マウスを手に取り、色々な箇所をクリックしていた。  
 その行動は手馴れており、まるで自分のパソコンのようだった。  
はぁ。  
 彼は、深い溜息を一つ吐いた後、  
「邪魔したな」  
 といって、出て行こうとする。でも、  
「ちょっとまって」  
 何故か私は彼を引きとめていた。  
「ん?」  
 彼は少し驚きつつ、こちらに振り返る。  
「これ……よかったら」  
 そして私は何も書かれていない、入部届を彼に手渡した。  
 
 
 夜。学校から家に帰ってきた私は、放心して、座り込んだ。  
 ―――彼と、初めて話をした。  
 その事実を今更になって実感した。  
 胸の鼓動はいまだ高鳴り、顔も赤く染まっているだろう。  
 入部、してくれるといいんだけど。  
ピンポーン―――  
 その音に身体をびくっと震わせ、訪問者の対応にでる。  
「はい」  
「長門さん? あたし、朝倉」  
「………入って」  
 彼女がこの時間に来る事は結構ある。  
 夕食を余分に作っては私に渡しにくるのだ。  
「おじゃましまーす」  
 と、彼女が部屋に入ってすぐに  
「どうしたの? 長門さん。熱でもあるの?」  
 と、私に尋ねてきた。  
「別に。なんでもない」  
「嘘。だって顔、真っ赤よ?」  
 やっぱりまだ、落ち着けてはいないようだった。  
「ほら、早く横になりなさい。風邪は引き始めが肝心なんだから」  
 無理矢理、私を布団に横にさせると  
「じゃあ、おじやでも作るわね。ちゃんと横になってるのよ?」  
 と、念を押してから台所に。  
「ふんふんふーん♪」  
 鼻歌を歌いながら、おじやを作っている彼女に申し訳なく思いながら  
 布団を抜け出す。別に風邪などは引いていないので問題はないのだけど。  
「お風呂に入ってくる」  
「…仕方ないわね。まあ、お風呂に入らないと気持ち悪いし」  
「うん」  
 
 比較的短い髪を洗っていると、突然浴室のドアが開いて  
「長門さん、一緒にはいろ」  
「!?」  
 と、朝倉涼子が私の身体を心配したのか、お風呂にまで入ってきた。  
「もう、大丈夫だから。心配しないで」  
「ダメ。あなた、いつでもそう言うでしょ? だから余計に心配なのよ」  
 今日は本当に何も無いのだけれど。  
 でも、これ以上彼女に何を言っても聞かないだろう。  
「………今日だけ」  
「ん、それでいいわ」  
 高級マンションといっても、流石に洗い場に二人で座るのは狭かった。  
「長門さん、背中流してあげる」  
 いつ手にしたのか、ボディソープのついたスポンジを持って私の後ろに座る。  
 私はまだ、髪の手入れをしていたので素直に任せる事に。  
 
「長門さんの肌ってスベスベなんだ…羨ましいなぁ」  
 私の背中をスポンジでこすりつつ、心底羨ましそうに言う彼女。  
「そんなことない。あなたの肌も綺麗」  
「あなたにそう言ってもらえると嬉しいわ」  
 髪の手入れを終え、手持ち無沙汰になりどうしようかと悩んでいると、  
「ついでに前の方も洗ってあげる」  
 という彼女の提案。  
「……いい。遠慮しておく」  
 流石にそこまで任せる訳には行かない。何より、恥ずかしいし。  
「いいっていいって。ほら、病人は甘えた甘えた」  
「…………」  
 と、前に廻ろうとする朝倉涼子。  
 それをやんわりと邪魔する私。  
「むー。じゃあ、後ろから洗うからいいわよ」  
 そう言うと、彼女は私を後ろから抱きしめ、前の部分を洗い始めた。  
 
「あは、長門さんって抱き心地いいんだー」  
「……///」  
 背中に、彼女の豊かな膨らみを感じる。  
 その感触に顔が熱くなってきた。  
「長門さんのって、小ぶりだけど形いいね」  
「んん……」  
 じっくり見られていると思うとさらに恥ずかしくなる。  
 一通り洗い終わったのか、彼女の手が止まる。  
「洗い終わったなら、もういいと思うのだけど」  
「まだ洗い終わってないわよ。ほら、じっとしてて」  
 彼女は、スポンジを置き、手に泡をため素手で身体を擦りにきた。  
「……くすぐったい」  
「サービスでお肌のマッサージもしてあげる。まずは……ここから」  
「…んん!」  
 いきなり、私の胸を揉みにきた。いきなりで驚き声が少しでてしまった。  
「こう、回すように揉むのがポイントなの。これでボリュームアップ効果が期待できるわ」  
「そ、そうなの、ひゃう!」  
 きっと彼女は本気でマッサージしてくれているに違いない。でも、自然に声が出てしまう。  
「…気持ちいいでしょ? これでバストアップも出来るから一石二鳥なの」  
「ん、あう……」  
 返事する余裕もなかった。彼女の手は、的確に私の感じるところを触っている気がする。  
「長門さん、胸、弱いんだ」  
「はぁ…ん、そ、そんなこと……きゃ!?」  
 今まで、乳房をずっと触っていたのに、急に乳首を触れられ、驚きとともに、  
 まるで電撃が走ったかのような感覚が身体を走りめぐった。  
「くす、気持ちよかったでしょ」  
「い、一体何をしたの?」  
「これといって何も。一つ理由をあげるなら、あなたの身体が求めているっていうこと」  
「…………」  
 
 彼女は、私の無言を肯定と取ったのかどうかは解らない。でもその間に、  
 またマッサージという名の愛撫が始まった。  
「ひゃあぁ、ふわあぁ」  
 焦らしては攻め、攻めては焦らす。そのもどかしさで完璧に私のスイッチは入ってしまった。  
「…焦らさないで……おねがい」  
 その言葉を待っていたかのように、彼女は左手を私の下腹部に伸ばしてきた。  
「!!」  
 クリトリスと乳首の2箇所の同時攻め。長い間、焦らされていたせいもあり、  
 その急な刺激は強すぎて…  
「んんんん!!!!!」   
 一瞬で達してしまった。脱力して彼女に身体を預ける。  
「はぁ、はぁ、はぁ」  
「くす、よかったでしょ? 次はあたしの番…って言いたいとこだけど、  
 少しのぼせてきたし、シャワーを浴びて出ましょうか」  
 こくん。首を少し縦に振った。  
 
 夕食に作ってもらったおじやは少し冷めていたけど、よく味がしみておいしかった。  
「じゃあ、今日はこれくらいで。きちんとあったかくして寝るのよ」  
「………わかってる。また、明日」  
「うん、じゃあね」  
 彼女、朝倉涼子は少し寂しそうに部屋を出て行った。  
 彼女には悪いけど…今日はそういう気分ではなかったので、早めに帰ってもらった。  
 明日も学校がある。朝、起きられないと困るのでもう寝ないと。  
 明日、彼が部室に来てくれるといいのだけど。  
 そんな淡い期待を抱いて、今日という一日を終えた。  
 
                                  〜終わり〜  
 

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