≪Law of kyon 〜キョンの法則〜≫  
 
ふああぁあぁぁ・・・  
 
欠伸のする声がする。その発信源は・・・珍しい。あの古泉だった。  
「どうした古泉。眠そうだな」  
「ええ。少し寝不足でして・・・」  
「・・・・・・まさかまた閉鎖空間か?」  
「いえ、まぁ確かに似たようなものかもしれませんが危険はまったくありません。  
 それにこれは僕が個人的に行っていることですから」  
「?」  
「とある観測対象があるのですが・・・最近それの動きが異様に早くなっているのです。  
 ああ、でも安心してください。あなたには・・・直接的にはまったく関係のない事柄ですので」  
 
がちゃり  
部室のドアが開く。入ってきたのは我等がSOS団のアイドル朝比奈さん。  
「遅れてすみません〜〜・・・」  
挨拶をしつつ目をこする朝比奈さん。古泉と同じく眠そうだ。  
「朝比奈さんも眠たそうですね」  
ピクッ  
「あ・・・キョンくん・・・」  
ん?俺を見た朝比奈さんが少しだが萎縮したように見えた。しかも何故か顔を赤らている。  
「あ・・・やっぱりそう見えますかぁ・・・え?わたしも『も』って・・・?」  
「古泉もなぜか眠たげでしてね。最近なにかを観測してるらしいんですが・・・とはいっても星ってことは  
ないでしょうが。・・・朝比奈さんも昨日は何かしてらしたんですか?」  
「え、その、ええと〜〜〜、・・・・・・き、禁則事項ですぅ・・・・・・」  
 
おかしい。さすがの俺でもここまで露骨なパズルのピースを見せられれば簡単に組み立てることもできる。  
 
二人は何かを隠している。  
 
そして多分だが・・・それは俺にも関係すること・・・だと思う。  
部室に居るのが俺と長門だけになったとき、俺は長門に問い掛けた。  
「長門。最近なにかおかしなことは起こってないか?」  
ずっと本に向けていた顔を上げ俺に向けて一言。  
「ない」  
「本当か・・・?俺に迷惑が掛からないようにとかそういう理由で隠したりはしてないよな?」  
長門の顔が縦に少しだけ傾く。肯定のようだ。  
「そうか・・・疑ってすまなかった」  
「気にしないで」  
「となると二人の寝不足はただの偶然、か」  
いつも摩訶不思議なことばかりに巻き込まれていると、ただの偶然もとんでもない虫の知らせかと  
勘違いしてしまう。よくよく考えれば谷口と国木田が二人同時に寝不足だったとしても別に不思議にも思わないだろうな。  
そんなことを考えていると、いつのまにか長門が団長席に座りパソコンを起動させていた。  
「朝比奈みくる、古泉一樹両名の睡眠不足の原因は同一。偶然とは多少異なる」  
「なに?」  
「三年前、涼宮ハルヒによって起こった情報フレアはこの原始的なネットワーク、情報端末等にも影響を及ぼした」  
そういうと長門はとあるページを開く。  
「様々な条件を必要とするが、別次元へのネットワークにアクセスが可能となった」  
どういうことだ?俺は長門の言っていることがさっぱり理解できなかった。  
「二人はこの数日間このページを観測対象とし、睡眠時間を短縮。そして現在に至る」  
俺はそのページを見た。そこには・・・  
 
「キョン・・・?!って俺のことか?え?朝比奈さん・・・古泉・・・長門・・・ハルヒも・・・?!」  
それどころか朝倉や鶴屋さん、果ては俺の妹や新川さん森さんの名前まで載っていた。  
 
そう。そこには俺やSOS団の日常や関与した事件、俺にしか知りえないことなどが物語という形態で書き込まれていた。  
 
「なんだこれは・・・どういうことだ!なぜ俺や皆のことがここに書き連ねられている?!  
 しかもこんな詳細に今までの出来事を・・・!」  
「おちついて」  
「落ち着いてなんていらるか!こんな事が詳しくわかるなんて今まで誰かが俺達のことを隠れて  
 監視していたってことじゃないのか?」  
俺はトゥルーマンショウタイムという映画を思い出す。実は自分の人生がいつも監視されていたっていうあれだ。  
「それは違う」  
長門はそういうと違うページを開く。  
「・・・?涼宮ハルヒの憂鬱・・・?・・・著者:谷川流 イラスト:いとうのいぢ・・・?」  
「いわゆるライトノベルのタイトルの一つ」  
ライトノベル・・・藤見ファンタズムとか門川シューズ文庫みたいなアレか?  
「これはこの世界とはまったく別の世界、パラレルワールドの有機生命体、固有名詞『谷川流』の想像により作成された小説。  
 その世界には涼宮ハルヒや私達SOS団メンバーその他は存在し得ない世界。しかし涼宮ハルヒの起こした情報フレアは  
 その世界の一部の生命体に影響を及ぼした。それがこの『谷川流』という人物」  
ようやく少しずつだが理解力が働いてきたようだ。落ち着きを取り戻した俺は長門に問い掛けた。  
「具体的にはどう影響したんだ?」  
「涼宮ハルヒ及び関連をもつ人物たちとの情報のリンク」  
「悪い長門。俺にも分かるように説明してくれ」  
「・・・涼宮ハルヒ及び関連をもつ人物たちの記憶情報が涼宮ハルヒを通じてこの人物に伝達されてしまっている」  
つまりハルヒや俺とかの考えてることがこの人に筒抜けってことか?  
今度はサトラレルモノって漫画を思い出した。例え別世界の知らない人とはいえ、あまり気持ちのいいものではない。  
「すべての記憶情報が流れているわけではない。その各人物に起こった事象での中でもあまり経験し得ない  
 ことが起こるとリンクが発生する。中でもあなたの記憶情報が一番多く伝達されてしまっている」  
そりゃそうだ。SOS団結成からというもの、俺にはとんでもないことしか起こってないからな。  
「それによりこの人物はそれらの情報を夢や閃きという形で受信し、さらに想像を加え文章に起こし小説という形で  
 その世界に出版した。それがこの『涼宮ハルヒの憂鬱』」  
長門はPC画面を前に開いていたページに戻した。  
「そしてその小説を題材にした二次創作文章、通称ショートストーリー『SS』をこの世界の不特定多数の人物が  
 このスレッドに書き込んでいる」  
ようやく俺は理解した。これらは俺達という、その世界の彼らにしてみれば二次元キャラクターを題材にして書いた  
物語ってわけだ。なるほど、俺の情報が多く流れている分俺を主人公とした作品が多いのもうなずける。  
自分を主人公に物語を書いてもらえるなんてそうそうあることではない。別世界のこととはいえ少し照れくさい。  
 
 
 
・・・だがそのページの一部が目にとまった。俺の短絡的な思考も同時に止まった。急ブレーキの音が聞こえるほどにだ。  
 
「お・・・おい・・・これってまさか・・・」  
 
そこにはいわゆる・・・そのー・・・なんだ・・・フランツ書院の文章かと思えるような・・・官能小説的なSSが載っていた・・・  
しかも一つだけじゃない。俺とハルヒ、俺と長門、俺と朝比奈さん、果ては俺と古泉などというカップリングも様々な種類の  
SSがそこには詰まっていた・・・  
 
「朝比奈みくる、古泉一樹両名の睡眠不足はこのスレッドの観測によるもの」  
俺は自分が主人公として進められるラブストーリー、またはピンクストーリーを夜な夜な確認している二人を想像した。  
 
うおおおおおおおーーーーー!!!恥ずかしすぎるーーーーーー!!!  
 
ん?まてよ・・・?混乱した頭でもまだ使用可能なようで、ふと俺は思いつく。  
「・・・・・・・・・・・・まさか長門・・・・・・お前も・・・・・・?」  
コクリ、と肯定の合図。こころなしか頬を赤らめているように見えるぞ。オイ、お前はいつからそんなキャラになった?  
「ここに書き込まれるものには私も興味を持った。様々な人物の行動パターンが想像の元とはいえ解析されている。  
 あなたの行動パターンも大いに参考になった」  
 
くぉーーーーーーーーーー!!!こんな羞恥プレイは味わったことがないぞチクショーーーー!!!  
 
血の気が引く感覚というのは何度経験しても心地良いものではない。しかもその直後に恥ずかしさから頭に血が上る。  
いろんな意味で頭がパンクしそうだぞ!  
 
「様々なパターンの文章があるが、その中である法則を発見した」  
「・・・法則?」  
恥ずかしさで悶えていた俺に長門が近づいてきた。  
「涼宮ハルヒによる後天的な特殊行動が発生しない限り、先に動いたものが入手できる確率が高い」  
「・・・長門?何のことをいってるんだ?」  
さらに近づいてくる。  
「バグと思われたものも、ある程度解析できた」  
頭を抱えて座り込んだままの俺の前でようやく立ち止まる。  
 
「キョン。私はあなたが好き」  
 
そういうと長門は顔を近づけて━━━━キスをした。  
 
 
 
 
なに?その後俺がとった行動は、だと?  
 
長門が言うには、キスの後は某SSとまったく同じ行動を取ったんだとさ。  
どれだかは教えないぜ。こんな恥ずかしいこと人に言えるわけないからな!  
 
                              ≪Law of kyon 〜キョンの法則〜≫-END-  
 

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