あたし、涼宮ハルヒはSOS団の活動を終えて家に帰ったの。
いつもと変わらない一日だったわね。
キョンがいて、有希は本を読んで、古泉くんは微笑んでて、
みくるちゃんはお茶を入れてて、本当に何もなかったわ。
…でも、あたしはそれを楽しく思ってる。心境の変化って怖いわね。
中学の時は、こんなふうに笑ってるなんて想像もつかなかったのにね。
…なに考えてたっけ?
そうそう。家に帰った後に、部室から借りた本を読んでいたのよ。
でね、その話はエスパーが主人公なの。
外面と内面の差をテーマにしたものだったわ。
これを見て考えたの。もし人の心がわかったら、どれだけ世界観が変わるだろうなぁって。
だって興味ない?周りの人が本心ではどんなこと考えているのか?
…まっ、無理なのはわかってるけどね。そんな力があるならとっくに使えてるし。
それに、あたしの周りにそういう裏表のあるやつなんていないしね。
あってもしょうがないか。
…って、そんなこと言ってる間に、もうこんな時間になっちゃったじゃないの。
あたしは寝るわ。おやすみ。
だけど次の日、登校している時にその無理なことがが現実になっているのに気づいたの。
そう、あたしは人の心が聞こえるようになってしまったの。
ここで信じられる人なんていないでしょうね。でも本当なんだもん仕方ないでしょ?
その人の…その…恥ずかしいことがわかるんだもん!!
もうそれはいいの!それよりせっかく面白いことができるんだからもっといろいろな人で
試したいわね。というわけで、さっそくSOS団の皆のことでも視てみようかしらね。
――まっ。たいして面白い結果にはならないでしょうけど。
ガチャッ
部屋の中には、有希が窓際で本を読んでいた。
有希って普段どんなこと考えているのかしらね。
「あいかわらず早いわね、有希」
「…………」
『どうやらハルにゃんがきたようだ。こんちわーハルにゃん』
――瞬間あたしのなかで、時間が止まったわ。
だって有希の、あの有希の考えてることが異様なテンションだったのよ。
イメージ的には、鶴屋さんみたいな。
あたしじゃなくても同じ反応するわよ。絶対。
「………?」
『ハルにゃんの動きが止まった。なんでだろう?この前みたく仮装してるわけでもないよね。
あっ。さては私に惚れたな?ああっハルにゃん気持ちは嬉しいけど、私にはキョンくんが
いるからね。そういえばキョンくんは今どこにいるのだろうか。はやく顔をみたいよぉ。
なぜなら私はキョンくんを一日一回は見なきゃいけないのだ。もう知ってると思うけどね。
あーあ。入ってきたのがハルにゃんじゃなくて、キョンくんだったらよかったのにな。
なんだかキョンくんへのラブが止まらない。ガマンはしない。抑える必要もないしね。
キョンくん大好き。キョンくん愛してる。キョンくんかっこいい。ハルにゃんおジャマ虫。
キョンくん素敵。キョンくん魅力的。いっちーどうでもいい。キョンくん天才。キョンくん
美しい。みくるんずるい。キョンくん強い。みくるんすごく羨ましい。キョンくん最高。キョ』
あたしは、おもわず顔を背けてしまった。
有希は不思議そうな顔をしていた気がするけど、ショックが大きくて対応もできないわ。
なんかもういろいろと言いたいことはあるけど、考えたくもないわ。
あたしの頭がどうにかなりそうよ。誰か助けて。
ガチャッ
音と共にドアが開いて古泉くんが現れた。さすが副団長ナイスよ!おねがい、あたしを助けて!
「あぁ。こんにちは、涼宮さん」
『どうやら彼はまだ来てないようですね。あの可憐な姿はお預けですか』
――えっ、今の何古泉くん?彼ってキョン?キョンが可憐?それ新手のジョーク?つまらないわよ?
あたしの頭は疑問符でいっぱいだ。この状況を理解できる人なんているのかしらね。
「涼宮さん?どうかしましたか?…返事しませんね。長門さん、何か知りませんか?」
『彼を落とす方法でも考えていたら困りますからね。一応聞いておきましょうか。
この陰険宇宙人が答えるとは思いませんけどね。予想通り僕の言葉を無視する宇宙人。
でも涼宮さんは、そのようなことはできませんね。ツンデレなくせに勇気がないですからね
むしろこの宇宙人の方が凶悪ですね。自分の行動を恥ずかしいと思っていませんからね。
彼が押しに弱い性格だと知っているでしょうし。まったく陰で何をしているのか。僕でさえ
ガマンしているのに。当面の敵は、彼女だけでしょうね。
朝比奈さん?あー…彼女は問題ないでしょうね。あんなブリっ子とどうにかなるはずがありません。
しかし…敵ではない人がほとんどですが、彼を狙っている人は多いんですね。
やはり彼の美しさにはいかなるものも心奪われるようですね。でも彼は僕のものですからね、皆さん』
古泉くんが有希に尋ねながらそんなことを考えていたの。あたしたちへの扱いが酷いけど、それよりも。
なんと古泉くんははキョンのことが好きなようだ。もちろん性的な意味で。
…………うぇ。
あたしはボーイズラブなんかには興味ない。しかも知り合いがそんなだなんて気色悪いだけよ。
ていうか、まさかあの古泉くんがホモだったなんて。しかも相手はキョンよ。
あたしは最初、古泉くんに特殊な設定を求めてたけど…こんなんはいらないわよ!
そ、そろそろ癒しが必要ね。おねがいみくるちゃん!あなただけが頼りなの!早く来て!
ガチャッ
「ごめんなさい。遅れてしまいました」
扉の開ける音と、可愛い声。誰かなんて確認するまでもないわ!
その声は、我がSOS団のマスコットキャラの――。
「みくるちゃんっ!」
大声を上げてしまうあたし。ごめんね、みくるちゃん。でもこれで――。
「はぅあ!」
『いきなり私の名前を叫ぶ涼宮ハルヒ。でけぇ声出してんじゃねーよ、ボケ』
――あたしの心は癒されなかった。
えっと…その外見からは想像もできないような…腹黒ーい台詞が聞こえたんだけど?
これはさすがに間違いよね。うん、そうに決まってるわ。だからハルヒ、勇気を出すのよ。
「え、えっと…みくるちゃん?」
「あの…どうかしたんですか?顔色が優れないみたいですけど」
『涼宮ハルヒの様子がおかしい。風邪でもひいたのか?私で遊んでた罰だ、ざまぁみろ』
…うん、間違いじゃなかったみたいね。
「涼宮さん、さっきからそんな状態なんですよ。何か心当たりはありませんか?」
「んーっと…ごめんなさい。わかりません」
『話しかけてくるホモ泉。きめぇだろ、近づくんじゃねーよホモの分際で。
私はキョンくんに会いたいんだよ。キョンくん早く来てください。私の純潔が奪われちゃいます』
………えっ?今の気持ち?
そうね。大好きなキャラクターの着ぐるみの中の人が、オッサンだったときの子供の気持ちかしら。
皆…裏表、激しいのね。皆…仲、悪いのね。皆…キョンのことが、好きなのね。
――皆…あたしのこと、嫌いなのね――。
そっか…そうなんだ。 あはははははは。
――そして涼宮ハルヒは、考えるのをやめた――。
「――っ!はぁっ、はぁ、あ、あれ?」
気がついたらあたしはどこかの廊下にいた。いつの間にか逃げ出したみたい。
でも仕方ないじゃないのよ。悲しい気持ちが消えないんだもん。
きっと顔にも出てると思う。『あたしは悲しいです』って。
――だって有希が、小泉くんが、みくるちゃんが、裏ではあんなこと考えてたなんて。。
じゃ何?今までのことはあたしの独りよがりだったっていうの?皆は楽しくなかったっていうの?
――キョンは…どうなんだろう?キョンも心の中はあんなのなのかしら?
…あたしのこと…嫌いなのかな?
「おい。なにかあったのか、ハルヒ?」
『なんとそこにうずくまっていたのは、ハルヒだったのだ。
そう、黙ってたら一般受けもするであろう容姿なくせに、
普通なことを嫌い、とんでもなく天上天下唯我独尊で、
だけど最近は、俺達とくだらないことをして満足する
変に可愛げのあるあの我等がSOS団の団長、涼宮ハルヒである。
そんなこいつが、こんな状態だとは。ハルヒは無事なのだろうか。
もしかして、これまで以上にとんでもないことになるんじゃないだろうな』
――え?
……いつのまにか…あたしの前にキョンがいた。
…キョンは……変わらなかった。あたしがいつも見ていたキョンと、全然。
――キョンは、キョンだけはあたしに対して正直でいてくれたのね。
「キョーーーーーーーン!」
「のわぁ!なんだいきなり!」
『次の瞬間、ハルヒが俺に襲い掛かってきた。というよりは、抱擁してきたというべきだろうか。
もちろん俺は男で。こいつは女なわけだから。男が興奮してしまうのも当然のことである。
いやいやまて、俺。相手は女といえど、あのハルヒなんだぞ。
どうせこれもハルヒの悪戯か何かに決まっているんだ。俺は騙されないぞ。でも、やわらかい』
それが嬉しくてあたしは思わず、キョンに抱きついちゃったわ。
そのときのキョンの反応があまりにも面白かったから、もっと強く抱きしめたの。
そうしたらキョンの顔が、スケベな感じになったの。こいつは本当に裏表のないアホね。
――それでもこんなに嬉しいのは…やっぱりあたしはキョンのことが――
「――ねぇ、キョン」
「ど、どうしたんだ。ハルヒ」
『ハルヒは何かを決意した表情をしていた。何故だろう?なにか変な予感を感じる』
キョンは、あたしの言いたいことがわかっているようね。よぉく聞いておきなさいよ。
いままでは、されたことはあってもしたことは一回もないんだからね!
他の奴等には悪いけど…。いいえ!あたしを騙してたんだから、このぐらい当然よ!
――今日はいろいろあったけど、これで帳消しにしてもいいかな?
「あたしね…キョンのことが――――」
瞬間、あたしの目の前が真っ暗になった――――。
「んっ…ううん…ふわぁ、ってあれ?」
いつのまにか、あたしベッドの上にいたの。不思議に思って時計をみたら…午前六時。
ということは、あれは夢だったのね。
「そうよね。あの三人があんなんなんて、ありえないわよねぇ」
あたしは笑いながらベッドから起きて、制服に着替えることにした。
部室に行くと、キョンを除いた三人がいた。
「…………」
「こんにちは、涼宮さん。今日もいい天気ですね」
「あっ、涼宮さん。今お茶を入れますね」
有希は本を読んでて、古泉くんは微笑んでて、みくるちゃんはお茶を入れてる。
いつもの日常。これで裏ではあんなこと考えてるのかしらね?
「あぁぁっ!!」
あれは夢なのよ!いつまでも気にしてるんじゃないわよ、あたし!
「あ、あの。何かあったんですか?」
いきなり叫んだあたしに、恐る恐る尋ねるみくるちゃん。やっぱり可愛いわね。
「ううん、なんでもないの。ごめんね、みくるちゃん」むにゅ。
「ひょわぁぁ!!」
返事をしながら胸を揉むのは忘れない。むっ、この前より大きくなってるじゃない。
恥ずかしそうにするみくるちゃんはほっといて、とりあえず椅子に座る。
そしてお茶を一杯。うん、おいしいわ。
『けど昨日はあぶなかったな。まさかハルにゃんがあんな強硬手段をとるとはね。
様子がおかしかったのはそういうことか。まったく油断も隙もないね、ハルにゃん。
キョンくんは私のなのにぃ。いつか宇宙にかわっておしおきだからねハルにゃん』
『しかし昨日はあんなことになっているなんて想像もしていませんでしたよ。
涼宮さんにあんな度胸があったとは。これはとんだ計算違いですね。
長門さんもいるし、厄介ですね。しかし僕は諦めませんよ。彼の尻穴は僕のものですからね』
『涼宮ハルヒが私の胸を揉みやがった。私の胸はキョンくんに好かれるためについてんだぞ。
お前なんかお呼びじゃねーんだよ。ひっこめ腐れマ○コ。
正直靴に画鋲仕込むくらいだったら、満場一致で許されると思う。今度やってみるかな』
――はい?
今とんでもないものが聞こえたんだけど。あたしは恐る恐る確認した。
そこにはいつもどおりの三人。おかしいところは何もない。
……気のせい……よね?