はてさて、月曜から続く決まった時間への突然のスコールは、これで6日目となった。  
初日は朝比奈さんと至福の相相傘を味わい、2日目は長門にハルヒによる気象情報を書き換えているという、とんでもない事実を知り、  
3日目は思い出したくはないが、野郎の古泉に解決策とその理由を聞かされ、4日目には鶴屋さんのご好意に甘え、  
5日目は俺も長門も誰もがびっくりするであろう、朝倉が現れたこともあった。  
 
んでもって、土日はいつも通りのハルヒの呼び出しでいつもと変わらない、見つかりもしない不思議探しをいつも通り行って、いつも通りに解散する。  
この時も俺は早朝ハルヒに出会った時に、何か訝しげなことを言われたのだが、  
その後はいつも通りのハルヒで、その時以外にはこれといった変化は見られなかった。  
 
不思議探しで古泉と共に行動をすることになった時に聞いた話だ。  
いつものスマイル古泉は俺と街を歩きながら、こう言った。  
「どうやら、学校が休日の日には雨は降ら無いようですね」  
そりゃ毎日のように降っていたらいい加減、高気圧も一日中顔を見せたくもなるさ。  
「そうではなく、この状況から理解できると思いますが、涼宮さんの欲求を満たす瞬間と場所は、  
学校でのSOS団活動後の時間帯のある、平日と限られてしまったことが判明したのですよ」  
てことは、来週の月曜日からまた傘がいるってことなのか??  
「多分そうでしょう。聞いた話ではあなたと涼宮さんが共に下校していたという情報は入っていませんしね」  
おいおい、勘弁してくれよ。いい加減傘が無くなるのは心が太平洋の様に広い俺としても、  
許せなくなってくるぞ。今度監視カメラでも仕掛けといてやろうか。  
「無駄でしょう。気づけば無くなってしまうんですからね。彼女が望めば、望むほど」  
どこからそんな自身たっぷりなことが言えるのは知ったことではなかったが、  
俺が問題を解決する鍵、というのはこいつに言われた以降、ずっとその言葉が頭の中を巡っていた。  
 
そしてハルヒによる気象異常から何日目かの今日。  
いつも通り起床して、最近は必ずチェックする天気予報を今日もチェックし、  
流石に天気予報士も「夕方に急に降り出す夕立には注意しましょう」  
等と、呼びかけていた。すまんな。それ全部ハルヒが原因のようだ。信じたくはないんだがな。  
今日もついこの前の週末に、ぞっとした体験をした時に持っていった折りたたみ傘を鞄の中にしっかりと入れたことを家から学校に着くまでに、何度も確認し、教室に到着した後もその行為は続いた。  
ハルヒは俺が何をしたいのかがさっぱりわからんらしく、「あんた頭でもおかしくなったんじゃないの?」と言われたりもした。こんな事をするハメになってるのはお前のせいだよ。  
と、心の中でそう呟きながら、いつも通りの学校生活を、いつも通りこなして行く。  
 
放課後、SOS団のくだらないが、面白いことを散々やった後、いつもの長門の合図で解散。  
とうとうまたこの時がやってきてしまった。  
だがな。今回の俺は一味違う。何てたってついさっき解散した時までに傘が入ってることを確認した俺の鞄の中には、目の前で降り注ぐ雨を、ようやく自分の力で回避できる折り畳み傘という、最強のアイテムが入っ・・・・・・・・・・・  
 
 
ごめん。泣きそう。こんなことになるんだったら、朝から傘握り締めっぱなしでいれば良かった。  
え?何?どうしたんだって?あぁ、無いんだよこの野郎。古泉の言ったことが的中したのかどうかはわからんが、ついさっきまで開けもしてなかった鞄の中から折りたたみ傘だけが消え去ってるんだよ。  
悪い冗談はよしてくれよホントに。  
次は何だ?また誰か来るのか?朝倉は勘弁してくれ。あれほど肝を冷やされた奴はいない。  
できれば朝比奈さん。あえて鶴屋さん。長門でもいい。古泉は百歩譲ってやってもいい。  
朝倉は・・・・何も言うまい。誰でもいい。誰でもいいから傘を・・・・・・  
 
「あれ、キョンどうしたのよ。そんなトコに突っ立っちゃって」  
出た。とうとうお出ましだ。俺は朝倉の次くらいにあまり会いたく無かった、SOS団団長殿と出くわしてしまった。  
俺は平然とした態度を装いながら、古泉の台詞を回想する。  
 
『この状況を打破するのはあなた次第ですよ』  
 
俺がずっと返事をしなかったのが変だと思ったのか、ハルヒは俺の目の前に来て「キョーン?生きてるなら返事しなさーい」と言いながら、手を顔の前で振っている。  
「あぁ、いやな。ちゃんと朝から持ってきていた俺の折りたたみ傘が無いんだ」  
この雨じゃあ到底帰れねぇよ。とぼやきながら、ハルヒから視線を逸らし、校門の方を見る。  
「そうなの?じゃあこの傘ってあんたの?」  
と、ハルヒは片手に持っていた傘を取り上げて、俺に見せる。  
あぁ、それはまさしく俺の傘だ。名前のとこに妹の名前書かれてるしな。何故か。  
「俺の傘だが、それどこで見つけたんだ?」  
今の今まで鞄の中にあったはずなんだが。どこでそれ見つけたんだ?  
「廊下よ。SOS団の活動の解散後に帰ろうとしてたら、これが落ちてたの。あんたが先を歩いているのが見えたから、気になって持ってたんだけど。まったく、あんたが大事そうに朝から持ってたのに、最期の最期で落とすなんて。キョンらしいというか。」  
いや、俺は落とした記憶などこれっぽっちもないんだが。どういうことだ?  
ハルヒが望んだからこんなことになっているのか?  
当の本人は「私が拾ってあげたんだから、感謝しなさいよ!今度の不思議探しの時の奢りは例え誰よりも早くきても、キョンで決まりだからねっ!!」  
等とほざいてやがる。マジかよ。  
 
偉そうなハルヒから自分の折りたたみ傘を受け取り、さっさと開いて、帰宅の準備をする。  
「まぁ、それはそれでいい。わざわざスマンなハルヒ。じゃあ俺は帰るぞ」  
と言って、さっさと帰ろうとした。のだが、ハルヒは俺の手首を急に握ってきて、俺の下校を強制停止させてきた。  
何だ?  
俺がハルヒを見据えると、ハルヒはにっこりと笑顔で、  
「あたしも入れなさいよっ!」  
そう言うと、ハルヒはずいっと俺の隣に寄ってきて、狭いこの上ない折りたたみ傘の空間を、8割がた占領されてしまった。おい。もうちょっと朝比奈さんみたく遠慮とかしろよ。  
「うるさいわねー。あんたの傘を拾ったこのあたしの恩を忘れたとは言わせないわよ!恩を受けたからには、それなりの奉公をする!それが当たり前でしょ!」  
鎌倉時代の話をされても、んなもん俺には関係ない話だ。朝比奈さんの時には濡れると悪いと感じていたが、こいつとなるとそうも思えんな。態度的に。  
 
仕方なく俺は顔半分から雨に晒され、我がSOS団団長の雨避けをさせられたまま、  
下校することに。  
これでいいのか古泉。これでこいつはホントに満足するのか??  
そう見えない超能力者に問いかけながら、歩く。  
 
校門辺りで気づいたが、一人で考え事をしていたせいで、隣のハルヒがさっきからまったく話していないことに気づいた。  
いつもなら、鶴屋さん顔負けのマシンガントークをかましてくれるハルヒが、いつぞやのバレンタインの時みたく、どうもテンションが低い。何なんだ?  
あれか。女の子にしかない、定期的に起こるアレか。  
妹にはまだ来てないらしいが、母親がアレが酷い時は大体テンションが低い。  
「どうしたハルヒ。体調でも悪いのか?」  
と、俺は無言のハルヒに問いかける。するとハルヒはいつもの不機嫌な顔で、  
「はぁ?悪い分けないじゃない。何を根拠に言ってんのよあんたは」  
お前のさっきの状態を見て言ってんだよ。もっとも、今返事をしているお前はいつも通りに戻っているが。  
 
「あたしはいつものあたしよ!ワケわかんないこと言ってないで、ちゃんとあたしを雨から守りなさい!」  
お前のスペースは十分に確保されていると思うが。俺を見ろ俺を。もう髪が濡れてきたぞ。  
このままじゃあ俺の毛髪の将来が危ぶまれるじゃないか・・・・。  
まぁ、でも俺よりハルヒが濡れちまうっていうのは、やはり俺の男のポリシーが何気に許せないんだけどな。あぁ、俺って紳士だよなぁ。  
「それはあんたがこんなに隙間空けてるからでしょ。ほらもっと、こう、くっつきなさいよっ」  
そう言うと、適度に空けられていた俺とハルヒの肩と肩の隙間を、ハルヒはずいっとこちらに寄ってきて、ぴっちりと埋め合わせた。  
な、何を突拍子もないことをしやがるんだ。  
「何って、あんたが雨に濡れちゃってたから、このあたしが気を遣ってあげたのよ。感謝しなさい」  
そう言ったハルヒは明後日の方向を向いて、さっきよりやや速いスピードで歩き出す。  
おいおい。そんなに急いでどうするんだよ。  
 
するとハルヒは急に立ち止まって、  
「・・・・・・・・まったくもう。あんたって、自分のことよりも他人にばっかり気遣ってるんだから・・・・。もう少し・・・・ううん、せめてあたしにくらいは遠慮とか、そういうのして欲しくないわよ・・・」  
え?そりゃお前どういうこ  
「とりゅあぅん?!」  
今までの中で一番規模がでかったと、俺の背中が知らせている。  
え?どうしたって?だからあれだ。これで何日目かわからん悪寒が走ったんだよ。  
一応、誰もいるとは思えないが、校舎の方を振り向く。  
ん?あれ、人影が・・・・1、2・・・・誰だ?  
と、俺が校舎のほうを訝しげに見ているのが、気になったのか、ハルヒは俺の方を先ほどよりもさらに機嫌の悪そうな目でこちらを見ている。  
何だよ、お前もこの悪寒も。誰か助けてくれ。  
 
「ふんっ!知らないわよっ、このバカキョン!あんたなんか、この前みたいにみくるちゃんや有希とこうやって一緒に帰ってればいいのよ!!」  
そう言うと、ハルヒは傘の元から突然飛び出し、降り注ぐ雨の中を走り出す。  
おいおい。何だなんだ?  
というか、何であいつが俺と朝比奈さんや長門と一緒に帰ったことを知ってるんだ??  
とやかく、そんな考える暇はない。  
「おい!待てよハルヒ!!」  
そう叫んで、俺はハルヒの後を追う。糞。あいつ足速いなおい。  
俺は向かい風に煽られながら、折りたたみ傘を小脇に抱えて、濡れることも忘れて目の先にいるあいつを追いかける。  
何で追いかけるんだって?そりゃ聞くな。男のなんたらとかそういうのじゃない。  
ハルヒだから、今先を行ってるのが涼宮ハルヒだから、俺は追いかけているんだ。  
 
あいつに追いついて、言うことがある。  
 
そりゃ何かって?そりゃこの状況を打破するためにやることさ。  
 
俺は走る速度が段々歩きになってきたハルヒに、ようやく追いつき、あいつの頭上に傘を掲げてやる。  
まったく。ずいぶんな追いかけっこのせいで、お前も俺もびしょびしょだ。風邪引くかなこりゃ。  
「おい、ハルヒ」  
俺は肩で息をしながら、こちらを向かないハルヒの背中を見る。前方のそいつは一向に返事もしない。  
「返事は別にしなくてもいい。だが聞け。俺はな」  
息を整えて、ハルヒの肩を持って、俺のほうに向かせる。ハルヒは下を向いて、顔を見ようともしない。  
けどな。聞いてくれ。お前に一言言っておいたいんだ。  
 
「俺はな。お前と一緒に帰りたいんだよ」  
 
何ともどこぞの恋愛ゲームに言いそうなくっさい台詞を、俺は顔を自分でもわかるような赤さで言ってやった。恋愛ゲームとかしたことないけどさ。  
すると、ハルヒは顔を上げて、何とも雨なのか涙なのかわからないような雫を瞳から落として、「バカ」と言い、俺の胸に寄り添った。  
 
「は、速いとこ帰るぞ。このままだと俺もお前も風邪引いちまう」  
自分の胸元で蹲ってるハルヒの柔らかい感触に、なんとも男らしい反応をしながら、ハルヒの肩を持って、ゆっくりと離す。ハルヒは顔を擦って、いつもの笑顔で俺を見上げて、  
「そっ、そうねっ。明日のSOS団の活動に支障をきたしちゃいけないからね!ほら、速くあたしの家まで送りなさい!」  
そう言うとハルヒは俺の腕に腕を絡ませてきて、嬉しそうにしている。  
まったく。ようやくいつもの表情に戻ってくれたな。  
 
その後、ハルヒの家に着いた俺はとりあえず身体を借りたタオルで拭かせてもらい、  
やや無理やり気味に家に連れ込まれ、ハルヒの手作り料理や、その他なんたらはご想像におまかせする。  
 
 
次の日、爽やかな朝を迎えた俺は、いつもの天気予報をチェックする。  
すると、あの気象予報士はこう言っていた。  
「今週から、西日本一帯は梅雨前線の影響を受け、雨がよく降るようになるでしょう。  
学生や社会人の皆さんは傘をお忘れのないよう――――」  
 
やれやれ。ハルヒの気象操作の次は、本当の梅雨がやって来たか。  
そう呟きながら、いつも通り、昨日も忘れず持っていったあの折りたたみ傘を鞄に忍ばせて、少々曇り気味の天気を煽りながら俺は、我がSOS団団長の待つ学校へゆっくりと歩みを進ませていった。  
 
さてさて。これからが本当の梅雨の季節だな。  
 
 
 
おまけ その後  
 
 
本格的な梅雨に入ったその日だ。長門から、ハルヒによる異常な気象操作は消滅したと聞いてほっと一先ずし安心し、  
古泉のスマイルと共に「あなたならやってくれると思いましたよ」と聞きたくない褒め言葉を聞いて、いつもよりハイテンションなハルヒのSOS団活動を無事終えた。  
あぁ、そうそう、今回は傘をちゃんと持っている俺は、しとしとと降り注ぐ雨を見つめながら、  
「ふふ。今日は傘がこの俺の手にあるぞ!もうこれで誰かに頼ることなんて・・・」  
その時、背後から悪寒と俺の名を呼ぶ声が聞こえた。  
 
「キョン!ちょっと傘が無いの。一緒に帰ってくれない?」  
「キョンくん〜、傘がないんですよぅ〜」  
「・・・・・・ない」  
「やぁ、どうも。僕とご一緒していただけませんか?」  
「やぁやぁキョンくんっ!ちょっち、傘にいれてくんないかなっ!」  
 
おいおい。今度はそっちかよ。  
 
終わり  
 
 

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