昨日長門からのこれで何度目になるかわからない、ハルヒによる超常現象が起こっていることを聞いてからの次の日のことだ。  
 
朝のTVでの天気予報は、またまた快晴で降水確率もまったく無かったが、念には念のため、傘を持ってきた俺はいつも通りハルヒの席の前に座る。  
後ろを向いてハルヒの表情を窺ってみる。  
ハルヒはいつも通り、窓のほうへ顔を向けて、機嫌の悪そうな顔をしている。  
俺が見ているのに反応したのか、こちらを向いて、  
「ねぇ、キョン。あんた昨日と一昨日・・・・」  
と言い掛けた後、「何でもない」と言ってまた視線と顔を窓のほうへ向けていった。  
何が聞きたかったんだ?と聞こうとしたが、担任の岡崎が入室してきてHRを始めだしたので、俺は仕方なく前を向くことにした。  
 
 
その後、ハルヒに今朝の事を聞こうとしていたんだが、俺のちっぽけな脳内記憶装置は放課後になった頃には消去されているわけで、  
そのまま、何も気がかりすることなく、朝比奈さんのメイド姿を見ることだけを考えながら文芸部部室へ行く。  
 
SOS団の活動はいつも通りで、ハルヒにはこれといって何かと変化は無かった。  
昨日の長門曰く、何かがハルヒに起こってはいるらしいが、原因がわからないとくればどうしようもない。  
 
そんなこんなでSOS団解散後の今だ。三度目になるんだが。誰か傘持ってないか?  
予想通り、活動が終わった途端に雨が降り出して来たのはいいんだが、肝心の傘が無い。  
今日はちゃんと傘持ってきたハズなんだが、傘差しに昨日買った安物のビニール傘が無い。  
くそっ、誰か持って行きやがったな。なんて理不尽な野郎だこんちくしょう。  
 
と、つい昨日までは他人の傘を持っていこうとした俺を責めるのはやめてくれ。結局は取らなかったんだからな。  
窃盗をしなかった、未遂犯ということにしてくれ。まぁ今度は被害者になったんだが。  
 
さて、どうしようか。傘差しを見ると、今回は見事に傘が一本も無い。  
 
こりゃあ今度こそは走って帰るしかないか。  
と、タカを括っていたら、  
「おや、どうしたんです?」  
聞きたくない声を聞いてしまった。よし、聞かなかったことにしておこう。  
「無視とは酷いじゃあないですか。何かお困りのようだと見受けられますが?」  
困ってるは困ってる。傘が無いんだ傘が。どこやらの大馬鹿野郎に、昨日買ったばかりのコンビニ価格450円のビニール傘をパクられたんだよ。  
仕方なくSOS団副団長。スマイル0円超能力者の古泉に返事をしてやった。  
「おやおや、あなたも災難ですね。すると、あなたは今、傘が無くてお困りのようですね」  
まったくもってその通りだ。古泉。お前傘2本持ってないか?  
「生憎、僕は傘を一本しか持っていませんよ。お力になれなくてすいません。」  
と言うと、古泉は片手に持っていた傘を掲げて見せた。なんかそのアクションがムカツクなおい。  
そうだ。いいことを思いついたぞ古泉。  
「その良い提案とはなんでしょうか?まさか、この傘をあなたに譲るということではないでしょうね?」  
まったくもってその通りだ。その傘くれ。それで俺帰るから。  
「あなたに傘を譲ると僕が帰れなくなるのですが?」  
にこやかスマイルを少し苦笑させて言った。  
「知らん。濡れて帰れ」  
「酷い言われようですね。実は僕からの提案もあるのですが」  
何だ。言ってみろ。聞くだけはしてやる。  
「一つの傘の下で揃って帰」  
「もういい。じゃあな。古泉」  
創造しただけで寒気がしたので、鞄を頭に掲げて帰ろうとしたら、  
「まぁまぁ、そう言わずに。僕も少々あなたに話したいことがあるのですよ。今回の件で」  
ハルヒのことか。  
「ここで立ち話もなんですから」  
すると古泉は傘を差して俺に「どうぞ」とか言ってやがる。畜生。野郎とこんなことするとは思いもよらなかったぞ。  
朝比奈さんのあの暖かい肩が恋しい。  
仕方無く、俺は古泉と並んで帰ることになった。  
 
「まぁ、今回はハルヒに関する話だ。この話が終わったら俺は濡れてでも傘から抜けて帰るからな。」  
と言うと古泉は傘を持ってないほうの手を上げて、やれやれといったポーズをして苦笑した。  
なんだこいつは。  
「まぁ、それはそれとして、本題に入りましょう。あなたが昨日長門さんから聞いた話の内容は今日長門さん本人から窺いました」  
朝比奈さんはこの事態を知っているのか?  
「いえ、彼女には知らせていません。というか彼女はこの問題とは関係ないので、ご安心を」  
ということは俺がいちいち時間移動をしなくていいということか。  
「ええ。それは必要ないでしょう。ましてや長門さんの能力も使う必要もない。問題解決の鍵はあなたですよ」  
何だって?そりゃどういうことだ。  
「この雨は涼宮さんが望んでいるのだから、こういった状況になっているのはわかっていますね?」  
あぁ、そりゃ長門から聞いた。  
「では、何故涼宮さんは望んだのか。しかも、SOS団の活動解散後という決められた時間に」  
「俺も色々考えたが、よくわからん。これといってハルヒに異常は見られんしな」  
すると古泉は空いた手を顎に当てて、いつものお得意推理ポーズをかましながら、  
「これは僕の憶測ですが、きっと涼宮さんはあなたと今、僕とこう並んでいる状況を望んでいるのではないでしょうか?」  
ハルヒがこのホモ相相傘を望んでいるだと?おいおい勘弁してくれ。  
俺はお前には興味無いぞ。いや、マジで。  
「そうではありません。僕が言いたいのは、涼宮さんが、あなたと共にこういった状況になりたいのだと望んでいるのですよ」  
「つまりハルヒは、俺と相相傘がしたいってことなのか?」  
と言うと、古泉はこくりと頷いた。「僕の憶測ですがね」と付け加えたが。  
 
「ということなので、この状況を打破するには、あなた次第というわけなのですよ。」  
俺が何とかしないと、年中この時間帯に雨が降るってことなのか?  
「多分そうでしょうね。ま、僕は毎日が雨でもいいんですがね」  
お前がよくても、俺がよくねぇよ。大体、なんでお前なんかと相相傘なんてしなけ  
「りゃうん?!」  
一昨日から数えて通算三度目の悪寒が背中に奔った。バッとまた校舎の方を振り向くが、またまた人影は見当たらない。  
な、何なんだ一体。  
俺の異常に気付いたのか、古泉は「どうかしましたか?」等と言っているが、そんなもんに返事はせずに俺は何度か振り返りながら、  
 
ようやくコンビニまで到着し、野郎との相相傘を早々に解散するため、俺はまた新たに傘を買おうとしたら、  
古泉と俺の前に黒塗りの高級車が停車する。運転席にはあの、荒川さんが見えた。  
「もう少し、あなたとこのままでいても良いと思っていたのですが、残念ですね。ちょっと今から『機関』の会議がありますので、  
僕はここで」  
気持ち悪いこと言うな。荒川さんに富士山中に埋めといて下さいと伝えといてやろうか。  
「そう言わないで下さい。ほんの冗談ですよ」  
と、言いながら俺に持っていた傘を渡し、  
「その傘は差し上げますよ。もし、気に食わないのなら、明日僕に直接返してくれるといいですよ」  
気に食わん。だから明日朝イチで返してやるぞこの野郎。  
 
古泉が車に乗り込み、窓を開けて、  
「最期にもう一度言っておきますが、この状況を打破するのはあなた次第ですよ。僕はあなたに期待してますから」  
そう言って、「では」とにこやかスマイルをかましたのを最期に、古泉を乗せた高級車は雨の中へ消えていった。  
 
家に着いて、早々とシャワーを浴び、ベットへシャミセンと寝転がりながら、ついさっきまで聞いた古泉の台詞を何度も思い浮かべていた。  
 
「この状況を打破するのはあなた次第ですよ」  
 
「俺次第・・・・か」  
ふと気付けば外は雲ひとつ無い夜空に、満月を覗かせていた。  
 
鶴屋編へ続く  
 
 

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