午前の授業が終わり、昼休みとなる。  
ハルヒは獲物を追うチーターみたいな速さで、学食へと向かって突っ走っていった。  
さて、俺も飯を食うかと鞄の中に手を伸ばし―――  
「ん?」  
普段と違う、違和感に気づいた。  
いつもこの中にあるはずの弁当箱の硬い感触がない。  
「どうした、キョン?」  
弁当を片手に下げて近寄ってきていた谷口の声。  
「いや、弁当を忘れたらしい」  
そういえば、今日は過去最大の寝坊をやらかし、遅刻寸前で学校に飛び込んだんだったな。  
ロクに鞄の中を確かめる余裕もなかったから、弁当も忘れたというわけか。  
……まぁ、忘れてしまったものは仕方ない。  
ポケットの中の小銭を確認。あるな。  
仕方ない、今日は学食で食うとしよう。  
 
と、教室を出たところ。  
「長門?」  
昼休みはいつも部室で本を読んでいるはずの長門がここにいたのだ。  
俺に呼びかけられてから数歩歩いて止まり、振り返る。  
どこいくんだ?  
「食堂」  
奇遇だな、俺もだ。  
「そう」  
一緒に行っていいか?  
「いい」  
そう言うと、スタスタと歩き出す。  
俺もその後を追って、歩き出した。  
しかしなんでまた学食に?  
「利用してみたくなった」  
そうかそうか、そりゃいいことだ。  
なんて話をしながら歩いていると、階段のところで。  
「朝比奈さん?」  
「あ、キョンくんに長門さん」  
朝比奈さんと遭遇した。  
何たる幸運か、こりゃ弁当忘れて良かったね。  
ところで朝比奈さん、どちらへ?  
「食堂です。お弁当忘れちゃって」  
それは奇遇ですね。  
俺達も学食に行くところなんですが一緒にどうです?  
「えーっと……はい、わかりました」  
朝比奈さんが仲間に加わった!  
俺のテンションが50ポイント上がった!  
おそらく今日は幸運の神が降りてきているに違いない。  
主に朝比奈さんと、時々長門も喋りつつ雑談しながら食堂へと向かう。  
食堂は校舎とは離れた、独立した建物の中にある。  
安普請で夏は暑く、冬は寒いというどうしようもない環境だが、一年を通して賑わう場所だ。  
その食堂へ続く屋外の道を歩く途中。  
「奇遇ですね」  
と、別に会いたくもないやつが声をかけてきた。  
「いつも利用している弁当屋が臨時休業でして」  
おまえの事情など聞いとらん。  
しかし出会ってしまったものは仕方がない。  
古泉を渋々仲間に加えた!  
俺のテンションが47下がった!  
結局、団長を除くSOS団全員で共に行くことになってしまった。  
 
で、学食には当然アイツがいるわけで。  
「キョンー!!こっちよー!!」  
食堂のど真ん中で叫ぶな、恥ずかしい。  
そう思いつつも無視することはできないためにハルヒの元へと向かう。  
俺と朝比奈さんはコソコソと、長門は平然と、古泉は苦笑しながら。  
ハルヒの周りは上手い具合に人数分の席が空いていた。  
何人かが立ち食いするほどに食堂内は混み合っているというのに。  
「知らないわよ。勝手に近寄ってこないだけ」  
……ハルヒに恐れをなしたか。  
まあいい、利用できるものは利用させてもらおう。  
「席ならとっといてあげるわ。その代わり定食もう一つ持ってきて。ハイお金。それから空の食器置いてきて」  
強引に代金と空の食器を渡された。  
仕方ない、とっとと行ってくるしかあるまい。  
人気のラーメン屋のような行列を並んでようやく食券を入手し、それを食料と引き換えて席へと戻る。  
俺が一番最後のようで、ハルヒに『遅い!』などと言われたが、  
二人分のメシを持ってきたんだから遅いのは当たり前だろう。  
と、ぶつくさ文句を言いながらもようやくメシにありつけた。  
俺は学食に来たときは常にラーメンと決めている。  
ラーメンだけは妙に数があり、材料切れということがないからだ。  
ちなみに味は塩と味噌のみで、何故か醤油は存在しない(今日は味噌にした)。  
何故醤油が存在しないのか、これは生徒達の大きな疑問であり、様々な憶測が飛び交っている。  
客観的に見れば決してウマくはないのだろうが、ここで食うと妙に許せてしまうのだから不思議だ。  
長門は、カレーライス……の特盛だ。こいつはカレーが好きなのだろうか。  
ちなみに、ここの特盛は並盛のおよそ四倍の量がある。  
体育会系の男子でもなけりゃ頼まないようなものを、  
こんな細い奴が頼んだのだからそりゃ周囲がざわめいたね。  
ハルヒが山のようになったカレーライスをちょこちょことつまみ食いしてるのに気づいているのかいないのか。  
ハルヒと話しながら食べている朝比奈さんは、ハルヒと同じ日替わり定食だ。  
今日はオムライスか。  
人気の高いメニューだというのによく入手できたものだ。  
古泉はいつものニヤけ顔のまま、蕎麦をすすっていた。  
この蕎麦というメニュー、メニューを書いている掲示板には書いていない、いわば裏メニューだ。  
毎日入るわけでもなく、時々思い出したようにメニューに並ぶのだ。通だな、こいつ。  
もっとも、値段の割に量は少ない。  
蕎麦を食うくらいならラーメンを食った方が安上がりなので、俺は一度しか食ったことはない。  
味もそれほど旨いという訳ではないしな。  
食うのに昼休みいっぱいかけるわけにもいかず、全員が食い終わったところで早々に食堂を後にした。  
結局朝比奈さんは全部食いきることができず、残った物はハルヒが処理していた。  
ホント、あの体のどこに入るのか教えて欲しいもんだね。  
「結構楽しかったわね」  
不意にハルヒが言った。  
そういえば、学校で5人揃って昼飯というのはなかったな、今まで。  
加えて、ハルヒは今まで一人で飯を食っていたんだろうしな。  
同情するわけじゃないが、まあ退屈だろうとは思う。  
「うん、これを機会に週一くらいで学食で皆で食べましょ!」  
楽しそうに言って教室へと歩き出すハルヒ。  
長門は文芸部室へ、朝比奈さんと古泉も自分の教室へと戻って行く。  
まあ、週一くらいなら付き合ってやるさ。  
弁当持ってあそこで食っても悪いわけじゃない。  
仮にハルヒが許可しなくても、学食の安い飯なら懐もそれほど痛まない。  
でもな、ハルヒ。  
皆で弁当持ち寄ってもきっと楽しいと思うぜ?  
 
特にオチもなく終。  
 
 

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