私の名前は朝比奈みくる。  
今日も今日とて、天然キャラを装い愚劣な男どもの心を奪う日々。  
奴らは勝手な想像を膨らまし、「あぁ、朝比奈さんは天から舞い降りた天使だ」とかほざいているが、  
実はいつも校舎裏で私がタバコ吸ってんの知ったらどんな顔するだろう。ふふっ。  
 
つまらない授業は終了し、ついに放課後がやってきた。  
愚民どもが楽しく笑いながら下駄箱へと向かうのを尻目に、私は教室に一人残って憂鬱に浸っていた。  
正直最近、禁則事項、禁則事項、ウザすぎる。  
なにが禁則事項だ。どっかの宇宙人教師アニメのパクリか、畜生。  
とりあえず自由に喋ることのできない鬱憤は鶴屋のデコを引っ叩いて解消している。  
そうでもないとソドムとゴモラを滅ぼしたメキドの火、通称ミクルビームを無差別にぶっ放してしまいそうだった。  
「いたいた! 探したわよ、みくるちゃん! どこほっつき歩いてたのよ!」  
 はいはい、ハルヒハルヒ。苛々のボルテージが一気に急上昇。  
だいたいテメェに会いたくないから教室に残ってたのに、テメェが来たら何の意味もねぇじゃねぇか、このツンデレが!  
「な、なんなんですかー?」  
 いつもの甘ったるいみくるボイスで返答。  
涼宮ハルヒに歯向かう事は世界への反逆に相当する。  
それにヘタに逆らったりしたら即クビにされて無職になってしまう。それだけはマズイ。  
今でさえ橋の下がマイホーム状態なのにこれ以上極貧になったら、それこそジ・エンドだ。  
「今日はSOS団の作戦会議って言ったでしょうが! あのキョンでさえ既に来てるっていうのに……情けないわよ、みくるちゃん!」  
 うるせーよ。  
「さぁ、とっとと部室に行くわよ! 罰として今日のコスプレはバニーガールね!」  
 野郎……!禁則事項がなければ密かに携帯している未来製光線銃で奴の額に風穴を開けているところだ。もっとも撃ったところで奴の頭は空っぽだろうが。  
音が鳴るほど歯噛みをする私など目に入っていないのか、涼宮ハルヒは強引に私を引っ張りあっという間に部室前まで連れてきた。  
 
「みくるちゃん連れてきたわよー!」  
 馬鹿みたいな声を張り上げて、涼宮ハルヒは蹴飛ばすかのような勢いでドアを開けた。  
部室の中にいたのはいつもの面々。  
私の姿を見るなり、穏やかな笑みを浮かべるキョンくん。他に誰もいなければ確実に押し倒してゴォトゥベットだ。  
そんなキョンくんの向かい側にはイケメンの部類に入るであろう容姿端麗の男が同じように微笑んだ。  
その笑みの奥には微かだが、確かな憎悪と怒りが見え隠れしている。  
古泉一樹。機関に属する、いわば私の組織とは敵対関係の人間だ。しかも生粋のホモだ。  
彼の機関と私の組織が裏では血で血を洗う抗争をしていることを知っている者は少ない。  
私もつい先日、この学校に潜り込んだ機関の鼠を何匹か血祭りにあげたところだ。  
彼が怒っているのもそのせいなのだろう。私は口元を歪めて、ホモ泉の笑みに応える。  
キョンくんに手をだしたらブチ殺すからな。  
あと一人、影の薄い宇宙人がいたが特に眼中にないので省略する。  
「これで全員揃ったわね! それじゃ作戦会議を始めるわよ! みくるちゃん、お茶!」  
 テメェの湯のみにはトリカブト入れといてやるよ、クソッタレ。  
まぁ、実際そんな物騒のものは持っていないので大人しく全員分のお茶を用意する。  
湯のみに良い香りのお茶を注ぎながら、ふと「殺してもTPDD使えばいいんじゃね?」と思いついたが、涼宮ハルヒに実行する勇気はない。  
谷口とかいう一年生で今度実験してみよう。  
「お茶淹れましたー」  
「はやく寄越しなさい」  
 ははははは、死ね。  
「どうぞ、キョンくん」  
「えっ、えと……あ、ありがとうございます、朝比奈さん」  
 自慢の豊満な胸を彼の肩に押し付けながら湯のみをテーブルに置いたのが効いたのか、キョンくんは顔を赤らめながら頭を伏せた。  
そんな顔は反則ですよ、キョンくん。おかげでエクスタシー感じちゃったじゃないですか。  
 
「朝比奈さん、僕の分はまだですか?」  
 チッ、快感の余韻が薄れたじゃねぇか。  
「はーい、今もっていき……うひゃあ!」  
 どじっ子メイドよろしく、私はわざとこけると、華麗に宙を舞ったホモ泉の湯のみが高温のお茶をぶちまけながら的確に目標に命中した。  
ゴンッ。  
大型トラックと三輪車が衝突したような音が部室内に響き渡る。  
「ごめんなさぁい古泉くん。 私、足ひっかけちゃったみたいで……」  
「やるじゃない、みくるちゃん! そうよ、そのドジっぷりを私は待っていたのよ!」  
「あ、ありがとうございます」  
 頭を下げたのは、ニヤける口元を隠すため。  
ビショ濡れの古泉が今までに見たこともない形相でこちらを睨んできてたが、無視だ。  
「随分な失敗ですね。 間抜けなメイドが板についてきたというか、なんというか。 それとも脳細胞が壊死しはじめたのでしょうか? まだお若いのに大変ですね」  
「お、おい古泉。 朝比奈さんもワザとじゃないんだから許してやれよ」  
 ごめんね、キョンくん。ワザとなの。  
「あなたが知っている朝比奈はこんなことはしないでしょう。 ですが僕が知っている朝比奈さんはこんなことを喜んでする人なんですよ」  
「な、なんでそんなこと言うんですかぁ……うっ…ひくっ」  
「キョンくんの同情を誘おうとしても無駄ですよ。 未来人の辞書には潔くという単語がないみたいですね」  
 テメェの脳内辞書には同性愛で溢れてるみたいだがな。  
そんなこんなでいつもの一日が流れていく。  
 
 
 
 
そういえば鶴屋をウザイので掃除箱に閉じ込めてたのを寝る前に思い出した。  
まぁ、どうでもいいや。  
 
 
おわり  

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