一昨日のパトロール以来、元気のないハルヒは今日は文芸部の部室には顔を出したものの、
一通りネットサーフィンすると、飽きたのか「今日は解散」と言ってさっさと帰ってしまった。
今日は俺もやる事があったのでちょうど良い。
「急なバイトです」と言ってすぐ部室を出て行った古泉のことはどうでもいいが、
これから着替える朝比奈さんにはお先に失礼して、俺は長門と一緒に部室を出た。
そしてそのまま二人で駅前公園近くの分譲マンションに向かった。
長門がドアロックをあけると、俺たちはエレベーターで五階にあがり、
505号室のインターホンを押す。
すぐさま扉が開けられ、出迎えた少女はこう言った。
「おかえりなさいませ、御主人様」
さて、なんでこんな状況になったのか理解してもらうには少々説明が必要だろう。
昨日、クラスメイトの朝倉が突然俺を犯すと言って襲い掛かってきて、
そこに闖入してきた長門によって何とかその場は治まったのだが、
性格の良くて活発な委員長だった朝倉が、ニコニコしながら「御主人様」と言ってロボットのように
かしずく妙なやつに変わってしまった。しかもその御主人様は俺らしい。
どうすればいいのか長門に聞いてみると「飼えば」という。
一瞬俺は自分専用の美少女メイドがいる生活がどんなものか想像してみたが、
どう考えても一人暮らしでない俺がそんな生活をするのは無理だと気づいた。
それに、そんな生活は人間として色々駄目になるような気がする。
だいたい学校はどうするんだ?転校したことにでもするのか?と俺が言うと、
「大丈夫。情報操作は得意」と長門は答えた。
そんなことより、この朝倉が誰かに見つかるとまずいので、とりあえず俺たちは長門の家に移動することにした。
学校からの道を歩きながら俺は長門に尋ねた。
「まあ、さっきのことでなんとなく察しはついているんだが、朝倉はお前みたいな宇宙人なのか?」
「彼女はわたしと同じく情報統合思念体によってつくられた、
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースのひとつ。
しかし統合思念体がわたしを作った意識部分とは異なる意識によって彼女はつくられた。
わたしを作った思念体の意識は現状維持を方針としているが、
彼女を作った意識は積極的に涼宮ハルヒに対して積極的にアプローチを仕掛けようとしている」
つまり、なんだ?お前の親玉の何とか思念体に色々派閥があるみたいなものか?
「そう。わたしは主流派。彼女は急進派」
「ふん、まあ何となくはわかった。で、彼女は元に戻るんだろうな?」
「元にとは?」
「こんなニコニコして御主人様とか言う気色悪いやつじゃなくて、
はきはきとした委員長のクラスメイトに戻せるのか?
明日このままのこいつを登校させるわけにはいかないだろう」
それに教室で御主人様なんて言い出したら、その瞬間俺の学校での居場所がなくなるぞ。
「設定変更をし、あなたの知る朝倉涼子を復元することは可能」
じゃあ、やってくれ。
「わかった。でも家についてから」
まあ、できるというのならいいだろう。
そうだ、家といえば朝倉も長門と同じようにどこかで一人暮らししているのか?
「朝倉涼子の家はわたしと同じマンションで独りで生活している」
ふーん、なるほど。
こうして会話している間ずっと、朝倉はニコニコ笑顔で俺の後ろをぴったり付いて歩いてきていた。
朝倉はどこから見ても正統派美少女だったから、普通ならちょっと優越感に浸れそうな状況だが、
さっきまでの朝倉を知っているためか、やっぱりちょっと気味が悪かった。
そんなこんなしているうちにマンションに着いたのだが、
入る前に一応聞いておくべきことがある。
「設定変更にはどれほど時間がかかるんだ?家でないと出来ないというからには、
何か特別な準備とかいるのか?」
実は俺はさっきまでの体験で精魂使い果たしてダウン寸前、できたらさっさと帰って寝てしまいたかった。
「作業はすぐには終わらない」
そうか。でも俺が最後まで見届けないわけにはいかないよな。
じゃあ、こうしよう。長門も結構酷い目にあってたし、今日は休んで朝倉の変更は明日やろう。
朝倉は病欠と言うことにして、明日の放課後まで家で待機していてもらおう。
「それでいい」
よし、そういうことなら今日はお開きだ。長門に別れを告げて歩き出すと、何故か朝倉もついてくる。
「………」
「あなたが命令しない限り、彼女はあなたの近くで待機モードでいるよう設定されている」
というわけなので、俺は朝倉に明日俺たちが来るまで自室で待機しているように頼んだ。
で、一夜明けて冒頭の状況に至ったというわけである。
−つづく