「そうですね…じゃあ僕はこの『ラノワールのエルフ』で攻撃します。」
「そう・・・」
長門は呟く。どうやら長門は防ぐ気はないらしい。まぁしかしまぁそれも当然か。
なにしろ『ラノワールのエルフ』の攻撃力はたったの1。つまりゲーム中最弱の攻撃力のクリーチャーだ。
長門HPはまだ15もあるのだ。1程度のダメージと引き換えに罠かもしれない攻撃で優秀な手駒を失ってしまうのも惜しい。
もっと危機的状況でなければ切り札は出さないだろう。
古泉は長門が攻撃を防がないのを確認すると土地から魔力を引き出し始めた。
「ここで『樫の力』を2枚プレイします。対象はそう・・・僕のエルフです。」
いつもの爽やかスマイルでそう言い放つ古泉。
『樫の力』それはしもべの攻撃力防御力を大きく引き上げる魔法。
『樫の力』2枚の恩恵を受けたエルフはなんと一発で長門を葬り去る攻撃力を持つこととなった。
これが狙いだったのか古泉。ゲームがヘタなお前にしてはなかなかな作戦じゃないか。
くそ、大穴狙いで古泉に賭けとくべきだったか?
「そう…」
徐に魔力を引き出す長門。…何をする気だ?
「…『ブーメラン』をプレイ。」
いつものように無表情で発言する。このピンチをピンチとも思ってないらしい。
『ブーメラン』対象となるモノを所有者の手札に強制的に戻す魔法。
攻撃中のしもべであってもそれは有効となる。つまり…
「僕のエルフは強化される前にお家に帰ってきてしまうわけですね。」
そういうと古泉はエルフを素直に手札に戻す。
長門の魔法一発で決め手を封じられた古泉は内心かなりショックだろう。
「ターンエンドです。長門さん。」
長門の目の前にはしもべが一体もいない。
そしてさっきからカードを引きまくり、そして捨てまくっている。
正直初心者同然の俺には長門が何をしたいのかさっぱりわからん。
なんでもいいからさっさと攻撃して古泉に勝ってもらわないとまたハルヒに奢らされちまう。
古泉の攻撃がもっと激しくなる前にさっさと終わらせてくれ、長門。
長門のターン。心配は杞憂に終わった。
「…『補充』」
開始早々またも無表情で魔法を放つ。
『補充』墓地にあるエンチャントと呼ばれる魔法の道具をすべて蘇らせる呪文。
長門が何枚も何枚もカードを捨て続けたのはこのためだったのだ。
目覚めるエンチャントたち。そしてそれらに命が吹き込まれる…
長門はエンチャントに命を与えるカードも一緒に墓地に叩き込んでいたらしい。
10個以上のエンチャントが長門のしもべとして降臨した瞬間だった。
総勢13体の大軍勢。そして互いが互いを魔法の力で強化しあっている。
一体一体が古泉の最大のしもべよりも攻撃力が高いという恐ろしさ。
無機質に長門が呟く。「…全軍攻撃。」
当然そんな攻撃が防ぎきれるわけもなく結果は長門の勝ち。
まぁ当然といえば当然か。長門があの古泉にゲームで負けるわけがないしな。
さて、ハルヒと賭けてたんだっけな。
『勝者は敗者の言うことを何でも聞く』…だったよな?ハルヒ。